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3.28章

お待たせしました。

3.28章投稿させて頂きました。

今回もクック視点となります。

お読みいただければ幸いです。

「くっ…、やり辛いですわ。」


 中型ドラゴンと小型ドラゴンが共闘するのは珍しいことでは無い。

 だが、野生本来のドラゴンであればこんな連携と動きはあり得ない。


 そのあり得ない連携が戦い辛さを呼び、自分が相手取った3体のドラゴンと戦いは、一対一を3回しただけと気づかされる。


 何度切りかかっても、曲芸らしい連携で自由自在、縦横無尽といった風に躱されてしまう。

 当たればバターのようにアッサリと切れる自身があるが、当たらなければ結局意味はない。


 このまま相手をしていては、時間を浪費するだけだ。

 …このまま相手をする?


 なら相手をしなければ良いのではないか。

 何とか足留め出来れば、その間に逃げてしまえば良い。

 目的は果たしているのだ。問題など無いはずだ。


 足留めの手段。

 考えろ、思考を回せ、手段は必ずあるはずだ。

 思考を巡らせる私の中に、いくつか案が浮かび上がる。


 私自身が足止めとなり、ここに残るべきか。

 いや、リスクが高すぎる。

 他の戦闘系の魔法を持つ敵に出くわせば、何も出来ずに殺されてしまう。


 ダイヤさんが持つ明かりを消せば、私たちを見失うだろうか。

 ダメだ、他に光源があり、とても有効な手段とは思えない。


 いや、違う逆だ。

 消すので無く、つければ良い。眩しいくらいに強く。


「ダイヤさん、クローバーさんと同じあれを持っていますかですわ。」


「クローバーと同じあれ?…成る程な!ああっ、一個だけ渡されてるぞ。」


 ならば使うしかあるまい。


「私が道を切り開きますですわ。」


 幸い、武器を持つ私を注視するばかりで、ダイヤさんの方への意識は薄い。

 これ以上の好機は無いだろう。


「分かった。タイミングはアタシが合わせてやる。」


 ダイヤさんの言葉を聞いた私は、龍済を一旦しまい、新しく作ったアウルムホーク製の黄金の包丁を抜き放つ。


「なぁにぃ?武器を変えたところで意味なんて無いでしょう。それにその武器じゃ小さ過ぎないかしら。」


「いえ、これで充分ですわ。」


 新しく作った、黄金の包丁は人族が使う普通の大きさの包丁だ。


 威力だけで考えれば、龍済の方が重量の分だけ力強く振れる。


 けれど、この黄金の包丁は見た目以上に軽いのだ。

 駆け抜けるのであれば、此方にもちかえるべきだ。


「行きますですわ。蝶鳥(ちょうちょうっ!)


 抜いた包丁の名前を呼び、私はそのまま駆け出す。

 それと同時に進路を塞ぐように2匹の小型ドラゴンが立ち塞がる。


 距離が近づく。


 2匹のドラゴンは尻尾を使い跳ねると、同時に飛び掛かってくる。


 景色が遅く流れるように見える。

 私の目にははっきりと飛び込んでくる2匹のドラゴンの(あぎと)が目に映る。


 まだだ。

 まだ。

 まだ。


 残酷に並んだ牙が眼前へと迫る。


 今っ!


 私は飛び込んでくるドラゴンの腹下へと滑り込みながら包丁を振るう。


「なにっ⁉︎」


 焦った魔物使いは慌ててドラゴンの1匹を中型ドラゴンに無理矢理引き戻させるも、残り1匹は私の手によって屠られた。


「こんの、やってくれるわねっ。」


 自分の手下を殺された魔物使いは憎々しげに呟く。


「クック、早く来いっ!」


 いつのまにか私よりも先に扉側へ回り込んでいたダイヤさんが叫ぶ。


 私は魔物使いの言葉に構うことなく扉へと駆け出す。


「待ちなさいっ!」


「お断りですわ。」


 階段を駆け上がると同時に私の頭上を丸く火のついた何かが通過し、それに気づいた魔物使いがたたらを踏む。


「耳塞げクックっ!」


 次の瞬間、後方から響く爆音と鮮やかで強烈な閃光。

 お腹の中を直接殴られたかのような振動が伝わり、耳にキーンと音が残り、自分の足音すら聞こえない。


 足止めに使ったのは、クローバーさんが使っていた火薬。

 花火というらしい。


 夜空に大輪を咲かすものであるそれが、広いとはいえ地下で爆発を起こしたのだ。

 そして、ここにいる私ですら耳が聞こえない状態に陥っている。


 直撃を受けたであろうあの魔物使いとドラゴン達が無事な筈はない。


 足止めは成功したと言えるであろう。


「ダイヤさん、その子の容態はどうなのですかですわ。」


 地下から飛び出した所で私はすぐに助け出した子の体調が心配になる。

 危なかったとはいえ、結構乱暴に走り抜けて、先ほどの大きい音だ。

 心配で仕方ない。


「あ゛?なんだぁっ、上手く聞こえねぇっ!」


 自分の声すら聞こえていないのか、やけに大きい声で返される。

 私より前に走っていたダイヤさんだが、あの音は獣人の人にはきつかったらしい。


 なので私は片手で子どもを抱えているダイヤさんと同じ風に腕を曲げ、腕に指を指す。


「なんだ、脇が匂う?」


「なんで今、体臭を気にする必要があるのですわっ!」


「だから聞こえねぇって!」


 ダメだ、これ以上ら不毛だ辞めよう。

 自分で確認を取るためにダイヤさんへと向かおうとする所で唐突に揺れを感じ、膝をついてしまう。


「なんなのですわっ⁉︎」


「地面が揺れてるぞっ!」


 視線を下へ向けると、地面が呑み込まれるかのように窪んでいく。


 慌てて私とダイヤさんはその窪みから逃れるように駆け出し、崩れる地面から逃げ切った所で酷い土埃が舞い、視界が遮られる。


「えほっ、けほっ…。一体なんなのですわ。」


 隣に居るダイヤさんに視線を向けるも、分からないとばかりに首を横に振る。


 次第に土埃が薄く晴れていき、月明かりに照らされる巨大は影が浮かび上がる。


「よくも、よくもやってくれたわねえぇぇぇぇぇぇっ!ぜっっったいに殺してやるっ!」


 中型ドラゴンよりも巨大な影の背に乗って現れたのは先ほどの魔物使い。

 そして、その魔物使いが操るのは、


「大型ドラゴンッ……!」


 隣でダイヤさんが呟き絶句する。

 大型ドラゴンばかりに目が行くが、気づくと先ほどの中型ドラゴンも一緒に這い出て来た。

 小型ドラゴンは見当たらないが、地面の崩落に巻き込まれたのだろうか。


「この私を怒らせた事、地獄で後悔しなさいっ!」


 そう叫ぶ魔物使いの右半身の服は破けており、恐らく花火の爆発を右腕で庇ったのだと思われる。

 ここからでは良く見えないが、見えなくても分かる。

 確実に火傷(やけど)をおっているのだろう、痛むのか残った左腕で右肩辺りを抑えている。


 あの様子なら、ドラゴンさえ倒せれば追っては来れないだろう。


 私は3本の指を立てる。

 3回は作戦を次に移せの合図だ。

 本来なら3回の光で合図するものだが、ダイヤさんなら気付いてくれるはず。


「本気か?」


 どうやら意味はしっかり伝わったようだ。

 私は、まだ聴力が復活してないダイヤさんにコクリと頷く。

 そして、ダイヤさんは自分の抱える子どもを見ると決意を固めた。


「死ぬなよっ!」


 それだけ言うと、ダイヤさんは駆け出し隠れ家では無く、一旦視界から逃げる為、建物の隙間を縫うように消えていった。


「逃がさないわよっ!」


 そう言って、魔物使いは中型ドラゴンを差し向けるも、私は直ぐにその進路を塞ぐように飛び出て、中型ドラゴンの胸を横に一閃。


 硬い鱗を持つはずのドラゴンの外皮を簡単に切り裂いてみせる。


 それに気づいた魔物使いは、すぐに中型ドラゴンを下がらせる。


「どうやら最初の大見栄(おおみえ)は虚勢じゃないらしいわね。貴女何者かしら?」


 自慢の手下を易々と傷つけられた魔物使いは、一度冷静になり私に目を向ける。


「私はナイン。怪盗ですわ。」


「聞かない名前ね。」


 そうだろう、なにせ、今回が初めての怪盗だから。


「まぁ、良いわ。逃した分は貴女で憂さ晴らしをさせてもらいましょうか。私の名前はキルクス、地獄で私の名を聞く度に怯えなさい。」


「丁寧な自己紹介どうもですわ。それと貴女こそ私の名前を聞くたびに怯えると良いのですわっ!」


 私は中型ドラゴンを無視し、動きの鈍そうな大型ドラゴンの方へと駆け出す。


「そんな見え透いた考え読めないわけ無いでしょう?」


 魔物使いの言葉と共に目の前の土が隆起したと思うと、金槌の打撃面のように真っ直ぐ撃ち出される。


「魔法っ⁉︎」


 私は咄嗟に左腕で庇うも、直撃を受けものの見事に吹き飛ばされて地面へと転がり、落下した私を仕留めようと、中型ドラゴンが迫る。


 それに気付いた私は右手に持つ包丁を中空へと手放すと、アイスピック(くしまる)を引き放ち、中型ドラゴンの胸へと槍投げのように投擲し、落下して来た包丁を捕まえると持ち直す。


「目打ち突きっ!」


 投擲されたアイスピックは寸分違わず、私が裂いた傷口へ深々と刺さる。


「ゴギャアァァァァァァッ。」


 その痛みに耐え切れず、中型ドラゴンは絶叫の声を上げ、その巨大は後ろへと後退する。


 何とか押しとどめることに成功したが、だが、油断している暇など無い。


 すぐに私を吹き飛ばした攻撃が横から私へと向かってくるのに気付き、その攻撃を潜るように避けると動いていないと狙われることを理解し駆け出す。


「同じ手は効きませんですわ。」


「でも、一撃目が相当響いてるんでしょう?」


 お見通しと言うわけか、私の左腕は攻撃から庇う為に使ったせいで、痺れて上手く動かない。


 折れてまではいないと思いたいが、指先の感覚が戻らず、ろくに手を握ることも出来ない状態だ。

 暫くすれば感覚も戻ると思うが、この戦闘が終わるまでに戻るかどうかは怪しい。


「私はね、手負いの兎を追う時が一番楽しいの!」


「貴女の趣味に付き合うつもりはありませんですわ。」


「そう、私は勝手に楽しませてもらうわ。言ったでしょう。後悔させるって。」


 勝手に楽しむ、その言葉通りちドラゴンに攻撃を加えようとすると、様々な方向から魔法が飛んできて、逆に大型ドラゴンへと迫ると中型ドラゴンが横から邪魔をする。


 これでは先ほどの二の舞だ。


 私の体力が先に尽きるか、それとも大型ドラゴンの魔力が先に尽きるか。

 余りにも勝算がなさ過ぎる勝負である。


 冷静に対処しなければ、そう思うほどに息は簡単に上がっていく。


「ほらほら、どうしたのっ、もっと私を楽しませなさいっ!」


 攻撃することよりも上がる息を整えようとする私は逃げに徹する。

 だが、それでも迫る魔法に体力をどんどんと消耗させられていく。


 不味い、このままでは死を待つだけだ。

 何か打開策を見つけなければ。

 焦るも、酸素の足りない思考では、考えることすらままならない。


「なんだか飽きちゃったわ。貴女をさっさと仕留めて、もう1人の方へ遊びに行こうかしら。」


「そう言わずに、私ともう少し遊んで下さいですわ。」


「だから、飽きちゃったのよ。」


 駆け回る私の目の前が、隆起するのではなく、下へと陥没する。

 私は跳ねることで飛びこそうと、空中へ逃れた時に自分の致命的な判断に気付かされる。


「掛かったわね、バーカ。」


 私の着地先から、魔法が飛び出し私を打ち上げる。


「くぅっ、はっ⁉︎」


 身体を丸めて魔法のダメージを軽減するも、魔法に吹き飛ばされた私は、近くの民家の屋根へと背中から墜落する。


 だが、何とか地面へ叩きつけられるのだけは防げた。

 それにあまり高く吹き飛ばされなかったのもあり、体はまだ動く。


 不幸中の幸いと言ったところか、私は痛む身体を起こしながらドラゴンの方へ目をやると、ドラゴンの頭上に腰掛けるキルクスと視線が合う。


「さぁ、終わりよ。」


 キルクスと共に大型ドラゴンが迫ってくる。

 体は痛む、だけど、まだ戦える。


 私は最後の気力を絞り包丁を構え直し、キルクスとドラゴンを睨みつける。


 そして気づく、遥か頭上から剣を持った『黒い鳥』がキルクスに迫っている事に。


「スラァァァッシュッッッッッ!」


 普段の彼女からは想像もつかない声量と気迫と共に、見たことのある剣魔法が放たれる。


 その魔法はキルクスの背中を肩から大きく裂いた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 絶叫を上げたキルクスは力なく崩れ、大型ドラゴンの頭上から落下していく。


「今ですっ!」


 その言葉が撃鉄となり、蝶鳥を手放すと龍済を引き抜き、弾かれたように私は大型ドラゴンに跳躍する。


「ハァァァァァァァァァァァッ!」


 技術も技も無い、威力に任せた縦振りの斬撃が、大型ドラゴンの頭蓋をかち割りながら顎下まで通り抜ける。


 巨大はキルクスと同じように、力なく崩れ大量の土埃を舞い上げる。


 土埃が晴れると、指示系統を失い狼狽(ろうばい)する中型ドラゴンに向かって駆け出し、刺さったままの串丸を押し込む形で、心臓に向かって腕ごと深々と差し込むと引き抜く。

 直ぐに鮮血が穴から溢れ出し、一歩二歩と蹌踉(よろ)めき中型ドラゴンも絶命した。


「クローバーさん、助かりましたですわ。」


 キルクスを倒したのは上空で指示の伝達役を行なっていたクローバーさんだ。


「ごめん…なさい…。もう少し…早く来れれば…。私が迷ったせいで…。」


 さっきの気迫がすっぽりと抜け落ちたクローバーさんが謝ってきた。


「この怪我は貴女のせいではありませんですわ。寧ろ自業自得なのですわ。」


「全くその通りだ。」


「あ痛っ、ですわ。」


 パシンッと音が鳴り、頭を引っ叩かれ私は後ろを振り返る。

 そこには子どもを任せたはずのダイヤさんが立っていた。


「あの子ならハートに預けて来た。だから心配すんな。」


 私の心を読んだかのようにダイヤさんが先手を取って聞きたいことを言ってくれる。

「それとこれだな。」そう言いながらが拾ってくれたのか蝶鳥を手渡された。


「あ、ありがとうございますですわ。」


「んじゃ、帰るぞナイン。クローバーはもう少しだけ仕事を頑張ってくれ。」


「うん、任せて。」


 そう言って、クローバーさんが空中へ飛び上がり見えなくなるの見送ると、私たちも隠れ家へと駆け出すのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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