3.最終章 幕間①
お待たせしました。
3.最終章幕間①、投稿させて頂きました。
今回はドグ視点となります。
お読みいただければ幸いです。
「おい見たかラビ、アイツここの宿を金貨ではらいやがったせ。」
「みてたよ〜、宿の人がお釣りに困ってたらお釣りは要らないって言ってたのも聞こえたよ〜。」
「服装も中々良い物を羽織ってました。所々にあしらっていた装飾だけ見ても、あの服だけでも相当高値と見えます。」
どうやら、ラビとバドも同じ人物に目をつけていたようだ。
「決まりだな。」
「りょうか〜い。」
「うん。」
テーブルを囲っていたアタシたち3人は、次の獲物をこの宿に泊まる予定の、世間知らずの坊ちゃんに決定する事にした。
何の用かは知らないが、世の中の厳しさを教えてやらないとな。
アタシはニヒヒと忍び笑いをし、計画を練る。
「ラビ、何号室かは聞こえていたか。」
「二階にある1番奥の高い部屋だって〜。」
「妥当だな。良し。」
「ここら辺の地図はもう把握してるからいつでも出来るよ。」
「流石バド、抜け目がないな。」
バドの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でると「やめぇてぇ〜。」と可愛い声で嫌がるが、やめてと言いつつ、私の手を振り払わないのが更に愛らしく感じ、余計に撫で回してしまう。
「ほらほら、ドグ姉それくらいにして作戦決めようぜ〜。」
「おお、そうだな。悪りぃ悪りぃ。」
テーブルに3人の頭を寄せ合い、ひそひそと作戦会議をする。
「ここには警備の目が無え、手筈はいつも通りで行こうと思う。代案がある奴はいるか?」
「ラビは無いよ〜。」
「私も無いよ。」
「おし、じゃあ手筈はいつも通りで決定だな。時間は深夜帯を狙うか。」
出払った所を狙うのでは無く、深夜帯なのは、寝静まった所を狙いたいという理由もあるが、バドの体を隠しやすいという理由がある。
ここの宿の扉はしっかりと施錠が出来る扉であり、正面から入るには鍵が必要となり、その鍵がを持つのは泊まる奴と、ここの店主となる。
店主の部屋から鍵を盗み出してから、宿泊客の部屋に侵入するのは、あまり現実的な手段とは言えない。
だが、幸いここの窓は、いつも忍び込んでる貴族の館みたいなガラス窓では無く、鍵の無い木製の窓なので忍び込みやすいのも有難い。
これなら侵入の痕跡を残さずに『仕事』を終えることが出来そうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ラビ、そろそろ始めるぞ。」
深夜なり、街が寝静まった頃にアタシたちは例の部屋の屋根の上に伏せていた。
「うん、下の様子も動いてるような音は無いよ〜。」
どうやら下の坊ちゃんも寝ているようだ。
アタシは窓に向かってロープを垂らすと、一旦先に隠密魔法を発動させたラビを下ろし、窓枠を開けさせると、今度はアタシが戦闘になった場合に備え、先に窓から侵入する。
「さてと、コイツの荷物漁ったらさっさとずらかるぞ。」
アタシは小声でラビに指示を出すと、まず棚に手をつけてから部屋の隅から隅まで探し、果てにはベットの下まで探す。
そして、
「…何も…無い…。まさかコイツ無一文か⁉︎」
いや、そんなずは無い。
だって金貨一枚を豪快に払って釣りを要らないとまで言ってのけたのだぞ。
ここで釣りを貰わないのは金持ちか、よほどの大馬鹿だけだ。
まさか、後者なのか?
「やれやれ、気は済んだかい?」
まるで私たちの侵入に気づいてたかのように、ベットに寝ていた男は起き上る。
「テメェ、起きてやがったのかっ!」
アタシはすぐに爪撃魔法を発動させると、ラビを庇うように前に出る。
「ラビ、早く行けっ!」
「分かったっ。」
直ぐに転身したラビが窓に向かって駆け出そうとする。
だが、
「いやいや、ここで逃す訳にいかない無いよ。」
その言葉と共にアタシとラビは『紐』によって一瞬のうちに縛りあげられた。
「ぐぅっ⁉︎」
「きゃっ⁉︎」
体をぐるぐる巻きにされたアタシとラビは床に転がり、なんとか脱出しようと身動ぐも、手首までしっかりと縛られており、とてもじゃないが抜け出せない。
「クッソ、離せっ!」
「騒いだら人が集まるよ。」
男の言葉にアタシは押し黙る。
「うん、それで良い。それで、君達はなんの用なんだい?」
「はっ、見て分かんねぇのか、泥棒だよ泥棒。」
捕まってしまったアタシは投げやりに答える。
「それで、金目の物が欲しくて忍び込んだ訳か。どうだい金目の物は見つかったかい?」
「まさか、金品1つ無えとは思わなかったよクソがっ。で、アタシたちをどうするつもりだい?」
「さて、どうしようかな。」
胡散臭い笑みを浮かべた男は、舐め回すように床に転がるアタシとラビの姿を見回す。
「アタシの体に興味があるのかい、良ぃ思いさせてやるから、そっちのは見逃してくれないか。」
「ドグ姉!何言っ「アンタは黙ってなっ!」」
横槍を入れようとしたラビをだまらせると、アタシは再び男に視線を合わせる。
アタシたちを捕まえたコイツは相当の手練れだ。
何故か分からないけど、アタシたちの侵入にも気づいてやがった。
本能的に理解出来る。
アタシはコイツには勝てない。
だけど、妹たちは死んでもアタシが守る。
そう決めたんだ。
犠牲がアタシ1人で済むならそれに越したことはない。
その時、コンコンと後ろでノックの音がする。
「あのー、騒ぐ声が聞こえたのですが、何か有りましたか?確認のため、ドアを開けさせてもらいますよ。」
店主と思わしき人の声が聞こえる。
終わった。
アタシたちは国に突き出されて、奴隷送り間違いなしだ。
だが、男は人差し指を口の前で立て、静かにしろと身振りすると、店主に向かって返事をする。
「あー大丈夫です。すみません、ちょっと今お楽しみの最中で。」
最後の『お楽しみ』を下卑た風を装いながら男は言う。
「ああっ、それは失礼致しました。」
すると『お楽しみ』の意味を理解した、察しの良い店主はギシギシと床を踏みならしながら、部屋から遠ざかっていった。
この男、アタシたちを庇ったのか?
いや、そんなはず無え。
「坊ちゃんにとって、そんなにアタシの体は魅力的だったかい。」
「坊ちゃん?誤解があるみたいだね。ボクは24になるから君らよりは年上だと思うんだけどな。」
なっ!アタシよりも7つも上だって⁉︎
正直同年代かと思っていた。
「で、見ての通り、被害は何も無い訳だけど、このまま君たちを帰す訳にはいかないかって思うんだ。」
だろうな。
何も盗まれていなくても、盗みに入ったのは事実だ。
それだけで十分アタシらを突き出す理由になる。
「だから、アタシを抱かせてやるって言ってんだろ。代わりに隣の奴は見逃してくれ。」
店主を遠ざけたのもそれが理由だろう。
「うーん、正直君たちはすっごく可愛いくて美人さんなんだけど…。」
可愛くて美人っ⁉︎
アタシがかっ⁉︎
自分でも顔がみるみる赤くなるのが分かる。
「じゃあ、何が不満なんだよっ!」
照れを隠すために、思わず怒鳴りつけ理由を急かす。
「いや、だからこそ君たちは、他のお仕事をしてもらいたいんだよ。」
他の仕事。
その言葉に火照って、熱くなっていた顔からスーッと体温が失せていくのが分かる。
コイツはアタシたちを売るつもりなんだ。
「頼む、アタシはどうなっても良いから、コイツだけは見逃してくれっ…。」
ようやく自分立場を理解したアタシは、ラビだけはと命乞いをする。
「ん?何か勘違いしてるようだね。」
勘違い?その言葉に床に伏せていた顔を上げる。
「ボクはバク。近々、劇団を立ち上げるつもりなんだけど、君たち、1回だけで良いから、ボクの劇に出演してくれないかな?」
それがアタシとアニキとの出会いだった。
お読み頂きありがとうございました。
幕間の物語は暫く続きますが、お付き合いいただければと幸いです。




