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4.13章

お待たせしました。

4.13章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「つっかれたー、やっと終わったかぁ。」


 魔狼たちが逃げ出したのを確認した俺は、どさりと腰を下ろす。

 氷魔法を放たれた影響か、地面は冷えており火照った体に丁度いい。


「はぁ、今回も危なかったのですわ。」


 今回もと言ったな。嫌味かオイ。

 俺だって望んで毎回ピンチを演出してるのでは無いのだ。

 そもそも、もっとまともな魔法を授かってればここまでの苦戦を強いられる事など無かったはずだ。

 クックも流石に疲れたのか、溜息を零し女の子座りで腰を下ろす。


「寒い。」


 サファイアは此方へ来ると、昨日の夜と同じように俺の膝の上に腰を下ろし、コタツがわりにする。

 乗っかるサファイアの体は少し冷たい。

 そうか、茂みの中でジッと隠れていたから、体が冷えてるのか。


 ついつい野良猫を()でるように、サファイアの青い髪を()でると、サファイアは此方へ少し視線を向けるも、拒否はしないのか頭を戻し、気持ちが良いらしく次第にゆっくり尻尾を揺らし始める。


「ん゛んんっ。ゆっくりするのは良いのですが、このウルフロードはどうしますかですわ。」


 (わざ)とらしく咳払いをしたクックがウルフロードの後処理を聞いてくる。

 ウルフロードは巨体で、下級の魔狼1匹程度なら持って帰れたのだが、これを丸々持って帰るのは厳しいな。


「そうだな。全部は無理だし、転がってる首を取り敢えず調査結果として持って帰るか。」


「調査も何もそもそも、この寒さの原因はこのウルフロードなのではありませんかですわ。」


 そうだったらこの寒さは消えても良いはずなんだけどな。

 寒さが引くまで時間が掛かるのだろうか。


「んー、分からん。」


 疲れた頭で考えるだけ無駄だ。

 後は帰ってヒガさんたちに情報を入れれば良いだろう。

 思考を放棄した俺は、グッと伸びをすると胡座(あぐら)から後ろへ倒れ込む。

 むぅ、流石に寒くなってきたな。


「もう、しっかりして下さいですわ。」


 クックは呆れた視線を向けた後、包丁を取り出すしウルフロードの死体へと向かう。

 ウルフロードを料理魔法のレパートリーに加える為だろう。

 抜け目ない奴め。


 けれども、そのおかげで今夜は美味しい肉が食べれそうだ。

 昨日の昼から干し肉しか齧って無いので、ボリュームの期待出来る肉が食えるのは有難い。

 それにクックの料理の腕は本物だ。

 味を想像するだけでも(よだれ)が垂れる。

 下を向くと、サファイアも口をゴシゴシと袖口で拭いていた。


 そうと決まれば俺のやる気も湧いてくるというもの。


「クック、俺も持つから多めに切り分けてくれ。」


 食い気に釣られた俺はカバッと上体を起こし、出来るだけ量を運びたいので手伝いを申し出る。


「私も。」


「全く2人とも、欲望に忠実過ぎるのですわ。」


 呆れた口調で溜息を吐くも、持ってくれるならとクックは多めにウルフロードの肉を切り分けてくれた。


「はい、これだけあれば充分ですわ。」


「そうだな。」


 ウルフロードの肉は詰められるだけ詰めた。

 俺は触手魔法を発動させ腰から触手を伸ばすと、ウルフロードの首を持ち上げる。

 大きさ的にこれしか持ち帰れないのは本当に残念だ。

 この毛並みなら買い手もついたろうし、高く売れると思う。


 だが、狭っ苦しい獣道を進むのであれば、これ以上の大きさの物では、木々に引っかかってまともに運べないから仕方のないと割り切る。


「さて、帰るか。」


 俺たちは来た道を逆戻りして行くのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「やっと帰ってこれた。」


 鬼人族の村に帰ってこれたのは夕暮れ時で、チラホラと酒場や食事処に入って行く人たちの姿がうかがえる。

 ウルフロードの首は3人分の毛布を使い、覆い隠しているので取り敢えず騒ぎにはならないだろう。


「「「ぐぅ〜。」」」


 帰って来た実感と、緊張感がほぐれ3人の腹の虫が一斉に鳴り空腹を訴える。


「奇遇だな。」


「ん。」


「なっ、何のことなのですわっ。」


 隣でバッチリ聞こえていたのにクックは誤魔化し通す気だ。

 真っ赤な顔で腹を押さえてるのが決定的な証拠なのだが、わざわざ機嫌を損ねる必要は無い。


「いや、俺とサファイアは空腹で限界らしいって話だ。」


「クックも鳴っ…もがもが。」


 余計な事を喋ろうとするサファイアの口を塞ぎ、「機嫌を損ねると飯を作ってくれないぞ。」と耳打ちしてサファイアを黙らせる。


「そっ、それは大変ですわ。直ぐに宿に戻りましょうですわ。」


 今大変なのは、乙女の威厳という奴なのだろうな。

 駆け足で宿に戻ると俺は裏庭の空きスペースを、クックは厨房を借り早速料理に取り掛かる。

 因みにサファイアは「寒い」と言って部屋に戻った。


 クックとサファイアを見送り、飲食スペースに入り部屋の中を見回すと、シズトとバクさん、ヒガさんがテーブル席に座っていて、シズトが右手を上げて此方へ呼ぶので素直席に着く。


「オクト、そっちの様子はどうだったの?」


 席に着いた俺に、早速シズトが質問してくる。


「ああ、地図にあった温泉は全部ダメになってた。」


「うーん、そっちもか。」


「村の方も一つ一つ確認したけど、全部が水程度の温度しか無かったよ。」


 シズトもバクさんも結果は同じだったらしい。

 温泉が冷めてしまった原因はやはりアレではないかと俺は話をあげる。


「実は死体を裏に置いて有るんだが、ウルフロードを倒してきた。出た場所は7つ目の秘湯があった場所だ。」


「ウルフロードって凄い大物じゃないか。」


「ああ、しかも氷魔法を使う個体だった。温泉が冷めたのは、コイツが原因だったんじゃないかと思ってるんだが。」


「氷魔法か、それなら僕も心当たりが有るよ。」


 シズトは空間収納魔法を開き、そこから手のひらサイズの丸く曲がった氷柱(つらら)の様な物を取り出した。


「これは、魔熊の爪だよ。」


「魔熊って、その爪のサイズなら結構な大物になるんじゃないか。」


「うん、だから今はこれしか出せないんだけど、それと僕が倒して来たこの魔熊も氷魔法を使ってきたよ。」


 今、さらっと倒して来たと言ったなコイツ。


 魔熊は群れで動かないので、上位種や下位種の判別が無く、同じ魔熊種であっても個体によって強さに幅が出る魔物だ。

 推測だが、この爪のサイズなら本体も相当な強さの魔物だったはずだ。

 それを苦もなく倒したと言ってのけるとは、俺のウルフロードとの奮闘は何だったのだろうか。


「それで、金髪の坊主。その魔熊は何処にいたんだ。」


 俺が実力差に落ち込んでいると、ヒガさんがシズトに質問する。


「山の向こうだよ。凄い吹雪でね。お陰でカーメイが風邪引いちゃったよ。」


「何でカーメイが風邪引いて、全裸魔法のお前が無事なんだよっ!」


 馬鹿は風邪引かないと言う奴だろうか、いや、このナルシストは天才だったな畜生。

 それにしても、カーメイはいつも悲惨な目にあってるな。

 まぁ、シズトを師匠に選んでしまったのがカーメイの落ち度だな。


「今はその話は置いておけ。それよりも、重要なのはこの寒さの原因だ。」


 場を仕切り直した、ヒガさんは真面目な表情を作る。


「お前さんたちが倒した2匹の大物共は氷魔法を使ったそうだな。」


 俺とシズトはコクリと頷く。


「だが、まだ寒さは収まっちゃいねぇ。温泉も復旧したって話も流れてこねぇ。おまけに精霊どもも元気がねぇと来た。」


「ちょっと待ってくれ、精霊ってなんだ?」


 こくこくと頷いていたが、俺はヒガさんの最後の言葉にストップをかける。


「ああ、言ってなかったな。オレは精霊魔法が使えんだ。」


「ただの呑んだくれだと信じてたのにっ!」


 裏切れたっ!


 この人だけは俺と同類だと信じてたのにっ⁉︎

 授かった魔法以外に魔法を習得していないのは、遂に俺だけになってしまった。


「しかも精霊魔法だとっ、似合わないにも程があるだろっ⁉︎」


「やめてくれ坊主、一応オレにも自覚はあるんだ。」


「自覚あるのかよっ。」


 最近、無自覚に凄い魔法を使う奴らが側にいるから、思わず突っ込まずにはいられなかった。


「はぁ、オクト君。話を逸らさないでくれ。」


 待ってくれ俺にとっては重要な話なのだが。

 バクさんが俺の横槍を注意する。


「それで、精霊の元気が無いってどうゆう事なんですか。」


「ああ、俺は精霊が見えるんだ。」


 もうその出だしで、普通の人からしたら危ない人の発言にしか聞こえない。


「精霊ってのはまず普通の奴らには見えねぇ。」


 もしもーし、その流れだと、やっぱりヒガさんは危ない人になっちゃいますよ〜。


「だが、何処にでも居て、人を助ける奴も居れば、ただ眺めるだけの奴もいる、まぁ、気ままな奴らなんだ。そして精霊ってのは魔力の塊でもあってな、その精霊の魔力を使役するのが精霊魔法って訳だ。」


 見えないものの話をされても実感が湧かないのだが、話が進まないので居ると前提して聞こう。


「はぁ、タコの坊主。おめぇさんよ、信じてねぇな。」


「ソンナコトハナイデスヨ。それとタコはやめて下さい。」


 付き合いが2日しかないヒガさんにまで表情を読まれるとは、やっぱりポーカーフェイスの練習でもしようかな。


「まぁ良い、その何処にでも居る精霊どもなんだが、ここ周辺の奴らは元気がねぇんだ。」


 ヒガさんがそう呟いた直後、バタンッと宿の扉が開き閉まるが、誰かが入った様子は無い。


「噂をすればなんとやらって奴か。」


 ヒガさんは、何も無いはずの扉の前の虚空を見ながら呟くのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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