3.最終章 幕間③
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3.最終章 幕間③投稿させて頂きました。
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「なんで、見ず知らずのアタシらをアンタは助けるんだっ。」
叫ぶようにアタシは仮面の男に問いかける。
「簡単な事さ。笑顔の為に勇者は戦うからだ。」
それだけ言うと、紳士服の上に纏った外套を翻し舞台の幕が閉じ、場面転換作業が始まる。
盤面転換が終わり、『怪盗勇者』がドラゴンの『動く』模型と激闘を繰り広げる。
言い表すなら死闘。
命の限りを尽くし、勇者は薬草を手に入れる為に、ドラゴンは侵入者を排除する為に殺しあう。
「ワタシは諦めんさ。」
強大なドラゴンに膝を屈しかけた、ボロボロの怪盗勇者は立ち上がる。
「何故なら、悲しみを盗み去るのも怪盗勇者の役目だからだ。」
観客席からは悲痛な声が聞こえ、あの男の演技はしっかりと客の心を掴んでいるのが分かる。
そして、何よりいつも胡散臭いあの男から、嘘臭さが消えており、何というか、まるで偽らざる姿に見えた。
怪盗勇者は剣を振るう。
剣が振り切られた後、模型のドラゴンはバラバラに崩れ落ち、怪盗勇者はドラゴンの模型の死体の下に群生する薬草を引き抜くと、外套を翻し、舞台を後にしたところで、再び幕が降り、舞台転換が入る。
「ありがとうございます。これで妹が助かりますっ。」
ラビが村娘三姉妹の次女役として、怪盗勇者に感謝を述べる。
ラビの演技力は凄く高く、その目の端には涙すら薄っすらと浮かべている。
それは所謂、泣き笑いといった感じの表情で人間不信待った無しの演技力だ。
「勇者様……その…あの…、ありがとう…ござい…ます。」
バドのどもった演技が見事に病弱さを醸し出し、雰囲気を作る。
おっと、アタシの台詞の番か。
「良かったな。これで直ぐ元気になれるからなっ。」
アタシはベットに横たわるバドに微笑みかけると、その隣に配置されていたタンスから1つの袋を引っ張り出す。
「すまねぇ、迷惑をかけた。少ないが受け取ってくれ。」
だが、怪盗はそれを手で制す。
「ノンッ。既に報酬は貰ったさ。」
仮面の上から、両手の人差し指で口の辺りをクイッと上げてみせる。
そして、最初と同じ様に外套を翻す。
「ワタシは怪盗勇者エース。この世から悲しみを盗む者だ。」
その言葉を締めに幕が閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
劇が終わり、拍手と歓声が巻き起こる。
その拍手と共に再び幕が上がり、舞台挨拶をする。
投げ込まれる硬貨は、客の気分で決まるものであり、チラホラと投げ込まれるものの、アタシたちに支払う約束の給料分には全く届いていない。
隣に立つ男の破産は、まず間違い無いな。
まぁ、それでもやれと言われた事はやったんだ。
文句は無え筈だ。
アタシたちは舞台の撤収作業に移る。
と言っても、次から次にバクに手渡すと、まるで手品の様に消えてしまうので、片付けと言えるかは微妙だが。
本人が言うには、『空間収納魔法』と言うらしい。
普通の貴族の坊ちゃんはいや、兄ちゃんは珍しい魔法を沢山持っているものなのだろうか。
英才教育とやらの賜物と言えば良いのか?
兎に角、羨ましい限りだ。
「犬のお姉ちゃんっ!」
そろそろ、人が掃けて観客席の方も片付けを始めようかといった時に、立派なおべべを着た、10を少し超えたくらいの年齢の子どもが、アタシの元まで駆け寄ってきた。
恐らくは服装的に貴族の娘だろうか。
「あ?なんだ?」
ついつい、育ちが悪いせいでガラの悪い返事を返してしまう。
「あのね、これっ!妹が元気になって良かったねっ!」
だが、アタシの態度に怖じずに少女は元気良く話しかけ、その娘から手渡されたのは一輪の花だった。
近くに生えていたものでも摘んできたのだろうか。
「ああ、ありがとよ。」
貴族というだけで邪険にしてたけど、こんな良い子でも貴族なんだよな。
アタシはその子から、その花を受け取る。
「こらっ、何やってるの、貴女に遊んでるヒマは無いの。さぁ、行くわよ。」
「あっ、ごめんなさい。」
その子は手を引っ張られ、母親らしき人物に連れていかれてしまった。
歓声に紛れて、ひそひそと話し声が聞こえる。
犬獣人のアタシはラビほどでは無いものの耳が良く、その話を拾ってしまう。
「嫌ねぇ、全く娘が可愛いから玉の輿に乗れたってだけなのに、すっかり貴族気分よ。」
「選ばれたのは自分じゃなくて娘で、しかもそれを差し出しちゃうなんて、ひどい親よねぇ。」
「まぁ、夫が死んでから稼ぎに困ってたから、仕方ないと言えば仕方ないのかしらねぇ。」
「でも、心配よねぇ。あそこのお偉いさんはいい噂聞かないから。しかも、何人目の妻になるのかしら。」
「そう言えば、前の奥さん…、と言ってもちっちゃなお子さんだってけど、めっきり見ないわねぇ。」
嫌な話を聞いた。
どうやら、さっきの子は貴族に差し出されるらしい。
しかも、その貴族には黒い噂がつきまとっているときた。
アタシは手を引かれる子どもを見送ることしか出来ない。
「ドグ姉…。」
ラビがアタシのシャツ裾を引く。
そりゃそうか、アタシが聞こえてれば当然コイツも聞こえてるよな。
「アタシらには関係無い話だ。」
「姉さん。」
構わず、舞台の撤収作業に戻ろうとするとウルウルしていた目で、バドもアタシのシャツ裾を掴む。
どうやらバドも話を聞いていたらしい。
「はぁ、全くお前らは…。良しっ、次の本業は決まりだな。」
そんな悲しい顔されたら、勇者でなくとも助けたくなるさ。
そもそも、妹に悲しい顔させるなんて、姉失格だもんな。
「ドグ姉っ!」
「ドグ姉さんっ!」
パァッと顔を綻ばせる2人の頭をわしゃわしゃと撫で回してやっている間にバクが近くまでやって来て話しかけてくる。
「何をやっているのだ?」
仮面をつけている間は勇者気取りという訳か。
チッ、面倒くせーな。
「ボンボンで幸せな貴族様にゃ、生涯縁の無い話だ。」
その呑気な質問に、たっぷりの皮肉を込めて返してやる。
どうやらアタシは筋金入りの貴族ぎらいらしいな。
「それよりも、給料はしっかり頂いて行くからな。アンタとはこれっきりだ。」
「ふむ、それは残念だ。君たちとなら良い商売が続けられると思っていたのだがね。」
嘘こけ、今回のアタシたちの給料の3分の1くらいしか、今回の劇で稼げて無いだろうが。
そんな未来の無い劇団に付き合うつもりは無いね。
言葉には出さないが、内心で罵る。
「お世辞は要らないから、さっさと給料分の金を寄越しな。」
「良かろう。今回の劇、ご苦労であった。」
袋に入っているのは金貨1枚と大量の銀貨。
数えるのは面倒だな。
アタシは中を軽く見るだけで、袋を閉じる。
「ん?良いのか、枚数を確認しなくても。」
「ご生憎様、もっと稼ぎの良い仕事を見つけたんだよ。」
「それは役者をフラれても仕方がないな。」
アタシはシッシとしつこい目の前の男を追い払う様に手を振る。
「この街にはまだ暫くの間、滞在するつもりだ。気が変わったらいつでも声を掛けてくれ。」
外套を靡かせながら翻すと、男は歩き出す。
「おっと、次はちゃんとドアから入ってくれよ?」
「良いからさっさと帰れっての。」
本当にしつこい。
嫌気がさしたアタシは男の帰路を急かし、男は今度こそ止まる事なく帰っていった。
「行っちゃったね〜。」
「うん…。」
「何しんみりしてんだよ。アタシらはこれから仕事なんだ。気合い入れておけよ。」
「は〜い。」
「はいっ。」
ラビの間延びした返事と、バドの気合いのこもった返事が返ってくる。
はぁ、まぁ、ラビはいつもの事だしもう諦めた。
手渡された一輪の花をポーチに仕舞うと、アタシたちも男が帰った宿とは別の安宿へと向かう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
安宿へと着くと、アタシたちは仕事の作戦会議を始める。
「まずは情報集めだ。ラビはあの子が何処の貴族に嫁入りする事になるか調べてくれ。一応、アタシとバドでも、ある程度情報が無いか調べてはみるが、ラビ。お前が頼りだ。」
「了か〜い。大船に乗ったつもりで任せてちょ〜だいっ!」
ラビの耳で最初の情報を得る。
アタシとバドの情報集めは保険。
いつも通りのアタシらの最初の定石だ。
「で、次にラビが館の場所を掴んだら、バド。お前が、貴族の館の大体の構造と人数を把握してくれ。」
「うん。」
「ラビもいつも通り手伝うよ〜。」
「ありがと、ラビ姉さん。」
その次の定石は、バドの空中からの偵察だ。
これだけで、侵入の危険度はグッと下がる。
アタシたちには欠かせない重要な仕事で、ラビも加わる事でその危険度を更に下げる。
ここまで、アタシは殆ど何もしていなく、いつもなら任せっぱなしで心苦しい思いをするのだが、今回は違う。
「アタシはあの子の匂いを覚えておくよ。」
そう言って、ポーチを開け、あの子から貰った一輪の花を取り出す。
花を愛でる趣味は無いし、何より匂いを嗅ぐのは犬っぽくて、アタシとしはやりたく無いのだが、適任なのだから仕方がない。
「じゃあ、さっさと仕事を済ませちまおう。情報が手に入らなくても、日が暮れたら一旦、全員帰ってくること。」
「あいさ〜。」
「うんっ。」
アタシたち3人は情報集めの為に安宿を後にするのであった。
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