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1.7章

7話目投稿させて頂きました。

「絶対に嫌ですわ。」


 彼女はそう駄々をこねる。

 現在の時刻は夕暮れ。


 時を少し遡り、バイバーさんに食材の調達に彼女が向かったあの後、村長宅から食材を買い食器を借りて、戻って来た彼女は直ぐに夕飯の準備を始め、簡単に完成させてしまった。


 夕飯に出されたのはパンと肉の入ったスープであり、自分の家柄が貴族と言う割には素朴な案外庶民的な料理であった。

 しかし、その味はそこら辺の食堂を超える味で、肉の旨味が十分に染み込んでおり、どんどんとパンとスプーンが進み、すぐに完食してしまった。


『ふぅ、ご馳走さま。すげぇ美味しかった。』


『お粗末様ですわ。』


 彼女は素っ気なくそう返す。


『じゃあ、先に休ませてもらうわ。』


 眠気もそろそろ限界なこともあり、そう言うと俺は寝室に向かい、ドアをガチャリと開け放った。

 しかし彼女がそこで俺を止める。


『そういえば、貴方はどこで寝るのですわ。』


『何言ってんだ、この寝室に決まってるだろ。』


『私は床で寝ろと言う意味ですのですわ。』


『何故そうなる、アンタもこの部屋使えばいいだろ。』


 俺がそう言い終わったところで冒頭のシーンに戻る訳だ。


「ベッドは二つあるんだ、一緒のベッド使うわけじゃないんだからいいだろ。」


「色欲の勇者と一緒の部屋で寝るなんて御免こうむりますですわ。」


「昨日、何もしなかったろっ。」


「今日しないという保証がありませんですわ。」


 未だに警戒心を解かない彼女、俺はそんなに信用ならん人物だろうか。

 あ、手配中だったな。


「はぁ、もうめんどくせぇ。」


 俺は両脇の壁からベッドを挟むように触手魔法パッ発動させると大きめの触手を顕現させる。「なっ、何をするつもりですわっ。」と怯えた犬のように吠える彼女を無視して、寄り添うように置かれている二つベッドを触手で掴み、グイッと引っ張り、両脇まで寄せる。


「これ以上は譲歩しないからな。」


 もう付き合ってられないと俺は移動させたベッドに潜り込み目を瞑る。

 硬いベッドに寝心地の悪さを感じながらも、限界を超えていた睡魔には抗えず俺は意識を手放す。


「私ってそんなに魅力がないんですのですわ…。」


 彼女のぼやきはもう俺の耳には聞こえない。


 そして翌朝、何事もなく朝を迎えた。

 ふぁ〜と欠伸を漏らし肩を鳴らしながら起床する。すると、「絶対に嫌ですわ。」とか言っていた彼女が見当たない。


「マジか、アイツ本当に向うの床で寝たのか。」


 そう呟いた後、ドアの向こうからいい匂いが漂ってくるのに気づき、未だベッドを離したがらない欲求を理性で制し、リビングへのドアをくぐる。


「おはようございますですわ。案外早いお目覚めですわね。」


「お、おはよう。」


「朝食はもうすぐですわ。少し待っていてくださいですわ。」


「アンタ誰だ?」


 俺の知っている彼女の姿とは重ならず、目の前の人物をドッペルゲンガー系の魔物かもしれないと疑う。


「朝から失礼ですわっ!」


 良かった俺の知ってる彼女だ。

 内心本気でホッとする。


「まさか、朝食まで食わせてもらえるなんて思ってなかったよ。」


「昨日スープの余りを温め直しているだけですわ。飽きないように少し味を変えていますけど。さぁ、出来ましたわ。召し上がれですわ。」


 彼女は昨日と変わって野菜多めのスープを盛り付けて出してきた。


「ありがとう、頂きます。」


 スープをスプーンですくい、口に入れると昨日と違い、見た目通り野菜の味があってさっぱりした、朝食に丁度いい味であった。


「アンタ、本当に料理の腕が良いな。」


 そのあと、食堂でも開いたらどうだとうっかり口にしそうになったところをぐっと飲み込む。


「当然ですわ。ドラゴンを倒した暁には、貴方にドラゴンの肉を使った料理をご馳走して差し上げますですわ。」


「マジかっ。」


「マジですわ。」


 俄然やる気が湧いてきた。

 ドラゴンの肉といえば出回る数が少なく、中型以上だと殆ど貴族に持っていかれてしまう、絶品肉だと聞く。

 自分で倒したこともあったが、自分で料理は出来ないし、かといってそれを持ち込めば当然騒ぎになるので泣く泣く諦めたのだ。


 珍しく食事中の会話に花を咲かせ、そのまま平和に食事を終えたところにコンコンとノックの音が響く。


「今出る。」


 俺はそう言い扉を開けると、ノックをしていた人物はこの村の村長であった。


 なんでも、ゴブリンが昨日あまりにも多かったのと、バイバーさんからのアドバイスもあり、不安に思った村長は原因の調査依頼をしたいとのこと、冒険者組合を通さない直接の依頼であり、業績として記録されないのだが、元々プレートの色には興味が無く、報酬も直ぐに用意できるという発言もあり、俺は快諾した。

 村長は依頼後、念のため、門番の数を増やすか村の男衆と検討するからと言って帰っていった。


「ぅよしっ、さっさと準備して、さっさと終わらせるか。」


「そうですわね。食器と家を貸してもらったお礼もありますし、恩を返したいですわ。」


 俺も彼女も気合充分といった様子で準備にとりかかる。

 お互いに武器や防具の手入れをし、持ち物のチェックをする。

 そして彼女よりも先に済ませた俺は顔を洗ってくると言い、裏手の公共井戸に部屋を出て向かう。


 家の裏手でヒラヒラ風に揺れるシャツとパンツが目に入った。

 きっと彼女のものだろう。しまい忘れてると後で伝えといてやろう。


 うん?あれ、これ不味くない?


 後ろから、バンと勢いよく扉が開かれ焦った様子の彼女と目が合う。

 あ、ですよね。


「おいアンタ、洗濯物を仕舞い忘れてるぞ。」


 先程考えていたことを実行に移す。

 善は急げって言うしね。


 パーンと乾いた音が響き、不可抗力だろと怒りたかったが、顔を赤く染め、涙目の彼女圧に負け黙る。彼女は洗濯物を胸に隠すように抱え、バンとまた勢いよくドアを鳴らし、家へと引きこもる。


 急がば回れだったかと、平手打ちされ、紅葉マークを残す頬を冷やすためにも、俺は井戸へと向かうのであった。


お読みいただきありがとうございました。

村パートが多いと感じたので、話を進めるために2話連続で投稿させて頂きました。

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