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4.8章

お待たせしました。

4.8章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「と言うのが、出陣式の時にあった出来事なんだが、分かったか?」


 話が終わるのと同時に食事を終えた俺は、何故か顔が紅葉し目がトロンとしたクックに確認を取る。

 自分から聞きたいと言ったくせに、飽きるというのはマナーがなってないと思う。


「ええ、良く分かりましたでふわ。」


 うん?語尾に覇気を感じないな。


「それよりもオクト、顔が真っ赤でタコみたいでふわ。ぷふふっ。」


「だからタコじゃねぇっ!って、おうわっ⁉︎」


 勢いよく立ち上がった俺は、目眩感を覚え、座っていた椅子に落っこちる。


 何だ?貧血か?

 いや、最近はそんな事、一切無かったぞ。

 それに少し気持ち悪い。


「おう、どうした坊主?」


「いや、ちょっとフラついて。」


 言いながら横を見やると、酒樽が1つ空になって、2つ目の樽が口を開けたところだった。


「アンタのせいかっ!」


 この宿に来る前の店で、どうやら俺の鼻は機能不全に陥っていたらしい。

 いや、慣れてしまったという方が正しいか。

 大量の酒がこれだけ近くにあっても、全く匂いに気づかなかった。


「あれ、オクトが8人、いつのまに生えたんでふわ。」


「生えとらんわっ。」


 その見え方には悪意がある。


 しかし、クックも俺も限界だ。

 このままでは、酒を飲んだことも無いのに、明日の朝には二日酔いを体験する事になりそうだ。


「ヒガさん、周りに被害出てるからっ!お開きにしよう。」


「お開き?それじゃあこれから二次会じゃあっ!」


 ダメだ、止まる気配が無い。

 誰だ、この人の宴会に付き合うと言った馬鹿は。

 俺では止められない、そう判断した俺は、もう1人の大人に助けを求める事にする。


「バクさん、ヒガさんを止めてくれって、バクさんっ⁉︎」


 バクさんは机に突っ伏して動かない。


 いや、待て、俺に何か伝えようとしてくれたみたいだ。

 最後の気力を振り絞ったのか、机に溢れた酒でダイイングメッセージを残している。


『さけ』


「見れば分かるわっ!」


 やはり胡散臭いだけの、頼れない大人だった。

 酔いつぶれたバクさんはもう使えない。

 俺は第2のプランを実行する。


「ヒガさん、娘さんも疲れてるでしょう。ほらあっちにって、こっちも居ないっ⁉︎」


「あぁ、ツクシとあの五姉妹か?アイツらは先に部屋へ帰したぞ。ツクシが眠そうにしてたからな。ガッハッハッ。」


「なんで、そこで気遣い出来るんですか⁈」


 そして、サファイアはともかく、カーメイをナチュラルに姉妹に含められているが、まぁ、そこは良い。


「なんでっすかっ⁉︎」


 酔ったせいで幻聴まで聴こえたきがするが、構ってる場合では無い。それよりも、この場を逃げるプラン2まで潰れてしまった。


 次の脱出プランを練るものの、酒に当てられた俺は、目が回って上手く考えがまとまらない。

 作戦を組み立てる側から、ポロポロと作戦が崩れている気分だ。


「どうした、バク。もう限界か、情けねぇ。ガッハッハ。」


 ヒガさんはバンバンと突っ伏すバクさんの背中を叩きながら、ガポガポと酒を滝の如く飲んで行く。


 もうダメだ。

 この場にヒガさんを止められる人は居ない。


「あっ、みんな食べ終わったみたいだね。」


 そんな時、タイミング良く救世主が現れる。


「良かった、シズト。ヒガさんを止めてくれ。」


「ごめんね、僕は厨房を片付けないといけないから。」


 両手をパンと合わせ、爽やかに微笑んだ後、食器をひったくりシズトはテーブルを後にする。


「待てシズト、お前最初からこうなると分かっていたなっ⁉︎」


 逃げるシズトを追いかけたいが、最早立つだけの平衡感覚が残っていない。


「あっ、シズトさん、ご馳走様でしたでふわ。」


「見送るなポンコツ酔っ払い。」


「酔っ払い?オクト、私を酔わせてどうするつもりでふのっ!」


 クックのトロンとした目が、少しだけキッと釣り上がる。


「私を酔わへるなて、この変ひゃいっ、くっ…、殺しなさいでふわ〜〜zzz」


 そして、そのまま、クックは眠りに就いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そっか、そう言えば、そんな話をしてたんだっけな。

 ようやく、この惨劇を思い返した俺は、それで力尽き、意識を深い眠りに委ねて行く。


 俺の瞳に最後に映ったのは、未だ飲み続ける蟒蛇(うわばみ)の姿であった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あ痛たたっ。」


 酷く痛む頭を押さえながら、俺はよろよろとベットから上体を起こす。


「あれ、ベット?」


 俺は昨日、あのままテーブルで寝てたはずなんだけど。

 いつの間に自分で部屋まで戻ったんだ。記憶が無い。


 取り敢えず起きようと、俺は自身を覆っていた毛布を(めく)る。


 そして目に飛び込んで来たのは、今の今まで俺と一緒に寝ていたであろう、裸の背中と長い金髪だった。

 その背中は雪のように白く、シミひとつ無い。金髪は手入れが行き届いているのか、布団に垂れる髪は絹のような輝きを纏っている。


 一瞬で頭が真っ白になる。


 もしかして俺、昨日酔った勢いで、この子を部屋に連れ込んだのか。

 なんて事をしてしまったんだ。

 罪悪感に俺は顔を覆い動けなくなる。

 どうするべきか、取り敢えずこの子を起こして謝るべきか。

 頭の中で色々な考えが浮かんでは消えて行く。


「うっ、うん…。」


 一緒に寝ていた子が寝返りを打ち、その裸の上半身と顔が露わになる。


「って、テメェかよシズトっ!」


 同じベットを共有していた、シズトをベットから蹴り落とす。

 男と狭いベットで一緒とか、気色悪いにも程がある。


「うわっと⁉︎」


 ベットから落ちそうになったシズトは瞬時に覚醒し、受け身を取った。


「もう酷いな、昨日ここまで運んであげたのは僕なんだよ。」


「知るか、気色悪い事するお前が悪い。それに運ぶだけなら俺のベットに入る必要無いだろ。」


 確か、四部屋借りてたはずだ。


 しかも、一部屋は女子が全員で泊まると、4人用の大部屋を借りている。

 バドとサファイアが仲が良く、背も小さい為、一緒のベットで寝る予定だったのだ。

 別々の冒険に出るまで、出来る限り一緒に居たいと2人たっての願いだったので、皆微笑ましく思っていた。


 ツクシも背が小さいので、誰かと一緒のベットで良いと言う事で、女子の部屋は四人部屋1つで充分と言う結論になったはずだ。


 残った三部屋は、2人用の部屋だが、勇者組とカーメイの5人だから、ベットが1つ余る計算だ。


 ベットが空いていないのかと、向かいのベットを見ると、カーメイがスヤスヤと寝息を立てている。

 となると、この部屋はシズトの部屋か?


「事情があるんだよ。」


 む、事情があるなら、一応聞かないことも無い。

 俺はシズトの言い分を黙って聞くことにする。


「あの後、みんな寝ちゃったから僕が運ぼうとしたんだよ。けど、酔ったバクさんがドグさんたち姉妹の部屋に間違えて入っちゃって、大部屋は劇団員で使うことにするって言われたんだ。」


 成る程、となるとクックとサファイア、ツクシは追い出される形になった訳か。


「それで、クックちゃん達は空いてる部屋で寝ることにしたんだって。因みにツクシちゃんはヒガさんと一緒の部屋だよ。」


 つまり三部屋埋まってることになるな。

 確かに泊まるならこの部屋しかなさそうだ。

 だが、俺とシズトで同じベットを使うより、もっといい案が目の前にある。


「だったら、そっちのカーメイと一緒に寝れば良かっただろ。」


 俺はカーメイが眠る向かいのベットを指差す。


「いや、僕も広い方が良いから、カーメイと一緒のベットを使わせてと頼んだんだけど、『助けてくれない師匠もオクトさんも嫌いっす。』と拗ねて入れてくれなかったんだ。」


 おっと、この最悪の寝起きドッキリが自分の業によるものだとは。


「どう納得してくれた?」


「…悪かった。」


「良いよ、それよりも、ヒガさんが下で待ってるよ。」


 ヒガさんが?

 何も聞いて居ないのだが。

 俺はシズトの後をついて行き、階下へ向かう。


 するとそこで、ヒガさんを見つけ声をかける。


「ヒガさん、要件って、また飲んでるっ⁉︎」


 あいたたた、叫んだせいで、頭にガンガン響く。

 それにしてもこの酔っ払い、昨日の今日でまだ飲むのかよ。


「ん?やっと来たか。もうとっくに日は登っとるぞ。」


 俺の驚きとは反対に、ヒガさんは至ってまともに話しかけてくる。

 驚くだけ、体力の無駄か。

 そう判断した俺は、なるべく声を鎮めて要件を聞き出す。


「誰のせいだと思ってるんだ。それよりも、用ってなんだ。」


「タコの坊主、お前さん冒険者やってんだろ?」


「そうだけど。」


 タコの坊主と言うのはもう定着してしまったのだろうか、100歩譲っても、せめてタコだけは外してほしい。


「なら、お前さんに依頼だ。」


 そう言って、ヒガさんは一枚の依頼書を俺に手渡すのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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