3.24章
お待たせしました。
3.24章投稿させて頂きました。
今回はクック視点となります。
お読みいただければ幸いです。
「上がなんだか騒がしいですわ。」
地下に響く地鳴りのような大量の足音が私の鼓膜を揺らす。
「ああ、どうやら合図前におっぱじめたらしいな。多分、直ぐにハートが戻ってくるはずだ。それまでは我慢だ。」
「はいですわ。」
「お待たせ〜、どうやらエースたちは見つかっちゃったみたいだね〜。」
上の騒ぎの原因は、やはりエイトたちが原因らしい。
早速しくじっている3人に正直もう不安だらけだ。
「合図も貰ったからこっちもお仕事を始めよ〜。」
私の不安とは反対に、合図の内容はどうやら作戦続行だったらしい。
「おう。んじゃ、行くぜ。」
ダイヤさんは手に魔法を宿し、爪撃魔法を発動させる。
「おらよっ!」
ダイヤさんは鍵に向かって思い切り右手を振りかぶる。
檻の鍵はダイヤさんの攻撃により、ガシャンッと音を立ててあっさりと開く。
「直ぐに枷をぶっ壊してやるからじっとしとけよ。」
檻の中へと踏み入ったダイヤさんは頼れる雰囲気を醸し出しながら宣言し、次々に枷を壊していく。
しかし、その間、どうしても大きな物音が立て続けに地下全体へ響き続け、私の不安を煽る。
だが、ここで怖がって傍観しているわけにはいかない。
ダイヤさんによって助け出された人たちに直ぐに指示を出して行く。
「動ける方は自分で立って下さいですわ。」
「動けない人は手を上げてね〜。元気のある人は動けない人の手助けをしてあげて〜。」
その言葉に囚われていた人たちは、枷から解放されふらふらと立ち上がる。
手助けをして歩ける人を含めば25名が自力で脱出が出来そうだ。
「歩ける奴はさっさと出口に行きな。ほら、後からちゃんと追いつくから立ち止まんなっ。」
ダイヤの言葉に囚われていた人たちはお互いに肩を貸しながら、出口へと歩き始める。
残りの横たわる人たちは計6人。
その内、子供が2人に大人が4人。
手を挙げて、助けを求めてる人が子供1人に大人2人で残りの半数は横たわったまま動かない。
いや、大人の1人は胸が上下しておらず、呼吸が止まっている。
私は直ぐに胸に手を当てて脈動を確認するも、既に手遅れであった。
助けるべき人数は5人。
一体誰から運び出すべきだ。
運べるとしても、私の力では精々大人1人が限界といったところだろう。
ましてや、脱力状態の人を運ぶにはかなりの力が必要だ。
「だずげぇで…ゴホッ、おね゛え゛ぢゃん。ゴホッゴホッ…。」
苦しそう子供の細い声が耳に届いてしまい、視線が合ってしまう。
手をあげる力すら残っていない子で、その姿は骸骨そのものであり、ここから出たところで助かるかすら分からない。
「そいつはもうダメだ。ここを出てから助かる見込みが無い。」
ダイヤさんが冷静に判断する。
いや、ダイヤさんが言ったからでは無い、自分でも分かっているし、理解していることだ。
横たわるその子は少し喋っただけだと言うのに、今もゼーゼーと苦しそうな息遣いが聞こえる。
「ナインちゃん、ごめんね、その子は諦めて。」
1人の動けない男性を担いだハートさんが私に声をかける。
「迷ってる暇はねえ。お前は松明持って、そこの手を上げてる奴を連れて行け。」
男性と子供を担いだダイヤさんがそう指示を出す。
「つぅ………、ごめんなさいですわっ。」
苦悶の末、私は手を挙げていた女性に肩を貸し背中に背負うと、松明を手に持ち出口に向かい出す。
「待っで……、ゴホッゴホッ……。お゛いでがない…でぇっ…。」
再びき聞こえた細い声に、思わずその子の方へ振り返りそうになる。
「振り返るなっ!」
ダイヤさんがキツく叱責するように声を出す。
「今の声が聞こえなかったのですわっ。」
無慈悲なダイヤさんの言葉に反論してしまう。
私はあの子を救いたい。
だって、あんなにも苦しそうにしているのを放っておける訳がない。
「助かる見込みのある奴の方が優先だ。分かってるだろっ!」
「ですが…ですわ…。」
「それに上の騒ぎが想像以上にデカ過ぎる。引き返してる暇は無え。」
確かに今引き返せば、この人数でただでさえ歩みが遅い。
深夜といえど簡単に発見されてしまうだろう。
「ナインちゃん…。」
ハートさんが私の名前を呼び、そちらに顔を上げると、ハートさんは私の目をじっと見る。
「今抱えてる人を救いたいなら堪えて。」
「……。」
ハートさんのいつになく真剣な声に押し黙る。
自分の耳には、背負う女性の苦しそうな息遣いが今も聞こえている。
そして、気づく。
2人の耳にあの子の声が届かないはずが無いのだ。
だって、獣人の2人は私よりも耳が良い。
ハートさんに至ってはダイヤさんよりも更に数倍耳が良いのだ。
私の耳には届かないそれが、今も聴こえてしまっているはずだ。
それに2人はわざわざ助けるためにここに潜ったのだ。
助けたくないなんて事はあり得ない。
「…すみませんですわ。」
「ううん、だいじょ〜ぶ。だからこの人たちだけでも必ず助けよう。」
努めて明るく振る舞うハートさんに後ろめたさを感じてしまう。
「…はいですわ。」
暗い階段を登る足取りが重いのは背負う人の重さではない。
だが、止まるわけには行かない。
歯痒い、助けられない自分が歯痒い。
オクトにあの時、助けられなかったことより、助けたことを誇れなんて偉そうに言った自分が恥ずかしい。
今なら分かる。
助けられたはずだからこそ、こんなにも助けられないことが悔しいことを。
悔恨を噛み潰すように歯を食いしばり、黙々と階段を上がって行く。
地下の出口に着くと、より一層外の騒ぎが耳に届く。
店の外へと出て見上げると、宿舎の方は明かりが灯っている。
「いいか、お前ら。生きたかったらアタシに逸れず静かについてきな。」
それだけ言うと、予め決めておいた付近の隠れ家に向かってダイヤさんは先導を始める。
隠れ家自体は廃墟のように偽装しているが、中にはしっかりとした部屋が有り、治療道具が整っているだけでなく、鍵までついていてる。
隠れ家までは、家の間を縫うように歩いて5、6分ほどの距離だが、その距離を歩くだけでも辛そうだ。
「ほらみんながんばろ〜、少し歩けば安全だからね〜。」
足が止まりかけている人をハートさんは元気付けて行く。
結局、着くまでに10分ほど遅れてしまったが、逃げ出した全員が無事にたどり着くことが出来たので、結果的には成功と言えるだろう。
「お疲れ〜みんな〜、ささ〜、中で休んでね〜、あとはハートたちに任せてね〜。」
「スープも沢山有りますですわ。慌てずゆっくり召し上がって下さいですわ。」
どんどんと助け出した人を隠れ家へと向かい入れていき、隠れ家の中へ最後の人が入った所でどうしてもあの子の声が脳裏にこびりついて離れない。
今ならまだ間に合うかも知れない。
それに私一人であれば、敵に見つからないであの子を助け出せるかもしれない。
「すみません私、やっぱりあの子を助けに行きますですわ。」
「はぁっ⁉︎馬鹿なことを言うなよ。それにあの子は助からねえ。」
ダイヤが驚き声を上げ、すぐに私に思い直すように説得する。
「最近知ったのですが、私って私が思っている以上にポンコツのようですわ。」
今ならオクトがポンコツと呼ぶ理由が分かる気がする。
だから思ったら止まれない。
決めたからには止まれない。
だって私はポンコツだから。
「ナインちゃんっ。」
「すみませんハートさん、私は行きますですわ。」
ハートさんも私を止めに来たのだろう。
ハートさんの言葉を待たず私はくるりと背を向け駆け出す。
だが、違った。
「必ず助けてあげて。」
私の背にかけられた言葉は止めるものではなく、背を押すものだった。
「任せて下さいですわ。」
だからいつかのように笑って答える。
私は冒険者だから。
「ハートまで何言ってんだ⁈」
ダイヤさんも流石に予想外だったのか、取り乱す。
「くそっ、ああもう、分かったよっ!」
だが、頭をガシガシと乱暴に掻いたあと、すぐに私の後を追うように駆け出し、追い抜かす。
「ナイン、お前の無茶に付き合うのは今回だけだからなっ!」
「そこは不束者ですが末永く宜しくお願い致しますですわ。」
「アンタなんて嫁にいらないよっ!このポンコツッ!」
くだらない掛け合いをしながら、ブレーキの壊れた2人は、来た道を走りながら戻って行くのであった。
お読み頂きありがとうございました。




