3.最終章 幕間②
お待たせしました。
3.最終章 幕間②投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「はぁ?ふざけてんのか?」
目の前の男に突然、劇の役者に誘われたアタシは、思わず目の前の男の正気を疑ってしまう。
「設定はこうだ、病弱な妹を持つ姉が薬草を探すも、病に効くと言われる薬草はドラゴンの巣に群生している。それを『怪盗勇者』が盗み出すと言う劇だ。」
おお、面白そう。
いや、そうじゃない。
『怪盗勇者』?最近、貴族に眼をつけられてる義賊のことだったっけな、随分な物好きが居たもんだな。
いや、そこでもない。
「話を聞けっての。嫌に決まってんだろ。」
「そっちの子はどうなんだい。」
「えっ、ラビっ?ラビはその…楽しそうだな〜って…。」
「ラビぃ⁈」
アタシの妹2人は素直過ぎる節があるから本当に困る。
「それに、ラビたちが断ったらどうするつもり?」
ラビが視線を合わせ、男の真意を問う。
断れば恐らく、奴隷落ち。
チッ、初めから断る事なんて出来ねえじゃねぇかよ。
「別に何もしないよ。」
だが、アタシの考えとは逆に男は何もしないと宣言する。
その言葉が事実なのか、言葉と共にアタシたちを縛っていた紐が霧散し消える。
どうやら、アタシたちを縛っていたのは目の前の人物による魔法らしい。
「チッ、やる訳無いだろ、見逃してくれたことには感謝する。だけど、それとこの話は別だ。行くぞラビ。」
なぜ見逃してくれたのかは分からない。
だけど、やらないで済む事をわざわざやるほどアタシたちの暮らしは裕福では無い。
暫く盗みに入ってなかったせいで、あと一月暮らすだけの金しかない。
まぁ、今日の結果は期待ハズレだったんだけどな。
やはり、危険であっても、デカい豪邸を狙うべきか。
次の計画を練りながら、部屋を後にしようとすると、後ろから声が聞こえた。
「金貨一枚。」
そう呟く男の掌の上には、いくら探しても無かった黄金に輝く金貨が、確かに乗っている。
金貨一枚と言えば、アタシたちの2ヵ月いや、節約すれば3ヵ月は暮らせる。
「出演料だ。嫌々にやって貰うのはこちらとしても不本意だからね。ボクは本気で演じて貰いたいんだ。」
「はいは〜い、ラビその役やりま〜す。」
「お前、勝手にっ…。」
ラビが勝手にその役を受けようとする。
「ドグ姉、考えてみて。劇に出るだけで、3ヶ月分の生活費だよ〜?」
ぐっ、ラビにまでそう言われると、否定がしづらい。
「だけど劇なんて…。」
物心ついた時から、ラビに出会うまではずっと1人だったんだ。
生きる事に手一杯で劇なんて、話に聞くだけ見たことすら無い。
「素人演技で構わないよ。出番は最初と最後だけだしね。」
目の前の男から、演技について心配は要らないと助け舟を出される。
それに何より、ラビたちを危険な目に遭わせずにお金を手に入れることが出来る。
「分かった、やってやろうとじゃねぇか。」
「じゃあ、詳しい話はまた明日の朝に纏めよう。朝にここの食堂で待っていてくれ。」
「ああ。」
「了か〜い。」
その言葉に頷くと、アタシたちは侵入した窓から出て行く。
部屋から脱出し、すぐさま遠ざかったアタシたちは上空で待機してるバドを呼び戻し、経緯を説明する。
「なんでそうなったの?」
まぁ、そうなるよな。
「ラビにも良く分かんな〜い。でも、ドグ姉、すっごくかっこ良か、あ痛っ!もう何すんのさ〜。」
「余計な事言わなくていんだよっ。」
アタシは振り抜いたげんこつをしまう。
「兎に角、明日の朝、アタシとラビはアイツに会いに行くから、バドは大人しく待ってろ。」
「私も行きたい。」
「お前まで巻き込みたく無えよ。」
「まぁまぁ〜、バドが増えれば出演料をもっとたかれるかもしれないしラビは賛せ〜だよ〜。」
時々、コイツは悪どいよな。
仲間としては頼もしいが、姉としては少し心境がイマイチだ。
だが、ラビの言うこと一理あるが、あの男に弱味を握られたくは無いんだよなぁ。
正直、胡散臭いというか、寧ろ胡散臭さしかない。
そんな男に1番下の妹を知られるのは不用心が過ぎないだろうか。
「ドグ姉さん。私も役に立ちたい。」
身長差的に上目遣いになったバドが下から見上げてお願いしてくる。
「あーもう、分かった。分かったよ。但し、向こうがダメと言ったら、大人しく諦めろよ。こればっかりは相手次第だからな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「良いね、うん凄く良い。出演料に銀貨50枚を追加しよう。」
めでたくバドの出演が決まってしまった。
本当は断られると思って連れてきたのだが、目の前の男は気前良く許可を出し、金貨の半分の額を提示した。
しかし、何処にそんな大金があるんだコイツは。
「あの…頑張り…ます…。」
緊張でカチコチになりながらも、バドの決意は固いようだ。
「あははは、そんなに緊張しなくても良いよ。これから一緒に演技をする仲間なんだから、気軽にバクと呼んでね。」
「はっ、はい…。その…バク…さん。」
「良し、そうと決まれば早速練習だ。開演は1週間後を予定してるからね。」
「1週間後だって⁈」
「1週間〜⁉︎」
「1週間ですか⁉︎」
素人というのを込みにしても、無謀すぎる計画ではないだろうか。
「ボクは大丈夫だと確信してるよ。」
この男の根拠の無い自信に思わず頭を抱えてしまう。
「さぁさぁ、時間は無いよ。早速借りてる部屋で練習しよう。」
その言葉にアタシたちはついて行き、みっちりシゴかれる事になった。
因みに、『アンタは練習しないのか』と聞いたら、『ボクの方は完璧だからね』と言ってのけられた。
時々、自主練をしろと言われて、数時間帰って来ない時もあったが、何してるのか聞くと、舞台準備と誤魔化された。
確実に裏で何か企んでやがる。
その時、絶対にコイツに隙は見せねぇと誓った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな一幕を抱えながらも、練習を重ねている内に1週間はさっさとたってしまう。
「いよいよだね〜、緊張する〜。」
ラビが普段は着ないような村娘風の格好で、胸元を引っ張り手団扇で風を送っている。
「ががが…、頑張ろ…ううう。」
「おい、大丈夫かよ。」
大丈夫かと声はかけるものの、病弱な妹って配役だからベットから一度も起き上がらないだけどな。
なんなら、台詞は10個を超えていない筈だ。
「しかし、立派なもん作ったな。」
舞台の小道具はドラゴンから、剣、舞台幕と多岐に渡り、ドラゴンと幕に至っては自動で動く仕組みだ。
「そうだね〜、通し練習の時、チラッと小道具見せてもらったけど、どうやって動かしてんだろうね〜。」
結局、企業秘密だとかで教えて貰えなかったからな。
ますます怪しい。
「劇が終わったらアイツには用は無えんだから、金もらって直ぐにずらかるぞ。」
「あいさ〜。」
「うん。」
そんな打ち合わせをしていると、ラビが何かに気付いたのか、顔を上げる。
そこには、丁度、バクがやって来た。
「やぁ、準備は良いかい?」
「ああ、ばっちしさ。」
「それは良かった。」
そして、顔を隠すように仮面を被ると、まるで中の人物が入れ替わったかのように、雰囲気が変わる。
「では、行こうか諸君。ワタシたちのショーで魅せてみせようではないか。」
その言葉にアタシたちは、最初の持ち場に着き、舞台の幕がひとりでに上がっていくのであった。
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