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3.最終章 幕間⑤

お待たせしました。

3.最終章 幕間⑤投稿させて頂きました。

今回は途中でラビ視点が含まれます。

お読みいただければ幸いです。

「おやおや、こんな時間になんの御用ですかな、お嬢さん。」


 その声と共に、頭まで鎧姿の私兵の壁が割れ、間から豪奢な服を身に纏う、太った、いや、脂ぎったと表現が似合う貴族と思われる人物が出て来た。


「ハッ、今更善人の皮被ってんじゃねぇよ。隠せてねぇ悪臭が鼻につくんだよ。」


「はぁ、全く…、貴女こそ喋り方に品が無い。素養の無いことがバレてしまいますよ。」


「そのねちっこい喋り方が素養ってんなら、アタシは要らないね。」


「ほほほ、元気なお嬢さんだ。」


「旦那様。」


 ローブを深く被った背の小さい人物が、アタシも会話をしていた男の耳元に囁く。


「なんだとっ⁈何をやっているのだ間抜け共がっ!さっさと兵の半分を捜索に回さんか。」


 どうやら、あの女の子が脱走したことに気づいたらしい。

 伝えてたのはあのローブの奴か。

 じゃあ、アイツが感知魔法持ちで間違いないな。


「おっと、そうはいかないぜ。」


 アタシは敢えて見せつけるように、爪撃(そうげき)魔法を発動させ、右手だけに纏わせる。


 悪手中の悪手、本来なら接近するたびにギリギリで発動して、不意を突いて戦うのが、いつもの戦法だ。

 無手だと油断するやつが多いからな。


 だが、今は戦闘系の魔法を持っていることを知らせる為に、先に発動させる。

 そうすればある程度、ラビたちへの追っ手を緩めることが出来るはずだ。


 だが、この人数差。

 ハッタリもいい所だ。

 だから、強者ぶるのをやめない。


「さぁ、どいつから八つ裂きにされてぇんだ。」


「チッ、戦闘系の魔法持ちか。まぁ、良い。直ぐに捕らえろ。趣味では無いが、暇つぶし程度にはなるだろう。顔に傷はつけるなよ。」


「ほおー、それは優しいことで。」


 アタシの言葉には構わず、戦闘はやはり私兵任せなのだろうか、太った貴族は下がって行く。

 それを合図にずらりと、鎧を着込み武器を持つ敵が構え始める。


 多勢に無勢。

 だが、幸い通路は一本道、並んで武器を振るえるほどの広さは無い。

 ならば、先手必勝。


「まずはテメェからだっ!」


 1番前にいた槍を持った兵士の懐に飛び込み、防御の間に合わない腹に向かって、爪撃魔法の突きを放つ。


「グェッ‼︎」


 鎧を貫くまでも至らないが、凹んだ鎧ごと敵を吹き飛ばす。

 男はガシャンと転がり倒れ、そのまま起き上がってくる気配は無い。


「どうした?まさか、見た目騙しか?」


 外面は余裕ぶってみせるもののアタシの内心は、圧倒的不利な状況に冷や汗を流している。

 鎧が固ぇ。流石に良いもん使ってやがるか。


「どれ、私が相手をしてやろう。」


 その言葉と共に出て来たのは、他の奴らよりも更に丈夫そうな鎧を纏った大柄な男だった。


「アンタがこいつらのボスかい?」


「私は仕事を回されただけの下っ端に過ぎないさ。まぁ、コイツらの命を預かっていることには間違いないがな。」


 男は言葉と共に先端が菱形(ひしがた)の長めの戦棍(メイス)を引き抜く。


「面倒だ、さっさと終わらさせてもらうぞ。」


 言葉と共に振りかぶる戦棍の軌道は、余りに鮮やかで真っ直ぐすぎる縦。

 アタシは戦棍を横に避けると、上から踏みつけ武器を奪う。


「随分と愚直な攻撃だな。これで(しま)いだっ。」


 鎧の隙間である首を狙った攻撃。

 いくら鎧を着ようと、そこを狙えば関係ない。


「そちらこそ単調が過ぎるぞ。」


 戦棍をアタシごと上に払い、アタシのバランスが見事に崩される。


「んなっ⁈」


 頭を狙われる。

 そう判断したアタシは咄嗟に頭上を塞ぐ。


「顔は傷つけるなと言われてるのでね。強振(スウィング)。」


 戦棍が魔法の光を纏い、先端が横から腹に押し込まれ、そのまま廊下の壁に挟み込まれる。


「カハッ…‼︎⁉︎」


 飛びそうになる意識を堪えて、戦棍を掴み返し、爪撃魔法でへし折ろうとする。


「随分と粘るな、貴様は最近で1番の強敵であった。しかし、私には遠く及ばないようだ。」


「ぅぉおおおおおおおぉぉぉぉっ!」


 そんな男の言葉を無視して、更に手に力を込めるも戦棍は折れない。


「そろそろ、終わりにしようか。既に察してはいると思うが、私の魔法は『(つち)魔法』。」


 そんなもん、武器がこれの時点で分かりきっている。だから必死に壊そうとしてんだろうが。

 内心で叫ぶも、喋る余裕は無い。


「つまり、こういう事も出来る。帯電(ライトニング)戦棍(メイス)。」


 アタシを押し付ける戦棍から、更なる魔法が発動し、アタシの体を電撃が駆け抜ける。


「ガァァァァァッ⁉︎」


 声にならない叫びが喉から飛び出し、体から力が抜け、意識が朦朧とし薄れていく。


「ようやく終わったか。メイドを叩き起こして、ソイツをあの部屋に運ばせておけ。男どもには触らせるな。私が1番だ。」


「はいよ、旦那様。」


「ああ、ソイツにドレスを着させるのも忘れるなよ。」


「はいはい、ったく注文が多いですね。」


 貴族の言葉にうんざりといった様子の戦棍使いは、兵たちを引き上げていく。


「ラビぃ…、バドぉ……。」


 薄れる意識の中、2人の名前を無意識に呼ぶのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「次はちゃんと、ドアから入ってくれと頼んだはずなんだけどね。」


「ごめんなさい。でも時間が無いのっ。」


 ラビは女の子をラビたちの泊まる安宿に連れ込んだ後、あの人が泊まる部屋に窓から侵入していた。


 一応、魔法を発動して侵入したのだが、その人物は当然の如く、ベットから起き上がるとラビに話しかけてきた。


「お兄さん強いんでしょ。ラビの所為(せい)なのっ、ラビが無茶なお願いしたからっ、お願いしますっ。なんでもするからドグ(ねぇ)を助けて。」


「まずは落ち着いて話を聞かせてくれないかな。」


 胡散臭い微笑みで、ラビを宥めようとするも、その呑気さがラビの神経を逆撫でする。

 だが、ラビは頼む側だと、グッと堪えて機嫌を損ねないように順を追って説明する。


「ラビたちは貴族の館に泥棒に入ったの。でも、目的は女の子を助けるためだったの信じて。」


「続けて。」


 ラビの必死な訴えが効いていないのか、目の前の男は冷酷に続きを促す。


「それで、女の子を見つけて助け出せたのは良いんだけど、代わりにドグ姉が捕まっちゃったの。お願いです。ドグ姉を助けて下さい。」


 ラビは言葉と一緒に頭を下げる。

 情けないことに、涙が溢れ始める。


 ドグ姉は、ちっちゃい頃から一緒に生き抜いてきた、血は繋がって無いけど姉のように(した)う家族だ。


 ラビの知ってる家族はドグ姉とバドだけ。

 だから、絶対に失いたくない。


「お金、貰ったお金、あれも返すから。お願いします。」


 ラビに出来ることを少ないけど、ラビなりの誠意をみせる。


「確か、なんでもするって言ったね。」


 その言葉に背筋がぞくりとする。

 だが言った言葉に取り返しはつかないし、ドグ姉を助けるなら安いものだ。


「じゃあ、前払いだ。こっちを見て。」


 男の顔を見ると、言葉と共に男は両手の頬に人差し指を当てて口角をクイっと上げてみせる。


 最初に意味が分からなかったが、理解したラビは理由は分からないが、精一杯の笑顔を見せてみる。

 口角を上げてニィとやるものの、涙で目元を腫らし、クシャクシャで不細工な顔をしてるのが自分でも理解できる。


 だが、ラビの顔を見ると、男は立ち上がり、ポンポンと頭を軽く撫でる。


「それで良い。後は任せると良い。」


 男は仮面を着けると呟く。


「少女よ君は今、世界一カッコいい顔をしているぞ。」


 怪盗は自室の扉を開け放つと、颯爽と外へと出て行くのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



()ぅ、アイツ、次は絶対ぶっ飛ばす。」


 あの後気を失ったアタシは、あの女の子が眠っていたベットに横たわっていた。

 ご丁寧に服装はドレス姿。これじゃ眠り姫といった所か。


 腕にはガッチリと鉄製の枷が嵌められており、首輪まで繋がれてやがる。

 ここの貴族様はよっぽどアタシが怖いらしいな。


「どうせ脱がすってのに、本当に少女趣味な野郎だな。」


 電撃によって未だ痺れる体を起こしながら、ベットに座り直す。


「とうとう、ツケが回ったかな。」


 当然の報いさ。

 とうの昔にアタシの生き方を決めた時から、いつかこんなことが有るのではないかと考えてはいた。


 しかも、入ってみれば盗めそうな宝も無い。

 ついてなさ過ぎだ。


 それよりも、妹たちはアタシが居なくても大丈夫だろうか。

 いや、アイツらはアタシが思ってる以上に強い。

 2人でも上手くやっていけるさ。


 ドレスのひらひらした軽い感じに、違和感を感じ身じろぎをしてしまう。


 そういえばドレスか…初めて着たな。

 まぁ、最悪の思い出になりそうだが。


「はぁ、アタシにはこんなの似合わねぇっての。」


 アタシはここで終わるのか、二度と妹たちに会えないのか、やっぱそれは嫌だな。

 溜息を零し、ついでに涙が(こぼ)れる。

 クソッ、情けねぇ。


「そんなことは無い、凄く綺麗だとも。」


 仮面の男はそこに立っていた。


 開くはずのない窓の鉄格子は、切断されたかのように綺麗に取り外され、カーテンが風に揺れている。


「ワタシは怪盗勇者エース。姫、今宵は貴女を攫いに来ました。」


 気障(きざ)ったらしい台詞と共にアタシに(かしず)くと、一輪の花を手品のようにポンっと手から咲かせてみせる。


「なんでだよ…。」


「とある、世界一カッコいい少女の願いさ。」


「意味わかんねぇっての…。」


 涙で声が掠れてしまう。


 目の前で傅く仮面の男は、劇中の役者では無い、本物の怪盗勇者だ。

 つまり、バクの正体は本当に義賊の怪盗勇者だった訳だ。


 劇中の一コマの様な静かな部屋の静寂は破られる。

 足音が廊下から響き荒々しく部屋の扉が開け放たれた。


「今晩は来客が多いな。そもそも、どうやって入ってきたのだ。いや、まぁ良い。私も暇でないんでね。早々に死んでいただこうか。」


 言葉と共に私兵が貴族の盾となるのように部屋へと雪崩れ込む。


「最初に聞いておこう。貴様らは命を賭けてその悪を守ると言うのか。」


「善悪なんて関係あるかよ。金をもらって殺す。それだけだろ。」


 私兵が達観したような事を言ってのける。


「そうか。」


 怪盗勇者は右手で握り拳作り、払うように乱暴に振り抜く。


 その仕草だけでありえない現象が起きた。


 暴風が部屋を支配し、部屋の屋根が壁ごと吹き飛んだのだ。

 締め切られて淀んでいた空気が、夜風に攫われ急激に温度が下がる。


「もう一度だけ聞こう。雇われの傭兵諸君。無様に命を散らす覚悟はあるか。」


 その言葉に私兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、残ったのはたった1人。


「つまらない仕事だと思っていたが、まさかこんな上物に出会えるとは。仕事を回してくれた上の者に、私は感謝しなければならないな。」


 鎧の男は戦棍を引き抜く。


「これでも戦うと言うのかね。」


「久しぶりの強敵だ。この機会を逃したくは無い。」


「戦闘狂の類か、ならば仕方あるまい。では、今見せた技を君にプレゼントしよう。」


 怪盗勇者は拳を腰に添え、正拳突きの構えを取る。


「上等だっ!(デストロイ)強振(スウィング)ッ!」


「拳闘魔法。暴風(ストーム)(スマッシュ)ッ!」


 激闘を思わせたが、その戦いの決着は一撃だった。


 怪盗勇者の見えない拳が、鎧の男の腹を鎧を砕きながら撃ち抜き、そのまま壁に叩きつけられると壁が崩れ去り、更に外へと転がっていく。


「さて、もう一つの目的を果たすとするか。」


 仮面の男はまるで何も無かったかのように、ここの館の持ち主に歩み寄る。


「ひぃっ!来るなァァァァっ!」


 腰を抜かしたのか、足をジタバタするだけで立ち上がれそうに無い。


「実はね、ワタシにはもう1人別の依頼者が居るのだよ。」


 そんな話は演劇練習の時も聞いていなかった。


 いや、それもそうか。

 今の今まで正体を隠していた訳だからな。

 それに、度々、姿を消していたのも、まだ街に残ると言う話もその息子が理由なら辻褄が合うな。


「貴様の息子を名乗る者からだったよ。貴様に天誅をくれて欲しいとな。」


「なんだとっ!私に息子などいる訳なかろうがっ!」


「やはり息子の顔も知らないか。だとすれば誰の子かも知らないのであろうな。」


 怪盗勇者は拳を握る。


「この館は正当な権利を持つ貴様の息子が引き継ぐことになっている。既にここの執事たちも承諾済みだ。」


 ここの住人たちにまで根回しを済ませているとは、随分と用意周到な準備をしていたようだ。


「さらばだ、捨てられた者たちの痛みを知ると良い。」


「やめっ、助け…、」


 言葉を最後まで言い切る前に、怪盗勇者の拳によって、その貴族は永遠に沈黙することになった。


「さて、姫。帰ろう。」


「やめろって、ガラじゃ無いんだよ。」


 アタシを縛る枷を全て拳闘魔法で握り壊すと、痺れて上手く動けないアタシを、いわゆるお姫様抱っこで抱えてる。


「ちょっ、ふざけんなっ!」


「何、遠慮することは無い。少女は皆、等しく姫なのだからな。」


 アタシの抵抗虚しく、お姫様抱っこのまま宿に帰ることになった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ドグ姉っ!」

「ドグ姉さんっ!」


 かばっと2人が抱きついてくる。

 痺れが取れてきたアタシは、2人を抱き締め返す。


「悪りぃな。心配かけた。」


「良かった〜、ホントにホントに良かった〜。」


「私、何も出来なくてっ……。」


「良いんだよ。アタシはアンタらが無事ならそれで。」


 いつもの様に2人の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


「それよりも、ありがとう。お陰で命拾いした。アタシに何か出来ることはあるか?」


 怪盗勇者に返せることは無いかと質問する。

 正直なんでもするつもりだ。

 お陰でまた妹の顔を見れたのだ。これ以上幸せなことなど無い。


「何、礼には及ばんさ。」


 だが、アタシを助け出したと言うのに、見返りを求めない。

 やはり本当に彼は義賊らしい。


「なぁ、アンタ。これからどうするつもりだい。」


 自分でも何でこんな質問したのか理解出来ない。

 ただ何となく気になり、言うつもりも無かったのに聞いてしまった。


「ワタシはこれからも劇団を続けていくつもりだ。また開演がある時は、是非見にくると良い。」


 この男は、1人であの採算の取れ無い劇を続けていくつもりか。


「いや、その…なんだ。アタシに手伝えないか。」


 気づいたら口に出ていた。

 らしくない。そう思い直ぐに訂正しようとする。


「いや、なんでもな「はいは〜い、ラビも手伝いたいで〜す。」


「私もその…お手伝い出来れば。」


 だが、アタシが言葉を取り消す前にラビとバドが言葉を被せてくる。

 どうやら、妹たちはアタシの意思を尊重してくれるらしい。


「ふむ、この前の様な給金は出せんぞ。」


「給料なんて要らねぇよ、借りを返さないと、そのむず痒いっつうかよ。」


 言い表せない感情にアタシはぽりぽりと頬を掻く。


「ラビ姉ったら照れちゃって〜。」


「てっ、照れてなんかいないよっ⁉︎」


 そうアタシは借りっぱなしは趣味じゃないと言うか、性に合わないと言うのか、きっとそんな感じだ。


「それにほら、アタシならアンタの怪盗を手伝える。」


 今回はヘマを踏んだが、アタシだっていつもこんなヘマをしているわけでは無い。


「ふむ、怪盗を手伝うか…、一旦その件は保留にしよう。」


 ヘマを踏んじまったのが、やはり良くなかったのだろうか、断られるそう思った。

 だが、怪盗の答えは違った。


「だが、入団の件は歓迎だ。宜しく頼もう少女たちよ。ワタシの劇団へようこそ。」


「ああ、宜しく頼む。」

「よろしくおねがいしま〜す。」

「よろしくおねがいします。」


 顔を綻ばせ、三者三様の返事を返すと、アタシたち姉妹の入団が決まるのであった。


 これがアニキの劇団に入団するきっかけの話だ。

お読み頂きありがとうございました。

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