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4.16章

お待たせしました。

4.16章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「飲みながら仕事とは、向こうの世界じゃ考えられねぇな。」


 酒瓶片手に呟きつつも、オレは瓶に口をつけるとまた一本と空にし、空間収納魔法にしまい込む。


「向こうの世界でも空間収納魔法(コイツ)が使えれば、電車が広く使えたんだがなぁ。」


 1年ほど前まで通勤の為、毎日乗っていた満員電車を思い出し顔を顰める。


「はぁ、止めだ、止め。歳取るとどうにも愚痴が多くなってしょうがねぇ。」


 手で嫌な記憶を払う様にパタパタと目の前で振るい、また一本の酒瓶を取り出すと、今日で数えて通算3本目となる酒瓶の栓を、指で跳ね口をつける。


「ぷはぁ、そろそろ充分か。」


 酒瓶を魔法でしまい、口を袖口で拭うとその場で拳の素振りをしてみる。


 パンッと拳銃でも発砲したかの様な音が響き、直線上にあった木を軽く揺らし降り積もった雪がドサッドサドサッと流れ落ちる。


 ツクシを拾ってからは、1日で終わる依頼ばかり選んでまともに戦って無かったからな、(なま)っていないか心配だったが、体も魔法も動いてくれそうだ。


 オレはその場で拳を握ったり開いたりし、感覚を確かめるてると、どこから殺気を感じる。

 妙な感覚を覚えちまったもんだと我ながら思う。


「グルルルルルルゥッ。」


 唸り声の方へ振り返ると、目の前には真っ白な魔狼が今にも飛びかからんと構えていた。


「コイツがタコの坊主の言ってた魔狼か。」


 雪降る中では真っ白な毛並みは役に立ちそうだが、普段温暖なこの村周辺では異端そのものであり、確実に外部から連れてこられたと理解出来る。


「お前さんも災難だな。訳もわからずこんな所に放り出されて。」


 オレは拳を構え、一瞬で左の拳を真っ直ぐ振り抜き戻す。


「シッ!」


「きゃうんっ!」


 鼻を打たれた魔狼は、予想外の衝撃に堪えきれずその場を飛び退く。

 オレは着地の瞬間を狙って今度は右腕をストレートに振り抜く。


「フッ!」


 オレの拳圧は魔狼の土手っ腹を捉え、魔狼は木の幹に叩きつけられ、木から雪が崩れ落ち辺りに粉雪が舞う。


 魔狼は雪の下に埋まってしまったが、確認するまでも無いだろう。

 雪に赤く滲む体液が魔狼の絶命を教えてくれている。


「やっぱり鈍ったか?」


 本当なら最初の一撃で顔を砕くつもりだったのだが、予想に反し魔狼には耐えられてしまった。


「まっ、その内感覚も戻るだろうさ。」


 こっちに来てから難しく考えるのはやめにしたんだ。

 手をぷらぷらと振った後、開き直ったオレは、もう一本と空間収納魔法を開き手を伸ばした所で素早く手を引っ込める。


 次の瞬間、スザンッとオレの手があった場所に刃物が落ちる。


「剣…いや、これは鎌か?」


 後ろに振り向き見上げると、そこには3メートルはある真っ白な大カマキリが、真っ黒な複眼で此方を見下していた。


「擬態は弱い虫の特権だろうがよ。」


 この場合は天敵から身を守る為では無く、狩りをしやすいように保護色で白くなっているのかもしれない。

 大カマキリはオレの言葉に反応しているのか、それとも今殺せなかったことが疑問なのか、虫独特の速度で首をカクンと傾ける。


「此処までデカくなると気持ちが悪りぃな。」


 虫特有の複眼は光を取り込もうと真っ黒に染まっており、人によれば黒真珠(ブラックパール)みたいで綺麗と思うのだろうが、オレには到底受け付けられそうに無い。

 そんな俺のボヤキに反応したのか、残った鎌が横薙ぎに振るわれる。


「っと危ねぇ。」


 オレはしゃがんでやり過ごすと、しゃがんだ反動を活かし、鎌の届かない範囲まで、後ろへ大きく飛び退く。

 デカくなっても行動は所詮は虫か。単調で分かりやすくて助かる。


 大カマキリは地面に刺さっていた鎌を抜くと、上体を低く伏せ獲物を捉える為に鎌が一番長く使えるポーズを取る。


「魔物になっても本能は忘れちゃいねぇか。なら、これはどうだ?」


 オレは空間収納魔法を開き、高速で酒瓶を投げつける。

 大カマキリに当たった酒瓶は綺麗に割れ、中身を飛散させると、大カマキリの全体を濡らした。

 だが、痛痒(つうよう)にも感じていないのか大カマキリは構えを崩さない。


 流石に酒瓶程度では、まぁ、怯まないよな。

 けれど、オレだってなんの考えも無しに酒瓶を投げた訳じゃねぇ。


 俺は精霊を使役する言の葉(呪文)を唱える。


精霊よ(ワルガキドモ)業火を持って敵を裁け(ヒアソビハスキカ)。」


 唱えた呪文に応じ、精霊が炎を巻き起こす。炎は酒に濡れた大カマキリに引火し、炎は更に燃え盛る。


 だが、焼き殺すまでいかないのか、大カマキリは炎を鎮火させようと、そこら中の木に体をぶつけて暴れまわる。


「チッ、やっぱり精霊が弱ってるせいで火力が足りないな。」


 倒しきれない。

 オレはそう判断すると即座に地面を蹴り、暴れまわる大カマキリの顎下に着くと、右の拳を振り上げアッパーカットを決める。


 虫の甲殻を砕くメリメリと嫌な感触が手に伝わるも、それは一瞬で無くなり大カマキリの首が真上に吹き飛ぶ。

 オレはそれと同時に即座に後ろへ飛び退くと、二度三度、首を無くした大カマキリは自前の鎌を振り回すも、数秒でぷっつり糸が切れたように動かなくなった。


「あちちちちっ、フゥフゥ。ったく、ヤンチャするべきじゃ無かったな。そろそろ年を考えた方が良いなこりゃ。」


 オレは手を何度も振り、息を吹きかける。

 思わず飛び込んでしまったが、燃えている塊を殴ったせいで、手に火傷(やけど)を負う所だった。


「残りも飲んどくか。」


 どさりと座ると、先程飲みかけていた3本目の酒を取り出し一気に呷る。


「くはぁぁぁぁっ。あったまるなぁオイ。」


 寒さは2本目を飲み干した時から緩和されていたのだが、今飲んだ酒が体を更に温め、縮こまりそうになる筋肉をほぐしてくれる気さえする。


「雪の日と言えば、おでんに熱燗(あつかん)が恋しくなるなぁ。」


 冬の日の会社帰りに寄るコンビニで、毎日の様に買っていたな。

 あの嬢ちゃんか金髪の坊主なら、おでんくらい作れるんじゃねぇだろうか。


 そんな事を考えていると、再び大量の殺気を感じ「よっこらせ。」と掛け声をかけながら立ち上がる。


「はぁ、今度はなんだ?雪男…にしては小さいのも居るな。」


 オレが見るに人影の様に見える。

 大きいものならオレよりデカく、小さいものなら子供並みに小さい。そんな大小様々な大きさの人影が、木々の隙間からチラチラとこちらへ殺気を飛ばす。


「グギャッ!」


 自身の殺意を堪えきれなくなった1匹が襲い掛かるも、無謀という他に無い。

 オレは飛び掛かる人影の首根っこを掴み、地面へ叩きつけると容赦なく腹を踏み抜き、赤い花を咲かさせる。


 オレは死んだ人影だったものの顔をマジマジと見る。

 その額には小さい突起が一つついており、肌の色は白く、だが目は黄色く濁り、凸凹に並ぶ歯には汚れをこびりつかせている。


「コイツぁゴブリンか。」


 色は違うが、何よりこの身長に角。

 この世界に来て1年、既に見慣れてしまった姿だ。見間違うはずもない。


「となると、あのデケェ影はジェネラル辺りになるのか。」


 なら、話は単純だ。

 先程掴んだ白いゴブリンも、全くと言って良いほど強くは感じなかった。

 だったらそいつらは逃げても、村の方で始末されるだろう。

 オレが狙うのはジェネラルだけで良い。


 オレは直線上のゴブリンだけを蹴散らし、ジェネラルゴブリンの下まで真っ直ぐに前進する。


 ジェネラルゴブリンの真横まで接近すると、ローキックでジェネラルゴブリンの膝を逆に折り曲げ、前屈みになるジェネラルゴブリンに合わせて飛び上がり、頭を鷲掴みにすると膝蹴りを顔面に入れる。


「っとっとっと。」


 ジェネラルゴブリンから手を離し、着地をすると顔面を陥没させたジェネラルゴブリンボフンと雪に沈んだ。


「いっちょ上がりだな。」


 他の奴はと目をやると、司令塔を失ったゴブリンどもはただ逃げ惑うだけだ。


「適当に間引いとくか。」


 少しでもあっちを楽にしてやろうと、オレは先程よりも火力の上がったジャブの拳圧で、次々とゴブリンの意識を刈り取っていく。


 しかし、大カマキリにゴブリンか、(やっこ)さんは随分と見境なく連れて来てるな。

 この様子だと、統制なんて取れて無いんだろうな。

 魔物の群れが村に降り始めたのも、山に獲物が居なくなって、新しい餌場を見つけたから程度にしか魔物どもは思ってないのかもな。


「さぁて、次はどんな奴が来るんだ。」


 見える範囲のゴブリンを刈り尽くしたオレは肩をぐるぐると回し、ついでに首を鳴らし、更に山の奥深くへと()を進めようとする。


 風切り音。それに乗った鋭い一瞬の殺意。


 オレは即座にその場を横へ跳びのく。


 オレが進もうとして居た先の木々が、見事にスパッと輪切りにされ、見晴らしよく工事される。

 オレは敵の正体を知るため、斬撃が飛んで来た方へと顔を向ける。


「おいおい、オレは氷河期にでも来ちまったってのか。」


剣歯虎(サーベルタイガー)』、生前の姿を見た事があるはずが無いが、コイツはそう呼ばれる存在だろうと直感出来る。


 ネコ科とは思えないほど発達した四肢に、ガッチリとした肩。

 そして、下顎よりも長く伸びる異様に発達した二本の前歯が、ガキの頃に博物館で見た化石そっくりだ。

 唯一、サーベルタイガーの化石と違う点があるならば、それは両頬からも生える鉤爪の様に残酷に曲がる牙が、生物の概念からかけ離れさせ、魔物らしさを醸し出している事だろう。


「オレはとんだ大物を引いちまったみてぇだな。」


 牙が倍有れば倍強いってか。ガキみたいな発想だな。

 オレは後ろに手を回すと、空間収納魔法を開き酒瓶をまた一本取り出すのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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