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3.21章

お待たせしました。

3.21章の投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「いよいよだな。」


「ですわ。」


 俺たちは『テラサイド』のアジトとして使われている場所。

 ウエロの街一番の商会、『笑勝商会』の本店付近の使われていない民家に潜んでいる。


 しかし、笑勝商会か、善人がつけた名前なら良い名前と感じるのだろう。

 だが、悪人がつけたとなれば、このネーミングセンスは悪意に溢れ過ぎている。


 店の作りは、事前に把握している情報だと、表通りの通路に面している場所が接客用スペースで、その裏が社員等の宿泊施設、そして、地下に謎の空間があり恐らくは地下牢などが設置されてると推測している。


 そのほかに、見える限りで特筆することがあるとすれば、店の周りには正面以外に民家や店舗は無く、馬車や荷物などの搬入のためなのか、かなり広く陣取られているという事くらいだろうか。


「準備は万端だよな。」


「1週間、私がどれだけ修行してきたと思っているのですわ。」


「いや、ずっと料理してただけだけどな。」


 確かに修行と言えば修行なのだろうが、どうしてだろう納得がいかない。

 この修行は多分別の時に行う修行だと思うんだ。


 因みに残飯処理係をやらされた所為でちょっと太ったのは皆んなには内緒だよ。

 …本当に少しだけだからな。


「挨拶は済んだかね。では、予定通り、これから戦闘隊と隠密隊、二手に分かれて行動となる。」


 今回の作戦はこうだ。

 まず最初にクック、ドグ、ラビの3人が本店地下に潜入し、囚われてる人たちを見つけ出す。


 次に、バドが上空からそれを確認して俺たちに伝える。


 クックたちの脱出の手筈が整ったら、今度は俺たちが宿舎の方へ潜入し秘密裏にダフブスを捉える。


 俺たちがダフブスを捉えたら、バドがそれをクックたちに伝え、花火で開幕を伝えると、俺たちは騒ぎを起こし、クックたちはそれに便乗して捕まってる人たちを逃して行く。


 俺たちはクックたちが逃げ切るまで戦闘を続け、クックたち逃げ切った所で俺たちもずらかるという算段だ。


 副次的な目標で正体の割れていない、首魁を捉えれば良いのだが、囚われ人たちの安全が優先なので、主目標からは除いている。


 優先順に並べると、第1目標に囚われ人たちの安全の確保。

 第2目標にダフブスの捕縛。

 副目標として、首魁の討伐となる。


「だがその前に、団員たちにはワタシからこれを渡しておこう。紐魔法、『運命の(ディスティニー)赤い糸(レッド)』。」


 ミサンガのように編まれた赤い糸を、エースを除いた人数分出現させると、全員に手渡して行く。


「これはなんだ。」


「団員たちの位置を感じ取るだけの魔法だ。手首にでも巻いておきたまえ。」


 本当に便利な魔法だな。

 実は勇者最弱は俺じゃないのか。

 いや、大丈夫、まだあの人がいるからな。


「私は団員じゃない。」


「でもでも〜、パパラチアちゃんはもう団員みたいなもんだよ〜。この1週間で一緒に遊んだじゃな〜い。」


 団員と聞き自分は違うとパパラチアが否定するが、ラビは身内判定を下し仲間だと言い張る。


 というか、俺たちが修行してる間に、いつのまにかパパラチアと仲良くなっているとは、ラビはコミュ力の化け物だと思う。


「そうなの?」


「そういうモンなんだよ。1週間も一緒に居りゃ家族同然さ。」


 ドグがラビの言葉を得意げに肯定する。

 ラビやバドが種族も違うのに姉と慕うのにはこういった理由があるからかも知れないな。

 なんとなくドグの性格が今更になって分かった気がする。


「あの…、パパラチアちゃん…は、楽しく…無かったの…?」


「楽しかった。…多分。」


 おずおずと躊躇いながらバドが質問すると、パパラチアははっきりと分からないといった様子で答える。


「…良かった。」


 その答えに満足したのか、ホッと胸を撫で下ろしバドは微笑む。


「友達が出来て良かったなぁ。バド。」


「お姉ちゃんたちは嬉しいぞ〜。」


「もっ…、もうやめてってばぁ。恥ずかしいよぉ。」


 ドグとラビは顔を赤く染めるバドの頭を2人して撫でまわす。


 そういえば、バドとパパラチアは同年代くらいか。

 上の姉は2人とも年が離れているので、友達と呼べる存在がいなかったのだろうな。


 ひとしきりバドを撫でまわして満足したのか、ドグはバドから手を離し、スイッチを切り替えたのか真面目な表情を作る。

 打って変わって、ラビは相変わらずの表情だが。


「じゃ、行ってくる。」


「チャチャっと済ませちゃうから、ちょっと待っててね〜。」


「任せて下さい、必ず成功させますですわ。」


 怪盗になった、ダイヤとハートが新たな怪盗仲間、クック改めナインを連れ、店舗へと忍び込んで行く。


「あの…、私もそろそろ…、行き…ます。」


「クローバー、君なら大丈夫だ。いつも通りの成果を期待している。」


「…はいっ。」


 エースの言葉を聞いたクローバーは持ち場である上空へと飛んで行った。


「頼んだぞ、みんな。」


 祈ることしか出来ない自分が歯痒い。


「それぞれにはそれぞれの役割があるのだ。全てを掴もうなどと考えるのは傲慢というものだ。」


「分かってる。」


 俺の気持ちを察したエースが俺を諭す。


「では、祈るのではなく信じろ。仲間を信じて、(きた)るべき時を待て。ワタシたちは既に祈る立場にはいない。」


 エースの言葉には覚悟の重さを感じた。

 彼は既に自分の立場を受け入れ、その道を彼なりの歩幅で、彼なりの歩き方で歩んでいるのだ。


「そうだな、そういえば俺たちは勇者だったもんな。」


「そうだとも。」


 ならば、祈るのはやめだ。

 信じて待って。必ず救う。必ず成し遂げる。


「ふっ、いい表情をする。それでこそ勇者だ。」


 大丈夫、クックたちなら必ずやり遂げる。

 そう信じ、俺はクックの合図を待つのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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