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3.12章

お待たせしました。

3.12章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「な、だから言ったろ。」


 冒険者組合内の角の方まで意気消沈といった足どりで来たパパラチアに確認を取る。


「殺そうとして悪かった。」


 冒険者組合に来て依頼書が勇者捕縛依頼だと受付嬢の代読により確認したパパラチアは、声の様子は先ほどと変わり無い平坦なものだが、早とちりをしたことを謝罪する。


 もし、殺されていたらと思うと、謝罪で許して良いのだろうか。


「構わないのですわ、この変態には良い薬でしたですわ。」


 うーんと悩んでいると、少し離れた位置から機嫌悪げにクックが俺の苦労も知らずに言ってくる。

 コイツめ、朝からどれだけ大変だったと思ってるんだ。


 クックの機嫌を取るため、宿の扉越しに何度も謝り倒して、人が通り過ぎる度に笑われたり、肩をポンポンと叩かれたりとかなり恥ずかしかったのだんだが。


 着替え直したクックは扉を開けると、無言で勝手に冒険者組合に向かい始め、俺たちはその後をついて来たわけだ。


 先程からこんな感じでちょいちょい会話に混ざるものの全く視線が合わない。

 それにまだ怒ってるのか、いや怒ってるから顔が少し赤いんだろうな。

 取り敢えずクックのことは今は放っておこう。


「取り敢えずアンタはどうするんだ。」


 パパラチアに声をかける。


「次はこの人を殺しに行く。」


 引っぺがした依頼書を俺の顔に突きつける。

 えっと、何々、『怪盗エースの討伐依頼』。


「パパラチア、これも捕縛依頼だ。」


 すまん、パパラチア。


「それは困る、これしか残ってなかった。」


「何も人に拘る必要は無いんじゃないか。」


 人の討伐依頼に拘るパパラチアに別の案を提示する。


「意味が分からない。」


「俺たちと一緒に魔物の討伐依頼を受けないか?」


「魔物の討伐なんてやったこと無い。」


「そんな訳ないですわ、だって貴女は白金冒険者でしょうですわ。」


 クックがムキになって言う。

 だが、クックの言いたい事は俺も分かる。


 パパラチアが言ったことが本当ならパパラチアは人の討伐依頼だけで白金冒険者に上り詰めたことになる。


「やったこと無いものは出来ない。」


 嘘を付いている気配の無いパパラチアの言葉に、胸が締め付けられるように痛む。

 だとしたら、この少女は一体どれだけの人を殺してきたというのだ。


 いや、だからと言って魔物の討伐依頼が正しいと言うわけでは無い。

 逆に人の討伐依頼は、理由があって出てるのだからそれが間違っているとは言えない。

 どちらも人に害があるから討伐依頼が出されるという点に変わりはない。


 だけど、何か違う。

 違うんじゃ無い、なんかそれは嫌だ。


「パパラチア、俺たちと一緒に来い。」


 だからもう一度誘う。


「足を引っ張るかもしれない。」


 自分が迷惑をかけるんじゃないかとパパラチアは懸念する。


「大丈夫ですわ。ちゃんと一から教えますですわ。」


 クックもパパラチアを魔物の討伐依頼に誘う。


 どうやらクック俺と同じ気持ちのようだ。

 あと、自分が教える風に言ってるが、魔物の倒し方やら弱点やらを教えるのは多分俺なんだが。


「適当に依頼持ってくるから待ってろ。」


 俺は掲示板に無造作に貼られる依頼書を物色し始める。


 初めての魔物討伐と言えばこの3つだな。

 手に取ったのは、恒常依頼のホーンラビット、ゴブリン、スライムの討伐依頼だ。

 恒常依頼は指定討伐依頼と違って事後報告でも良いのが利点だ。

 それに一匹の報酬は安いが討伐数で評価が貰えるので狩るだけお得というやつだ。


 その3つを引っぺがし今度は俺がパパラチアに突きつける。


「選べ、どの依頼を受ける。」


「ん。」


 (ゆび)()されたのはゴブリンの討伐依頼だ。

 正直思い出したくないことがあるので、やりたくは無かったが、やる気を出してくれるなら構わない。

 それにわざわざ思い出す必要が無い。

 頼む記憶の奥底に沈んでくれ。


「まぁっ、ゴブリンの討伐ですわ。最初の冒険を思い出し…てしまいましたですわ。」


 口を押さえ顔を青くするクック。

 見ていたらこっちまで思い出しそうなので視線を逸らし、パパラチアに質問する。


「そういえばなんでゴブリンなんだ。」


「一番殺しやすそう。」


 あっ、はい。

 どうやら暗殺少女脱却の道のりは遠そうだ。

 パパラチアの言葉にがっくりと肩を落とし脱力してしまう。


 こんな事コイツにとってはいい迷惑で、余計なお世話なのかもしれないな。

 だからと言ってやめないし、やめるつもりもないけど。


「まぁ、良い。そうと決まれば早速依頼をこなしに行こう。」


 気を取り直した俺はその場を仕切る。


「ん。」


 俺は冒険者組合の扉に手を掛ける。


「すみません、依頼に行かれるのでしょうか。」


「え、あっああ、そうだけど。」


 突然受付嬢さんに後ろから声を掛けられて挙動不信になる。

 まさかバレたか。


「『鬼人族の街』に行くのであればご注意下さい。何でも、子連れの蟒蛇(うわばみ)が出るそうで、湖を飲み干したとの情報が出ています。」


 蟒蛇というと大きな蛇のことか。

 しかも子連れなのか、仮に相手取るのは厄介そうだな。

 でも幸いそちらに用は無い。


「ただのゴブリン退治に行くだけだよ。」


「あ、そうなんですか、冒険者の皆様には念のため呼びかけていただけなんです。情報があれば組合への報告をお願いします。」


「分かった。」


「では、良き冒険を。」


 お辞儀をして受付嬢さんは仕事に戻って行った。


 早速出鼻を挫かれてしまったが、改めて扉を潜って出て行こうとする。


「あっ、それと。」


 が再び呼び止められてずっこけ掛ける。


「もうっ、何なんだよっ。」


 頼むから1度で済ませてくれ。

 さっきから、結構気合いを入れて出て行こうとしてるんだぞこれでも。


「恒常依頼書は掲示板に戻して置いて下さいね。紙も無料(タダ)では無いので。」


「すみませんでしたっ。」


 掲示板に依頼書を戻すと、今度こそ冒険者組合を出て行くのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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