4.15章
お待たせしました。
4.15章、投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「土嚢はドンドン積んでけぇ。」
「こっちの分が足りてねぇぞ。」
「土魔法を使える奴はいねぇのかぁっ!」
「火魔法もだ、火を絶やすんじゃねぇ。」
「木材を持って来たぞ、どっちだ!」
俺は目深に被ったフードの中から耳を傾けると、村の出入り口付近で、彼方此方から鬼人族や冒険者たちの、様々な声が入り混じった怒号が飛び、山の方角からは度々起こる爆発音と魔物の咆哮がこだまする。
俺たちはシズトが飛び去った後、魔物群れが押し寄せていると、村中に片っ端から伝え回った。
お陰で何とか人が集まり、バリケードを築く事が出来そうだ。
それに、エースたち怪盗団の面々が今も戦える人を集めてはくれている。
だが、戦う人数が足りるかは正直微妙な所だ。
下級の魔物までなら銅色冒険者たちで対処可能だろうが、上級の魔物が何体いるか分からない。
せめて、上級種と渡り合える力を持った冒険者がどれだけいるか知りたい。
俺は中央で指揮を執っている、大盾を持ち、鎧を着込んだ冒険者に話しかける。
顔の深く刻まれたシワを見る限り、40代後半くらいの年齢だと思われる。
「なぁ、ここに金色冒険者はいるか?」
「俺がそうだ。お前はなんだ?」
男は鎧の首元の隙間から金色のプレートを取り出し、俺に見せると直ぐにしまった。
「オーパス、銀色だ。実力は心配しなくて大丈夫だ。」
偽名を名乗った俺は、腰にあるアイスピックを鞘から抜き黄金の刀身を見せる。
「黄金……アウルムホークの素材か?…変わった武器だが、確かに心配いらないな。」
アイスピックの素材を一瞬で見抜いた男は俺に目を向ける。
「俺は『フォート』。それで何の用だ、手短に話せ。」
「今、仲間の金色冒険者が群れの足止めをしてる。そいつの話だと魔熊みたいな上位個体が混じっているらしい。それと戦える冒険者は何人いる?」
「俺の知ってる限りでは、俺と相棒のハスタだけだ。」
やっぱり上位種個体を抑えるには、人数が圧倒的に足りない。
俺を含めた勇者、それにサファイアがいる限り、こちらが全滅する事はまずあり得ないだろう。
だが、上位種の一体でも取りこぼせば戦えない人たちへの被害は計り知れない。
「心配するな。この大盾は飾りじゃ無い。聞いたことないか、『難攻不落のフォート』の名を。」
難攻不落のフォートか、聞いたこと無いな。そうゆうのはカーメイなら詳しいのだが。
通り名を名乗ったフォートは、重そうな大盾を軽々と持ち上げて見せつけるが、俺の表情を読んだ様で「俺も精進が足りないな。」と呟くも直ぐに気を取り直した。
「防衛戦は得意だ。正面から来るなら1匹足りとも通さない。何より、此処は鬼人族の村。元から人族よりも強い者ばかりだ。そう簡単に潰されはしないだろう。」
確かに鬼人族の人たちは、人族から見れば体が大きく屈強で強靭な肉体を持っているように見えるが、魔法でも使えない限り下級の魔物が精々だろう。
いや、魔法が使えなくとも下級の魔物となら渡り合えると言うのもどうかと思うが、今はその常識外れの身体能力が有難い。
明るいニュースが入り、少し気が楽になった気がする。
「情報ありがとう。助かった。」
「礼には及ばん。」
俺はフォートから一旦離れると、ヒガさんと合流し、今の会話の内容を伝える。
「金髪の坊主は方は心配要らねぇだろうが、問題はこっちか。」
「ああ、シズトは今も戦ってるだろうけど、全部を止められてる訳じゃない。」
流石のシズトでも、群れの一つ二つ程の注意を引くことが出来ても、山から進軍する全ての魔物たちの注意を引くのは無理だろう。
「良し、作戦変更だ。タコの坊主、お前さんも此処に残って防衛に回れ。」
俺の触手魔法は見た目通り、攻撃よりも拘束が得意だ。
確かに此処にいる冒険者と連携を取った方が、格段に魔物を仕留めるのも楽になる。
「此処に残るのは良いんだけど、ヒガさんは前に出て戦って大丈夫なのか?」
俺の方は良いのだが、問題はヒガさんがどこまで戦えるかだ。
前に出てくる上位種の魔物を抑えるなど、シズト並みのチートでも無い限り難しい芸当だ。
ヒガさんの『酒魔法』をよく知らない俺としては、ヒガさんが前線に出るのに少し心配がある。
いや、よくよく考えてみると半裸の男と酔っ払いを最前線に出すなど、正気の沙汰では無いな。
「心配すんな坊主、大丈夫だ。そこら辺の魔物にやられるほどオレは弱かねぇ。」
「…そこまで言うなら信じます。」
「応よ、まぁ、見とけって。」
ヒガさんは握り拳を作り親指を立てると、気楽な足取りでピクニックにでも行くかのように、意気揚々と村の外へ出て行った。
「俺もゆっくりしてる場合じゃ無いな。」
魔物の群れがどれくらい近くにいるかのか確認する為、物陰に移動すると手から触手を顕現させ、民家の屋根に伸ばし着地する。
山の方に目をやるも、シズトたちが討ち溢した魔物の群れはまだ到達していない。
だが、揺れる木々や茂み、蠢く影を見る限り、最初の接敵まではもう半刻も無いだろう。
そして、その奥ではシズトが未だ奮闘しているのか、何度も起こる爆発が鼓膜を揺らし、魔物の雄叫びが轟く。
村の方はと作りかけだったバリケードに目をやると、既に土嚢は積み上げられ、土魔法で掘り下げたのか土嚢の後ろには、深い塹壕が出来上がっている。
更に塹壕の後ろでも防衛ラインを二重に築いており、皆杖を手に持っているので、彼らは遠距離魔法を得意とする冒険者たちだと思われる。
布陣は万全では無いものの最善であると言える。
俺は一度民家から飛び降りると、フォートの所へ向かい、俺が見た限りの情報と、昨日の魔物の情報を伝えに行く。
「「フォート。」」
俺が声を掛けようとしたら、誰かと声が重なった。
「ハスタ、それとオーパスかどうした。」
この人がフォートの言っていた相棒のハスタか。
俺の隣に立つ人物はフォート同じくらいの年齢で、防具はフォートと真反対で最低限程度にしか身につけておらず、身軽に徹底した格好であり、肩に担ぐのは柄の長い槍、茶色の髪は邪魔だから切った言わんばかりに短い。
「フォートの知り合いか?俺はハスタだ。よろしく。」
俺は差し出された手を握り返し、握手をしながら「オーパスだ。」と短く名乗る。
「まずはオーパスから話せ。」
「あぁ、俺が昨日山で会った魔物の情報を伝えようと思って。」
俺は魔物が氷魔法を使うというのと、ウルフロードと魔熊種がいたと情報を伝えた。
「成る程、氷魔法か。」
「道理で。」と呟いたフォートは未だ雪を降らす曇天を見上げる。
「俺からも情報だ。此処にいる面子の色を確かめて来たが、金色は俺たち2人だけだ。折角温泉であったまりに来たってのとんだ災難だ。」
ハスタはやれやれと肩を竦める。
「愚痴はいい、それより良い知らせは無いのか。」
長い会話が嫌いなのか、目を鋭くさせたフォートはキツく質問する。
「へいへい、おー怖っ。冒険者じゃないが、鬼人族にも狩りに慣れた手練れが何人かいるらしい。金色には及ばないが期待して良いとよ。」
結局の所、前の2人を含めて上位種と戦えるのはクックを例外として7人。
そのうち2人が遊撃に出払って、こちらに接近する上位種の数を随時減らしてくれている。
守りきれるか?村は諦め、避難を優先させるべきではないかと思考が回る。
「2人して同じ顔とは仲良いな。…っと悪い冗談だよ。」
考え事を邪魔するの様に煽るハスタをフォートは鋭い視線だけで黙らせる。
「オーパス、お前の仲間に当ては何人いる?」
「俺を含めて5人。その内2人はもう魔物の群れと戦って、上位種の進行を遅らせてくれている。」
その人数を聞いて俺と同じ意見なのか苦々しい顔になる。
「俺とハスタで正面を受け持とう。両脇は任せられるか。」
「大丈夫だ。俺は高い所から魔物の群れの様子を見てくる。ついでに仲間も探してくる。」
エースたちには俺からフォートの指示を伝えればいいだろう。
フォートとハスタは入り方の真ん中に向かって走り、俺はエースたちも見つけやすい様に再び屋根の上に触手魔法を駆使して登る。
すると直ぐにサファイアが隣にやって来た。
サファイアの格好は完全な防寒服で、隠れてない鼻が少しだけ赤くなっている。
余程寒いのが苦手なのか、袖から手を出していない。
サファイアが遅れた理由はこういうことか。
「待たせた。」
「いや、まだ群れは来てないけど、その格好で戦えるのか?」
ずんぐりしてて、明らかに動きにくそうなのだが。
「問題ない。」
サファイアは両手の袖口から、ジャキンとナイフの刀身を飛び出させ直ぐにしまった。
くそ、今のめちゃくちゃかっこいいなオイ。
まぁ、本人が問題無いと言ってるのだ。信じよう。
「どうやら開戦の準備は整った様だな少年。」
「どわっ⁉︎」
いつの間に後ろに立っていたエースが、この寒さは堪えるのか、スーツ姿の上からマフラーを靡かせて、謎の決めポーズを取る。
「頼むから心臓に悪い登場は止めてくれ。」
思わず雪でぬかるんだ屋根に足を滑らせそうになったぞ。
「怪盗とは神出鬼没なものなのだよ。」
俺が頼むも止める気はさらさら無いらしい。
このやり取りに付き合っていたら時間が勿体無いので、さっさとフォートから頼まれた防衛ポジションの話をエースに伝える。
「では、ワタシは左を預かろう。」
「分かった、じゃあ俺たちは右だな。」
「エース、大変です。あっちを見て下さい。」
空から降りて来たマスク姿のバド、いや今はクローバーが山の方を指差す。
俺はもう一度山の方角を見るが、下級の魔物の群れはまだ到着はしていない。
だが、その群れの奥の上空から、かなり早い速度で迫る黒い影のようなものを発見する。
「あれは…?」
一体なんなんだと聞く前に答えが返ってきた。
「鳥型の魔物の群れですっ。すみません、見つけるのが遅れてしまいました。」
ぺこぺことクローバーが何度も頭を下げる。
だが、クローバーに非はないだろう。
暗い雲が空を覆い、雪まで降っているこの見通しの悪い天気だ。
寧ろ、この距離で気付いただけマシと言う話だ。
俺は直ぐ下にいるフォートに向かって叫ぶ。
「フォート、鳥型の魔物群れが迫ってるっ!もう来るぞっ!」
俺の声がキッチリ届いたのか、フォートは返事の代わりに大盾を掲げる。
「ワタシは持ち場に着く。そちらは任せたぞ。」
それだけ言うと、エースは空間跳躍魔法で姿を一瞬にして眩まし、バドも後を追う様に最後まで頭を下げ続けた後、飛び去った。
「サファイア、俺たちも行くぞ。」
「ん。」
俺は持ち場に向かって駆け出すと、役に立つかは分からない、長大なアイスピックを抜き放つのであった。
お読み頂きありがとうございました。