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4.6章

お待たせしました。

4.6章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「まず、一番重要な予定を先にご説明させて頂きます。」


 俺たちは説明を始めた、メイドのエルガシアさんの説明を大人しく聞く。


明日(あす)、勇者様方の降臨と旅立ちを祝う出陣式が有ります。その時にこの王都を旅立って頂きます。」


「えっ、出陣式が終わってからじゃなくてか?」


 早過ぎないか。

 何を考えれば、速攻で此処から追い出す結論に至るのだろうか。

 右も左も分からないまま放り出されたら、野垂れ死ぬのが落ちだろうに。


「大丈夫です。今日はその事前準備という事で、この国の事をお教えしますので。それと、勇者様方には、それぞれ腕の立つお付きの者をつける予定です。冒険の際はその者に頼って頂ければと思います。」


 成る程、冒険しながら学んで行くというわけか。


「旅立ちが性急なのは、一刻も早い勇者様方の成長を望んでいるから(ゆえ)なのです。」


 余程時間が無いという事だろうか、自分の顔が少し強張るのが分かる。


 いや、待て、違うだろ。

 俺が一番気にすべき事はそこでは無い。


「待ってくれ、冒険に出るのだとしても、俺の魔法はさっきのアレだぞ。アンタ、本当に戦えると思ってるのか?」


 俺の言葉にエルガシアさんは目を逸らし一言。


「うっ、腕の中立つ者をつけます。」


「それはさっきも聞いたよっ⁉︎」


「オクト様には、一番腕の立つ者をつけます。」


「ランクアップしたっ⁉︎」


 エルガシアさんは咄嗟に思いついただろう言葉を口にすると、乗りきったとしたり顔になる。


 というか、そんなに腕が立つなら、もうその人が魔王倒しに行けよ。


「それで、僕たちが冒険に出る前に覚えなきゃ行けないことって何かな。」


「この国のルールや、国家企業である冒険者組合について、それと貴方が対峙する敵、魔王とその部下、四天王たちについて。」


 魔王か。

 正直勝てる気がしないのだが、本当に戦わなきゃいけないのだろうか。

 いや、俺たちがこんな魔法なんだ。

 きっと魔王もそれに合わせて、ショボい魔法に違いないな。うん。


 だけど、念の為…、念の為違ったら怖いから聞いておこう。そう、念を押すだけだ。


「その魔王と四天王ってのは、どういう敵なんだ。」


「四天王については、はっきりした情報が有りません。魔王の部下。四天王と名乗る者が現れたと被害報告を最近何度も聞いています。恐らく恐怖を植え付ける為に、敢えて存在を知らせているのかと。」


 四天王は正体不明って事か。

 だが、その天辺(てっぺん)の魔王の程度が知れれば、部下の実力もおのずと見えてくる。

 俺は一番気になる質問をする。


「じゃあ、魔王ってのはどれくらい情報があるんだ。」


「はい、魔王は自身の事を深淵魔法の使い手、深淵をすべしもの(ダークネス)と名乗りました。深淵魔法など誰も聞いたことが無く、その魔法の能力は未知数です。」


「それ、勝てるの?」


「勇者様の努力次第かと。」


「俺たちの魔法で、全員が力を合わせたとして勝てると思う?」


「腕の立つ「分かった、悪かった。俺が意地悪だった。」


 もう頭を抱えるしかない。

 深淵魔法の使い手、固有魔法で実力未知数。

 敗北が濃厚過ぎて、自殺しに行くようなものだ。


「勇者様方にはそれぞれお部屋を用意させて頂いてます。宜しければ、残りのお話などはそちらで如何(いかが)でしょうか。」


「そうだな、オレは残業の帰りだったんだ。 そろそろ横になりてぇや。」


「ワタシも同意見だ。これから休む所だったのだ。」


「皆んながそう言うなら、僕も部屋に案内してもらおうかな。いい加減この格好も着替えたいし。」


 そう言えば、未だシズトは半裸だったな。

 ナチュラルに忘れていた。


「じゃあ、俺もお願いします。」


 制服で走ったせいで、シャツが汗臭かったんだよな。

 幸い体育の授業があった為、ジャージを鞄に入れて持ってきているから、それに着替えよう。

 ついでに、汗拭きシートも持ってきてるし、それで拭けばある程度、汗の匂いも薄れるだろうけど、正直なところシャワーが浴びたい。


「それでは、勇者様方をお部屋へと案内させて頂きます。」


 エルガシアさんがパンパンと手を叩くと、3人メイド姿の女性が現れ、全員がシズトに群がる。


「ちょっと、私がシズト様のお世話を務める話で結論が出たでしょ。」


「ずるいわ、私嫌よ、貴方だって見ていたでしょう、不審者と酔っ払いとあの気色悪い魔法。」


「そうよ、しかも、あの気色悪い魔法、凄くヌメヌメしてて、思い出すだけで鳥肌が。」


「ちょっと、俺をディスるのやめて貰えます?」


 泣いちゃうぞ。

 あのメイドたちには血も涙も無いのだろうか。


「はぁ、分かりました、オクト様へは私がつくので、残りの3人は大人しくジャンケンで決めて下さい。」


「あの、エルガシアさん。仕方なく俺につくのやめて貰えます?」


 何だろう、体育で余り物を食らった時より(みじ)めな気分だ。

 例えるなら、『お前はどうせ余るから先生とだ』って先制された気分だ。先生だけに。


「最初に勝った人がシズト様だからね。」


「もうこれ以上文句は無しよ。」


「行くわよ。せーのっ!」


「「「ジャンケン、ポンッ!」」」


 ジャンケンの結果、勝った1人がシズトをウキウキで、俺以外ならと負けた2人も、渋々といった様子でエースとヒガさんを連れて行った。


 取り残された俺は、膝を抱え、真っ赤なカーペットでつむじを作る遊びをしている。

 そんな俺の肩に、エルガシアさんはポンと手を抜けると慈しみを込めた目で呟く。


「オクト様、汗臭いです。湯浴みをしましょう。」


「そうだね、ごめんねっ!くそったれっ!」


 その優しげな目は何だったんだっ!

 泣きっ面に蜂とは正にこの事だろう。


「すみません、これもメイドの勤めなので。」


 仕事なのは分かる、だけど、もっと優しい言い方は無かったのだろうか。


 他の勇者が部屋へ向かう中、俺はエルガシアさんに連行され、大浴場へと向かった。


「オクト様、どうぞ此方へ。お洋服は私がお預かり致します。ついでにお洗濯をしますので、別のお召し物を用意させて頂きます。」


「はいはい。」


 俺が服に手を掛け、上着を脱いだところで固まる。


「何か?」


「いや、見られてると脱げないんだけど。」


「大丈夫です。メイドはこう言った仕事も慣れてますので。」


「俺が大丈夫じゃないのっ。」


 思春期男子だぞ。

 裸を異性に見られのは些か抵抗がある。


「では、私で慣れましょう。冒険先で水浴びする時にそう恥ずかしがっていては、水浴びも出来ません。」


「1人で水浴びすれば良いだろ。」


「川には魔物が()むので、1人で裸になって水浴びしていれば、魔物にパクリです。」


「異世界怖っ⁉︎」


 いやでも、地球感覚で言えば、海外のワニが棲みつく川で水浴びをする様なものなのかもしれない。


 …どっちにしろ川で水浴びをしないと、今ここで誓おう。


「せめて、後ろを向いててくれ、服は床に置いとくからさ。」


「分かりました。では、後ろを向いています。脱ぎ終わったら声をお掛け下さい。」


「こっち見るなよ、フリじゃ無いからな。」


 俺は後ろを向く、メイドが振り返らないか監視しながら服を脱ぐ。

 くそ、一体どんな羞恥プレイだ。


 心の中で毒を吐いた俺は、全裸が少し心許無くなり、学生鞄からタオルを取り出し、腰に巻く。

 まぁ、これで少しはマシだな。


「どうやらお着替えが終わったようなので、先に湯船へ案内致しますね。」


「アンタ、見てたのかっ⁉︎」


「私の魔法は360度に視界を持つことが出来る、監視魔法です。メイドに死角は無いのです。」


「異世界のメイドは何と戦ってるんだよっ!」


 ダメだ、このままではボケとツッコミで芸人を目指せてしまう。

 俺は異世界へ、芸人になりに来たわけでは無い。

 この人にペースを合わせるんじゃない俺。


「はぁ、もう良いよ。早く案内してくれ。」


 俺の言葉に、エルガシアさんは入り組んだ脱衣所をスタスタと歩き、浴場と言う割に密封性が少し悪い押し戸を押すと、微かに漏れていた蒸気が更に、脱衣所まで広がる。


 目の前に現れたのは、文字通りの大浴場だ。


「此方が大浴場となります。ご自由にお(くつろ)ぎ下さい。」


 扉を開けたエルガシアさんは、脱衣所へと退がる。


「あっ、外で待つんだ。」


 てっきり浴室までついてくるのを覚悟していたのだが、良かった。


「…お背中をお流ししましょうか?」


 首を傾げたエルガシアさんは、直ぐに俺の言葉を誤解する。


「いよ、良い、俺が悪かった。どうぞ戻って下さい。」


「?…はい、畏まりました。私は他のメイドに仕事を割り振って来ますので、席を少々外させて頂きます。」


「分かった、分かったから早く行ってくれ。」


「では、失礼致します。」


 エルガシアさんは深くお辞儀をすると、押し戸を閉め、足音が遠ざかるのを確認すると、やっと気が休まる。

 いや、このでかい風呂だ。

 ちょっと落ち着かないな。


 俺は軽く汗を流すと、湯船に浸かり、考え事を始める。


 異世界転移か。

 実感が湧かないけど、目の前の光景、そして…。

 俺は再びあの触手をイメージする。


 すると、一瞬にして、触手が腕へと顕現した。

 2回目なので、嫌悪感は消えず相変わらず気持ち悪いが、驚くことは無いし、叫ぶことも無い。


 魔法と言って良いか分からないけど、この触手だ。

 此処が地球で無い事を、嫌でも実感しなければならない。


 俺は出した触手を試しにうねうねと動かすイメージを作る。


「おっ、動いた。」


 練習がてら、浴場の端へ置いていたタオルを掴もうとしてみると、まるで自分の腕かのように動かせ、タオルを掴み取ることが出来た。

 これなら使う分には困らなさそうだな。

 ただ、問題は、


「使えた所でだよなぁ。」


 触手を動かすのに飽きた俺は、触手を消すイメージを作ると霧散し、素直に消えてくれた。


「いや、せっかく異世界に来たのだ。ここで諦めてたらダメだ。ここに来る前の俺とは決別しよう。」


 お湯をぱしゃんと顔にかけ、気持ちを切り替える。


 成長しなければ、決意を胸に抱き湯船から上がると、待っていたエルガシアさんと見事に鉢合わせ、何があったかは想像に難く無いだろう。


 その後、俺はエルガシアさんからこの国の法や、俺たちを助けてくれるであろう冒険者組合などの、冒険に役立つものの説明を受け、翌朝の出陣式を迎えるのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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