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3.11章

お待たせしました。

3.11章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「と言うことなんだが理解できたか。」


「つまり、隣にいる女の子はオクトを狙った暗殺者で白金冒険者という事なのですわ?」


「私は勇者を殺しにきた。さっきから何度も言ってる。」


 無表情が少し崩れ、俺でも分かる疲れた顔でパパラチアは肯定する。


 ふぅ、取り敢えずやっとクックに理解してもらえた。


 もう何度も隣の少女は暗殺者だと言っても、「こんな小さい子が人殺しなどするわけがありませんですわ。況してや白金冒険者なんて、もっとありえないですわ。」と言って、取り合ってもらえず、暗殺少女に協力を仰いで、2人掛かりでクックを説得するという奇妙な構図を作ってしまった。


 さて、次はこっちの馬鹿の番だ。

 未だ俺の触手に囚われる、青髪の少女に向き直り話しかけようとする。


「今日はもういい、疲れた出直す。」


 早速説得を試みようとしたら、パパラチアに先手を取られ帰る宣言を受けた。

 自由過ぎないか。なんというか、シズトとは違ったマイペースさを感じる。


「出直されたら困るんだよ。」


 また暗殺しに来られても困る。

 触手のカーテンに関してはただの初見殺しにしか過ぎないからな。

 もっと言うと耐久値に限れば、刃物か何かで裂けば簡単に消えてしまう程度のものでしか無い。


「何度も言うが、勇者捕縛依頼であって、殺害依頼では無いぞ。」


「嘘。」


「こんの石頭っ、おいっクックからも何とか言ってくれ。」


 もう勘弁してくれ手に負えないとクックに助けを求める。


「オクトは変態勇者ですけど、殺しちゃダメですわ。」


「誰が変態だっ!」


 フォローをするどころか俺の名誉を傷つけられた。


「ホントに?」


 何故、それで信じられるのだ。

 俺の一体何がいけなかったのだろうか。ターゲットだから疑っていたのか?


「国から出されているのは勇者の捕縛依頼ですわ。決して殺害を許可しているわけでは有りませんですわ。」


 今度はクックがちゃんと説明してくれる。

 初めからしっかりやって欲しいものだ。


「信じられないなら冒険者組合で読み上げて貰えば良い。」


 俺は彼女の為に、いや、自分の為に冒険者組合で行ってる、代読サービスを勧めた。

 識字率が高くないので、文字関連に関してはサービスが整っていた筈だ。…有料だけど。


「確かめに行く付いて来て。」


「嫌だけど。」


 ………………………沈黙。


「なぜ?」


「バレたくないからに決まってるだろ。」


 捕縛依頼が出されてるターゲットがどうしてのこのこと出頭出来ると思うのか。

 しかも、目的は勇者捕縛依頼書の内容確認だ。

 目の前で読まれ始めたら、勘づかれる可能性がある。


 そして、バレて組合内で勇者だと叫ばれてでも見ろ。一番間抜けな勇者として晒される落ち(みらい)しか見えない。


「………。」


 物をねだるような目で此方をじーっと見つめ続けるパパラチア。

 多分、これが休日に遊びに行こうと目で訴えかけられる父親の気持ちなのだろう。


「分かった、分かったよ。但し、俺は受付には近づかないからな。それと捕まえようとしたら逃げる。」


 無言の圧に耐え切れず、結局心が折れてしまう。

 はぁ、妥協案ということで良いだろう。

 それに、宿泊費を稼ぐのに依頼を受ける必要があったしな。

 だから、冒険者組合に用がなかったわけではないし、元から行くつもりもあった。


「初めからそう言えば良いのですわ。」


 いつものことだとやれやれといった風に首を振るクック。

 そんなクックに声をかける。


「突っ立ってないで、クックも早く着替えてこい。」


 クックの姿は朝起きたままの格好なのか、かなり薄手のネグリジェだ。

 触手で暴れるのを無理やり押さえ込んだせいか、ボタンなどが外れ服が乱れて色々と危ない。

 もう少し、具体的に指して言うと胸があれだからあれなんだよ。

 恥ずかしいから言わすなっ。


「着替え…ですわ?」


 しまった、気づいてなかったのか。

 クックは自身の姿を見下ろす。


「きゃっ⁉︎」


 顔を真っ赤にし、胸を隠すために両腕で押さえる。


 これは!

 前のパンツを見てしまった時と同じパターン。

 ならば既に解を得ている。

 此処は急がば回れだ。

 思考をフル回転させ、この場を切り抜ける方法を模索する。


「おっぱい凄く大きい。」


「ばっ、馬鹿!」


 隣で思考を完全停止させたパパラチアが余計な一言を呟く。


 バチーンッと平手打ちの音が響く。

 そして、紅葉跡を残す俺を部屋に置いてクックは隣の部屋へと駆けて行った。


 回り込もうとしたら、更に先回りした敵軍に密告されるという落ちだった。


 クックは着痩せするタイプだったんだな、などとくだらないことを考え、前の時より痛みが強い頬をさすりながら、トボトボと自分も着替えを探すのし始める。


 その間もジーッと此方をただ見つめ続ける暗殺少女。

 見られてると着替え辛い。まぁ、着替えといっても羽織るだけなのだが。


「アンタは依頼書が捕縛依頼だと分かったらどうするんだ。」


 視線に耐え切れず痛む頬を動かし、パパラチアに質問する。


「また新しく討伐依頼を探す。」


 俺をその場で捕まえるという話にならないのは僥倖。

 だが、やめておけば良いのに、好奇心が抑えられず俺はその点をつつく。


「俺をその場で捕まえないのか。」


「私は殺すことしか出来ない。」


 無表情な彼女から放たれる鋭い言葉に冷や汗を垂らしかける。

 パパラチアは此方を見ずに暗い炎を灯した言葉を続ける。


「私の魔法は『暗殺魔法』だから。」


 冷淡な冷たい言葉(ほのお)に堪えたはずの冷や汗が垂れる。


「私は暗殺者、何度も言った。」


「確かに何度も聞いたけど…。」


 正直信じていなかったというのが本音だ。

 こんな小さい子が人殺しをするなんて、とてもじゃないけど思えなかった。

 それにもう一つ理由がある。


「あんな簡単な罠に引っかかってるのに白金冒険者で暗殺者とは。」


「ただの飾りだと思った。」


 そう見えるように配置したからな。


「はぁ、取り敢えず今は戦わないってことで良いか。」


 白金冒険者とはいえ、まだまだ子どもなのかもな。

 冷たい緊張感は無駄な気疲れとなり、瞬く間にさっさと消えてしまった。

 取り敢えず、俺は溜め息を零しながら不戦を立案する。


「ん、一時休戦協定を受け入れる。」


 二度と開戦しないことを祈ろう。

 暗殺魔法とかいう物騒な魔法名を聞いたが、なんにせよ正面切って白金冒険者と戦闘などお断りだ。


「それともう一つ約束だ。外ではオーパスと呼べ。勇者だとバレるとお前みたいに俺を狙った奴が来るからな。」


「ん。理解した。」


「じゃあ、隣のポンコツをさっさと何とかして、冒険者組合に行くか。」


 パパラチアを縛っていた触手を消し去り支度を始めるのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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