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4.5章

お待たせしました。

4.5章、投稿させていただきました。

お読みいただければ幸いです。


「あり得ないっ、あり得ないですっ!こんな、こんな事になるなんてっ!勇者が4人もいて全員がゴミの様な魔法だなんてっ!」


 おっと、酷い言われようだな。

 確かに期待を裏切ったが、呼び寄せといてそれは無いんじゃないか。


 今まで猫を被っていたのか、ヒステリックに豹変した姫様は取り乱す。

 俺はその様子を黙って傍観するしかない。


「落ち着いて下さい姫様っ!勇者様方の前です。どうか、御乱心なさらずに。」


「これが落ち着いていられますかっ!この国の未来は勇者の手に掛かっていたのですよっ‼︎」


 どうやら姫様の中では、俺たちは既に過去のものになっているみたいだ。


 メイドが宥めるも、姫様は全く落ち着く様子が無い。


「それがこの結果だなんてっ、後世(こうせい)までの恥。…いえ、もうこの国は私の代で終わるのですね。あははは…。」


 俺たちは後世までの恥らしい。


「この国が姫様の代で終わるってことは、後世は姫様。つまり僕たちは、姫様の恥だと言うことになるね。」


「グフゥっ⁉︎」


「おい止めろ、トドメを刺しに行くな馬鹿。」


 シズトの言葉に姫様が膝から崩れて落ちる。


「アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 一頻(ひとしき)り笑い狂った姫様は、幽鬼(ゆうき)のようにふらりと立ち上がり、俺たちに背を向ける。


「明日、出陣式を行います。詳しくはメイドたちから聞きなさい。」


「ふむ、旅立ちに手当てはもらえるのか?」


「知りませんっ!メイドに任せると言ってるでしょうっ!!!」


 拒絶するかのように叫ぶと、姫様は一切こちらを振り返らずに、この広間から消えて行った。


「いやぁ、姫様、行っちゃったね。えっと、メイドのなんて呼べば良いかな?」


「エルガシアです。」


「じゃあ、エルガシアさんちょっとだけ、時間貰って良いかな?」


「はい、勿論構いません。」


 確認を取ると、俺たちのいる方へと歩み寄る。


「えっと、オクト君だよね。球技大会で有名な。」


「そのネタは止めろっ!」


 やめてくれ、球技大会の悪夢が蘇る。

 球技大会がある日の前日は、毎回のように(うな)されるんだぞ。

 中高の球技大会文化なんて滅んでしまえば良い。


「はぁ、そのオクトで間違い無い。あと君付はしなくて良い。それといい加減ズボンを履け。」


 本当は否定したいところだけど、話が進まないので嫌々ながらも肯定する。


「あっ、ごめんね。忘れてたよ。」


 俺の指摘に、シズトは思い出したかのように、ズボンを拾い履き直す。


「それじゃあ、オクト。後ろの人たちは、君の知り合い?」


 その言葉に、仮面の男と酔っ払いに振り返るも「いや、違う」と答える。


「そっか、じゃあ、ヒガさんとエースさん。初めまして。(なる) 静人(しずと)って言います。」


 この怪しげな2人に躊躇なく話しかけるとか、怖いもの知らずかコイツ。

 俺も取り敢えず、頭を軽く下げ会釈とともに「オクトっす」と名乗る。


「おうよ。」


「初めましてだ。少年たちよ。」


「早速質問なんですけど、ここに来る前は何をしていらっしゃいましたか。」


 シズトが何の為かは知らないが、当たり障りの無い無難な質問をする。


「オレは見ての通り、会社の帰り道。コンビニで缶ビール買って、飲みながら帰ってた途中よ。それで気づいたら此処に居たわけだ。」


「ワタシはマジックショーの帰りだ。」


「へぇ、怪しい人かと思ったけど、テレビに出たりするんですか?」


 マジックショーという言葉に気になった俺は横から質問する。


「いや、ただの趣味さ。」


 その答えにガクッとバランスを崩す。

 目の前の人物が怪しい人から、分からない人にクラスチェンジした。


「少年はどうなのだ。」


「俺は見ての通り、通学中に。」


 背負って居た学生鞄を下ろし見せる。


「そういえば、勇者は皆んな空間収納魔法が使えるって言ってたね。」


 そういえばそうだ。

 俺の鞄を見て思い出したのか、シズトは一つの魔法名を言葉にする。


「ふむ、ワタシがやってみようか。」


 さっきもそうだが、この人、結構グイグイと率先して挑戦するな。


 エースは足元に置いていた、黒いケースを持ち上げる。

 エースの言葉が本当なら、ケースの中にはマジックショーの小道具でも入っているだろうと推測できる。


「大切なのは想像力。」


 エースの言葉と共に、黒いケースは見えない空間へと沈んで行く。


「おおっ、凄えっ!」

「おお、凄いね。」

「こいつは便利だな。」


 その流れで、シズトも同じように肩に引っ掛けていたタオルを出し入れし、地べたで胡座(あぐら)をかいているヒガさんも、缶ビールを見えない空間にしまい込み、簡単に魔法を使って見せる。


「よし、俺もっ。」


 学生鞄を前に掲げると、空間に沈み込めるイメージを作る。

 そして手を離すと、学生鞄は普通に床へ落ちた。


「あれ?失敗?」


 その後、数回も同じ工程を繰り返すも、学生鞄は床へと落ち続けるだけだ。


「えっ、俺、魔法使えないの?」


 サァッと血の気が引く。

 もしかしてこれは、俗に言う巻き込まれて異世界転移というやつか?

 俺はどっかの農村でのんびり畑を肥やす事になるのか?


「それは無いと思うよオクト。確か、あのお爺さん、触手が何とかって言ってたから。」


 触手?そういえばそんな事言ってたな。

 触手イメージ?うーん。

 取り敢えず、タコでもイメージしてみるか。


 俺は右手を前に突っ張ると、意識を集中させ、タコのイメージを作る。


 そしてイメージを作った瞬間、デロンッと俺の手から触手が生えた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


 俺とメイドのエルガシアさんから悲鳴が上がり、パニックが起こる。


 なんだこれっ⁉︎

 手からタコの触手が生えてやがるっ⁉︎


 その気持ち悪さに耐え切れず、ブンブンと振り回すも、手から取れる様子は無く、床に触れるたびにぬちゃぬちゃっと気持ち悪い音を立てる。


「おっ、良かったね。オクトもしっかり魔法が使えるみたいだよ。」


「いや、良くねぇよっ!手から触手が生えたんだぞ。どうしてこの状況で呑気にしてられるんだっ⁉︎」


 というか、これどうやって消すんだっ⁈

 もしかして俺は一生触手を生やしたまま生きてかないといけないのか⁈


「魔法は想像力でしょ、消すイメージでもして見たら。」


 シズトの言葉に俺は直様、頭の中で消えろ消えろ消えろと念仏のように唱える。


 すると、触手は姿を霧散させて消えた。


 右手を色々な方から見たり、触ったりしてみるものの、あの気持ち悪い物は何処にも無い。


「よっ、良かった〜。」


 触手が消え去った事に、俺はホッと胸をなで下ろす。


「ふむ、だが、鑑定された魔法はしっかりと使えるようだ。つまり…、」


「タコの坊主は空間収納魔法とやらを使えないっつー訳か。」


「タコじゃ無くてオクトだっ!」


 俺は顔を真っ赤にして反論する。

 止めろその呼び方。妙に語呂が良いのが腹立つ。

 いや、今はそこにキレている場合では無い。


「それよりも、俺はこの魔法しか使えないって事なのかっ!」


 助けを求めるように、先程まで悲鳴をあげていたエルガシアさんへ視線を向ける。


「その…、適正が有れば後天的に魔法を覚える事も出来ます。」


「本当かっ!」


 俺はエルガシアさんへ詰め寄る。


「えっ、ええ、歴代の勇者様方の中には、授かった魔法の他に、火魔法や水魔法と言った魔法を使えた者が居たとは聞いております。」


 なら、俺には希望があるって事か。

 なんだ、心配して損した。

 新しく魔法をこれから覚えていけば良いだけの話じゃないか。


「ですが、一般的には魔法は一つしか使えない者ばかりです。余程の適正とその魔法を見い出す運でも無い限り、新しく魔法を覚えるなど、ほぼほぼ不可能でしょう。」


 エルガシアさんの言葉(トドメ)に、俺は膝から崩れ落ち、床に手を着く。


「まぁ、オクト。落ち込む事ないよ。魔法はしっかり使えるんだから。」


「この気持ち悪い魔法で落ち込むなだとっ⁉︎」


 この触手を生やすだけの魔法で、魔王とか呼ばれる存在と張り合う?

 魔王の目の前でさっきの触手でも生やしてみろ、蟻を潰す感覚で殺されかねん。


 そもそも、この魔法でどうやって冒険したり、戦ったりするのだ。

 馬鹿を言うのも大概にしとけよ。


「終わった。俺の冒険は終わった。」


 燃え始める前に、自身が不燃物とか話にならない。

 もう燃えないゴミの日にでも、捨てておいて下さい。


「ふむ、そんな事より。」


「そんな事よりっ⁉︎」


「魔法の名を決めていなかったな。ワタシはワタシの魔法を『紐魔法』と名付ける事にした。」


 別に良いんじゃないかな。

 俺の魔法と比べると、百億倍マシに聞こえる。


「オレは酒魔法で良いか。」


「そういえばヒガさんの魔法はどんな魔法何ですか?」


 シズトが質問する。

 ヒガさんは、さっきから飲んでばかりで、一切魔法を見せていない。


「ああ、飲んでて気付いたんだがな。どれ、これで良いか、これはもう使いモンにならんしな。」


 ヒガさんは自分の服を漁ると、ズボンのポケットからスマホを取り出す。


「ふんっ!」


 掛け声と共にスマホを素手で粉々に握り潰した。


「どうやらオレは、酒を飲むだけ強くなる見てぇだ。今ん所、自分で分かるのはこれくれぇだ。」


「じゃあ、お酒で酔わないって事か。」


 お酒で酔うと言えば、大人の楽しみの一つとも思える。

 親父もよく、酔わないとやってらんないとか言ってたもんな。

 それを奪われたとなると、不憫(ふびん)に感じなくも無い。


「馬鹿言え、フラついて危なっかしぃから座ってんだろ。」


「俺のシリアスを返してくれっ!それと、まともに戦えない人が此処にも居ただとっ⁉︎」


 いや、思い返してみれば、まともに戦えないと言えば、此処にいる全員がそうなのか。


 1人は紐を生み出す能力。

 1人は酒を飲むと強くなる能力、(ただ)し酔う。

 1人は全裸になると力が出る能力。つまり防具を()けれない。

 俺は触手を生やす能力、しかも、物凄く気色悪い。


「ダメだ…、世界終わった。」


「さて、次は僕の魔法かな。」


 だからどうして、そう呑気でいられる。

 俺が、今後の世界の行く末に悲観していると言うのに、この半裸の男は軽いノリで話を続ける。


「じゃあ、僕の魔法名は『ヌード「「「却下だ。」」」


 俺とエース、ヒガさんのセリフが被る。


「えっ、どうして?」


「金髪の坊主、そいつは男のロマンだ。男が(けが)して良いモンじゃねぇんだよ。」


 全く同意とばかりに、俺とエースは頷く。


「そっか、あっ、これなんてどうかな『ストリッ「「「それも却下だ。」」」


「金髪の坊主の魔法名は『全裸魔法』。これで決まりだ。」


 異議なしと、俺とエースは頷く。


「うーん、まぁいっか。それじゃ最後はオクトだね。」


「『触手魔法』で良いだろ。」

「『触手魔法』だな。」

「『触手魔法』だね。」


「満場一致かよっ⁉︎」


 こう英語でテンタクル魔法とかダメなのかっ⁉︎

 …いや、あまりかっこよくないな。

 いっそのこと、テンタクルマジック…。


 …ダメだっ、どう足掻いてダサい。


「話し合いは終わったでしょうか。」


 今の流れ見てそれ言ってるの?


「それでは、今日のこれからの予定と、明日の予定をお伝えしたいと思います。」


 俺の事は眼中に無いのだろうか、メイドはスラスラと今後の予定を話して行くのであった。


お読み頂きありがとうございます。


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