1.8章
お待たせしました。
8話目等しました。
「なぁ、いい加減機嫌直せって。」
綺麗に無視。
後ろから今にも刺しそうな殺気を放つ彼女。村で下着を見られて以来、ずっとこんな調子なのだ。
そんな雰囲気に耐えきれず、俺は彼女を宥めるもあえなく撃沈させられる。
俺たちは現在、村で準備を済ませて、村から一番近い森の探索を行っている。
ゴブリンの発生の原因調査となっているが、恐らくゴブリンの集落にでもなっていることだろうと見当がつく。
しかし、集落程度なら居ても50匹くらいだろうし、昨日倒した分も含めば40匹を下回るはずである。銅の冒険者たちが数グループ集まれば余裕で討伐できる数だ。
俺たちはその集落を見つけ、あとは村長が正式に、ゴブリンの集落全滅の依頼を冒険者組合に出して、他の冒険者にでも倒して貰えばいい。
そう考え、唐突に出てくるゴブリンを何度も倒し、森の探索を続けているが、調子良くゴブリンを倒して行ったのはいいがやけにその数が多い。
既に4回の接敵と15匹以上のゴブリンを討伐している。
相当大きな集落になっているのかもしれない。
もしくは既にオスのゴブリンを狩りすぎて、メスと子ゴブリンしか残ってないというオチかもしれないが。しかし、ゴブリンの集落を見つけるまでは、いくら考えていても仕方がない。そう割り切って森の奥へと歩みを進めるのであった。
どれだけ進んだのだろうか、村を出発してからだいぶ経つ。既に昼などとうの昔に過ぎ、日も山の向こうへむかって進み始めた頃、ようやく森が開け、山が崩れたのだろうか、山の禿げた部分が見つかり、洞窟である穴らしきものも見つかる。
ここに辿り着くまでに俺たちは、更に10匹、合計25匹ものゴブリンを討伐していた。
ここまでずっと付き合っていた彼女は相変わらず不機嫌でありながらも、討伐自体にはキッチリ参加しており、流石に疲れを濃く見せている。
「おい、アンタ大丈夫か。」
「別にこれくらいなんともありませんですわ。」
俺の心配に素っ気なく答える彼女。
オマエハラタツ。
「洞窟を見つけた。取り敢えずこっちに来て伏せてくれ。」
ハラタツさんの返事は無いものの俺の指示に素直に従い、お互いに伏せて洞窟の方へ視線を向けると、洞窟入り口付近の様子を凝視する。
するとタイミングよくゴブリンが現れ、6匹のゴブリンがそれぞれ狩ったのであろう獲物を持ち洞窟の中へと入っていく。しかし、その時俺は違和感を覚えた。
単純に自然に出来た洞窟だからあのサイズなのかもしれない。
だが、洞窟が大き過ぎるのだ。
人間の子供サイズしかないゴブリンが縦に優に5人は通れる穴の大きさだ。
そう訝しんでいると、
「ゴグギャォォォォ!」
とゴブリンらしからぬ低い鳴き声が洞窟の奥から響いて、その声のあと、6匹のゴブリンが慌てるように洞窟から飛び出して、再び森の中へと駆けていった。
多分先程、洞窟に入っていったゴブリンの集団であろう、しかし、その手には持っていたはずの獲物を持っていなかった。
「な…、なんですわ。あんな声初めて聞きましたですわ。」
先程まで不機嫌であったことなど忘れて呟く彼女。
しかし、そこにネチネチ突っ込むほど子供でもない俺はスルーし彼女に応える。
「考えられるのはゴブリンの上位種だ。それも飛びっきりのだ。」
ジェネラルゴブリンなら2メートル程度の大きさになる。しかし、それでも5メートルはあるあの穴のサイズには合わない。
であるならばそれよりも上位種であるのが道理。
「恐らくキングゴブリンだ。」
「キングゴブリンですのっ!金色の冒険者でなければ手に負えませんですわ。」
彼女の言う通りである。キングゴブリンともなると、群れは200匹いてもおかしくはない。キングゴブリンの強さだけでも、金色冒険者でなければ太刀打ち出来ないと言われている。そして何より200匹ものゴブリンを養う為には相当の食料が必要になる。
今見た様子では既に食料は足りていないと見て良い。
このままでは確実に一番近いあの村が標的になるのは目に見えている。
事態は切迫している。
直ぐでも金色冒険者を呼び、討伐依頼を組みたいところだが、金色まで登りつめる冒険者は数が少なく、キングゴブリンの討伐依頼を出したところで、到着は1カ月後か、はたまた2カ月後か。
それを悠長に待っていたら、すでに村はキングゴブリンが率いる群れに蹂躙され終わっているころあいだろう。
「金色冒険者を呼んでいる時間は無い。俺に作戦がある。」
「本気ですの、貴方は銀色の冒険者ですわ。勝てるわけがありませんですわ。」
いや俺、仮にも勇者だし結構強いつもりなんだけどな…。クックさん忘れちゃったのかな。流石、ポンコツクックさん。
そう思ったのだが、未だに俺の全力で戦う姿を見せていないのでそこまで強くないと思われていても仕方がないと開き直る。
実際に討伐したことのある魔物を今言ったところで信じてもらえないだろう。
それに作戦が上手くいけば戦うことなくキングゴブリンを討伐できる予定だ。
「まぁまぁ、落ち着けよ。何も正面きって戦うわけじゃない。言ったろ、作戦があるって。」
「確実に勝てるのですわよね。」
「ああ、上手く行けばな。」
彼女は数巡の迷いを見せる。
「わかりましたわ。貴方の作戦を信じて見ますわ。」
迷ったものの彼女は村のために、俺の作戦に乗ることにしたのであった。
「俺は取り敢えず、罠を仕掛けに行く。アンタはゴブリンが周辺にいるかチェックしてくれ、そっちを常に見るようにするから、ゴブリンが近くに現れたら何かしらの合図を頼んだ。」
「ドラゴンに背に乗ったつもりで任せてくださいですわ。」
本当に大丈夫なのか、お前はそのドラゴンを倒しに行くんだぞ、このポンコツと疑ってしまう。
「今貴方、何か失礼なことを考えていませんですのですわ。」
「いえ、なんにも。」
そう答える。
その勘の鋭さをもっと別の所で役立てて欲しいものだと考えながら、俺はそそくさと洞窟入り口の付近へ、隠れながら近づいて行くのであった。
お読みいただきありがとうございました。