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3.10章

お待たせしました。

3.10章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「で、アンタは誰なんだ。」


「私はパパラチア。」


 俺の触手に拘束された、海を思わせる青い髪を持つ獣人少女は、無表情で平坦に名乗ると沈黙する。

 ボーっとしていて話を聞いていないように見えるが、少女のオレンジ色に輝く瞳はこちらを空虚に見つめ続けている。


 見た目から年齢を推測するに、中学生くらいの年齢っぽいな。頭に生えてるのは猫耳か?じゃあ種族は猫人族だな多分。

 色々と推測しつつも俺は今一番聞きたいことを質問をする。


「じゃあパパラチア、なんで俺の部屋に居るんだ。」


 俺は夜道で急襲を受けたとかでは無く、ここは昨日、俺が借りた宿の一室だ。

 何なら俺は装備など全く着けてない下着姿でもある。

 まぁ、それは置いておこう。今は目の前のコイツだ。


 朝起きたら、触手魔法で作ったトラップに引っかかったのか、ベッドの脇で痺れて倒れているコイツを発見したのだ。

 因みにトラップはクラゲの触手に麻痺毒を持たせ、キングゴブリンの時と同様に、天井からカーテンの様に窓付近とドア付近に大量に垂らしておくという簡単なものだ。


「勇者オクトを殺しに来た。」


「いきなり物騒⁉︎」


 元々、トラップは白金冒険者に狙われているという話を聞き、宿に泊まる時などに念のためにお(まじな)い程度の気持ちで毎回用意していたものなのだが、やっておいて本当に良かった。


「うん?それは…。」


 パパラチアと名乗った少女の首にさがる見覚えのあるチェーンを見て、俺はそれを勝手に引っ張り出し手に持つ。


 やはり冒険者プレートだ。

 プレートには確かにパパラチアと刻まれており、色は白金冒険者を指している。


 ん?…白金……………………。


「アンタ、白金冒険者かっ⁈」


「そう。」


 一言で済まされたっ。

 そして、冒険者対策として作っておいたトラップが早速効果を発揮した事に驚きだ。


「あれ、でも確か、俺を狙ってるのは赤猫じゃなかったか。」


「それは私の通り名。」


「アンタの髪は青じゃねぇかっ。」


 どう見ても、パパラチアの髪色は青だ。

 何をどう見れば赤猫なんてな前になるんだ。

 どちらかと言えば青猫の方が正しい。

 詐欺レベルの通り名に憤慨する。


「依頼をこなしてる内にそう呼ばれていただけ。」


 うーん、よく分からないが不思議なものだ。


「そもそもなんで俺の素顔を知ってるんだ。」


 いつもフードで顔を隠しているし、まじまじと見る機会が無ければバレないと思うんだが。


「路上劇の時に顔が見えた。」


「機会有ったな畜生っ。」


 押し寄せる後悔に自分の膝を叩く。

 だからただのマスクじゃ心許ないと言ったのに。

 路上劇の時も怪盗の時も渡されたのはただの布だった訳だ。

 むしろどうしてあの胡散臭いのを信用してしまったのだろうか。


 いや、過ぎてしまったことはもう良い。

 それよりも殺しにきたと言うのが問題だ。ここだけはなんとしても撤回せねばならない。


「えっと、勇者オクトを殺しに来たんだっけか。」


 俺の聞き間違いの可能性に、一縷の望みにかけて目的を聞きなおす。


「そう。」


 あっさり肯定されてしまった。

 それにさっきから会話を一言で終わらせられるので、きちんとコミュニケーションを取れているか不安になる。


「国から出されている依頼は、勇者の捕縛だよな。」


 最初にパパラチアの殺害発言には誤解がある様だから一応聞いてみる。


「私が字を読めないからと嘘を()いているのは分かっている。」


 おっと、この話の聞かなさに心当たりがあるぞ。

 隣の部屋からクシュンッとくしゃみが聞こえてきた。


「依頼書も最新のが此処にある。」


 パパラチアが臀部付近のポーチに手を伸ばそうとしたので、触手を強く縛り上げ動きを妨害する。


「く……んっ…。」


 締め上げられ黄色い声を漏らしたパパラチアは抗議の視線を向けるが無視だ。無視。


 それに俺だって馬鹿じゃない。

 そう易々と武器の入っているかもしれないポーチを触らせる訳が無い。


「悪いが俺の手で取らせてもらう。」


 凄んで言い切ったものの使うのは勿論触手だ。

 毒が塗ってあった場合などが怖いからな。

 俺は2本目の触手を顕現させ伸ばすと、ポーチをゴソゴソと漁り始める。


「ひゃんっ…んんっ…。くすぐったい。」


「我慢しろ。」


 ポーチの中身を次々に床へと並べて行くと、針やナイフ、ロープ、何か詰まった小瓶と怪しげなものが次々と出てきたところで、ようやく丸められた依頼書を発見したので目を通す。


「これで分かったはず。だから大人しく殺されて。」


 字が読めないと言っていたが、それなのにどうしてここまで自信が持てるのか不思議だ。

 目の前の少女に、思わず呆れた視線を向けてしまう。


「いや、依頼内容は捕縛依頼だ。」


 依頼書に書かれているのは変わらず捕縛依頼だ。

 さっき字が読めないと言っていたな。似顔絵だけ見て、それを頼りに判断したんだろ。


 そう言えばシズトが捕縛依頼の取り消しを頼みに行ったんだったな。

 この依頼書を見る限り結果は芳しく無かったみたいだが。


「って、なんで依頼金が上がってるんだっ⁉︎」


 久し振りに見た勇者捕縛の依頼書は捕縛依頼と内容は変わって無いものの、その値段が跳ね上がっていた。


 シズトは一体何をやらかしたんだっ⁉︎


 焦った俺はパパラチアのポーチに再び触手を伸ばし、他に依頼書に関する情報が得られないかとポーチを触手で漁りはじめる。


「ひゃうっ…やめ…。」


「オクトっ、朝から煩いですわっ!」


 隣の部屋からパジャマ姿のクックがやって来て、俺の部屋の扉をバンッと勢いよく開け放ってズカズカと部屋へ入り込んで来た。


 クックの視界に入ったのは気色の悪い魔法に拘された少女。

 それと、その少女の尻を気色の悪い触手で(まさぐ)る下着姿の俺。


「まっ、待てって。」


 俺の言葉を最後まで聞く事なく、クックは部屋を一度出て行き、隣の部屋に戻ったのか部屋の壁から何かを漁る物音が聞こえ、目的の物を見つけたのか直ぐにこちらに向かって足音が聞こえた。


 最初の登場とは打って変わって、ギギィとホラー映画の様な音を立ててゆっくり開く扉。

 足音が嫌に響き、クックは再び俺の部屋へ入ると利き手とは逆の手で扉の鍵まで閉め、右手は不自然に背中に隠している。


 いや、クックのことだ何を隠し持っているかなんて容易に想像出来る。


「落ち着けクック、まずその隠した包丁を置いて話し合おう。」


 まるで浮気現場に妻が居合わせてしまった夫の気分だ。いや知らないけど。

 俺は両手を前に突き出し、ステイステイと心の中で呟く。


「オクト、大人しく覚悟を決めてくださいですわ。」


 そうだったコイツも人の話を聞かない馬鹿だった。

 冷静さを失い、少女の尻を触手で撫でまわすという一番馬鹿な事をしていた自覚など無く、包丁を振りかざすクックにも触手を伸ばす。


「離してくださいですわ、オクトが殺せませんですわ。」


「勇者を殺すのは私。」


「いや、殺されないからあっ。ちょっ暴れんなって。話を聞けよこのポンコツっ!」


 しかし、俺の話など耳に入らない2人が一斉に暴れ出すので仕方なく、触手魔法で狭いベッドへと組み伏せる。


「ったく、大人しくしろよな。」


「なに騒いでんの〜、ラビも混ぜて〜。」


「「あっ…。」」


 俺とラビの声が重なる。


「あらあら〜、ラビお邪魔だったね〜。ごゆっくり〜。むっふっふ〜。」


 手の平で口を軽く覆い半目で、あらあらとあった風なポーズで此方を見てからゆっくり、ドアを閉めて行く。


「いや、アンタ絶対聞こえてたろっ!」


 地下の音まで拾うラビの耳がこの騒ぎを聞こえていない筈がない。


「きゃ〜、バレちゃった〜。」


 ラビは扉を開きっぱなしで地下へと駆けていった。

 そして、入れ替わるようにドグがやって来て、部屋の扉をバンッと開け放つ。


 一体扉の前世にどんな罪があるというのだろうか。


「オクトとクックっ、騒が…し……ぃ…。すまん、邪魔した。」


 ポーッと汽笛の音まで聞こえそうなくらい耳と顔を赤くさせたドグは、顔を伏せながら扉を静々と閉める。


「待て誤解だって。」


 扉越しに弁解を図るもドグはその場を去ろうとする。


「ドグ姉さんどうしたの?」


「いいからバドも来なっ!」


 どうやら、扉の向こうでバドと合流したのか話し声が聞こえた。


「えっ、でも兄さんからオクトさんにこれ渡せって。」


「こんなん投げ入れとけば良いいんだよ。」


 部屋の中を見ないように白い紙切れが投げ入れられると、地下へと下って行く足音が2人分響いて行った。


 もうこれ以上状況が悪化することは無いだろ、とっ散らかった後ろの惨状を放置して床に落ちたメモを取る。


「えっとなになに『オクト君たちへ。例の件に探りを入れるから、10日ほど留守にするね。依頼とか好きに受けてて良いからね。』」


 この状況で一番頼りになりそうな人が何処かへ行ってしまった。


 一度ベッドに振り返る、片や俺を殺しに来た暗殺少女、片や俺を殺しに来た必殺料理人。


 さて、どうやって説得したものか、吐いた重い溜息は虚しく部屋の空気を汚すだけであった。


お読み頂きありがとうございます。

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