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3.15章

お待たせしました。

3.15章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「お待たせしましたですわ。」


 すっかりいつもの様子に戻ったクックはご機嫌に料理を振る舞う。


 クックは強くなりたいから料理すると言っているが、クック自身も気づいてないのだろうけど、料理魔法の為ってわけじゃなくて、単純に料理を振る舞うのは好きって部分もあるのかもしれないな。


 夕食のテーブルには野菜に彩られタレのかかった肉とスープが並び、隣に木製コップに注がれたミルクがある。


「わぁ、凄く美味しそうだよ。」


「そうさね、良い腕してるねアンタ。」


 匂いに釣られてやって来た、パパラチアも席に着き夕食が始まる。


「「頂きます」ですわ。」


 俺の行動にパパラチアが首を傾げる。


「命に感謝するというオーパスの国の文化ですわ。パパラチアさんも真似すると良いのですわ。」


「頂きます。」


 パパラチアはあまり分からないといった様子であったが、疑問を抱かずに言葉を述べスプーンを手に取る。


 パパラチアがスープの一口目を口に運ぶと、目がカッと開き獣人特有の尻尾がピンッと真っ直ぐに立つ。


「お口に会いませんでしたかですわ。」


 硬直したまま動かないパパラチアに不安げにクックが聞く。


「凄く美味。」


「うん、凄く美味しいよ。こんなに美味しい料理を食べるのは初めてだよ。」


「絶品だねこりゃ、長年料理して来て自信あったんだけどねぇ。これには勝てないねぇ。」


「お褒めに預かり光栄ですわ。」


 先ほどの不安げな表情から一転、クックは胸を張りふふんと鼻を鳴らす。

 ぼんやりクックを見ていると、まだ一言も喋っていない俺と視線が合う。


 クックの目の中に『もっと褒めて』と文字が浮かんですら見える。


「はいはい、美味いよ。」


「はい、当然ですわ。」


 おー、どんどんと鼻が高くなってくな。天井突き破るんじゃないか。


「ほら、クック冷めるぞ。」


「はい、改めて頂きますですわ…って、私の分のお肉がありませんですわっ⁈」


 クックは冷めるどころか消えていた料理に悲鳴をあげる。


「美味しかった。」


 パパラチアが一言。


「良くやった。パパラチア。」


「パパラチアさんを褒めないで下さいですわっ。パパラチアさんも人の分まで食べてはダメなのですわ。」


 クックはパパラチアをなるべく優しく諭すように指摘する。


「いらないのかと思った。」


「クックが早く食べないからだぞ。」


「ぐぅ…ですわ。」


 自分より小さい子に強く出れないのかクックが押し黙る。


「はぁ、しょうがないな。」


 ため息を吐くと俺は肉をナイフで半分切り分け始めた。

 クックの目と表情がパァッと明るくなる。


「パパラチア、腹減ってんだろ。半分やるよ。」


「そこは私にくれるのではないのですわ⁈」


「冗談だって、冗談。」


 反応が面白いと言うのと、高くなった鼻をへし折ってやりたいと言う悪戯心でついついからかってしまった。

 明日は戦闘になるはずだ。

 食っておかねばクックも力は出ないだろう。


「ん、頂く。」


 俺がクックに皿を渡す前にパパラチアがフォークで肉を掻っ攫う。

 クックの表情から花が散った。


「す、すまんクック。」


「…。」


「そうカリカリすんなよな?ほらミルクでも飲んで落ち着けよ。」


 怒りっぽいのはカルシウム不足だからと言うしな。

 スッと、クックの手元にミルクが注がれたコップを近づける。


 ガッ、ゴクゴクゴク。ぷはぁ。


 勧められたミルクを勢いに任せて飲みきるとこちらに視線を向ける。


「まだ、お肉、ありますよねですわ。」


「えっ、いや、これ俺の分…。」


「パパラチアさんにお肉を恵んでくれる、銀色冒険者で冒険者として先輩である、慈悲深ーいオーパスさんなら私にも勿論分けて下さいますよねですわ。」


 クックは言葉をつらつらと並べ、断り辛い雰囲気を作っていく。


 人生初のカツアゲがまさかお肉だとは思わなかった。


 結局、肉はクックに明け渡し、食べ足りない分は多めに作られたスープで我慢する羽目になった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「賑やかで良いねぇ。」


 イーラさんはお腹をさすりながら呟く。


「そうだね。」


 ミーティスさんはイーラさんの手にそっと手を重ねる。

 きっと、2人の見ているものは来るべき未来への情景なのだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺だけ肉抜きの夕食が終わり、明日に備えてさっさと寝るという話になった。


「私とパパラチアさんはベットでオクトは床、それで構いませんねですわ。」


「それで構わない。」


「俺もだ。」


「オクト、貴方の意見は聞いてませんですわ。」


「なんでだよっ。」


 意見くらいいいだろうが。

 今更意見を覆してベットを寄越せなど言う気はさらさらないが、当たりが強すぎないか。

 クックはもう少し俺に優しくしてもていいと思う。特は一文も無いけどな。


 俺は床、残り2人はベットと決まってしまったが、幸いなことにこれだけでもと、終始ベットが無いことを気にしていたミーティスさんたちから毛布が貸し出されたので、寒さに凍えることは無い。


 それに明日は朝から張り込む予定だ。

 何でも、ここ最近外に出して上げられなかった家畜たちを午前中だけでも外へ出して上げたいとのこと。


 午前中にやって来るかは分からないが、そういうことなら協力すると言ってあるのだ。

 寝坊するわけにはいかない。

 そういうこともあり、早く寝るつもりだった。


「はぁ、まぁ良いや。もう蝋燭も消すからな。」


「はいですわ。」

「ん。」


 了承が得られたので、蝋燭の火を吹き消す。


 スッと部屋の中に闇が忍び込むが、月明かりが部屋の中を照らしいていることに気づく。


「窓開いてたのか。」


 せっかく潜った毛布から抜け出し、木窓を閉めに向かう。


「閉めないで。」


 振り返るとパパラチアがこちらを見ていた。


「いや、開けてると冷えるぞ。」


「お願い。」


「…分かった。」


 真っ暗なのが苦手なタイプなのだろうか。

 それとも別の理由か。

 詮索するのは良くないと感覚的に理解し、月明かりのさす部屋で眠りにつくのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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