表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/173

4.12章

お待たせしました。

4.12章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「成る程、魔狼が最後まで退かなかったのはコイツが居たからか。」


 イヌ科は群れを大切にする生き物と聞いていたんだが、目の前の魔狼(ウルフロード)は真っ白な見た目通り冷酷らしい。


 状況は最悪だ。

 コイツ一体だけでも手こずりそうなのに、群れまで一緒にご登場とは、全く団体客ならしっかり予約を取って欲しいものだ。


 兎に角、群れでチームワークを発揮されながら戦うのは絶対に避けたい。

 そう考えた俺はクックとサファイアに指示を出す。


「クック、サファイア。お前らで下級種の方を頼む。ウルフロードは俺が引きつけて時間を稼ぐ。」


「任せてくださいですわ。」

「んっ。」


 クックとサファイアは茂みに飛び込むと、そのまま駆けて行く。

 ウルフロードを迂回して、挟撃をする形で下級種どもを仕留めるつもりなのだろう。


 自分で考えた作戦ではあるが、防戦は相変わらず苦手なのだ。

 だが、群れが健在の状態でウルフロードに攻撃を仕掛けるのは無謀。

 ならば、クックたちの手によって魔狼の下級種どもが駆逐されるまでの間、俺は時間を稼いで楽な展開をが来るまで待てば良い。


 こちらでも、下級種を少しずつ減らしながら戦えば、戦況は絶対にこちらへ傾く。


 だから今は、クックたちを信じて持ち堪えるんだ。


 俺は触手を腰から4本顕現させ、いつものスタイルを作る。


「さぁ、犬っころ。俺が遊んでやるよ。」


 俺の言葉を火蓋にウルフロードは駆け出すと、スケートリンクを踏み砕きながらこちらへ向かってくる。


「なんつう脚力だっ。」


 そしてら大きく踏み込んみ跳躍したと思うと、ウルフロードの右前足が魔法の光を宿し、寒気を覚える爪が伸びる。


爪撃(そうげき)魔法まで使えるのかよっ!」


 俺は触手を伸ばし、ウルフロードの前足を絡み取ろうとする。

 しかし、当然爪撃魔法によって伸ばした触手は切り裂かれる。


「使いたく無かったんだがなっ!」


 千切れ姿を失いかける触手に、更に魔力を流し込み触手を『再生』させる。

 そして、再生した触手を操り、今度こそ触手がウルフロードの前足に絡みつくと、背負い投げの要領で突進の勢いを上空へと流し、ネコ科であれば軽々と着地出来たのであろうが、イヌ科のウルフロードは背中から地面へと落下する。


「きゃうううぅぅぅんっ。」


 背中から落ちたウルフロードは自身の体重に悲鳴をあげるも、こちらは休んでる暇がない。

 後ろから更に迫る、下級魔狼の足音に気づき振り返ると、既に距離は5メートルも無い。

 だが、その距離は俺の得意な戦域(レンジ)だ。


 口を開き飛び掛る下級魔狼の顎下から、凄まじい速度で触手を伸ばし、ピンポイントで撃ち抜く。

 顎下から脳を揺らされ気絶した下級魔狼を腰の触手で掴むと、群れの中心へ投げつけ統率を乱し群れを後退させる。


 群れの後退をキチンと確認する前に、俺は再び投げ飛ばしたウルフロードへと向き直り、起き上がろうとするウルフロードに触手ハンマーを作り叩きつける。


 だが、触手ハンマーはウルフロードの強靭な顎門(アギト)によって捕らえられる。

 ウルフロードは俺の触手ハンマーを離すつもりが無いのか、咥えたまま立ち上がりこちらを睨みつける。


「やっぱ、そう簡単には行かないか。」


 俺が呟いた直後、触手ハンマーに噛み付くウルフロードの口から冷気が漏れ、触手ハンマーを伝いどんどんと凍りついて行く。


「不味っ⁉︎」


 このままでは冷気が体に届き氷漬けにされると察した俺は、すぐさま触手ハンマーを霧散させる。

 しかし、この行動は良くなかった。


 咥えていた触手が口から消えたと理解したウルフロードは遠吠えをあげる。


「アオォォォォォォォォォォォォォンッ。」


 その遠吠えを合図に、後ろから氷にカチカチと爪が当たり音を立てる大量の足音が響く。


「チッ、群れを呼びやがったのか。」


 だが、振り返ってる暇は無い。

 目の前のウルフロードから目を離したら瞬時に体を細切れにされるだろう。


 一か八か触手キャノンに賭ける。


 俺は目の前に触手キャノンを用意し、バネのようにグニグニと縮めて発射準備を用意するが、ウルフロードが待ってくれるはずもない。


 知能はあるが所詮魔物。

 俺の中でそんな(あなど)りがあったのかも知れない。

 俺の行動に先制して、ウルフロードは触手キャノンの砲台に飛び掛ると爪撃魔法の蓮撃を加え、用意した触手キャノンは霧散してしまう。


「随分とお利口だなっ!」


 目の前まで接近しているウルフロードは爪ではなく、顎門による噛みつき俺にトドメを刺そうとする。

 だが、俺は腰の触手を使い後ろへ跳躍し、地面に着いているウルフロードの両前足を触手で地面へと縛りつける。


 ウルフロードは足を縛る触手に気づき、足を無理やり持ち上げようとするが、触手に固定された足は動かない。

 触手が振りほどけないと理解したウルフロードは触手にガジガジと噛みつきボロボロにして脱出した。


 逃げ出されてしまったが分かったことがある。

 どうやら、パワー勝負だけならこっちに()があるらしい。


「数秒くらいなら押さえ込めそうだな。」


 氷魔法と爪撃魔法がどれだけ強いかは歴然としないが、口と前足さえ潰してしまえば勝ち目はありそうだ。


 だが、俺の攻撃のチャンスはそこまでだった。


 俺の影に飛び掛る1匹の影がある。


 後ろから下級魔狼が接近していることは気づいていた。

 だが、目の前のウルフロードに気を取られ、ここまでの接近に気づけなかった。


 ダメだ、振り向くのが間に合わない。

 腰にある触手を伸ばし、盾にしようと必死に滑り込ませようとする。

 たが、もう両者の距離は10センチも無い。


 目の前で起こってる出来事がスローモーションに見える。


 小さいが凶悪な顎門が俺の首筋へと迫る。


「目打ち突きッ!」


 言葉と共に寸分違わず、長大なアイスピックが下級魔狼の両目を串刺しにし、その衝撃で下級魔狼は横へと吹っ飛んで行く。


「悪い、遅れたですわ。」


 下級魔狼の群れから俺の背を庇うように、黄金の包丁を抜き放つドヤ顔のクックが現れた。


「遅いぞクックっ!」


 それとドヤ顔がうざい。


「助けたのにその言い草はあんまりですわっ⁉︎」


 性根がひん曲がっているのだ。

 ここで素直にお礼を言う俺だと思うなよ。


「群れの分隊はどうなった?」


 クックが現れたのを確認し、俺は再びウルフロードに向き直ると背中越しに聞く。


「ここに居るのが最後ですわ。」


「そうか、サファイアは?」


「そうでした、サファイアさんから伝言ですわ。『隙を作って』だそうですわ。」


 1人だったらほぼほぼ不可能だったろう。

 だが、後ろにはクックが居る。


「背中は任せたぞ。」


「任せると良いのですわ。」


 俺とクックは互いに背中を預け合い、振り返る事は無い。


 さて、これでやっと目の前のウルフロードに集中が出来る。

 ウルフロードはさっき気づいた通り、抑えるだけなら簡単だ。


 だったら、話は早い。


 俺は腰にある4本の触手を伸ばし、捕らえに掛る。

 だが、ウルフロードも簡単に捕まる間抜けでは無い。

 バックステップをして、華麗に触手を避けていく。


 そして、触手による攻撃の手が緩んだ一瞬に、ウルフロードは爪撃魔法を前足に纏わせると、強靭な後ろ脚の脚力で前へと前進し、己を(から)め捕ろうとする触手を次々に切り裂いて行く。


 目の前まで接近したウルフロードは両前足を高く上げ、俺を今度こそ切り裂こうと振り下ろそうとする。


 だが、予定通り。


「足元がお留守だぞっ!番犬っ!」


 前足を上げ、此方しか見ていないウルフロードの後脚の地面に触手を顕現させると、触手を絡ませて思い切り引っ張る。

 自身を支えていた足を引っ張られ、ウルフロードは無防備に腹から地面に落下し、伸びきった前足と後ろ足が立ち上がる前に、俺は地面へと縫いつける。


「良しっ!」


 ウルフロードの動きを止める事に成功した。

 だが、拘束されたウルフロードは直ぐにグパッと真っ赤な口を開ける。


 氷魔法が来る。


 しかも、ウルフロードは、魔法の射線上に居る群れごと巻き添いに魔法を放つ気だ。


「しつこいっ!」


 直ぐに触手を伸ばし、口を塞ぎに掛かるがその必要は無かった。


 何故なら、一瞬の隙を暗殺者は絶対に見逃さない。


朧々に殺す(ミュートキル)。」


 それは死神の一閃。

 何処から現れたか分からないサファイアは、ふらっと音無く現れ俺の隣に着地した。


「終わり。」


 呟いたサファイアが黄金のナイフを仕舞うと、氷魔法を放とうとしていたウルフロードの顎門はゴロンと首ごと転がり落ち、ドクドクと鮮血を垂らす。


 此方の戦闘が終わり下級魔狼へと視線を向けると、司令塔を失った魔狼たちは既に敗走を始めていた。

 クックの方にも目をやると、氷魔法をいくつか受けたのか、服が所々が凍りついているものの、満面の笑みでVサインを返して来るのであった。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ