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4.9章

お待たせしました。

4.9章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「えっと何々…。」


 俺はヒガさんから手渡された、依頼書へ目を通す。

 書かれていた主題は、『温泉に起こる異変の調査』という内容。

 俺が依頼書を読みきったとして、ヒガさんは話を続ける。


「元々この鬼人族の村は、温泉が有るとして有名だったんだ。他にも秘境温泉があってよ。それを探し当てるのも此処に来る奴らの楽しみだったんだ。」


 それは知らなかった。

 温泉で有名と言う割には、少し肌寒い上に温泉も見当たらなかったからな。


「だがよ、だいたい2週間くらい前から温泉が冷めちまったんだ。」


「温泉が冷める?」


 観光の主目的となる温泉が冷めたとなれば、この村は経済的に大打撃を受ける事になる。

 村としては由々しき事態のはずだ。


 だが、俺の見た限りだと、活気が無いとは言えない程には人が居たと思う。

 俺はその辺の疑問をヒガさんへぶつける。


「ああ、その事か、鬼人族の奴らはな、元々狩猟で生活してたんだ。金なんて俗世なもんに頼らんでも、充分に生活できるから誰も温泉が冷めた程度じゃ本気にしなかったっつーわけだ。」


「なら、俺にまで依頼を回す必要は無くないか。」


 切迫した状況でも無い限り、のんびりと原因解明に努めればいいと思う。


「いんや、オレが温泉に浸かりぇんだ。」


「帰る。」


「待て坊主、温泉に浸かりながら飲む酒は最高に美味(うめ)えんだよ。」


「お部屋に帰らせて頂きます。」


 二日酔いのせいで頭がまだ痛いんだ。付き合ってられない。

 踵を返し、俺がそそくさと部屋に帰ろうとすると厨房から声がかかった。


「待ちなさいですわオクト。」


 振り返ると、両手に料理を持ったクックが出てきた。


「なんだ、朝食作ってたのか。ちゃんと許可取ったんだろうな。」


「そこら辺は抜かり無いですわ。それよりもヒガさんからの依頼を受けるのですわ。」


「はぁ?」


「私も受けたい。」


「サファイアもか。」


 何だ、2人のこのやる気は。

 クックは朝食をテーブル置くと、その理由を話し始めた。


「此処の温泉はお肌に良いと聞きましたのですわ。女性として、冒険で荒れた肌を癒したいと思うのは当然の帰結ですわ。」


 肌を癒すのは温泉の効能という奴だろうか。

 クックの食いつきが良いのは、そういう訳か。だが、サファイアがやる気なのは謎だ。

 寧ろネコ科のコイツは水嫌がるだろ。


「温泉卵。」


 把握した。


 成る程、食い気で釣られたのか。


「因みにその依頼、僕も受ける予定だよ。久しぶりに温泉浸かりたいし。肌に良いって聞いたら尚更(なおさら)だよ。まさに僕にピッタリの温泉だよね。」


 自分を磨く事に余念(よねん)が無いなこのナルシスト。


「ラビたちも受ける予定だよ〜。調査なら得意だし、人手が多いのが1番だからね〜。」


 耳ざといラビとバクさんたちが二階から降りて来て、会話に加わった。


「という訳なんだオクト君。ボクたちは冒険者じゃないから、ただ働らきになるんだけどね。」


 バクさんはあまり気乗りしないのか、最後の方でとほほと愚痴を零す。


 そっか、この村に冒険者組合は無かったからな。


 今から街に戻って登録じゃ遅いだろうし、依頼料を渡したい所だけど、勝手に分け前を払うと違法なんだよな。

 確か、下の色の冒険者が上の色の冒険者に代わりに依頼をこなして貰って、色を上げるって事を防止する為だとか、他にも色々理由があったはずだ。


 目的は違うにしても、金銭遣り取りは全面的に禁止している。

 そこら辺、流石お役所仕事と言った所か。


「文句言ってねぇでキビキビ働けっての。アタシは昨日の夜の事を許した訳じゃ()えからな。」


 ドグは尖った口調で釘を刺すものの、尻尾がブンブンと振られており、一目で機嫌が良いと分かる。


 そんな、ドグを不思議に思ってると、こっそり近寄った、ラビが俺の耳元で囁く。


「あのね、ドグ(ねぇ)、あんな風に怒ってるフリしてるけど、昨日の夜から朝まで、ずっと酔ったバク(にぃ)に抱き枕代わりにされてて、すっごく機嫌が良いんだよ〜。ぷふふ〜。」


 成る程、道理で千切れんばかりに尻尾をブンブン振っている訳だ。納得した。

 だが、姉の威厳を落とす話をそうホイホイして良いものだろか。


「ラビっ、オクトと何話してた。」


「ふふ〜ん、何にも〜。」


 感の良いドグが何かを察するも、ラビはすっ惚けるて直ぐに俺から離れて行った。


「依頼は手分けして、それで報酬は僕、オクト、ヒガさんの3チームで三等分で良いかな。」


「あぁ、それで構わねぇ。」


「私たちも大丈夫ですわ。」


 依頼を受けるかどうかも決めて無いのに、クックがシズトの意見に勝手に賛成しやがった。


 だが、サファイアも賛成で二対一か。

 目的は下らない理由だが、俺も温泉に入ってみたいしな。

 それに、鬼人族の村を救うと言う大義名分があるから、勇者らしい行動と言えなくも無い。


「分かった、俺も参加する。」


「決まりだな。2日後の夜までには全員この宿へ戻れ、それじゃあチーム毎にバラけて行動だ。」


 一番歳をくってるヒガさんがその場を仕切るが、目の前に置かれた木製ジョッキのせいで台無しだ。


 テンポの悪いスタートだが、俺たちはその号令とともに、ぞろぞろと宿を出て別の方へ向かう。

 バクさんチームは街、俺とシズトのチームは山を手分けしてとなった。


 因みに、ヒガさんはツクシの世話が有るので、夕方までに宿へ戻れる程度の距離しか調べられないと言っていた。

 その代わり、毎晩宿に居るので、全員の連絡係をやってくれるそうだ。


 ヒガさんは連絡係を務める間、酒を禁止と言う全員からの痛いペナルティを貰って意気消沈していたが、連絡係が酔っ払っていたのでは話にならない。

 当然の帰結だろう。


「それでどこに向かうのですわ。」


「取り敢えず一番近い温泉を見に行こう。」


「ん。」


 妥当な案だろう。

 だが、街はバクさんたちが担当。

 つまり、俺たちは街の外に有る秘湯(ひとう)を探しながら、調べていく事になる。


 まぁ、秘湯と言うが、既に発見された場所には簡易的な地図を貰ったので、今日はそこから調べていく事になりそうだ。


 地図の秘湯の有る一番遠い所を見ると、徒歩では野宿もありそうだ。


「取り敢えず、一番近い所からしらみ潰しだ。」


 最初の目標が俺たちは山へ向かって歩きだし、整備された道から外れ、(しばら)く誰も使っていないのか、草が生え始めた道へと歩いていく。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「来る。」


 荒れ果てた道を1時間程歩いた頃、サファイアが呟き、その言葉に全員が武器を抜剣する。


 周囲を見回して、警戒していると茂みが揺れ、その陰から1匹の魔物がその鋭い角をギラつかせ近寄る。


「あれはホーンラビットですのですわ?」


 現れたのは野山なら何処にでも見る、『魔兎種』のホーンラビットであった。

 だが、いつもと様子がおかしい。


「色が違く無いか?」


 その体毛は、白に少し青みがかかっており、魔兎のホーンラビットは普段なら真っ赤な目をしているのだが、その目は真反対に真っ青だ。

 そして、何より一番気になるのは、ホーンラビットの特徴とも言える、真っ白な角がクリスタルの様な色へと変貌している事だ。


 観察に気を取られ油断していると、ホーンラビット?はこちらへ真っ直ぐに跳躍し、得意の角で貫きに来る。


「うわっと⁉︎」


 俺は咄嗟に横へ跳びのき、その攻撃から逃れるが、俺が怯んでる隙に、臆病なホーンラビット?は茂みの奥へと逃げ出してしまった。


「何だったんだ一体?」


「分かりませんが、魔兎種で有ることは間違い無いと思いますですわ。」


 ここら辺特有の魔物だろうか。

 まぁ、宿に戻ったら聞けば良いか。


「取り敢えず奥へ進もう。地図にある温泉はもうすぐだ。」


「ですわ。」


「ん。」


 そして、更に10分程進み、ようやく地図にある秘湯がある筈の場所へと辿り着いた。


 ここまで来るのにズボンが雑草や泥塗れだ。これでは帰りにまた汚れるのは間違い無し、わざわざこんな遠くに来る奴なんて本当にいるのか、二度手間も良い所だと愚痴を零したくなる。


 俺は目の前のものへと歩み寄る。


「これ、本当に温泉か?」


 疑いたくなるのも当然だ。

 温泉と言われる割に湯気が立っているわけでもなく、暖かさをまるで感じない。

 辛うじて温泉らしさを残すのはその濁った水くらいだろう。


 俺は、その水へと手を突っ込み、底の泥を掬ってみようとする。


「うわっ、冷たっ!」


 驚きのあまり、手を引っ込めてピッピと水を払う。


「温泉なのに冷たいのですわ?」


「いや、そこまでって訳じゃ無いんだけど、これじゃあ川の水と変わらない温度だ。」


「熱く無い。」


 隣にいたサファイアも温泉であったであろうものへ指先を入れている。


 ヒガさんの言っていた、温泉が冷えたと言うのはこう言う事だったのか。

 改めて起きている事態を理解する。


「一応他の温泉も調べてみるか。野宿になるけど良いか。」


「私は構いませんですわ。ですが…、」


 クックが言葉に詰まり、チラリとサファイアへ目を向けた。

 すっかり忘れていたが、サファイアは暗い所がダメだったな。


 そんな俺たちの様子に気づいたのか、サファイアは口を開く。


「真っ暗じゃなきゃ平気。」


「無理してないか。」


「ん。」


「そうか、じゃあ今日は野宿だな。」


「ですが、調査は早いに越した事はありませんですわ。ささ、行きましょうなのですわ。」


「ああ、そうだな。」


 野宿が決まった俺たちは更に奥へと進んで行く。


 2つ目、3つ目の温泉とどんどん調べて行く間に特に変わった事は無く、ホーンラビットや『魔狼種』である、マウンテンウルフと接敵したぐらいで、特に何事も無く調査は進んで行く。


 見かけるホーンラビットはよく見かけるものばかりで、最初に出会ったホーンラビットは希少種か何かだったのだろうか。

 捕まえなかった事が悔やまれる。


 5つ目の温泉へ着いた時、俺はようやく異変に気付く。


「なぁ、この温泉、どんどん冷たくなってないか?」


「もうすぐ日暮れですし、日が沈んだせいではないのですわ。」


 そうなのだろうか。

 だが、最初に触った温泉の温度は、普通の川の程度の温度であったが、今目の前にある5つ目の温泉は、氷水に手を突っ込んでいるくらいの違いはある。

 これは単に、日が暮れたからで済ませられる違いなのだろうか。


「野宿の準備。」


「そうだな。早めに準備をするか。」


 サファイアの言葉も最もか。

 次の秘湯調査は明日に回して、今日はもう休むべきだ。


 俺たちは出来るだけ風を防げる場所を探して、枯れ木や落ち葉を集めると野営の準備をするのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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