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3.25章

お待たせしました。

3.25章投稿させて頂きました。

今回はエース視点となります。

お読みいただければ幸いです。

「さて、君たちには先に伝えておこう。ワタシの名は怪盗勇者エース。」


 エイト君たちをこの部屋の人物たちから、上手く隔離出来たボクは、余裕を見せつけるように3人に自己紹介をする。


「そして、ワタシは物凄く強い。この力を振るい君たちを殺すことに躊躇(ためら)いなど無い。だが、降参するならば今だけ許そうではないか。」


 ボクは部屋にいる3人に両手を広げ宣言する。

『殺害』する事を辞さないと。

 殺す事自体は初めてではない、怪盗をしていれば避けられない戦闘もあり、実際にボクは人を殺めている。


 1人殺したから2人目も変わらないという訳では無いが、ボク自身が救いたいもののために割り切っている。


 いや、割り切れてないからこそ、こんな事を言っているのかもしれないな。

 ボクも存外甘いらしい。


 返答を待っている間、己の心の分析を行なっていると、返答の代わりに床から黒いものが生え、ナイフのように何度も刺突攻撃を繰り出す。


 ボクはそれを体を反らす事で淡々と躱していく。


「ふむ、これが返答ということか。実に残念だ。」


 呟いた直後、背後から人が迫るのを察知し、裏拳でそのナイフを弾き飛ばす。


 目視では暗くて殆ど見えないが、ボクは3人を確実に捉えている。


「フハハハハ、分かるぞ。伝わってくるぞ。君たちの動揺が。焦りが。困惑が。」


 ボクの言葉にまたナイフを掴む手が強張った。


「それでは、次はこちらから行くとしよう。」


 窓の付近にいる人物に向かって身体強化魔法によって強化されている脚力を駆使し、瞬時に距離を縮めると正拳突きを繰り出す。


 敵は両手をクロスさせることによりブロックするが、拳を止めることが出来ず、後方へと吹っ飛んでいく。

 だが、吹っ飛んだ割には拳に伝わった手応えは薄い。


「自ら後方へ飛ぶことで威力を減衰させたか。だが、無傷という訳にはいかなかったようだな。」


 ボクには膝をつくその人物を感じてれている。

 その人物を捉えようと、紐魔法でロープを出現させ伸ばすも、すぐに黒いものが飛び出しロープを切断する。


「やはり影を操っているのだな。魔法の名前は『影魔法』そんなところか。」


 この言葉に影を出していた張本人が一歩下がる。

 どうやらビンゴみたいだ。


 しかし、捉えることが出来ればボクの魔法で情報を吐かせることが出来と思ったのだが、3人の連携の練度は高く一筋縄ではいかないらしい。


「そして、もう1人の魔法、これは簡単だな。『透明化魔法』そうなのだろう。」


 ボクは呟いた直後、くるりと後ろに振り返り身を屈めると、背後ににじり寄っていた目視の出来ない敵の腹部に下方向から掌底打ちを撃ち込む。


「先程から芸が無いぞ。」


「ガッ…⁉︎ハァ……ッ……。」


 ボゴンッと音が鳴り天井に確かに叩きつけたが、それでも魔法が解けないのは余程の精神力の持ち主なのだろう。


 すぐに持ち直した敵は、腹部を抑えながらもバックステップで距離を取る。


「今のは手加減だ。」


 ボクは今『拳闘魔法』と『身体強化魔法』を同時に発動しているのだ。

 実際に本気で攻撃をしたならば、敵の背骨を天井ごと巻き込み砕いたであろう。


「話の途中であったな、3人目の魔法は他の2人を補助する為の魔法なのであろう。場所を先ほどからこまめに変えているが、全く攻撃に参加していないのがその証拠だ。」


 攻撃の主体は影魔法の使い手と透明化魔法の使い手の2人。

 だが、度々2人は攻撃に参加していない1人に接近し必ず触れている。

 恐らく補助的効果を受けているのであろう。


 狙うべきは戦闘能力の無い補助役で決まりだな。


「ふむ、これでもだんまりか。では、少しだけネタバラシをしよう。既にこの部屋はワタシの手中にあるのだよ。」


 ボクのその言葉を聞いた瞬時に、窓ガラス付近でガキンッと甲高い音が響く。

 判断が早いな。

 だが、ネタバラシをしたと言うことは既に準備は整ったと言うことだ。


「そして、君たちはここから逃げられないということだ。」


 窓ガラスには何本ものワイヤーが網戸のように張られおり、出入りを許されるのは月明かりのみだ。

 ボクは動揺と混乱を誘う為、更に言葉を紡ぐ。


「もう一つ、ネタバラシといこうか、君たちが気になっている透明なはずのものが見える理由だよ。」


 パチンッと指を鳴らすと天井から光が舞い降り、天井から何千、何億本も垂れ下がる極細の魔力の糸が可視化される。


「最近、我が団員からヒントを得て、自らの魔法として昇華させたのだ。」


 そうこれはエイト君が垂らしていた、触手のカーテンを応用した魔法の糸のカーテン。


 その揺らぎが逐一(ちくいち)に、敵の居場所を教えてくれるのだ。

 パチンッともう一度指を鳴らし、不可視の糸へと変貌させる。


「ここはワタシの舞台なのだよ。君たちは常にワタシの手の平の上だ。」


 焦った1人が無闇矢鱈(むやみやたら)にナイフを振り回しているが、そんな事に意味は無い。

 魔力を持たないもので攻撃したところで、撫でるように通り過ぎるだけだ。


 仮に先ほどの影魔法で切られたのだとしても、すぐにこの程度復元出来る。

 ましてや、ただ垂らすだけの紐魔法に大量の魔力は必要ない。


 よって、この絶対的有利状況は覆ることは無い。


「さて、ネタバラシの後には何が待っているか知っているか。」


 ボクの言葉に凍りついたかのように3人の動きが固まる。


「幕引きだ。」


 ボクは瞬時に空間跳躍魔法で、壁際に潜んでいた補助役の目の前に跳躍すると、首を掴み組み伏せようとする。


 直ぐにそれに気づいた、影魔法使いが影を伸ばし、不可視の魔力糸を裂きながらボクの背中を狙う。


 敵の魔法を感じ取っていたボクは、それを拳で払い砕き、勢い余って自らの用意した舞台の壁をブチ抜いてしまう。


「なっ⁉︎」


 壁を壊した本人であるボクは驚愕の声を上げてしまう。


 魔力を『暴走』させられた⁉︎

 いや、魔力を込める量を無理やり増やされ、この感覚は魔力を流し込まれたのかっ!


 侮っていた。

 まさか、補助しか出来ないと考えていた人物に上回られたのだ。


「無惨、無識、行けっ!」


 ボクが捉えている人物が声を上げる。

 その声は少女の声だ。

 少女の言葉に足音が乱暴に響き、2つの影が空中へと踊り出て階下へと消えてしまう。


「全てはロキ様の為にぃぃぃぃっ!」


 その2つの影を追うべきか迷い、見送っている間に少女は行動を起こす。

 少々は誰かの名前を甲高い悲鳴のような声で呼びながら、何かを嚙み潰し飲み込んだ。


「しまった、自害用の毒かっ。」


 だが、気づいた時にはもう遅い。

 毒を飲み込んだ少女の瞳は光を失い、開いた口から涎を垂らし、揺すってみるもピクリとも動かない。


 月明かりに照らされる顔から推測出来る少女年齢は、恐らくエイトたちと同年代といった所だろう。


 ボクはその少女をベットに寝かせると、瞳を閉じさせ、腕を組ませる。


「さらばだ、名も知らない少女よ。」


 シルクハットを外して胸に当てしばらく黙祷をすると、その部屋を出て行く。


 無様だ。

 余りにも情け無い。みっともない。

 幾ら自分を叱責しようとこの堕落が許されることは無い。

 任せろと大見得を切って、結果が2人の敵の逃亡を許し、少女を自害させた。


 ボクは年端もいかない少女を殺したのだ。


 初めに殺すと宣言していた、だからどうした、それが言い訳になる訳が無いだろうっ!


 どうして気づけなかった。

 どうしてあの時油断などした。

 どうして魔法も分からないのに行動に移した。


 馬鹿過ぎる。阿保過ぎる。間抜け過ぎる。


 ボクは廊下の壁に拳を叩きつけ八つ当たりをする。

 バゴンッと爆音が響く。

 だからと言って心は晴れない。


「なっ、なんだ今の音は。」「分からん、だが行くぞ。」「くそっ、一体どうなってんだよ。」


 先ほど爆音に呼び寄せられた敵が階下か押し寄せる。


「すまない少女よ、ここから1秒たりとも油断などしない。」


 仮面の裏に激情を隠すとそう呟き、決して許されないと分かっていながらも、少しでも(あがな)いとなるよう、立ち塞がる敵に相対するのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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