3.22章
お待たせしました。
3.22章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「じゃあ、ハートが先導するからしっかりついてきてね〜。」
「おう、頼んだぜ。」
「了解ですわ。」
私は今、ラビから怪盗となったハートさんと、ドグから怪盗となったダイヤさんと共に『笑勝商会』本店舗内へ潜入している。
「今回の目当てのお宝は地下にあるんだよ〜、みんな考えることは一緒だよね〜。」
「お陰で探す手間が省けていいじゃないか。」
「しっ、しーですわ。」
人差し指を立てて、お気楽な2人に声の音量を下げてと身振り手振りをする。
隠密行動厳守だというのに、まるで自分の家のように振る舞うとはどういうことか。
「大丈夫だよ、ハートがのんびりしてる限り、危ないことはなんもねえって。」
ダイヤさんはそう言うが、不安なのも理解してほしい。
一歩、一歩進むのに、足音を鳴らさないようにと気を使ってしまい。
少し進むだけでも足がやたら疲れる。
「ナインちゃんだいじょ〜ぶ?」
ハートが私のクック改め、怪盗名ナインの名を呼び心配してくれる。
「大丈夫ですわ。2人はどうして平気なのですわ。」
体の方はまだ大丈夫だけど、でも、この緊張感に対処する方法は是非とも教えてほしい。
「うーん、ずっと長い間やってるからかな〜。最早達人並みの実力でもあるぜ〜。」
「要は何でも慣れってことだよ。」
「正直、慣れたくはありませんですわ…。」
こんな、緊張感を続けていたら慣れる前に胃に穴が開いてしまいそうだ。
胃のあたりに手を当てて呻く。
「じゃあ、ちょっと静かにしてね〜、見張りをパパッと倒しちゃうから。」
「ナインとアタシは隠れて待機だな。」
「1人で大丈夫なのですわ。」
自分が行ったところで役には立たないが、つい聞いてしまう。
「ふっふっふ〜、見てれば分かるって〜。じゃあダイヤ、いつもので行くからよろしく〜。」
ダイヤさんと謎のやり取りをすると、ハートさんは足を一度畳んで、一気に伸ばし跳躍すると見張りを飛び越え、音もなく着地し見張りの後ろへと後ろに位置する。
見張りはハートさんに全く気づいていないのか、暇そうに欠伸をしている。
そして、ハートさんは見張りの上半身へ飛びかかり、上腕と前腕で首を挟み込み万力のようにキリキリと締め上げて行く。
そして、見張りは突然糸が切れたかのようにふっと力が抜け、藻搔いていた腕がダランと下がる。
「いっちょ上がり〜。」
あっさりと、しかも静かに見張りを倒したハートさんはこちらにVサインを送る。
「な、大丈夫だったろ。」
「今の技、初めて見ましたですわ。」
「絞め技って言うんだって〜、武器抜いてない相手をやるならこれおぼえろって、エースに沢山教えられたんだ〜。」
近づいて来たハートさんが教えてくれる。
初めて見る技に驚いたのもそうだが、ハートさんは隠密魔法しか使えないのに見張りを倒してみせたのだ。
「逆に素手で構えてる奴はらは、大概身体強化魔法持ちだからアタシの出番だけどな。」
「そういえば、ダイヤさんの魔法を知りませんですわ。」
「アタシかい?アタシの魔法はこれだ。」
ダイヤさんは手を見せると、その手に魔法の光が宿り、魔法によって作り出された『爪』が指を覆う。
「アタシの魔法は『爪撃魔法』ってんだ。」
「初めて見る魔法ですわ。」
「この魔法は人族よりも獣人の方が使える奴が多いからな。」
種族による魔法の差、種族によって習得出来る魔法に偏りがあると実家でならった気がする。
強くなるために勉強したことを今更ながら思い出し、少し懐かしく感じる。
「も〜、2人とも話し込んでると置いて行っちゃうよ〜。」
倒した見張りを隠したハートさんは既に扉の前に立っている。
「おう、今行く。」
「ですわ。」
再び先導するハートさんの後をついて行き、やたらに広い地下への階段を下って行く。
足元が殆ど見えないので、ダイヤさんに手を握ってもらっている。
何でも2人は夜目が利くらしいので、この暗さでも問題が無いと言う。
「足を引っ張ってばかりで申し訳ないですわ…。」
「適材適所って言うだろ、気にすんなよ。」
「二人とも、そろそろ下に着くから静かにね〜。」
ハートさんの言葉に口を引き締める。
「ああ、さっきから酷い臭いがすると思ったら、もうそんなに進んでたのか。アタシの鼻でもここまで臭いとなぁ…。」
私には分からないけれど、ダイヤさんは鼻が良いのか鼻をこする。
階段の終わりに近づくと、ダイヤさんは即席で松明を作り上げ、辺りを照らす。
地下には酸っぱい臭いと獣の臭いが充満している。
そして、松明の照らされる地下の両脇には幾つもの檻が左右にズラリと並んでいる。
松明の炎だけでは暗くてよく分からず、私は中を確かめて見ようと近づこうとすると、ダイヤさんに手を引っ張られ止められた。
「やめときな。」
「一体、何がいるのですわ。」
「魔物だ。幸い眠らされているみたいだから、起こしたくない。」
「魔物っ…、何でこんな所にですわ。」
「さぁね。イかれた奴らの考えなんて、考える方が馬鹿らしいよ。」
考えたくもないといった風に質問を流し、奥へと進んで行く。
「ここみたいだね〜。」
私たちが着いたのは、一番奥の檻で檻の中には約30人くらいの色々な種族の人たちが、老若男女に関係なく囚われている。
どの人も手枷と足枷を嵌められ、力なく転がっており、とてもではないけど生きていると表現するには不十分に思えた。
「どうしよっか〜、動けるくらいには元気があること期待してたんだけどね〜。」
「1人、2人くらいなら担いでも良かったんだけど、想像以上に酷いな。動けそうなのは半分くらいか。」
「取り敢えず、1人だけでも起こして見ましょうですわ。」
「そうだね〜、ハートは鍵がないか探してみるよ〜。」
ここで立ち止まっていても仕方ない。
せめて、動ける人を探すべきと判断した私は檻の隙間から手を伸ばし、背を揺すってみる。
「う゛っ…、うぅ……。」
男の視線がこちらに向き、私の顔を見るると起き上がろうとする。
「しー、静かにそのままですわ。」
そういうと、男は動きを止めた。
「貴方の名前をお聞かせ願えますかですわ。」
まず、初歩的な会話を試みて、相手の状況を測っていこうと考えた。
しかし、男は答えずに首の辺りを指差すだけだ。
首の辺りに目を凝らすと、ハートさんが助け出してきた女の子と同じ、奴隷魔法の紋様が刻み込まれている。
「喋るなとでも命令されてるのかもしれないな。」
ダイヤさんの声が聞こえたのか、ふんふんと男は必死に首を振っている。
「アンタは動けるか。」
そう聞くと、再び首を縦に振る。
「分かった、状況は理解した。少し待ってろ。」
「ダイヤちゃん、鍵は見つからなかったよ〜。多分、地下じゃなくて別の場所だと思うな〜。」
「チッ、音は立てたくなかったんだけどな。取り敢えず、一旦戻って見つけたとクローバーに連絡だ。あとは騒ぎを待って、それに乗じて鍵をぶっ壊す。」
「それしか無いかなぁ〜、じゃあ、ハートが連絡をするから、2人はここで待っててね〜。」
それだけ言うと、ハートは闇の中へ消えていった。
「アタシたちは出来るだけ静かにコイツらを起こしてくぞ。動けるかどうかも起こしたら聞いていけ。」
「はいですわ。」
「最悪、ここを往復するかもしれねぇ、かなり危険だから覚悟しときな。」
「ふふっ、今更ですわ。」
「はぁ、全くアンタらは本当に頼もしいよ。」
私たちは合図を貰ってハートさんが戻るまでの間、檻に囚われた人たちを次々に起こしてくいくのであった。
お読み頂きありがとうございました。




