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4.11章

お待たせしました。

4.11章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「魔狼なのか、それにしては毛並みが白いぞ。」


「私も初めて見ますが、あの姿は間違いなく魔狼ですわ。」


 俺たちは凍りついた温泉を挟み、魔狼の群れと対峙する。

 白い魔狼はどうやら俺たちに狙いを着けた様で、群れの一部を茂みに戻すと此方へ真っ直ぐ歩み寄り、スケートリンクとなった温泉の上をグルルと唸りながらゆっくり進んで来る。


「不味いな、群れを分断された。」


「挟み撃ち。」


 サファイアの言う通り、このままでは挟撃に会うことになる。

 かと言って、このまま(きびす)を返し森に逃げ込んでも、追撃に会うだけだろう。


 ならば、ここの選択は一択。


「正面突破だ。先手必勝っ!」


 俺は即座に触手魔法を発動させると、魔狼の1匹へ触手を伸ばし、首に絡ませるとこちらへ引き寄せようとする。


「まず1匹って、あれ、動かねぇ。」


 魔狼の足を見ると、爪がスパイクの様に深々と氷へ突き刺さり、力任せに引っ張っても微動だにしない。


「ぐるるるるるるるるるるるるるるぅっ!」


「帰るのを嫌がる犬かよっ。」


 そうやって1匹目に手こずってる間に、5匹の魔狼が俺の触手に横から噛みつき、その歯によってボロボロにされた触手は霧散してしまう。


「オクトっ、何をやっているのですわ。早くしないと囲まれてしまいますですわ。」


「分かってる、ちょっと予定外のことが起きただけだっ。」


 現状、あの氷の上で戦える者は居ない。

 早く戦況を傾けなければと、俺は再び触手を這わすように伸ばし、今度は上へ持ち上げに掛かる。

 スパイクで踏ん張ろうと、上からすっぽ抜けば関係無いと言う寸法だ。


 しかし、伸ばす触手に気付いた魔狼たちは束になって、迫る触手に向かって白い息を吐きかける。

 その瞬間、吐きかけられた場所に霜が降り、たちまちに凍りつき、スケートリンクに(はりつけ)にされる。


「今のは魔法かっ⁉︎」


「しかも、今のは『氷魔法』なのですわっ!」


 あの霜は氷魔法だったのか。

 魔狼種が氷魔法を使うなんて聞いたこと無いぞ。

 俺は氷漬けにされた触手を諦め霧散させる。


 1匹、1匹が弱くても、この数の上に刃物と同等の牙と爪では相性が悪く、更に氷魔法まで使えるときた。


「時間無い。」


 言われなくとも分かっている。

 要は直接触れなければ良いわけだ。


「少し温泉から離れてくれ、とっておきを使う。そっちは後ろの警戒を頼む。」


 2人を少し下がらせた後、俺は右手を天に向かって突き上げると、右手に触手を顕現させ、その触手はいくつにも枝分かれし『絡まっていく』いや、この絡んでいく事こそがこの触手の特徴。


『テヅルモヅル』、この生物はヒトデの一種で、普通のヒトデと同じく5本の腕が有り、その5本の腕から成長と共に触手が枝分かれし、海中から上げられるとどんどんと絡まっていく。

 漁師からは触手が絡まり、網を傷めることから嫌われている生き物だ。


 だが、今回はその絡んでいく特性にこそ意味がある。

 顕現させた触手を伸ばし絡ませ続け、触手の塊を作る。


「纏めて沈めっ!触手ハンマーッ!」


 最早そのネーミングのシンプルさに諦観(ていかん)すら感じさせる技名を叫び、右手を振り下ろす。


 そして触手の塊となったものは、その重量を利用して分厚い氷を粉々に叩き割る。

 氷が叩き割られた事により、足場を失った魔狼たちは水中へ落ちる。


 俺はすかさず触手ハンマーを消すと、新たに使い勝手の良いタコの触手を顕現させ、突然足場を無くし、溺れる魔狼たちを上から押さえつけ溺死させに掛かる。


 水中に落ちた魔狼を溺れさせるのは容易く、触手に返ってくる魔狼たちの抵抗が無くなり、泡が浮かんでこない事を確認すると、触手を霧散させ、暫く待っても魔狼たちが浮かんでくることは無かった。


「こっちは終わったぞ。」


「ええ、ですが、こっちは今から見たいですわ。」


 茂みが揺れ、魔狼の群れの残りが出て来る。


「まだやる気。」


「ああ、普通なら逃げてるはずなんだけど、コイツらまだ勝ち目が有ると思ってるのか。」


 魔狼は賢い。

 普通なら半分も削れれば逃げ出すはずだ。

 だが、この白い魔狼たちは、まだ戦意を失っていない。


「ガルルルルルルルルルルルゥッ!」


 唸りながら涎を垂らす魔狼の目は、鋭くこちらを睨み続けている。


「コイツらの狙いはなんだ?」


 勝ち目が無いと分かってるはずだ。


 先程、指示を出していたリーダー格は既に水に沈んだ。

 コイツらを縛る者はもう居ない。


 不自然ではあるが考えるのは後、まずは目の前の敵を処理するべきか。


「とっとと残りを始末するぞ。」


「はいですわ。」


「ん。」


 魔狼の総数は見える範囲に5匹。

 氷魔法を使うものの、こっちは魔狼種を何度も狩って来たわけだ。

 攻撃のパターンが1つ増えたくらいでは、こちらの有利は揺るがない。


「俺が3匹、残りは2人で頼む。」


 俺が先陣を切って、群れの中心へ突っ込むと、直ぐに触手を両手に2本顕現させ、蛇の様な動きで近い魔狼から捉えに行く。


「捉えたっ!せぇーーーいっ!」


 触手で捉えた魔狼を持ち上げると、地面へと叩き付け、戦闘不能へ陥らせると、新たに腰に触手を顕現させ地面を蹴らせると、勢いのままに魔狼へと接近する。


「ラストッ!」


 俺は正面から噛みつきに来る魔狼の前で、空中前転をしながら噛み付き攻撃を回避する。


 そして、前方への猛突進していた途中で空中前転をすれば、前方へ掛かっていた力が遠心力となり、凄まじい速度で腰に顕現させた触手が、敵の脳天から振り下ろされ、地面とサンドイッチにする。


 魔狼を叩き潰した俺は、スザザザと地面を滑りながら着地し、加勢をするかと後ろを振り返るが、どうやらその必要は無かったらしい。

 クックもサファイアも既に魔狼との片がついていた。


「そっちも終わってたか。」


「当然ですわ。一手増えた程度では、私の料理魔法には及びませんですわ。」


「私も同じく。」


 まぁ、クックは兎も角、サファイアはアウルムホークをたった一撃で屠るだけの力があるからな。


 この魔狼も恐らく下級種だろう。下級種ではサファイアに敵うはずが無い。


「それよりも、調査だが、取り敢えずこの死体のどれかを持って帰るか。」


「何も持たずに帰るよりはその方が良いと思いますですわ。」


 戦いが終わったと気を抜いていた時、また茂みがガサガサと揺れた。


 全員が振り向くと、たった1匹でその魔狼は茂みから出てきた。


「まだ残ってたのか。」


「私がやりますですわ。オクトたちは持って帰る死体を選別しておいてくださいですわ。あっ、あと料理用の一体もお願いしますですわ。」


「はいよ。」


 奥の方の魔狼はクックに任せ、足元に転がる死体で出来るだけ綺麗なものを探そうとすると、辺りが真っ白に染まり、視界が悪くなったと思えば、途端に冷え込んできた。


 まだ日は出ているのに、これでは昨日の深夜並みの寒さだ。

 いや、日の光はこの(もや)に遮られているのか、光の暖かさを感じ取れない。


 何かを感じ取ったのか、サファイアもナイフを仕舞わずに構えたまま、辺りを警戒している。


「クック、様子がおかしい戻れっ!」


 俺の言葉に全力で反転したクックが何を見たのか叫ぶ。


「後ろですわっ!」


 後ろを振り返るとそこには巨大な影があった。

 その巨影の方からどんどんと俺が割ったはずの氷が再び凍っていき、目に見える形で冷気が迫っているのが分かる。


 それを見た俺は、咄嗟にオウムガイの触手を壁のように展開する。


 そして、指向性の持ったブリザードが触手に直撃し、触手がたちまち氷漬けになって行く。


「くぅっ、おおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は触手を後から後から追加していき、そのブリザードを正面から防ぎきり、ブリザードが止むと同時に役目を終えた触手を霧散させる。


 今の吹雪によって、辺りの白い空気が新鮮な空気と入れ替わり、日光の下に影の正体が(あら)わになる。


 白い毛並みは新雪を想像させ、真っ白な瞳の中に更に冷たく鋭い黒目が有り、その四肢の先に生える爪は冷酷さを宿している。


 その壮麗(そうれい)さはウルフリーダーに収まらないだけの格を醸し出していた。


「ウルフロードなのか…。」


 自分でも初めて見る。

 ウルフリーダーと思われる魔狼種の上位種は何度か戦った事があるが、今の一撃で確実にそれより強いと分かる。

 未だ魔狼種の何かまでは分からないが、コイツは強敵だと本能が煩い位に警報を鳴らす。


「アオォォォォォォォォォォォオンンッ!」


 その遠吠えの元に、十数匹の魔狼たちが続々と集まって来るのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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