3.20章
お待たせしました。
3.20章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「やぁ、お帰り少年少女諸君。」
秘密基地に挨拶に戻ると部屋の真ん中で、何故かエースになったバクさんが、椅子に座ってラスボス風に待ち構えていた。
「何やってんだアンタ。」
バクさんのノリに合わせるのも面倒なのでド直球に質問を投げる。
「すまない少年。質問があるのは後ろの青い少女だ。」
パパラチアに質問?
そもそも、エースとパパラチアは今が初対面だったはずだ。
「そうだな、回りくどいのは実にワタシの好みなのだが、今は時間が惜しい。ワタシも単刀直入に質問するとしよう。」
いや、今の発言で充分回りくどいのだが、エースに自覚は無いのだろうか。
このノリも胡散臭いノリもどちらも面倒なのでさっさと言って欲しい。
「青い少女よ、『テラサイド』という組織に所属しているのだろう。」
「ん。」
パパラチアが肯定した次の瞬間、エースはパパラチアの後ろに空間跳躍魔法で移動し、両手にロープを持って襲い掛かる。
「「なっ⁉︎」」
俺とクックは反応出来ず、声を上げることしか出来なかった。
だが、パパラチアは慌てることなく、前に転がりながら飛び退きナイフを抜く。
抜かれたナイフを警戒したバクさんは、ナイフを奪おうとロープを伸ばす。
「寸々に殺す《ミンチキル》」
だが、パパラチアがナイフを振るとロープは一瞬のうちに細切れになり、ロープを排除したパパラチアはクラウチングスタートのような姿勢になる。
「早々と殺す」
バゴッと床を踏み抜いた後だけが残り、パパラチアの姿が瞬時に消える。
パパラチアとそのナイフは、驚くべきことにエースの拳によって止められていた。
ナイフを食い込ませようとパパラチアは強く押し込むが、エースの手袋に傷一つつけられない。
「なんで。」
「答えると思うかね。」
そう言ったエースの手袋が手首から解れ、『紐』と化しパパラチアを拘束しようと迫る。
だが、パパラチア直ぐに迫る紐をナイフで払い距離を開ける。
ゼロだった両者の間に再び短い距離が生まれる。
「ストップッ、ストップだっ!」
戦闘が様子見に移ったのを感じた俺は2人の間に割り込んで止めに入る。
思考が追いつかない『テラサイド』といえば、今バクさんが追ってる組織の名前だったか。
そして、パパラチアはその組織に所属しているだと。
「エース、一体どういうつもりなんだ。」
「簡単なことさ少年。そこの青い少女は『テラサイド』に所属し、無辜の民草を大量に殺している。それだけの説明では不足かね。」
「はっ?嘘だよな。」
言ってる意味が理解出来ない。
いや、理解したくない。
だって、こんな小さな女の子だぞ。
昼になったら昼寝して、食べるのが好きで、食いしん坊な普通の女の子だぞ。
確かに討伐依頼として、人を請け負ってたかもしれないが、それでも信じたくない。
「殺した。」
だが、俺の希望を打ち砕くような、冷たい声が心胆を冷やす。
「少年、退きたまえ。その少女は貴重な情報源だ。」
「待ってくれ、説得なら俺にやらせてくれ。『テラサイド』の情報を聞けば良いんだろ。」
「……ふむ、良かろう。ただし、ここでだ。」
全くこちらを信用してないという訳では無いのか、エースは俺に役割を任せてくれた。
ここで間違えるわけにはいかないと、俺は慎重に言葉を選んでいく。
「パパラチア、『テラサイド』には今も所属しているのか。」
「不明、けれど、組織は私の討伐を命じている。」
それはもう所属していないと同義に捉えることが出来る。
「追われてるという事は組織から逃げて来たのか。」
「そう。」
「それはどれくらい前の話だ。」
「3年位前。」
だとすると、10歳くらいまでは人殺しをやっていたことになる。
そこから冒険者を始めて、3年で白金冒険者に上り詰めるのにどれだけ人を殺しているというのだ。
想像するだけでも悍ましい。
「じゃあ、ここ最近の組織の動きは知らないのか。」
「最近まで何度か襲撃に会った。それ以外は知らない。」
やはり、情報という情報は得られない。
「せめて、リーダーの名前と顔は分かるか。」
「………分からない。」
顔を蹙めたパパラチアは少し間を空けてから、結局分からないと答えた。
「また、分からないか。」
黙って聞いていたエースが途中から割り込んで来た。
そういえば、エースの今の発言で思い出したのだが、フレールの時も同じように「分からない」と答えていた覚えがある。
「知らない」ではなく、「分からない」と答えるのは何故なのか。
「青い少女よ、君はどういった理由でいつから組織に所属していたのだ。」
パパラチアとフレール、2人の受け答えに疑問に思っていると、エースが代わりに質問を続け始めた。
「5歳の時。私の魔法を知った両親は私を捨てた。代わりに組織が拾った。」
「そんなのって…、余りにも酷過ぎますですわ…。」
そんなクックの呟きに構わず、エースは質問を続ける。
「君を拾った人物の顔と名前は分かるか。」
「……分からない。」
パパラチアはまた分からないと答える。
「最後の質問だ青い少女、組織に戻る気はあるかのか。」
空気に緊張感が走る。
パパラチアが戻ると選択をした時、俺は彼女と戦えるのだろうか。
「………どうしたら良い。」
ズコッとその場の重かった空気が転けて霧散していく。
「なぁ、エース。もう良いんじゃないか。」
俺にはとてもパパラチアがもう一度『テラサイド』に所属する意思があるようには見えない。
「良かろう、少女よ職業柄とは言え、疑ぐりの目と武器を向けたこと深く謝罪しよう。」
エースは深々と頭を下げ、謝罪の意を表する。
だが、いまいち理解が及ばないパパラチアは首を傾げるだけだ。
「エースはもう敵対する気は無いってことだよ。」
なので、パパラチアに捕捉してやると、やっと理解したのかコクンと頷く。
「さて、トラブル少しあったが、本題に移ろうか少年少女。」
唐突に襲い掛かったからトラブルになったんだけどな。
だが、言わぬが花という奴だ。
なんとか殺伐な雰囲気が散ってくれたのだ。もう深くは追求しない。
「1週間後ワタシは『テラサイド』を潰しに向かう。付いて来る気はあるか。」
「ある。」
俺は即答する。
仮にパパラチアと同じレベルの敵がいるなら、エースはそいつに掛り切りになるだろう。
その間、他の敵の梅雨払い位は出来る自信がある。
「私も行く。」
「ダメだ、待ってろ。」
ここでコイツが一緒に来たところで事態がややこしくなるだけだ。
「青い少女よ、ダフブスという男の顔を知っているか。」
「ん。」
「ふむ、敵を捉えて聞き出す手間が省けるな。良かろう、ワタシと共に来い。」
「おい。」
酷い手のひら返しを見た。
確かにメリットのある話ではあるのだが、先程までのシリアスなやり取りはなんだったんだ。
「少女よ、君はラビたちと行動をともにしてくれるか。」
「私の魔法で人の相手は無理ですわ。」
「それはラビも一緒だ。君とドグたちには捕まっている人の保護を頼みたい。」
「そういう事でしたらお手伝い出来ますですわ。」
「これで全てが決まった。怪盗を行うのは1週間後。盗む物は、街に潜む『悪』だ。」
エースがそれだけ告げると、今晩は解散となった。
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