1.9章
お待たせしました。9話目の投稿です。
お読みいただければ幸いです。
「なんで貴方は洞窟の飾り付けをしているんですわ〜。」
ですわ〜ですわ〜ですわ〜と洞窟内へと声が反響する。
そんな俺は洞窟の上部から細長く白い触手を何百本もカーテンの様に垂らす作業をしている。
「ばっか声がデカイっ。」
匠ばりの仕事をしているというのにあのポンコツはキッチリと邪魔をしてきやがった。
しかし既にビフォーアフターは済んでいる。
匠は仕事が早いのだ。
洞窟の奥まで反響した声につられて、何十匹ものゴブリンが溢れてくる。しかしそれを悠然と待ち構える触手のカーテン
はことごとくスルーされる。
「なにやってるんですわっ!」
ちょっとカーテンの長さ足りなかったな。
それにこの罠は雑魚を狙ったトラップではない。
頭を擦ればラッキーくらいの感覚で設置したものであり、本命がかかる前に、雑魚に絡まって千切れでもしたら計画がご破算だ。
頭上にある触手のカーテンを次々と素通りし、俺に向かって大量のゴブリンが駆け出してくる。
俺は新たに自分の近くへ触手を大量に生やし、1匹づつ捕まえどんどん絞めていき、難なく洞窟から溢れ出すゴブリンを次々に屠っていく。
そんな俺の後ろから彼女が増援として戦闘に参加する。
「前は任せろ。アンタは森から来るゴブリンの相手を頼んだ。」
「分かりましたですわ。」
俺は先程森に逃げていったゴブリンも含めてまだ森にいるであろうゴブリンの相手を頼むことにする。
洞窟からはまだまだゴブリンが溢れ出して来る。
しかし1匹もそれを後ろへとは通さない。
回り込み右から単騎で来るゴブリンを触手で掴み右の集団へと思い切り投げつけ、左からくるゴブリンの集団を触手魔法を左手に発動させ、太い触手を顕現させると思い切り左から右へと向かってなぎ払い正面のゴブリンごと吹き飛ばしていく。
「そぉーれっ!よいしょっと!」
俺の掛け声に合わせて、ゴブリンの群れは数を減らし、既にゴブリンの死体は山を作っている。
後ろを一瞥すると彼女はゴブリンと剣(包丁)を交えていたが、彼女も1匹たりとも此方へとは逃がす様子はない。
ペースは遅いものの彼女は着実にゴブリンを減らしていく。
そして、200を超えるゴブリンを屠った頃、洞窟の中からどしんっどしんっと重鈍な足音が響き、残りの少ないゴブリンが全て洞窟の側まで道を空けるように下がっていく。
そいつは、俺が作った触手のカーテンを手で引きちぎりながら現れ、俺たち侵入者に向かって明確な敵意を向け吠え猛る。
「ゴォグゥギャオォォォォォォォ!」
俺は役目の終えたカーテンを作っていた触手を消し、そいつと相対する。
「出たな、お前がここの大将だな。」
「間違いありませんですわ…。あれがキングゴブリンですわ。」
そう言う彼女の言葉は少し震えている。
そのまま仲間の死体を踏み潰すことを厭わず、此方へと真っ直ぐに歩いてきた。
5メートル近い緑の巨体が此方を見下ろしている。
「どうするのですわ。仕掛けた罠とやらは簡単に壊されていますですわ。」
「問題ない、コイツは俺に任せろ。アンタは一旦下がってくれ。大丈夫だ、俺は既に勝っている。」
まるで、キングゴブリンを倒した後かのように言う俺を信じて、彼女は身を隠す為に森へと向かって駆けていく。
それを見送る前に、既に目の前まで来ていたキングゴブリンは俺を排除しようと動き出した。
まるで空から岩が降ってくるようだった。片膝を地面に着きキングゴブリンは右の拳を振り降ろす。
俺は地面から自分を覆うように触手を顕現させ、その岩のような拳を難なく受け止め防ぐ。
拳を触手に防がれたキングゴブリンは芯のない感触に手を引き立ち上がると踏みつけを放つが、全体重が触手にかかるがしかし、それも触手でキッチリと受け止める。
苛立ったキングゴブリンは何度も踏みつけを放つがどれも手応えが帰ってこない。
その状況にすぐさま業を煮やしたキングゴブリンは空に向かって吠え体を赤く光らせると、もう一度片膝をつき、今度は両手でラッシュを加え始める。
強化系の魔法を使用したのであろうと考えられるその拳の重さは、先程と打って変わってとても重くなっている。
だが、そんなキングゴブリンに俺は一歩も引かず、そのラッシュにひたすら太い触手を合わせて防ぐ。
右、左、時に両手を合わせハンマーのように叩きつけ、ドッドッドッと鈍い音が響き続け、暴風のように風が吹き荒れる。
ガードに使っている触手も流石にその威力に波を打つ。だが、確信がある俺は絶対にその場から引きなどしない。
その時間が2分続いた頃であろう。攻めているはずのキングゴブリン方が、なぜか明らかな弱りを見せ始める。
3分経った頃には殆ど拳に力が入ってなく、フラフラとキングゴブリンの頭が揺れ始め、苦しそうに呼吸をしている。
そして、4分経った頃に泡を吹いてキングゴブリンはうつ伏せに倒れてしまった。倒れたキングゴブリンの右手は何故か緑の色を塗りつぶすように無惨にも赤く腫れあがっていた。
「よし、いっちょ上がりっ。」
服についた砂埃を払いながら、俺はそう呟く。
「そんな、金色冒険者がボロボロになってやっと勝てる相手を、あんな簡単に倒すなんておかしいですわ…。」
倒れて動かないキングゴブリンの近くにいる俺に駆け寄り彼女は質問する。
「一体どういうことなのですわ。こんな簡単に倒せてしまうなんてありえませんですわ。」
「だから言ったろ、策があるって。最初に洞窟に設置してた触手魔法、あれのおかげだ。」
「意味がわかりませんですわ。」
「ただの飾りじゃなかったんですの」と呟くポンコツな彼女に丁寧に説明してやることにする。
「あの触手魔法には毒針が仕込んであったんだ。ただし超猛毒のな。」
詳しくは触手魔法に元からある技能なのだが、一言で伝わるように言い換える。
俺の触手魔法は全ての触手を顕現させて操ることができる。
そして、触手魔法しか使えない俺はどんどんとこの魔法を使い育てていった。
魔法の成長に伴い触手のパワーが上がり、パワーだけでなく、それぞれの触手の効果も上がっていることに気づいたのだ。
俺が使ったのはクラゲの毒、クラゲの触手には毒針が内包する刺胞があり、刺胞のある触手に刺激が与えられると、毒針が袋から飛び出すのだ。そして、当然その毒の効果も使い込まれた触手魔法で発動すると、人を何人も簡単に殺すものから、数分でキングゴブリンすら殺せる毒へと昇華する。
そして、腫れあがっている赤い腕がその毒が入った証拠だ。
「本当に意味があったのですわね。てっきり、ゴブリンに媚を売る作戦かと思いましたですわ。」
「あ゛そんなことするわけないだろ、このポンコツ。」
「失礼、口が滑りましたですわ。」
彼女の態度にイラッとしたものの、まだ仕事は残っている。
「はぁ。さて、種明かしも済んだことだし、残りのゴブリンを片付けるぞ。」
そういうと、壁際に避難していた。ゴブリンに目を向け、大量の触手を顕現させ蠢かせる。
「そうですわね、ここまできたら全部倒してしまいたいですわ。」
彼女も乗り気で、先程まで仕舞っていたいまだ血の乾かない包丁をぬらりとテカらせ鞘から抜く。
「グギャ、ギャギャッ、ギャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
二人の八つ当たりの矛先はゴブリンへと向けられる。
そうしてゴブリンの悲鳴が森いっぱいに響き渡ったのであった。
お読みいただきありがとうございました。