3.16章
お待たせしました。
3.16章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「来ねぇ〜なぁ〜。」
俺は牧舎の屋根に寝っ転がり伸びをする。
余りにも暇なので、ふぁとあくびまで漏れる始末だ。
太陽は中天に登り、時間が昼頃だと教えてくれる。
「ミーティスさん、そろそろ家畜を牧舎に戻してくれ。」
午前中までという約束だったので、とりあえず家畜を屋根の下へ戻してもらうことにする。
「分かったよ。」
ミーティスさんの間延びした声が屋根の上まで届く。
なんかずっとこうしてたいな。
日差しが気持ちよすぎて眠くなる。
そんなことを考えてると、良い匂いが下から漂い始め俺に声がかかる。
「昼食を持ってきましたですわ〜。」
俺はその声を聞くと待ってましたと立ち上がり、屋根から飛び降りる。
「ありがとうクック。」
皿に目を向けると、昨日食べられなかった肉が載っていた。
「おおーっ、肉だっ。」
焼かれて香ばしい匂いを放つ肉に思わず喉が鳴る。
昨日はお預けだったからな。
「パパラチアはどうしてるんだ。」
決してサボっていたわけではなく空をずっと監視していたので、下の様子を殆ど知らないので聞いてみる。
「パパラチアさんならお昼寝中ですわ。」
「子どもかっ。」
いや、そういえば子供だったな。
こっちは真面目に見えるようにサボっていたというのに、まさか俺を超えるサボリ魔が現れるとは思わなかった。
「せっかくですわ、パパラチアさんも呼んで3人で食べましょうですわ。」
クックは思い付くと直ぐに行動に移し、俺にトレーを預けると家の中にかけていった。
場所取りだけでもしとくか。
俺はトレーを持って農場内を彷徨い始める。
すると、丁度良い日陰を作りポツンと立つ、傘の広い一本の木を見つけたのでその木の根へ腰を下ろす。
ここからならミーティスさんの家からも見えるし丁度良いだろう。
視線を玄関へと向けていると丁度、クックたちが出てきたところで手を振っている。
「あいつあんなキャラだったか。」
疑問に思いつつも俺も手を振る。
凄くこっぱずかしいなこれ。
だが、手を振り返したというのにクックは更に大きく手を振る。
一体何が不満なんだ。
ん、何か言ってるのか、声が聞こえる。
「上ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
「うえ?」
視線を上に向けると真っ直ぐに軌道を描いたアルゲンホークが垂直落下してこちらに向かって来ている。
「うおわぁっ⁉︎」
俺は咄嗟に木の根元へダイブし体を隠す。
だが、元から狙いは俺では無かったようだ。
皿に乗せられた肉が拐われる。
「なんでだあ゛ぁぁぁぁぁぁ。」
アルゲンホークは奪取した俺の肉を空中で一度離すと、落下しはじめた肉を器用に口でキャッチ。
ゴクン。
「俺の肉ぅぅぅぅぅぅっ。」
地面に膝をつき項垂れることしか出来ない俺を嘲笑うかのように、アルゲンホークは空中を旋回し続ける。
「ふふ、ふはははははははは。もう怒った。絶対許してやんねぇかんな。」
どこかの怪盗張りに笑い狂ったあと、決して伝わる事の無い無意味な宣言をし、触手魔法を発動させると、木の幹くらい太い触手を顕現させ、その触手をグイグイとしならせ、限界までしなった触手の先端を左手で掴む。
要は触手スリリングショットの発想と一緒なのだが、今回の標的は真上。
そう名付けるならば、
「触手ロケットっ!」
懐かしきクソダサネーミングセンスから放たれるのは己自身。
弾丸と化した自分が真っ直ぐアルゲンホークへと突き進む。
そして直撃する瞬間。
アルゲンホークはくいっと翼を傾けて急旋回する。
「避けられただとっ。」
「馬鹿ですのですわっ。」
聞こえないはずのクックの声が聞こえる気がする。
そして、気づく。
当たるのが前提の技なので着地方法を考えていなかった事を。
「しまったぁぁぁぁぁ。」
「本当に馬鹿ですのですわぁぁぁっ。」
このまま落下し始めたら背中からあの銀製の爪に裂かれる。
瞬時に判断し、もう此方を見ていないアルゲンホークのがら空きの背中を狙い触手を伸ばす。
寸分違わず背中に触手をアルゲンホークの首へ絡ませた俺は触手を手繰り寄せ、背中へ張り付く。
アルゲンホークはそれを嫌がり、何度も俺を振り落そうとするが、流石は俺の触手、その程度のGではビクともしない。
だが、その頑丈な触手と反して本体はとても脆い。
何度も急降下や旋回を繰り返すうちに空っぽの胃を揺さ振れ酔い始める。
「うえっぷ…、きもぢわるい…。」
アルゲンホークは再び地面スレスレへと急降下し、急上昇するタイミングで堪らず転がり落ちる。
「うぇ、世界が揺れてる。」
三半規管をぐちゃぐちゃされ、足元がおぼつかず千鳥足となる。
「しっかりして下さいですわ。」
鬼か。
「まだ来る。」
パパラチアが空を見上げ呟く。
しつこ過ぎる。
執念深いにも程があるだろ。
一体何があいつをそこまでさせるんだ
パパラチアたちの方へ視線を向ける。
その手に持たれるのは武器ではなく皿。
「あげない。」
「いや、欲しがってねぇよ。狙ってんのはあっちだ。」
アルゲンホークのいる上空を指差す。
だが、罠には使えるかもしれない。
「パパラチア、その肉…「断る。」
「はえーよ、まだ言い切ってねぇよ。」
だが、この様子だと言ったところで無駄か。
仕方ない。ならば、もう1人を当たるか。
「クック「お断りですわ。」
「だから早いって、それとクックの為の依頼でもあるんだから協力しろよ。」
「ぐぅ…ですわ。」
渋々クックは肉の乗った皿を俺に明け渡して来た。
俺はその皿を持って牧舎の屋根に上がり、敢えて目立つ様に置いてみせる。
チャンスは一回。
だが、今回は本気を出すと決めたのだ。
俺の新しい触手魔法のレパートリーを見せる時が来た。
アフゲンホークはまだ容易に奪えると考えでもしているのか、あまりにも堂々と設置された肉に疑問を抱くことなく、急降下の態勢を整える。
「まだだ。」
狙うのは一番減速して、逃げづらいタイミング。
急速落下するアルゲンホークは銀の翼を広げ減速に入る。
そして、肉を攫うために減速しきった。
「今っ、必殺捕縛、ヴァンパイア・スクウィッド・テンタクルッ!」
直訳すると吸血鬼イカの触手。
先ほどの触手ロケットといい、どうしてもダサくなるのは、最早触手魔法の宿命であろう。
肉の乗った皿を中心に薄い膜の張った触手が蕾が開花するように伸び、その花弁が銀の鷹へとかぶりつく。
それに気づいたアルゲンホークは急上昇を試みるも、時は既に遅くその下半身は触手に飲み込まれる。
捕食する側からされる側へ回ったアルゲンホークは悲鳴のような鳴き声を上げながら、その翼をバサバサと暴れさせる。
「ふっふっふ、そいつの吸盤は特別製だぜ。」
腕を組み、指をチッチッチとメトロノームのようにリズム良く揺らしドヤ顔を決める。
なにせ、この触手には吸盤では無く、代わりに針が付いているのだ。
ヴァンパイアスクイード、和名はコウモリダコというタコかイカかハッキリしない名前だが、生物学的にはイカらしい。
そんなどうでも良いことは置いておいて、そのコウモリダコの触手には吸盤の代わりに針が並んでいるという事だ。
つまり暴れるほどに、その針は食い込み体力を奪って行き、余計に脱出し辛くなるという事だ。
だが、このまま弱るのを見る趣味は無いので、いつものように魔物の首に向かって触手を伸ばす。
「モォォォォォォッ。」「プギィィィィィィッ。」「コッコッコッコケェェェッ。」
先程まで静かであった動物たちが突然何かに怯えるように騒ぎ出す。
「えっ何だ、どうしたんだ一体?」
「上。」
いつのまにか、横に立っていたパパラチアが呟く。
見上げると、其処には『黄金』が空を支配していた。
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