3.最終章 幕間④
お待たせしまた。
3.最終章 幕間④投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「仕事を始める。準備は良いか?」
アタシはラビとバドに問いかける。
「ラビは大丈夫だよ〜。」
「私も。」
2人とも、準備が出来ていると返事を得た所で、建物の陰からとある貴族の館を窺う。
事前に得た情報だと、門番は常に1人は配置されており、朝、夕、晩で入れ替わる。
門番が疲労困憊状態という線は無さそうで、まず、正面からの隠密侵入は不可能であろう。
そして、中には私兵が他に控えているというのも大切な事だ。
対人戦の心得はあるものの、私兵が木偶の坊で無い限り、一体二ならアタシは逃げるしか無い。
それに、3日ほど見ているが、兵士の顔は全て違っていた。
それだけで、かなりの人数がいる可能性があると分かる。
見つかったら、速攻でヤるか、逃げるかだ。
出来れば見つからずにあの子の元まで行きたい所だが、それはアタシでは無くラビの腕の見せ所だ。
ラビが話題に浮かび、少し気になりチラッとラビを見ると、アタシの視線に気づいたのか、任せろとばかりに胸を叩き、強く叩き過ぎたのか軽く咳き込んでいる。
ダメだ、少し不安になってきた。
だが、この馬鹿っぽい仕草がいつもの雰囲気を思い出させてくれて、幾ばくか、不安よりも安堵が上回った。
「悪ぃな。アタシは大丈夫だ。」
咳き込むのも、気遣った故の演技なのだろう。
安堵したお陰で、ラビが心配してくれていた事を察せた。
「なんのこと〜?」
アタシの面子を気にして、ラビは惚ける。
その態度に心の中で『ありがとな』と呟いで、気持ちを切り替える。
「バド、手筈通り先に上空からの監視と連絡を頼む。」
「うん。」
アタシの言葉でバドは上空へと飛び立つ。
連絡はバドから一方的に状況を喋らせ、その声をラビが拾うというものだ。
流石に馬鹿なアタシでも、情報がどれだけ大事かは理解している。
これだけで、アタシたちの泥棒の成功率は上がるのだから、身に染みてるとも言えるな。
バドが来る前は盗みに入って、速攻で荒らして逃げるしか出来なかったからな。
足が着いて、入れなくなった街もいくつかある。
それが、バドがアタシたちの妹になってからは無くなった。
全ての泥棒に成功したわけでは無いが、逃げ道を確保をしてくれるお陰で、今まで生きてこられたと言っても過言では無い。
「バドが準備出来たって。」
上空からの声を拾ったラビがアタシに伝えて来る。
「じゃあ、アタシらもぼちぼち始めるか。」
今回の侵入経路は門番を無視して、裏から窓を割って侵入。
事前情報によると、どうにも台所の警備が薄いらしい。
そして、深夜帯なので確実に人手はゼロだ。
「良し、ラビ頼んだ。」
「あいさ〜。」
ラビが石を拾うと、厨房の窓を叩き割る。
だが、ラビの魔法、隠密魔法によってそのガラスが割れる音は音1つ聞こえやしない。
割れた窓から明かりの無い屋敷内へと、アタシたちは忍び足で侵入する。
ここからはバドの援護は貰えない。
だけど、ここまでくれば染み付いたあの子の匂いがしっかりと嗅ぎとれる。
「厨房を出て右だ。」
アタシは、小声でラビに伝える。
階段だろうか、匂いが新しく強い場所はそちら側だ。
匂いが階段に続いているということは、二階にいることになるな。
「廊下は誰もいないね〜。」
ラビも小声で索敵を終え、敵がいない事を教えてくれる。
その言葉に頷くと、アタシが前に出て、階段を音を立てずにゆっくり登っていく。
「ここの通路を右だ。」
右の通路は屋敷の端部分に当たり、袋小路になっていて正直進みたくは無いが、匂いを辿る限り確実にこの先にいる。
だが、逆に裏側を警戒しておけば、不意打ちを避けられる。
「ラビ、後ろを見てな。」
手を額に当て、軍人の敬礼のようポーズ取ると、くるっと反転し、通路の角の見張りについてくれた。
アタシはそれを確認すると、廊下の右奥へと向かう。
扉の前に着きに手をかけると、鍵が掛かっていることに気づく。
「それもそうか。あ゛?」
だがその鍵は内側から締めるものでは無く、外から鍵を開け閉め出来る仕組みになっている。
違和感を感じつつも、アタシはその鍵ノブに恐る恐る手をかけ捻ると、なんの抵抗も無く回りガチャリと解錠のノック音が鳴る。
アタシはドアノブを下ろし、ゆっくり音と扉を押し込むと、その光景が目に飛び込んでくる。
それは、一言で表すなら『豪華な檻』だ。
ぱっと見の見た目だけなら、どこの安宿にも負けはしない、その部屋を使う主の気分を害さない、清潔感と煌びやかさが入り混じるとても綺麗な部屋だ。
ベットは天蓋付き。カーテンがあしらわれ、中に眠る姫を穏やかに守っているかのようだ。
だが、そんな飾りとは裏腹に窓枠は鉄格子が縦に嵌め込まれ、脱出が不可能。
扉を見ると内側からは、やはり鍵の解錠が出来ない。
そして何より異常なのは、とても広い部屋なのに、ベット1つしか置いていないということだ。
いくら幼いといっても、女性の私室にしてはタンスや棚も無く、まるでお前の価値はソレしかないと言わんばかりの圧力を感じる。
アタシは他に見るものも無いので、ベットに向かい、その姫を守るカーテンを捲る。
相当抵抗したのだろう。そこには、顔に1つの青アザを作り、涙を流し疲れたのか、疲れた顔で寝息を立てる、あの花をくれた女の子が、寝巻きでは無くドレス姿のままで眠っていた。
思わず吠え狂いそうになる。
だが、その衝動をグッと堪えて、その子を静かに譲る。
「ひっ!ごめんな…もごもごっ⁉︎」
暴れかけたその子を組み伏せ、アタシは口を塞ぐと顔を合わせ、アタシが誰だかを認識すると、恐怖に揺れていた瞳から揺れが収まる。
「アタシが分かるか?」
こくこくと頷くその子を見て、アタシは静かにと人差し指を立て、口から手を離す。
「いいかい?アタシはアンタを助けに来た。だけど、脱出するまで静かにしていられるかい?」
その女の子は口をきゅっと結ぶと、こくこくと再び頷いたのを確認して、部屋から出ようとする。
だが、その時、1つの足音が部屋へと飛び込んでくる。
「ドグ姉っ!不味いよっ、見つかったっ!」
飛び込んで来たのはラビ。
しかも、最悪の知らせと一緒に飛び込んで来た。
「なんだってっ!!!」
侵入は完璧だった筈だ。
一体どうして。
「敵に感知魔法が使える人がいたみたい。ずっと、この部屋を監視してたみたいっ。」
下の階から話し声を拾っているのか、ラビがアタシの疑問に答えてくれる。
「チッ、厄介な奴を抱き込みやがって。」
その言葉と共に、アタシは女の子を抱えると一階へ降り、侵入口とは違う、出口へ最短となる窓へと向うと、その窓を叩き割りアタシたちが通って来た通路を睨みつけるように陣取る。
「ラビっ!アタシが足止めする。ラビはあの子を連れて逃げてくれっ!」
「でもっ!」
「足手まといだっ!早く行けっ!」
アタシのキツイ言葉にラビは反論を諦め、アタシから女の子を預かり抱える。
「帰ってこなかったら許さないからっ。」
「ハハッ、なんだそりゃ。」
ラビはアタシの言葉に逃げることを一瞬だけ躊躇するも、自分が抱える女の子を見ると覚悟が決まったのか、すぐに窓から飛び出していった。
ラビを見送ると、アタシは通路へと向き直りこの状況の突破法を計算する。
今の時間は明かりの無い深夜だ。
身を隠すにはもってこいの時間である。
しかも、外であれば、バドが上空から随時敵の動きをラビに伝えてくれるから、敵を撒くのも容易のはずだ。
だとすれば、5分だけでも時間を稼げれば、確実に闇夜に紛れ、逃げ延びることができると考えて良い。
アタシの仕事はその5分を命懸けで稼ぐ。
「ハッ、分かりやすくて良いねぇ!さぁ、いつでも来なっ!」
廊下に響く、迫り来る沢山の足音にアタシは吠えるのであった。
お読み頂きありがとうございました。




