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4.4章

お待たせしました。

4.4章を投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「では、今からお主の魔法を鑑定する。」


 姫の付き人である、リューシスと言う老人が仮面の男、エースの前へと立つ。


「お主ら勇者の魔法は固有の特別な魔法である。よって魔法には名前が無い。それと、見たものを伝えることが出来ても、使い方まで説明が出来ない場合がある。」


「ふむ、魔法の名はワタシが名付けても良いということか。」


「歴代の勇者の魔法は私の先代たちが名付けて来たものですが、自分で考案するというならそれで構いません。」


 パトリダ姫が許可を出す。


「歴代の勇者の魔法名を聞いても?」


 歴代の勇者の魔法か、どんな魔法で世界を救ったのか確かに気になるところだ。

 それに、俺の魔法のヒントになるかもしれないしな。


「歴代の勇者様には『氷炎魔法』や、『大地魔法』、『変幻魔法』などの使い手が居ました。そして、どの勇者様も必ず、『空間収納魔法』を使えました。」


 おお、期待を裏切らない素晴らしいレパートリーじゃないか、どの魔法名も安直ではあるが、何となく何が出来るかは察しがつく。

 そして、そのネーミングセンス、そのシンプルなのが一周回って逆にカッコいい。


 そして、空間収納魔法。

 多分荷物を自由に仕舞ったり、出したり出来る魔法だろう。

 それだけで、これから始まる冒険の旅が便利になると言うものだ。


「伝えねばならんことがもう一つある。鑑定魔法は魂の姿を見るために、お主らの魂へとかなり近くことになる。」


「それが何か危険なのか。」


「お主らに危険は無い。だが、魂に秘められし力を覗くのだ。儂に何らかの影響は出るかもしれん。」


 なんて、自分に優しくないんだっ。


 魔法を使う側が危ないとか、リスキー過ぎるだろ。

 普通なら魔法を受ける側が覚悟するべきなのだろうが、まさか、覚悟する側が逆転するとは。


「さて、勇者エースよ。準備は()いか。」


 えっ、話それだけっ⁉︎


「構わんとも、是非とも鑑定を頼もう。」


 構わないのっ⁉︎


 ずれてるのは俺の方なのかっ?

 エースの言葉に、リューシスは杖を構え目を瞑る。


()くぞ、()の者の魂に宿る魔導、其の姿を我に教え給え。」


 その瞬間、ビシッと縛られたかのようにリューシスは床へと転がり、芋虫の様にくねくねと這い蹲る。

 更に、口を押さられている訳でも無いのに、猿轡(さるぐつわ)を噛まされたかの様にむーむーと(うな)る。


「御老体…、確かに趣味は人それぞれであろう。だが、すまない。その趣味に付き合う気は無いぞ。」


 仮面をつけていても分かる程、凄まじいドン引きを見せたエースは、一歩二歩と後ずさる。


「カハッ⁉︎見えた…、見えたぞ。」


「うん、爺さんの特殊な性癖がね。」


 しまった、ツッコミを入れるつもりは無かったのに、ついつい口に出てしまった。


「違うわっ、愚か者っ!」


「愚か者っ⁉︎」


 リアルで初めて言われたセリフだぞ。

 一度口を開くと中々止まらなく、言葉が口から漏れて行く。


「今、勇者エースの魂を見たのだ。その結果、儂は大量の紐に縛りあげられたのだ。」


 つまり、エースの魂を見て縛り上げられた結果が、あの不思議な芋虫行動って事か。


 もう、嫌な予感しかしない。


「もし、炎魔法の使い手なら、お爺さんはどうなるの?」


 シズトが心配だろうか、それとも純粋な興味だろうか質問をする。


「儂の精神は炎に炙られるだろうな。だが、安心せい。その程度で気絶する程、柔な鍛え方はしておらん。」


 だろうな、さっきの芋虫醜態から、このドヤ顔だもん。

 俺だったら1ヶ月は部屋に篭って出てこない自信がある。


「そっか、それなら安心だね。」


「結局、そこの仮面の(あん)ちゃんはどんな魔法なんだ?」


 そう言えば、確かに、爺さんは縛られて動けなくなっただけで魔法の正体が不明だ。


「ふむ、埒が開かないな、魔法とはどう使うのだ。」


「歴代の勇者様方は皆、『想像力が大切』と言っていたと記されていました。」


 想像力、要するに魔法の姿をイメージする事が大切って事か。

 姫様の言葉に、エースは手を前に突っ張ると、意識を集中させているのか、無言になる。


「ほう、これが魔法か。」


 その手に現れたのは紛れもない『ただの紐』。


「あの…、それがエース様の魔法でしょうか。」


「どうやらその様だ。何か不服かね。」


「いっ、いえ、とんでもございません。」


 その言葉とは裏腹に姫様の頬は、物凄く引き攣っている。

 なんというか、美女がしてはいけない顔だ。


 いや、だが、その気持ち分からなくは無い。これから魔王と戦ってもらうという男が、自信満々に取り出したのがただの紐では、うん、勝ち目が見えないな。


 多分、姫様の内心を言葉で表現するなら『この国、終わったー。』だろう。


「さて、次に鑑定を受けるの誰だ。」


「んじゃ、オレが受けようか。こうゆうのはさっさと終わらせたい性分でな。」


 この酔っ払い、ヒガさんだっけか。

 ヒガさんはさして自分の魔法に興味が無いのか、ちゃっちゃと終わらせてくれとばかりに前へ出た。


「良かろう、では、行くぞ。」


 リューシスは杖を構え目を瞑ると、再び同じ文言を唱える。


 そして突然、溺れ出した。


「ガボ、ガボガボガボガボガボガボッ⁉︎」


 息が出来ないのか、その場で陸地を目指すかの様に泳ぎ出す。


「ヒガ様っ!リューシスと距離を取って下さいっ!」


 姫様が慌てた様子でヒガさんを下がらせる。


「ガハッ⁉︎ハァハァ、み…見えた…。」


 本当に大丈夫かこの爺さん。

 さっきから芸人張りに体張ってるように思えるのだが。


「リューシス、何が見えたのですっ。」


「平たい器です。とてつもなく大きな。そしてその中に海を思わせる大量酒が注がれていました。儂はその酒に溺れたのです。」


 姫様の質問リューシスは丁寧に答える。


「酒…、ですか?」


 姫様は何か間違いではないかと言った顔で、もう一度爺さんに質問する。


「はい、あの味は間違いなく酒でした。」


 だが、返ってくる質問の答えに姫様の顔色は絶望へ染まる。

 何となくだが、そんな姫様を不憫に思わないこともない。


「ん?(しめ)えか、んじゃ、オレは酒を飲んで待ってるぞ。」


 いや、さっきからずっと飲んでたじゃん。


「じゃあ、次は僕の番で良いかな?」


「あっ、ああ。」


 シズトが俺に確認を取ってくるので、素直に譲る。

 少し(ども)ったのは俺がコミュ障とかじゃなくて、突然話しかけられて焦っただけなんだからな。


 シズトが三番目か、俺はトリを飾ることになるらしい。


「次は主だな、では、そこに直れ。」


 シズトが爺さんの前に立つと、背筋を伸ばす。

 その後ろで、「待って下さい、まだ、心の準備が…、」とか細い姫様の声が聞こえるも、既に瞑想に入った爺さんの耳には届かないらしい。


 爺さんは文言を唱え、数秒後にカッと目を見開いた。


「でっかい…。」


「…でっかい?」


 姫様は爺さんの言葉を、不安そうにおうむ返しをする。


「でっかい規制音(ピーッ!)が見えたっ!」


「でっかいが規制音(ピーッ!)見えたのですかっ⁉︎」


 美女の口から信じられない言葉が飛び出てきた。


「いけませんっ!姫様っ!」


「もごもごもごっ⁉︎」


 後ろ袖に控えていたのか、ついでにメイドが飛び出て来て、姫様の口を大慌てで塞ぐ。


「えっと、つまりどういう事かな?」


 状況が飲めないシズトがポリポリと頬を掻く。

 かく言う俺も、全く状況が飲み込めず、ポカンとするしかない。


「儂にも分からん、ただ、でっかい全裸のお主が立っておったのだ。」


 でっかい全裸のシズトが目の前で立っていた。

 それってどんな悪夢?


「うーん、全裸か。取り敢えず脱げば良いのな?」


「きゃっ⁉︎」


 シズトは何の躊躇いも無く、ズボンを下ろすとパンイチになり、その行動に高い声を上げて姫様は視線を逸らす。


「おっ、何だか、力が湧いてくる気がするよ。」


 嘘だろ?


「ご冗談…ですよね…?」


 どうやら、俺と姫様の気持ちは一緒だったみたいだ。

 それと、さっきからずっと姫様の顔色が物凄く悪い。まるで悪夢でも見ているかのような顔色だ。


「本当だよ。ほらっ。」


 シズトは助走なしに垂直に飛び上がると、信じられない事に、高さ10メートルは有ると思われる城の天井へ軽々タッチすると音無く着地した。


「どう、納得してくれた。」


 姫様は納得した表情と言うより、どっちかと言うと、絶望した表情だけど良いのかな。


 いや、だが、まだ姫様の瞳は死んでない。

 その微かな希望を抱き揺れる瞳は、俺を見据える。


 その期待に応える様に、任せろと俺は親指をビシッと立てる。


「最後はお主じゃ、良いな。」


「ああ、望むところだ。」


 ゴクリと緊張ごと唾を飲み込むと、俺は応える。

 爺さんは俺に杖を向けると瞑想を開始し、文言を唱える。


()の者の魂に宿る魔導、其の姿を我に教え給え。」


 その言葉とともに俺は、自分が覗かれていると実感する。

 これが魔法か、なんともこそばゆい感じだ。


 そして、俺が魔法を感じ取った瞬間それは起こった。


「ぎゃあぁぁぁっ!触手がっ!大量の触手がっ!そこはっ、そこはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!」


 爺さんは、生娘のような悲鳴を上げ、モザイクが欲しくなる程、気持ち悪く体をくねらせ悶絶すると、パタリと白目を剥いて気を失った。


 倒れた爺さんから視線を外し、恐る恐る姫様の方へと上げると、目から光を失い、死んだ魚のような目をした姫様がそこに居たのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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