4.7章
お待たせしました。
4.7章、投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「出陣式に相応しい勇者の格好って言うから、一応制服で来たけど、やっぱりスーツを借りた方が良かったかな。」
俺は自分の格好を見回しながら、舞台袖から暗い暗幕の掛かる舞台へと登る。
暗幕の向こうからは、既に騒つく声が聞こえる。
舞台へ登ると、先に待っていたのか、3つの影があった。
その影を見た俺は、横へと並ぶ。
「オクト、今来たの?」
「その声はシズトか。ああ、悪い、待たせたな。」
「ううん、僕は2番目だよ。エースさんが最初に居たみたい。一応話しかけたんだけど、ずっと黙りっぱなしなんだ。」
「単純に緊張してるんじゃないか。」
だが、マジックショーを趣味でやってると言うのに、ここで緊張とは。本当にマジシャンなんてやっていたのだろうか。
ヒガさんの事も気になり、シズトに聞こうとした所で何処からか声が掛かる。
「勇者の皆様、どうやらお集まりのようですね。」
この声は多分パトリダ姫だ。
昨日あんなに取り乱していたのに、言葉に棘を感じるものの今日は至って冷静そうだ。
「既にメイドから話は聞いて居ると思いますが、これより出陣式を行います。各々、勇者として恥じぬ姿を見せなさい。」
うん、素晴らしい程に尖ってやがる。
この姫様とは仲良くなれそうに無いな。
棘が尖り過ぎて、言葉が命令形になっていることに気づいていない姫様は言葉を続ける。
「そろそろ幕が上がります、私は勇者様方を紹介するため、前へと出ますが、くれぐれもおかしな行動を取らないように。」
返事の代わりに、その場の全員が黙りこくる。
その様子に釈然としないのか、姫様は何も言わずにゆっくりとこの場を離れていった。
暫くすると、暗幕の向こう側からアナウンスが聞こえる。
『これより、世界を救う4人の勇者様方の御登場です。艱難辛苦が待ち受ける冒険へ、私たちの為に旅立つ者たちです。この場にいる皆様、どうか、その姿を目に焼き付け、彼らが困難を迎えた時、少しでも彼らの手助けをしてくれるよう願います。』
拍手が巻き起こり、そして、暗幕が登って行き、眩しい光が差しこむと、感嘆の声がどよめきの声へと変わって行く。
そのどよめきをおかしく思い、俺は視線を横へと向ける。
おかしい。1人足りない。
1番端に立っていたのは、人ではなく割り当てられた部屋の布団で作られたのであろう、ビックサイズのてるてる坊主だ。
それが、『ロープ』によって天上から吊るされている。
そして、その隣のヒガさんは胡座をかいて、酒瓶を片手に出来上がった状態だ。
「おうっ⁉︎やっと宴会かっ!さぁ、じゃんじゃん飲むぞぉ!」
そして俺の隣、シズトはマントにパンイチという斬新な姿で仁王立ちをしていた。
なんなら、今、そのマントを外して、その程よく筋肉のついた体を、観衆へと堂々と見せつけている。
コイツはボディビル会場と勘違いしてるのだろうか。
帰りたい。
俺の今の素直な気持ちだ。
若しくはやり直したい。
どうして俺は、問題児のコイツら全員を確認しなかったんだ。
過去に戻れるなら、この場にいる俺を含めた全員をぶん殴ってやりたい。
「貴方たち何をやっているのですっ⁉︎」
慌てて姫様が俺らのもとへ駆け寄り、怒鳴りつける。
勿論、俺は真面目な格好なので、知らぬ存ぜぬで、俺の前を通る姫様を左から右へと受け流す。
「僕が勇者として1番相応しい格好はこれだと思ってね。」
「まず、文化的に相応しい格好をして下さいっ!」
キレッキレのツッコミをした後、その矛先がヒガさんへ向く。
「そっちの貴方は何故お酒を飲んでいるのですかっ!」
「宴だろ?そうカリカリすんなや。せっかくだお嬢ちゃんもパーッと楽しめっ!ガッハッハ。」
「出陣式ですっ。お酒は用意していますが、そちらが主目的では有りませんっ!」
そして最期の3人目は何故かこの場に居らず、遣る瀬無い気持ちを姫様は堪えてるのか、強い足取りで、巨大てるてる坊主に近づくと、貼り付けられていた何かに腕を伸ばす。
手紙?
一枚の紙に何か書かれているな。
姫様は文字を口に出しながら読んでいく。
「『パトリダ姫へ、此度の異世界への招待、感謝する。しかし、冒険には何かと費用が必要でね。勝手にお宝を拝借させて頂いた。安心したまえ、無駄にはしないと約束しよう。全てを有効に活用するとも。貴女の怪盗勇者エースより。』ですって⁈」
「姫様大変ですっ!宝物庫から財宝が根こそぎ消えていますっ!」
「根こそぎっ⁉︎」
おおう、エースとか言うあの人、随分な事をしでかしたな。
舞台袖から掛けてきた兵士が、緊急の連絡を姫様に伝え、その凶報に姫様は放心する。
「くっ、直ぐに追っ手を出しなさいっ!相手は勇者よ、兵の6割を回しても良いわっ!」
「しかし、それでは城の守りが。」
「なら、休んでる兵も叩き起こして使いなさいっ!」
「こんなめでてぇ日に休日出勤か、御苦労なこった。」
「誰のせいでっ!」
キッと目を鋭くした姫様が、ヒガさんを睨む。
「って、なんなんです、その空き瓶の数はっ⁉︎」
「あぁ?うぉっ、いつの間に。」
どうやらヒガさんは飲んでいることに自覚が無い程、飲みまくっていたらしい。
足元というより、最早ヒガさん周辺は空き瓶の山で溢れている。
それと、一部始終を見ていたが、メイドが会場全体からバケツリレーの様にワイン瓶を運んでいた事を追記しておこう。
ヒガさんのあまりのペースに、会場にある全てのワイン瓶を運び終えたメイドたちも、舞台袖で腰を下ろし汗を拭っている。
そして、空のワイングラスを持った人たちは、行き先を失ったグラスを手に固まっていた。
「僕たちの登場の後は、確か国王との対面だったっけ。じゃあ、早速合わせてよ。」
「今の状況で、謁見を許す訳がないでしょうっ⁉︎」
カオスが場内を支配する中、マイペースを崩さないシズトは、出陣式を次の項目へ進めろと言うが、呆気なく拒否される
「兎に角、貴方たちは全員一度部屋に下がり…、あれ、ヒガ様はどちらに?」
本当だ、さっきまで酒を飲んでて、ようやく会場のワインを飲み干したというのに姿が見えない。
姫様と一緒になって、キョロキョロと俺もヒガさんの姿を探すも見当たらない。
キョロキョロと解除を見回す、姫様にメイドの1人がおずおずと話しかける。
「あの、ヒガ様なら『飲み足りない、これから二次会だ。』と仰って、ここを出て行きました。」
「まだ飲むのですかっ⁉︎いえ、そうでは有りません、城に残った兵の1割を回しなさい。幸いな事に相手は酔っています。抵抗されずに捉えることが出来るかもしれません。」
「はっ、はい、分かりました。」
尻を叩かれた馬の様にメイドは駆け出していった。
「そっか、皆んなもう冒険に出たんだね。」
今の話をどう解釈すれば、そう結論が出るのだろうか。
「オクト、それじゃあ僕も行くね。」
そんな、最期の別れみたいに言われても、俺に返せる言葉無いぞ。
俺に手を振ると、シズトはパンイチのまま、会場の中心を突っ切って行き、近づきたくないのか、人の塊がバッと割れ道を作る。
「兵士たちよ、その半裸の男を捕らえなさいっ!」
焦った姫様は、兵に指示を出す。
兵はその号令を聞くと機敏に動き、即刻シズトを捕らえに掛かる。
「デモンストレーションかな?良し分かったよ。全力で相手をするね。」
シズトは己に向かって飛び掛かる兵を投げとばし、タックルをかます兵にビクともせず前進を続け、後ろにしがみつく兵を引きずりながらも決して歩みは緩まない。
何なら、その強さに見惚れている者さえ伺える。
そう、言葉にするなら、その姿はまるで歴戦の勇者。
「いや、まんま魔王だよ。」
いや、半裸だし、魔王の称号も少し不適切か。
しかし、この会場には兵の3割しか残っていないとしても、それを圧倒するシズトの『全裸魔法』は相当なスペックが有ると分かる。
「もう充分実力は見せれたかな?じゃあ、僕は先に冒険に出るね。」
自身にしがみついていた最期の兵士を引き剥がすと、シズトは会場の出入り口から堂々と出て行く。
「お待ちなさっ、きゃっ⁉︎」
シズトの背を追いかけようとした姫様は、舞台の階段から足を踏み外す。
不味いっ!
そう思うと、口が動く前に手が動いた。
俺は出来る限り手を伸ばす。
だが、このままでは届かない。
だから俺は、何でも良いから『伸びやがれ』と心の中で叫んだ。
そして、俺の腕を中心に膨大な量の触手が伸び、姫様に絡みつくと、触手の塊が出来上がった。
シズトに掛り切りであった兵も含め、会場全体が凍り付く。
俺はそーっと、姫様を中に保護する触手の塊を舞台上へ戻すと、触手の塊に消えろとイメージを送り霧散させる。
触手が消え去ると、そこには海産物特有のヌメリによってヌメヌメになった美女がいた。
あれだね、ほら、ヌメりも滴る良い女って言うし、大丈夫…だよね…?
「私の…、」
「私の…?」
「私の純潔があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」
姫様は青い顔で絶叫を上げた後、パタリと真っ白な顔色になり倒れた。
「姫様ぁぁぁぁっ⁉︎」
舞台裏に控えていたのか、昨日気絶してから見ていなかったリューシスさんが、杖をつきながら遅い足取りで駆け寄ってくる。
「お主っ、姫様に何という事をっ!」
「人助けしただけですがっ⁉︎」
結果的に気絶しちゃったけど、外傷は無いと思いたい。
「言い訳は地獄で聞こう、死ねこの色魔がっ!光炎ッ!」
杖の先端から発せられた光の炎が俺に襲い掛かり、それを見た俺はがむしゃらに横へと飛び退く。
光の先を見ると、真っ白なはずの壁に、真っ黒な焦げ跡が付いている。
「殺す気か爺さんっ⁉︎」
「その通りだ、孫の様に可愛がってきた姫様をこんな目に合わせるなど、万死に値するっ!兵たちよ、この者に死をくれてやれいっ!」
「「「「はっ!」」」」
訓練された返事があった直後、俺に向かって『斬撃が飛来』する。
「有りえないだろっ⁉︎」
立ち上がりかけていた所を狙われ、俺は再び横っ飛びで難を逃れる。
「死ね、この変態っ!」
飛び退いた先に待ち構えていた兵士が、俺の頭を潰そうと、鈍器を振り上げる。
「死ねるかっ!」
俺は咄嗟に触手を顕現させると、腕を伸ばす感覚で兵士の両足に絡ませて、思い切り引っ張ることにより転倒させる。
「さっきので、かなり感覚が掴めたぞっ!」
怪我の功名という奴だろうか、まぁ、怪我をしたのは姫様の心だが。
兎に角、姫様を助ける時に触手を顕現させた時から、触手を操る感覚がかなり掴めた。
だが、付け焼き刃だ。
戦い慣れした兵の大軍と戦って勝てるはずが無い。
逃げ道が無いかと探すと、俺の真上から光が差し込んでいる事に気づく。
俺は上を見上げると、上の天窓に触手を伸ばし天井へ張り付く。
「逃げるな勇者っ!八つ裂きにしてくれるっ!」
俺はリューシスの言葉を無視し、天窓から脱出し、城の屋根へと飛び出す。
目に飛び込んでくるのは、中世風の世界。
城より高い建物は見当たらず、出陣式を聞いてだろうか、かなりの人の波が押し寄せている。
花束でも手渡そうとしたのか、屋根まで風に攫われた、花びらが舞い上がっている
俺はそんな群衆の頭を屋根伝いに飛び越し、遠くへ遠くへ、追っ手が見失うまで、あの声が聞こえなくなるまで、ひたすらに距離を取り続ける。
そして、逃げる間に夜になり朝になりを繰り返し、夜の寒さを拾ったボロ布で凌ぎながら3日。
ついに限界を迎えた俺は、エルガシアさんからの話を頼りに、冒険者組合にボロ布を被りながらやって来た。
その中はやけに騒ついおり、掲示板には人だかりが出来ている。
しばらく経って、人だかりが消えた頃に掲示板を見に行くと、そこには、勇者一味を捕らえろと、丁寧に人相書きと似顔絵まで書かれた手配書が貼られていたのであった。
お読み頂きありがとうございました。