4.12章
お待たせしました。
4.12章、投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「成る程、魔狼が最後まで退かなかったのはコイツが居たからか。」
イヌ科は群れを大切にする生き物と聞いていたんだが、目の前の魔狼は真っ白な見た目通り冷酷らしい。
状況は最悪だ。
コイツ一体だけでも手こずりそうなのに、群れまで一緒にご登場とは、全く団体客ならしっかり予約を取って欲しいものだ。
兎に角、群れでチームワークを発揮されながら戦うのは絶対に避けたい。
そう考えた俺はクックとサファイアに指示を出す。
「クック、サファイア。お前らで下級種の方を頼む。ウルフロードは俺が引きつけて時間を稼ぐ。」
「任せてくださいですわ。」
「んっ。」
クックとサファイアは茂みに飛び込むと、そのまま駆けて行く。
ウルフロードを迂回して、挟撃をする形で下級種どもを仕留めるつもりなのだろう。
自分で考えた作戦ではあるが、防戦は相変わらず苦手なのだ。
だが、群れが健在の状態でウルフロードに攻撃を仕掛けるのは無謀。
ならば、クックたちの手によって魔狼の下級種どもが駆逐されるまでの間、俺は時間を稼いで楽な展開をが来るまで待てば良い。
こちらでも、下級種を少しずつ減らしながら戦えば、戦況は絶対にこちらへ傾く。
だから今は、クックたちを信じて持ち堪えるんだ。
俺は触手を腰から4本顕現させ、いつものスタイルを作る。
「さぁ、犬っころ。俺が遊んでやるよ。」
俺の言葉を火蓋にウルフロードは駆け出すと、スケートリンクを踏み砕きながらこちらへ向かってくる。
「なんつう脚力だっ。」
そしてら大きく踏み込んみ跳躍したと思うと、ウルフロードの右前足が魔法の光を宿し、寒気を覚える爪が伸びる。
「爪撃魔法まで使えるのかよっ!」
俺は触手を伸ばし、ウルフロードの前足を絡み取ろうとする。
しかし、当然爪撃魔法によって伸ばした触手は切り裂かれる。
「使いたく無かったんだがなっ!」
千切れ姿を失いかける触手に、更に魔力を流し込み触手を『再生』させる。
そして、再生した触手を操り、今度こそ触手がウルフロードの前足に絡みつくと、背負い投げの要領で突進の勢いを上空へと流し、ネコ科であれば軽々と着地出来たのであろうが、イヌ科のウルフロードは背中から地面へと落下する。
「きゃうううぅぅぅんっ。」
背中から落ちたウルフロードは自身の体重に悲鳴をあげるも、こちらは休んでる暇がない。
後ろから更に迫る、下級魔狼の足音に気づき振り返ると、既に距離は5メートルも無い。
だが、その距離は俺の得意な戦域だ。
口を開き飛び掛る下級魔狼の顎下から、凄まじい速度で触手を伸ばし、ピンポイントで撃ち抜く。
顎下から脳を揺らされ気絶した下級魔狼を腰の触手で掴むと、群れの中心へ投げつけ統率を乱し群れを後退させる。
群れの後退をキチンと確認する前に、俺は再び投げ飛ばしたウルフロードへと向き直り、起き上がろうとするウルフロードに触手ハンマーを作り叩きつける。
だが、触手ハンマーはウルフロードの強靭な顎門によって捕らえられる。
ウルフロードは俺の触手ハンマーを離すつもりが無いのか、咥えたまま立ち上がりこちらを睨みつける。
「やっぱ、そう簡単には行かないか。」
俺が呟いた直後、触手ハンマーに噛み付くウルフロードの口から冷気が漏れ、触手ハンマーを伝いどんどんと凍りついて行く。
「不味っ⁉︎」
このままでは冷気が体に届き氷漬けにされると察した俺は、すぐさま触手ハンマーを霧散させる。
しかし、この行動は良くなかった。
咥えていた触手が口から消えたと理解したウルフロードは遠吠えをあげる。
「アオォォォォォォォォォォォォォンッ。」
その遠吠えを合図に、後ろから氷にカチカチと爪が当たり音を立てる大量の足音が響く。
「チッ、群れを呼びやがったのか。」
だが、振り返ってる暇は無い。
目の前のウルフロードから目を離したら瞬時に体を細切れにされるだろう。
一か八か触手キャノンに賭ける。
俺は目の前に触手キャノンを用意し、バネのようにグニグニと縮めて発射準備を用意するが、ウルフロードが待ってくれるはずもない。
知能はあるが所詮魔物。
俺の中でそんな侮りがあったのかも知れない。
俺の行動に先制して、ウルフロードは触手キャノンの砲台に飛び掛ると爪撃魔法の蓮撃を加え、用意した触手キャノンは霧散してしまう。
「随分とお利口だなっ!」
目の前まで接近しているウルフロードは爪ではなく、顎門による噛みつき俺にトドメを刺そうとする。
だが、俺は腰の触手を使い後ろへ跳躍し、地面に着いているウルフロードの両前足を触手で地面へと縛りつける。
ウルフロードは足を縛る触手に気づき、足を無理やり持ち上げようとするが、触手に固定された足は動かない。
触手が振りほどけないと理解したウルフロードは触手にガジガジと噛みつきボロボロにして脱出した。
逃げ出されてしまったが分かったことがある。
どうやら、パワー勝負だけならこっちに分があるらしい。
「数秒くらいなら押さえ込めそうだな。」
氷魔法と爪撃魔法がどれだけ強いかは歴然としないが、口と前足さえ潰してしまえば勝ち目はありそうだ。
だが、俺の攻撃のチャンスはそこまでだった。
俺の影に飛び掛る1匹の影がある。
後ろから下級魔狼が接近していることは気づいていた。
だが、目の前のウルフロードに気を取られ、ここまでの接近に気づけなかった。
ダメだ、振り向くのが間に合わない。
腰にある触手を伸ばし、盾にしようと必死に滑り込ませようとする。
たが、もう両者の距離は10センチも無い。
目の前で起こってる出来事がスローモーションに見える。
小さいが凶悪な顎門が俺の首筋へと迫る。
「目打ち突きッ!」
言葉と共に寸分違わず、長大なアイスピックが下級魔狼の両目を串刺しにし、その衝撃で下級魔狼は横へと吹っ飛んで行く。
「悪い、遅れたですわ。」
下級魔狼の群れから俺の背を庇うように、黄金の包丁を抜き放つドヤ顔のクックが現れた。
「遅いぞクックっ!」
それとドヤ顔がうざい。
「助けたのにその言い草はあんまりですわっ⁉︎」
性根がひん曲がっているのだ。
ここで素直にお礼を言う俺だと思うなよ。
「群れの分隊はどうなった?」
クックが現れたのを確認し、俺は再びウルフロードに向き直ると背中越しに聞く。
「ここに居るのが最後ですわ。」
「そうか、サファイアは?」
「そうでした、サファイアさんから伝言ですわ。『隙を作って』だそうですわ。」
1人だったらほぼほぼ不可能だったろう。
だが、後ろにはクックが居る。
「背中は任せたぞ。」
「任せると良いのですわ。」
俺とクックは互いに背中を預け合い、振り返る事は無い。
さて、これでやっと目の前のウルフロードに集中が出来る。
ウルフロードはさっき気づいた通り、抑えるだけなら簡単だ。
だったら、話は早い。
俺は腰にある4本の触手を伸ばし、捕らえに掛る。
だが、ウルフロードも簡単に捕まる間抜けでは無い。
バックステップをして、華麗に触手を避けていく。
そして、触手による攻撃の手が緩んだ一瞬に、ウルフロードは爪撃魔法を前足に纏わせると、強靭な後ろ脚の脚力で前へと前進し、己を搦め捕ろうとする触手を次々に切り裂いて行く。
目の前まで接近したウルフロードは両前足を高く上げ、俺を今度こそ切り裂こうと振り下ろそうとする。
だが、予定通り。
「足元がお留守だぞっ!番犬っ!」
前足を上げ、此方しか見ていないウルフロードの後脚の地面に触手を顕現させると、触手を絡ませて思い切り引っ張る。
自身を支えていた足を引っ張られ、ウルフロードは無防備に腹から地面に落下し、伸びきった前足と後ろ足が立ち上がる前に、俺は地面へと縫いつける。
「良しっ!」
ウルフロードの動きを止める事に成功した。
だが、拘束されたウルフロードは直ぐにグパッと真っ赤な口を開ける。
氷魔法が来る。
しかも、ウルフロードは、魔法の射線上に居る群れごと巻き添いに魔法を放つ気だ。
「しつこいっ!」
直ぐに触手を伸ばし、口を塞ぎに掛かるがその必要は無かった。
何故なら、一瞬の隙を暗殺者は絶対に見逃さない。
「朧々に殺す。」
それは死神の一閃。
何処から現れたか分からないサファイアは、ふらっと音無く現れ俺の隣に着地した。
「終わり。」
呟いたサファイアが黄金のナイフを仕舞うと、氷魔法を放とうとしていたウルフロードの顎門はゴロンと首ごと転がり落ち、ドクドクと鮮血を垂らす。
此方の戦闘が終わり下級魔狼へと視線を向けると、司令塔を失った魔狼たちは既に敗走を始めていた。
クックの方にも目をやると、氷魔法をいくつか受けたのか、服が所々が凍りついているものの、満面の笑みでVサインを返して来るのであった。
お読み頂きありがとうございました。