3.9章
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「さて、ボクとしては不本意だけど新しい仕事みたいだ。」
バクさんが秘密基地に残る、俺とクック、ドグ、バドの全員に告げる。
「ラビが連れてきた女の子には隷属魔法に掛けられている。それの解呪が必要だ。」
バクさんが言った魔法『隷属魔法』。
それは、対象者と魔法的繋がりを作り、人の自由を奪い命令権を得る魔法だ。
ただ得るのはあくまで命令権だけで有り、意志までは奪うことが出来ないらしい。
普段は奴隷堕ちした人たちの管理の為に使われている魔法と聞く。
何処かで見たことのある紋様だと思った、奴隷落ちした人たちの首についていたからか。
「隷属魔法は奴隷にするために犯罪者に掛ける魔法ですわ。でも、隷属魔法持ちの人は国に管理されていて、個人的用途で人に使用するのは禁じられていますですわ。」
何処で聞いた話だったか、俺も聞き覚えがある。
確か使用を禁じる代わりに奴隷商人として国から公式に認められ商売許可が出たり、援助金を貰うなどの特典があると言う話だったと思う。
「ああ、クックの言う通りさ。」
ドグがクックの発言に噛み付く。
「けどな、全部の隷属魔法持ちを管理できる訳じゃねぇんだよ。しかも、後から覚えることが出来て申告しない奴だっている。」
「それは…ですわ…。ですが、鑑定魔法で隷属魔法持ちを見つけたなら国に報告が行くはずですわ。」
「鑑定魔法持ちだって、正規の奴以外を頼れば良いさ。」
ドグの言う事は可能だ。
鑑定魔法は自分で依頼して行う魔法だ。
国が自分の魔法を鑑定する事を義務付けている訳ではない。
それに、鑑定魔法持ちの魔法使いを金で買収するなども金さえあれば出来るかもしれない。
要するに抜け穴などいくらでも有ると言う事だ。
「解呪魔法持ちに当てはあるのか?」
俺は今ここで一番大事な問いを投げかける。
当てがあるなら、さっさと済ませるのがあの女の子の為だろう。
「前にお世話になって知ってはいるだけどね、その人の居場所が全く掴めないんだ。」
「それを当てが無いって言うだよっ。」
残念すぎる解答をするバクさん。
コネがあるにしても見つからないのでは話にならない。
「でも他に方法があることには有るんだよね。1つ目は隷属魔法には魔法的繋がりが必要になるから、相手の魔力を膨大に上回る魔力で隷属魔法自体をレジストするって手段。」
「だけど、それをあの子に期待するのは出来ませんですわ。」
俺から見てもあの小さい女の子が一般人を超える魔力量を持っているとは考え難い。寧ろ不可能と言っても過言では無い。
「捕まえる前から魔力が高い奴だと分かってたらどうなるんだ。」
そして、その話が本当なら魔力が高い人は簡単に逃げ出せることになる。
「死罪だ。重い犯罪の主犯格が死罪になるのもそのせいだ。扱いに困るからな。」
ドグが俺の疑問を補足した。
そういえばあの盗賊団のリーダーたちは死罪を言い渡されてたのを思い出す。
「理解は出来たかな、じゃあもう1つの方法だ、本人に魔法を解いて貰えば良い。」
「その本人をどうやって見つけるんだよ。」
どう考えても解呪魔法持ちを探した方が早い気がするのだが。
それに、その本人が素直に隷属魔法を解くとは限らない。
「簡単だ、彼女に聞けば良い。」
バクさんは床に転がされていたフレールに視線を向け、歩み寄ると口に噛ませていた布を取り外す。
「アナタ馬鹿じゃないの、言うわけで無いじゃない。」
うん、そうなるよな。
美少女カーメイが居てくれれば楽だったんだけどなぁ。
無い物ねだりをしてしまう。
「大丈夫、君の意思は関係無いから。」
「ちょっと、何するのよ、離しなさいっ!」
バクさんはそう言って転がるフレールの頭を鷲掴みにし、縛られたフレールが身をよじらせて暴れる。
「おい、何する気だ。」
バクさんの不穏な動きに魔力を巡らせ、魔法を使う準備をする。
「そう怖い顔しないでよ、彼女に危害を加えるつもりは無いよ。」
そう言った後、バクさんは魔力を高めているのか瞑目した。
俺はバクさんの言葉を信じることにし、高まった魔力を抑える。
そのまま1分ほど経った頃、バクさんがやっと目を開く。
「じゃあ行くよ、紐魔法、『操り人形』。」
バクさんが呟くとフレールの体を魔法特有の光が一瞬だけ覆った。
「さぁ、洗いざらい全部喋って。」
バクさんがフレールに促す。
「隷属魔法の使い手の名前はダフブス。」
俺とクックは驚愕し口を押さえる。
フレールはあっさり喋ったのだ。
フレールの表情を見ると喋ったフレール自身にも驚愕の表情が浮かんでいる。
「驚いたかい?これはボクが編み出した、紐魔法の1つ、『操り人形』さ。これに掛かった人は文字通り操り人形となるんだ。」
なんつうチートだよ。
最初にショボいと思った事を撤回しなければならないな。
バクさんの魔法に鳥肌が立ち、二の腕をさする。
そして彼女は言葉を続け、次々に情報を漏らしていく。
「アタシたちは裏稼業組織『テラサイド』の一員だ。」
「テラサイドの基地が有る場所は知ってるかい。」
「知ってる。」
「じゃあ、君たちのリーダーの名前を教えてくれるかな。」
バクさんは『テラサイド』の組織のリーダーを知りたいと質問した。
「分からない。」
だが、フレールは分からないと答えた。
「そうか、ありがとう。もう良いよ。」
魔法が解けたのか、フレールの首が力が抜けたようにガクンと落ちる。
「がっ、ハァハァハァ…。」
フレールはバクさんの魔法に必死に抵抗していたのか、息を切らしている。
「なんだか凄まじい魔法ですわ。」
一連の流れを見ていたクックが呟く。
「そうだろう。」
「クックはアニキの魔法が悪趣味だと言いたいんだよ。全く…。」
ドグが苦い顔をして、頭をボリボリと掻く。
「悪趣味なさならオクトも負けていませんですわ。」
「なんでそこで張り合うんだっ⁉︎」
コイツは一々俺を張り合いに出さないと死ぬ病でも患っているのか。
不意にぐぅぅぅと可愛らしい音が聞こえ、視線を向けると顔を赤くしたバドがお腹を抑えていた。
「ごっ…、ごめん…なさい…。」
「ああ、そうだね、じゃあクックちゃん、みんなの夕食お願い出来るかな。」
「はい、もう用意してありますですわ。」
バドの腹の音を合図に夕食が始まり、俺は夕食を食べ終えると、地下から宿の方へ上がり、予めとっておいた自分の部屋へと戻り、一足先にある眠りにつくのであった。
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