4.14章
お待たせしました。
4.14章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「精霊がお出ましだ。」
「…見えないんだけど……。」
今勢いよく扉が開かれたが、それが入ってきた合図だろうか。
俺は扉の辺りに目を凝らしてみるが、何度目を瞬かせてもやはり何も無い。
「普通の奴には見えねぇっつったろ。今のは気づいて欲しくて、わざと扉を開け閉めしたみてぇだ。精霊は隙間さえあれば自由に出入り出来るからな。」
うーん、にわかに信じ難い話だ。だが、魔法というものもあればそういう事もをあるのかもしれない。
「それでヒガさん、その精霊が此処に来たのには何か理由があるのですよね。」
「察しが良いなバク、その通りみてぇだ。話を聞いてくるから、ちーとばかし待っとけ。」
ヒガさんは虚空に再び目をやると、本当に誰かと会話するように何度か頷いたり、笑ったりした後、酒を注文した。
「ちょっと待て。何、自然に酒を注文してんだ。」
「出陣前の景気付けだ。」
「出陣前?」
注文した酒を早速一杯飲み干すと、ヒガさんは話を続ける。
「ああ、この寒さの原因は山ん中に放たれた魔物どもの攻撃によって、精霊の王様とやらが弱ってるのが原因らしい。」
「精霊の王様って何だ?」
また新しい言葉が出て来て戸惑う。
精霊にも魔物の統率個体の様なものが居るのだろうか。
「さぁな、この精霊が言うには自分は王様の使いらしい。」
「さぁなって、そんないい加減な。」
「兎に角、その魔物どもの掃討をしないと此処の温泉の復活は無いそうだ。」
「魔物の掃討⁈…無理だろそれ。」
山がどれだけ広いと思ってるんだ。
いくら能力があっても、何ヶ月、何年掛かるか分からないぞ。
「話は最後まで聞け坊主。厄介なのは坊主たちが倒してきた大型の魔物どもらしい。そいつらが好き勝手暴れて、自分に都合の良い環境を作ってるんだとよ。」
都合の良い環境という事は、あの氷魔法を使う魔物には元々都合の悪い環境だったって事だろうか。
「大型の魔物さえ居なくなれば、この寒さは消える。そんで、環境に適さなくなった小型の魔物どもは勝手に死ぬか、逃げるかだ。」
「詰まり、俺たちが倒すのはその大型の魔物だけで良いって事か?」
「その通りだ。」
成る程、大型だけなら見つけるのは苦でも無いだろう。
何よりあのサイズだ。シズトかバドに空から探して貰えばすぐに発見出来る。
「それは分かりました。けれど、その魔物たちは何処からやって来たんですか?」
シズトが質問を入れるが最もな話である。
環境に適さないのに、暑い気候の中へやってくるなど不自然極まり無い。
更に言うなら、王都周辺は割りかし温暖な地域で、この鬼人族の村も王都から外れの北東に位置するが、此処に来るまで寒いと感じる地域は無かった。
寧ろ此処の村周辺だけが寒いといった感じだ。
「精霊が言うには『黒いスライム』が突然連れて来てどんどん放流してるらしい。」
「「黒いスライムだってっ⁉︎」」
そのスライムには覚えがある。
確か、ダークネスの直属部下を名乗っていたはずだ。
俺とシズトが驚きの声を上げる。
となるとこの事件には魔王が関わっているのか?でも、一体何故?
しかも、別の場所から魔物を放流するなど違法放流もいいところだ。
謎は深まるばかりだが、魔王案件ともなれば関係無いとはもう言ってられない。
「黒いスライムに心当たりがあるのかい?」
「ああ、魔王直属の部下って話だ。」
それを聞いたバクさんは、成る程と顎に手を添えて考え事を始める。
「兎に角、明日からは山に居る大型魔物どもを掃除する。面子はオレとタコの坊主、金髪の坊主で決まりだ。」
「ボクは街に残るんですか?」
「バク、おめぇさん達は村の防衛だ。特にあの兎の嬢ちゃんと鳥の嬢ちゃんは適任だろ。」
「そう言う事なら任せて下さい。」
「悪いな、何日掛かるか分からねぇが付き合ってくれ。」
だが、ヒガさんの言葉にそれぞれが気にするなや、任せろと言った言葉を口にしていく。
「お待たせしましたのですわ。」
話が一旦纏まった時、クックがタイミング良く厨房から料理を運んで来た。
木製の皿に乗るのは良い色合いに焼かれたステーキ。
クックは次々に皿を運び出し、俺には部屋で休んでるメンバー全員を呼びにパシらせる。
風邪を引いたカーメイ以外の全員を呼び終え階下に戻ると、良い匂いはフロア全体に充満しており、匂いに気づいたサファイアが俺を追い抜かし席に着いた。
「「「「「頂きます。」」」」」
席に着いた全員が合唱すると、賑やかに食事が始まる。
その流れに合わせ、ナイフをステーキに入れると肉から肉汁が溢れ出し、内面に赤みが残るステーキへとかぶり付く。
「うーんっ、美味いっ。」
噛む度に肉汁が口いっぱいに広がり、いつまでも噛んで入られそうだ。
肉を飲み込むと、添え物として出されたパンを白米代わりに齧り、ステーキを更に口に放り込み咀嚼する。
すると、口の中で味気の無いパンに肉汁が染み込み口の中が幸せになる。
その幸せを流し込む様に薄めの味付けのスープで口直しすると、再びステーキに齧りつくというループを繰り返し、皿は直ぐに空になった。
「ご馳走様でした。」
両手を合わせ挨拶を終えると、少し休んでから俺は食器を洗うため厨房に入る。
厨房には一足先に席を立ったクックが皆んなの分の食器を洗っていた。
お節介なクックの事だ。ついでと言って自分から洗うのを申し出たのだろう。
「料理、美味かったぞ。他の皆んなも好評みたいだしな。」
「ふふん、当然ですわ。」
少し褒めただけだと言うのに、クックの鼻が天狗になる。
直ぐ調子に乗るなコイツ。
俺は何も言わずに食器を洗うのに加わり、暫く食器を洗うだけの響く。
かと言って洗剤などは無く、軽く水をかけ汚れを流すと、貯めた水桶に食器を浸し更にその中で入念に布で擦り、水から取り出すと乾いた布で拭くという単純なものだ。
そう言えば2人きりになるのは久しぶりだな。
いつもクックと何話してたっけ?
何か話そうと会話を考えるも、話しかけるきっかけを掴めずにいる。
「水魔法の洗浄が使えれば楽なのにといつも思いますですわ。実家のメイドの有能さが冒険に出てから身に染みたのですわ。」
俺が間を持たせる会話は何か無いかと考えてると、先にクックの方から話を振られた。
「流石貴族の家のメイドだな。他にどんなメイドを雇ってたんだ?」
「ええ、火を起こすメイドや私みたいに料理魔法を使える者も居ましたのですわ。」
そんな下らない会話を続けていたら、いつの間にか食器は全て片付いていた。
「ありがとうございましたですわ。お陰で早く終わったのですわ。」
「明日からは大変になるからな、俺は先に寝るクックも早く休めよ。」
「ええ、そうさせて貰いますですわ。」
クックに見送られながら部屋に戻ると、俺は武器の点検を始める。
今日は予定通りの部屋割りで寝れるので、俺は1人で部屋を使わせて貰い、広々とスペースを使いながら点検をしていくが、全くと言って良いほど使ってなかったので、痛んでいることは無い。
「それにしても今日はやけに寒いな。」
荷物をしまうと木窓を下ろし、部屋の温度を保つ。
もう明日の準備は終えた。
借りたロウソクを吹き消すと、俺はさっさとベットに包まる事にする。
黒いスライムや精霊の王様、色々と気になることはあるが今は目の前のことと、頭を切り替え俺は眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぉっ、寒っ⁉︎」
まるで氷室にでもいるかの様な寒さに起き抜けを襲われ、毛布を手放せない。
毛布で体を包みながら、俺は階下へ降りるがまだ誰も居ない。
「うん?外から声がするな。」
戸惑うどよめきの声が聞こえ、俺は外へと続く表の扉に手を掛ける。
扉のノブは冷え切っており、氷を鷲掴みにしている気分だ。
俺はその扉を押し、扉はギギィと音を立てながら外の冷たい空気を取り込んでいく。
外を見ると道行く人々は皆、空を見上げている。
それに釣られ俺も空を見上げると鼻先に冷たいものが当たる。
「雪?」
雪を見るのは一年半ぶりだ。
見上げる空はどんよりと曇り太陽を完全に隠してしまっている。
触手魔法が使いやすい様に長くても半袖以上の服は着なかったのだが、このままでは俺もカーメイの二の舞になりそうだ。
一旦部屋に戻ろうかと考え扉に手を伸ばしかけた時、俺の後ろ半裸のそいつは空から降ってきた。
「この寒さで裸とか馬鹿なのか?」
シズトは上半身裸であり見てるだけで、こっちの方が鳥肌が立ちそうだ。
「ごめんオクト、今はそんな冗談に付き合ってる暇はないんだ。」
割りかし冗談では無いのだけれど。
風魔法で飛んでいたのだろう、空から着地したシズトは真面目な顔を作る。
「それよりも、急いで皆んなを起こして。山の方から魔物の群れが押し寄せてる。」
「なんだって⁉︎」
「異変が起きてから時間が整い過ぎたんだ。僕は群れに突っ込んで進行を遅らせてくる。オクトは僕が時間を稼いでる間、皆んなに準備をさせて。」
「分かった。」
俺の返事を聞くとシズトは猛スピードで上空へ飛び立ち、雪の中を掻き分けるように飛んで行った。
「全員起きろぉっ!魔物の群れが来てんぞっ!」
寝ている他の客には悪いが、怒鳴りつけてさっさと起きて貰うことにする。
「タコの坊主、魔物の群れってのはどうゆう事だ?」
既に起きていたのか、ヒガさんが真っ先に部屋から出てきた。
「山の方角から魔物たちが村に向かってきてるらしい。今はシズトが1人で押し留めてる。」
「成る程、状況は理解した。では、ワタシの団員たちにこの村で戦える者を集めさせよう。」
遅れてバクさん、いや、エースが出て来た。ヒガさんと同室なのに遅れた理由は、絶対着替えるのに手間取ってただけだろう。
「予定は狂っちまったが都合が良い。向こうからやって来てくれんなら探す手間ぁ省けるからな。」
ヒガさんは空間収納魔法を開いたのか、右手で一本の酒瓶を取り出し、それに口をつけると一気に飲み干した。
「さぁ、宴の始まりだ。」
口を拭った泥酔勇者は不敵に笑うのであった。
お読み頂きありがとうございました。