1.6章
お待たせしました、6話目投稿です。
「貴方自分がなんて言ったか覚えていましてですわ、「村がやばいかもしれない。」キリッですわ。」
凄く平和な村で俺のセリフをリピートし、クスクスと笑い煽る彼女。
ぶっちゃけめちゃくちゃ恥ずかしい。
顔を両手で覆い、俯かせている俺の顔色はきっと真っ赤になっているだろうと簡単に想像できる。
さて、少し時間を遡ろう。
俺はあの後村には急いだ、そして村に来たものの、予想よりも遥かに平和だったのだ。
村に来るまで三回ゴブリンのグループと鉢合わせた時は村はだいぶ切迫した状況かもしれないと更に歩む足を早めたのだが、村につくと、門番をやっていた村人に「ようこそ」と普通に出迎えられた。
ゴブリンのことを聞くと、最近になってよく悪さをしに来るがまだ死人が出ていないとのこと、ゴブリンの一、二匹くらいなら大人が集まれば簡単に追い払えるので、村人たちもそこまで警戒していないとも言っていた。
そんな平和な村で何故、彼女がまた立腹しているかと言うと、ここに来るまでのゴブリンを全て俺が倒したからである。『ゴブリンがまた出ましたわ。一匹は任せてくださいですわ。』と言い包丁を抜き戦闘態勢を整える彼女を無視し、触手魔法を使い速攻でゴブリンを駆除するというやり取りを三回。
そして俺は、彼女に『遊んでる暇は無いんだ。今は人命が優先だ、さっさと行くぞ。』と言い放ったのである。
だが、村に来てみれば俺の予測は大外れ。
俺の行動と発言に完全に拗ねていた彼女は、水を得た魚のように俺を煽って来るのである。
「悪かったから、もうやめてくれ。」
「はぁ、分かりましたですわ。」
一つため息を吐くと、怒っていたくせにやけに素直に矛先を収める彼女。
その態度に俺が不思議に思っていると彼女が口を開く。
「村人の身を案じての行動だったのでしょう。なので多少の暴言は許しますわ。でも、私は決して遊びで冒険に出たわけではありませんですわ。それだけは覚えておいてくださいですわ。」
「うっ…、本当に悪かった。」
大人な対応をとる彼女に俺は素直に謝る。遊びに来たわけではないか、確かに言い過ぎたかもしれない。
「はい、許しますですわ。でもなぜ、ゴブリンが急に村を襲うようになったのか疑問ですわ。人の賑わいがある場所に弱い魔物はあまり寄り付かないと聞きますですわ。」
「ああ、普段ゴブリンは人里から離れた洞窟や洞穴に住むからな。それに魔物は基本は弱い獲物か、数の有利がある時しか強い獲物を狙わないはずだ。」
自分の経験と彼女の知識を擦り合わせるも、ゴブリンが村を襲う答えには至らない。
ゴブリンが出没し始めた理由を考えていると、ヒヒーンと馬の嗎と「誰か助けてくれぇーっ!」という声が聞こえた。
声の方に駆け寄り、俺たちが通ってきた道に目を向けると、10匹はいるゴブリンの群れに追われる馬車が見えた。
あれは流石に村人じゃ手に負えない。
そう思い、俺は馬車に向かって真っ直ぐ駆け出す。
「ちょっと一人で行く気ですの、私も行きますですわ。」
そう言って、俺の後を追走する彼女。
馬車とすれ違いざまに馭者に向かって、「後は任せろ。」そう言うと、ゴブリンとの群れと戦闘を開始した。
俺の急な登場に驚き、足を止めるゴブリン達、そこを好機と触手魔法を発動させ、丸太のように太い触手を顕現させ前方を走っていたゴブリンを纏めて薙ぎ払うと、数は半数までに減っていた。
それだけで不利を悟り足を竦ませるゴブリン達、そして、新たに後ろから現れた彼女を見て少し迷った後、逃走を始める。
そんなゴブリンの一匹に容赦なく一閃。
「判断が遅いですわ。」
そう言いながら、更にもう一匹が彼女の包丁の犠牲となる。
ゴブリンに最善の判断を求めるのは酷だろうと思いつつも、数を減らすこと自体には賛成なので、俺も逃走しはじめたゴブリンの首を触手魔法で捉え締め殺す。
そして、見える範囲のゴブリンが全て生き絶え、その死体の数は13、明らかに数が多い。
俺は少しでも情報が欲しかったので、逃げてきた馭者に状況を聞きに行くことにした。
急ぎ村に戻ると馭者の方から話しかけてきた。どうやら村の入り口付近で俺たちのことを見ていたらしい。
「冒険者様、この度は危ない所を救って頂き有難うございます。私は行商をしている、バイバーと申します。少ないですがこれは救って頂いたお礼です。」
そう言い、バイバーさんは硬貨の入った袋を俺に手渡す。
「ああ、確かに受け取った。」
予想外の収入だが、普通に有難いことと、要る要らないの押し問答を避けるためにも素直に受け取ることにする。
「俺はオーパス、銀の冒険者だ。取り敢えずアンタが無事でよかったよ。」
俺は首に掛けていた銀色のプレートを見せながらそう自己紹介をする。
「貴方、何をもごもご。」
口を滑らせそうになった彼女の口を瞬時に手で塞ぐ。
現在手配中の身の為、冒険者組合には偽名で登録して『オーパス』と登録しているため、その名を名乗る。
因みに銀というのは冒険者の強さを示す目安のようなもので、銅、銀、金、白金と上がり白金が最上位となる。
口を手で塞がれ、抗議の視線をぶつける彼女に「少し静かにしといてくれ」と耳打ちしてから手を離し、バイバーさんに気になっていことを質問する。
「それでだ、どうしてアンタはあんな数のゴブリンに追われていたんだ。」
「はい、私も最初は二匹のゴブリンに追われていて、いつも通り簡単に振り払うつもりでした。しかし、振り払おうと走ってるうちに色々な方向から一匹、また一匹と増えて行き、ゴブリンを避けてるうちに馬も疲労が溜まり、徐々にスピードを落としていき、気づいたらあんな数に追われていたのです。」
「ゴブリンが出ると知っていてなぜ護衛をつけなかったんだ。」
「すみません、普段はゴブリンが出てもはぐれが出るくらいで比較的安全なルートだったので。」
バイバーさんはそう答える。これだけゴブリンが出るルートを比較的安全とは言わないだろう。
最近よく村に出没するようになったと言う話も含めて、いよいよきな臭くなってきたと思い始める。
「まぁ、分かったよ。情報ありがとう。今度からはちゃんと護衛をつけることをお勧めするよ。」
「はい、肝に命じておきます。」
そう言い、お互いに分かれる。
「おい、行くぞ。」
俺とバイバーさんの会話を黙って聞いていた彼女に向かって言う。
「どこにですわ。」
「今晩の宿探しだよ。」
村に着いてすぐにまた戦闘があったので、ようやく腰を落ち着けることができる。
この世界に来てから約一年、相当な場数を踏んで来た俺のレベルは恐らく相当高く、身体能力もだいぶ転移時と違い強化され頑丈になっている実感はあるが、疲れるものは疲れるのだ。
しかも、一晩寝てないまま戦闘というのもあり、一刻も早く宿を探し寝たかった。
「ゴブリンの件は大丈夫ですの?」
「多分大丈夫だろ。それに戦うなら戦うで、眠気を取っておきたいしな。」
「あっ、そういえば後もう一つ気になることがありますわ。バイバーさんにオーパスと名乗ったのはどうしてですわ。」
「手配書が回ってるからな、冒険者組合には偽名で登録したんだ。」
「そういえばそうでしたわ。それで偽名…、成る程、納得しましたですわ。」
彼女の納得が得られたあと、直ぐに俺は門番に宿を借りれないかと聞くと「それなら村長に聞くといい」村長宅へ案内され、村長に空き家か部屋が余ってないかと聞くと、この前、都心部へ引越した夫婦の家が空き家になったままで家財道具も残っていると言うので、それを借りることにした。
村長宅で話していると、後からさっき別れたバイバーさんがやってきた。
別れた後にすぐ再会ってなんか気不味いよね。
バイバーさんに理由を聞くと、商売ついでに村長宅に止まるらしい、実に商魂逞しい。
そして、なんやかんやあって今は件の空き家のリビングにいる。
いざ腰を落ち着けてみると、腹が空腹を訴えるように音を立てる。
「腹減ったなぁ〜。」
そう唸る俺は椅子に座り、机に突っ伏している。
腹は減ったが、もうこれ以上動きたくない。
「そうですわね。昨日の夜から何も食べてありませんし仕方ありませんですわ。」
律儀にそう応える彼女。一体誰のせいだと思っているのか。
「朝を食い逃したのは、出発ギリギリまで爆睡していた誰かさんのせいだがな。」
「私も貴方につけられたこの吸盤の跡のこと忘れていませんですわ。」
おあいこだと言わんばかりに、彼女はもうだいぶ跡が薄くなった触手のデコピン跡に指を指す。
ギリッと視線が交差する。
だが直ぐに二人同時にグゥ〜と腹の鳴く声が聞こえ、お互いに気が削がれる。
「はぁ、わかりました。私が何か作りますですわ。ついでに貴方の分も作って差し上げますですわ。」
どこまでも上から目線の彼女だが、その態度に慣れを感じ始めた俺は食を優先する。
せっかく作ってくれると言うのだから、是非ともご馳走してもらおう。
「おう、ありがとな。昨日のホーンラビットの方は美味かったからな、楽しみにしてるよ。」
「なっ、全く調子が狂いますですわ…。」
小声で彼女が何か呟いていたが、うまく聞き取れなかった。
「ん、なんか言ったか。」
「なんでもありませんですわ。バイバーさんから食料を買い付けて来ますですわ。」
そう言い残すと、彼女はそそくさと家を出て行くのであった。
村パートが長いのでもう1話だけ直ぐにあげようと思います。