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4.17章

お待たせしまた。

4.17章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「一杯くらいやる暇がありゃ良いんだが。」


 オレが呟いた次の瞬間、剣歯虎(サーベルタイガー)は飛びかかり、強靭な肩を活かしオレを踏みつけに掛かる。


「まぁ、簡単にはいかねぇよなぁっ!」


 叫びながら剣歯虎の前足を避けると同時に、剣歯虎の顔面へ酒瓶を投げつけるが、バリンッと音を立て、酒瓶は粉々に噛み砕かれ中身が溢れる。


 精霊魔法で炎をつけても良いんだが、魔力の無駄使いにしかならねぇか。

 酒瓶を一つ無駄にしちまった。


「図体がデケェと出費が痛えなぁっ。」


 ボヤキながら次の酒瓶を取るため後ろに手を回すが、野生の本能でそれを感じ取ったのか剣歯虎は左前脚を横へ薙ぎ払う。それと同時に飛来する斬撃が発生する。


「おうっと。」


 その斬撃を跳ねて避けるが、空中に身を投げ出したのは考えが無さすぎた。


 剣歯虎はオレが着地する前にタックルを決め、オレは木の幹へと背中から叩きつけられる。


「がはっ⁉︎」


「ガウッ。」


 木に叩きつけられ動けない所に、剣歯虎は吠えながら先程の斬撃を繰り出す。


「休む暇もねぇなっ!」


 仕方ねぇと、オレは両手をクロスしその斬撃を腕で受けきる。


「ぐぬぅっ…。」


 袖が縦4本に裂かれ、斬撃を受けた箇所から血が弾ける。

 斬撃に余程絶対の自信があったのか、剣歯虎は追撃をやめ、こちらを睨みながら出方を窺っている。


 追撃が来ないと分かったオレは、腕の防御を解くと同時に、空間収納魔法を開き剣歯虎に見えないように、手のひらサイズの酒が入った瓶を取り出し、キャップを指で弾き飲み込まずに傷口に垂らす。


「酒は命の水ってな。」


 酒が垂らされた傷口は瞬く間に治り、斬撃を受けた傷跡はすっかりと消え失せる。


 使った魔法は酒魔法の能力の一つ。

 酒魔法による超回復。


 酒は命の水とは、本来であれば気つけ程度の意味だが、オレが使う場合の意味は違う。

 文字通り、命の水となるのだ。


 この魔法のおかげで、大概の修羅場はゴリ押しで乗り越えることが出来た。


 オレの超回復を目の当たりにした剣歯虎は、警戒心をより強めたのか、姿勢を更に低くしグルルと唸る。


「悪いがお前さんばっかりに構ってられねぇんだ。」


 オレは復活した腕を構え直す。


「今度はこっちから仕掛けさせてもらうぞ。」


 ダンッと地面を踏みしめ剣歯虎に直進し、凄まじい踏み込みにオレの後ろでは雪埃が舞う。


「シッシッ!」


 接近したオレは超至近戦(インファイト)を持ちかけ、死角であろう顎下に飛び込むと、首筋に向けて二回ジャブを打ち込む。


「ガゥラッ!」


 手応えはあった。

 だが、当然の如くジャブ程度では毛皮を揺らす程度で、打撃は分厚い筋肉の壁に阻まれ、直ぐに上からカウンターの噛みつきが迫る。


 オレはその噛みつきを身を(よじ)ることで避け、頬から生える牙目掛け右肘(みぎひじ)肘鉄(ひじてつ)を落とす。


「グロロロォォォッ⁉︎」


「ッ、意外と硬えなこん畜生っ⁉︎」


 ガンッと硬い感触が肘に返って来て、牙にヒビを入れたは良いも、右腕が痺れて動かない。

 けれども、おかげで剣歯虎は脳を激しく揺らされ硬直状態に陥っている。


 超至近戦で使う武器は手だけでは無い。

 チャンスだと悟ったオレはラッシュをかける。


 左手で比較的柔らかい剣歯虎の鼻を打ち、左爪先を胸部の真ん中に突き刺す。

 痛みの反射で顔を飛び上がらせた剣歯虎の顎めがけ飛び上がると、左手で牙を掴み引き寄せながら右膝を顎へと入れ、歯が何本か欠けたのか、悲鳴を上げようとする口をグイッと下に引っ張ると、その反動でオレは剣歯虎の頭上に飛び上がり、体操選手のようにくるっと反転すると脳天へ踵落としを決める。


 ドバンッと辺りの雪を吹き飛ばし、剣歯虎の頭蓋が地面へと減り込む。


「おっとっと、着地はゼロ点だなこりゃ。」


 身軽な着地が出来ずに、オレは10歩ほどフラついて剣歯虎から離れてしまう。


「牙を折りたかったが、硬すぎるな。」


 振り返ると折る予定だった剣歯虎の歯は健在で、一本にヒビを入れるのが精々だった。

 そもそも、酒瓶3本じゃ上位種と張り合うには足りていないのだ。


「グルルルルルルルルルルゥッッッ。」


 やはりトドメを刺し損ねたようで、剣歯虎はフラフラと立ち上がる


 勇者(ヒーロー)気取りならここで待つのだろうが、オレにはお生憎様、そんな自覚は更々ねぇ。

 火力は依然と足りていないが、今の攻撃を2、3度を繰り返せば確実に仕留められる。


 そう考えたオレは直ぐに至近戦に持ち込もうと、10歩の距離を埋めるため駆け出そうとするが、次の瞬間、ジャキンッと音を立て剣歯虎を包み隠すように、氷柱(つらら)の小山が出来上がる。


「うぉっと⁉︎」


 間一髪、オレの首すれすれを氷柱の先端が通り過ぎ、急ブレーキをかけ反転し氷柱の山から一旦距離を取る。


「これが坊主たちが言ってた氷魔法か。」


 我武者羅(がむしゃら)に使ったのだろうが、まんまと足留めを食ってしまう。


「けどよ、その手は悪手だ。」


 オレはようやく、4本目の酒瓶を取り出し、口をつけると豪快にラッパ飲みをし空にする。

 そして、ついでだと5本目の酒瓶も取り出し、一気に飲み干す。


「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」


 オレが酒を飲み干したタイミングで、氷柱の山にヒビがピシッと入り、粉々に砕けると毛皮の上から凍らせたのか、要所要所に氷の鎧を纏った剣歯虎が居た。


「成る程なぁ、そっちも本気って訳か。」


 剣歯虎は唸り声も上げずにこちらをただ睨む。


 オレは接近戦へ持ち込む為、一本前へ足を進めようとすると、下から極太の氷柱がオレを貫く為に生える。

 オレはそれを身を反る事で避け、その反りを活かしバク転で距離を取る。


 ズザザと雪を滑りながら、剣歯虎へ視線を向けると氷柱が飛来し、オレは咄嗟に右手で払うと氷柱は粉々に砕け散る。

 今度こそ、剣歯虎の方を見やると、剣歯虎の周りにはいくつもの氷柱が浮かんでおり、今にも飛んで来そうだ。


「怖いから近づかせたくねぇってか。」


 先程のラッシュが、余程痛かったのかトラウマとして染み付いたらしい。

 虎の癖に情けねぇ。


 そんなオレの(あざけ)りを察したのか、次々と氷柱が飛来してくる。

 まともに相手する必要は無い。

 オレはそれを走る事で簡単に躱していく。


 下位種の魔物なら魔力切れを待っても良いのだが、残念ながら相手は上位種。

 魔力切れを待ってたら、坊主に任された役目を果たせねぇ。


「酒が勿体無くてやりたかねぇが、のんびりやってた自分(てめぇ)が悪いか。」


 走りながら空間収納魔法を開き、酒瓶を取り出すと栓を弾き口を開けると、精霊魔法の呪文を唱える。


精霊よ(ワルガキドモ)土の剣で(ドロダンゴハ)敵を穿て(クエネェゾ)。」


 オレの言の葉に反応した精霊は土の氷柱を作り、次々と剣歯虎の氷柱を相殺していく。


 土の氷柱は氷柱とぶつかり砕ける事で、砂塵(さじん)が発生し、舞い上がる事でドンドンと視界を悪くしていく。

 しばらくして、剣歯虎は魔力の無駄使いと判断したのか、氷柱の攻撃が止み戦いに停滞が訪れる。


 数秒たち砂塵が薄くなり、剣歯虎の影が見える。


「そらよっ!」


 オレは剣歯虎顔面めがけ、用意しておいた酒瓶を再び投げつけるが、やはり最初と同じ様に、酒瓶に反応した剣歯虎は口でキャッチすると粉々に噛み砕く。


 砂塵が完全に晴れ、またその攻撃かと言った視線が向けられ。

 再び氷柱が作られ、剣歯虎の周りにふよふよと漂う。


 だが、オレはその氷柱を、まるで見えていないかのように歩き出す。

 そんなオレの突飛な行動に構わず、冷酷に氷柱は放たれる。


 しかし、氷柱はオレに『当たらず』何処かへ飛んで行った。


「見事なホームランだな。」


 オレは後ろへ飛んで行った氷柱を仰ぎ見ると呟く。

 そのオレの言葉を合図に、次々と氷柱が剣歯虎から放たれるも、どれも検討違いの方向へと飛ぶばかりで、一本もオレに当たる事は無い。


「さぁて、お前さんはオレが何処に居て何人に見えてんだ。」


 氷柱が次々と放たられる中、目の前まで歩いてたどり着いたオレは剣歯虎に質問する。


 その言葉に剣歯虎は後ずさるも、上手く足が動かないのか、お座りのポーズを取って動けなくなり、オレから逃げたいのか必死に頭だけでも遠い場所にと首を伸ばす。


「酒は飲んでも呑まれるな。次の生での教訓にするんだな。」


 オレが剣歯虎に投げたのは元はただの酒だ。

 だが、その酒にはたっぷりとオレの酒魔法を込めておいた。


 酒魔法の技能の一つ。

 敵を泥酔状態にすると言うものだ。


 下準備と敵に飲ませる必要があるが効き目は見ての通り。

 剣歯虎は最早立つことさえままならない。


「まだやる事があんだ。悪りぃな。」


 オレは無慈悲に右手を振るい、強烈なストレートを剣歯虎の顔面へと叩き込む。

 最初と違い酒を5本分飲んだ酒魔法による身体強化は凄まじく、あれ程を硬かった牙を難なく砕き、剣歯虎の顔面を変形させた。


「じゃあな。」


 それだけ呟いた酒豪は、脇目も振らず山の奥へと去って行くのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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