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3.27章

お待たせしました。

3.27章の投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「ナイン、速攻で助けて速攻で逃げ出すぞ。」


 ダイヤさんは地下階段の前で、私に確認を取ってくる。


「ええ、分かっていますですわ。」


「分かってないからここにいるんだけどな。ったく。今回は松明(たいまつ)もつけたままで良い。止まってる暇は無いからな。行くぞっ。」


 ダイヤさんが先行して、地下の階段を駆け下りていき、私もそのあとに続いて行く。


 松明があっても足元はやはり暗く見えづらいが、慎重になんて言ってたら手遅れになってしまう。


 階段を降り切ったところで、ダイヤさんが突然立ち止まり壁際に背をつける。


「一体、どうしたので…「しっ。」」


 ダイヤさんは人差し指を立て、静かにしろと指示をする。

 立ち止まってる暇は無いというのにと思いながらも、ダイヤさんと同じように壁に背をつける。

 それを確認すると、ダイヤさんは小声で喋りかける。


「檻がいくつか()いてやがる。」


 その言葉にサーッと血の気が引く。

 檻に入っていたのは魔物。

 それが、野放しになっているという事は。


 思考が言葉になるより先に体が動いた。

 私はあの子の居る檻に向かって一直線に駆け出す。


「ばっ、止まれっ!」


 ダイヤさんが静止の声を上げるも、それを無視して足を動かす。

 途中、私に気づいた魔物がこちらに走り寄ってくる。

 即座に私は包丁(りゅうさい)を抜き放つ、松明の火に照らされる魔物は魔狼種。

 包丁に魔法の光が宿る。


「半月切りっ!」


 飛びかかる魔物を縦に真っ二つにし、更に奥へ向かって走ると、1つの檻の周りにたむろする3匹の魔狼種がこちらへ振り向いた。


「そこをっ、退きなさいですわぁぁぁっ!」


 包丁を3度(またた)かせ、魔狼の首をぶつ切りにして行く。

 魔狼を駆除し終えると、私はすぐにその子の元へ駆け寄り、しゃがみ込むと脈や心音を確認する。

 意識は完全に失ってるだけど。


「良かった、まだ生きていますですわ。」


 脈拍と呼吸は微かだが感じ取れる。

 希望はある。

 あとは脱出するだけだ。

 そこで、ようやく追いついたダイヤが檻の中へ入ってくる。


「ナイン、お前は後で説教だからな。さっさと戻るぞ。」


「はい、それくらい承知の上ですわ。」


「反省しろって意味だ。このポンコツっ!」


 私は子どもを抱えると、松明を持つダイヤさんの後をピッタリとついて行こうとする。


 直後、2つの影が進路上に現れ道を塞ぐ。

 その姿はトカゲに見えるが、その体には鱗が並んでいる。


「アースドラゴンですわっ!」


「ここの奴らは随分なモンを仕入れてんなぁっ。」


 実家の闘技場に時々仕入れられるから見たことがある。

 だが、見るからに小型種であり、この程度なら造作もなく倒せる。


「私が戦いますですわ。この子を預かっておいて下さいですわ。」


 私は子どもをダイヤさんに押しつけるように渡すと、2人を庇うように前に出る。


「おっおい、大丈夫なのか。」


「勿論何も心配は要りませんですわ。」


 一度に三頭相手取ったこともあるのだ、その時はオクトに助けられたが、今の私は昔とは違うと確信できる。


 何故なら。


 包丁に宿る魔法が一瞬だけ強く光り、いつもの光量に戻る。

 だが、その一瞬の圧倒的な光に気圧された2匹の小型ドラゴンは後ずさる。


「私を倒したければ、伝説級(レジェンダリー)ドラゴンでも連れて来なさいですわ。」


 お伽話の中にしか居ないと言われる伝説のドラゴン。

 今の私をドラゴンが倒すのであれば、それくらい強くなくては話にならないはずだ。


「へぇ、大きく出たわねぇ。」


 どしん、どしん、どしんと地下に重量を感じさせる音を響かせながら、2匹の小型ドラゴンよりも大きなドラゴンが、1人の女性を乗せて現れる。


「チッ、中型ドラゴンまでいやがるのか。」


 ダイヤさんが渋面を作りながら面倒くさそうに呻く。


「騒ぎが気になって檻の様子を見に来てみたら、商品には逃げられて死にかけガキしか残っていなかったのは本当に残念だったわ。」


 ドラゴンに乗った女性は吐き捨てるように喋った後、直ぐに笑顔になる。


「けれど、死にかけのガキを助けに戻って来るなんて馬鹿じゃないの?隠れて笑いを堪えるのが大変だったわ。」


「たった2人にビビって隠れてた雑魚には笑われたくないね。」


 ダイヤさんが広角を上げ、犬歯を剥き出しにする。


「それに、最初に隠れていた時点で実力の底が知れるというものですわ。」


 恐らく彼女は魔物使いであり、彼女本人自体はそれ程の能力を持っていないのだろう。

 だから、私たちの接近に気づいた時にまず隠れる事を選んだ。

 そして、勝てると踏んだところで姿を晒したのだ。


「キャンキャン吠えて煩いわね。これだからメスガキは嫌いなのよ。おまけに何ぃ、その不恰好なマスクは。醜い顔を隠すにしても品が無いわね。」


「ダイヤさん、すみません。マスクがかっこ悪いのは同感ですわ。」


 マスクと言う割には、なんの絵柄も無い黒の無地であり、品が無いと言われても仕方が無いと思う。


「お前はどっちの味方なんだよナインッ!」


 無論、ダイヤさんの手に抱かれている子どもである。

 はっ、そうであった、立ち止まってる場合では無い。


「そこを退いて下さいですわ。」


「断ったら?」


「押し通るだけですわ。」


 私は言葉と共に先に仕掛ける。

 1分1秒だって惜しい。


 包丁を横に傾け、小型ドラゴンを三枚下ろしにするつもりで振るう。


 だが、その小型ドラゴンは尻尾を床へ叩きつける事で跳ね、後ろへ下がる。


「はっ、跳ねたのですわ⁉︎」


 驚きと共に私は一旦、距離を取る。

 あり得ない。

 こんな行動、一度だって闘技場で見たことがない。


「驚いた?驚いたでしょうっ。私の魔法は『魔物調教魔法』。魔物たちには色んな曲芸を仕込んでるのよ。」


 一瞬、真面目に働いた方が儲かるのではと考えてしまうが、私も似たようなものなのでそこは黙る。


「それ、普通に曲芸やらせた方が稼ぎがいいだろ。」


「ダイヤさん、貴方はどちらの味方なのですわっ。」


「えっ、なんで怒られんてんだアタシ⁈」


 だが(たね)は分かった、曲芸を仕込まれているなら、その指示を上回る速さで包丁を振るえば良いだけの話。


 魔法でも持たない限り、その技術は魔法という壁を超えられない。

 私が身に染みて理解していることだ。


 もう一度、先ほどよりも素早く踏み込み同じように横に包丁を振るう。


 すると今度はその場で回転しながら跳ね、包丁を躱され、ドラゴンは噛みつかんと口を開くも想定内。


 瞬時に包丁の刃を逆向きに持ち替えると喉へと滑り込ませる。


 だが、今度は中型ドラゴンが小型ドラゴンの尻尾に噛みつき引っ張ることで、私の包丁が空を切る。


「あなたが相手してるのは1匹じゃないのよ。」


 ドラゴンに腰掛ける女性はくつくつと笑うのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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