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3.8章

お待たせしました。

3.8章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「おい、誰かいるか。」


 俺は蝋燭の炎に照らされる地下の部屋へと辿り着くと、直ぐに部屋全体に響くように声を掛ける。


「誰…ですか。お願いです、ここから、ここから出してください。」


 弱々しい声が聞こえた方を見ると、体にいくつも痛々しいミミズ腫れをつけた女性が、裸に手枷を嵌められた状態で檻に転がされていた。


「エイト君はあっち向いててね〜。今出してあげるから待ってね〜。」


「あ、ああ。」


「えっと鍵鍵〜。おっ、あったあった〜。」


 ハートは地下の部屋をウロウロし始め、鍵を見つけたのか、後ろからはガチャンと鍵の開く音が聞こえた。


「はい、取り敢えずこれ着ててね〜。」


「あ、ありがとうございます。」


 後ろでゴソゴソと衣擦れの音がして、鳴り止んだ所でハートから声がかかる。


「エイト君、もう良いよ〜。」


 振り返ると、彼女はしっかりと服を着ていた。


「その、貴方達は…?」


「俺はエイト、怪盗だ。今回はアンタを助けに来たんだ。」


 こんな感じで良いのか、怪盗ってもっとなにか名乗り方とかあった気がするんだが、うん、分からないな。


「ハートはハート、同じく怪盗だよ〜、君はフェイネちゃんだよね、もう安心して良いよ〜。」


「はい、はい、ありがとうございます。ゔぅ…。」


 彼女は助かるということに嗚咽を漏らし始める。


「泣くのはあとあと〜、さっ、行こっか〜。」


「はいっ。あっ、あのっ、私以外に1人女の子が囚われてた筈です。その子も助けてあげて下さい。お願いしますっ!」


「りょ〜かい、ハートにお任せだよ〜。エイト君、念の為、他の檻を全部見てくるからすこ〜し待っててね〜。」


 気づかなかったがどうやらもう1人囚われた人が居たようだ。

 あと3つある檻を確認すると言って、ハートは順番に檻の鍵を開け、中を確認し始めた。


 最後の檻を開け出てきた時に、ハートは12歳くらいの小さな女の子を抱えて出てきた。

 その子の額には角が生えており、首の辺りには鱗のようなものも見え、その他に首を一周する変わった紋様がある。


 何処かで見覚えがある紋様だが、思い出せない。


「居たのはこの子だけだったよ〜、さぁ、行こっか。」


 ハートの言葉は俺でも嘘だと分かる。

 誰も入ってない檻にわざわざ鍵など掛けるわけがない。


 そして、もし誰かいればハートは直ぐにでも助けただろう。

 しかし、そうしなかった。

 触れて欲しくないのでそう言っているのか、いや、俺たちを単純に気遣ってるだけか。


「分かった、行こう。」


 無粋な真似はせず、俺はハートの言葉を指摘することなく出口へと向かっていく。


 貴族の私兵などに会うこと無く地下を抜け、ついでに途中に廊下に転がしっぱなしであったフレールを担いでから屋敷を窓から脱出すると、ハートは手鏡に三度光を反射させ空に向かって何か合図をした。


「なんだ今の。」


「クローバーに救出完了って合図したんだよ〜。あとは秘密基地まで戻るだけだから急ご〜。」


 クローバーは確か、バドの怪盗名だったな。


「そうだな。」


 俺たちは直ぐに悪徳貴族の庭を抜け、通りに出ると建物の影を上手く使いながら、人目につかないように、秘密基地のある宿へと向かっていく。


 帰る途中で本日二度目の花火が夜空へ咲いた。


「エースも派手にやってるね〜。」


 呑気にハートがそんな事を呟く。


「おっ、その様子だとハートたちも上手くやったみたいだな。エイトが捕まえてんのはもしかしてフレールかい?やるじゃねぇかよ。」


 後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはドグじゃなくて、今はダイヤが両手一杯に高級品と思われるものを抱えていた。


「それどうしたんだ。」


 フレールのことは今はどうでも良い。

 それよりも俺は救出作戦としか聞いていないのに、何故ダイヤの手にはお宝が有るのだろうか。

 確か、エースとダイヤは陽動組のはずだ。


「アタシらは怪盗だぜ、勿論お宝も頂くさ。」


「泥棒の片棒を担がされたっ。」


 悪びれもなくダイヤが言ってのける。


「ごめんね〜、言ったら絶対止めに来るってエースに口止めされてたんだよ〜。」


 ハートは両手をパンと合わせて、俺を拝んでくる。


「まぁ、気にすんなよ、悪いのはアタシたち。お前は悪いことした訳じゃねーんだからよ。」


 俺に気遣いを見せるダイヤだが、俺が気にしている事はそう言うことでは無い。


「いや、嵌められたことにも文句があるんだが。」


 俺が気にしてるのは利用された事だ。

 クックのことチョロいと思っていたが、もしかしたら俺もあながち他人の事を言えない立場かもしれないな。少しショックだ。


「チッ…、みみっちい男だな。ん?そいつはなんだい。」


 俺に毒を吐いたところでようやくハートの抱える少女に気づいた。


「あははは〜、一緒に捕まってたから連れてきちゃった〜。」


「きちゃった〜じゃないっての。全く、まぁ、いいか。コイツのお陰でしばらく金には困りそうにないからな。」


 ニヒヒと口角を上げ、ダイヤは抱えるお宝を見せつけるように寄せ上げる。


「自分たちで使うのかそれ。」


 てっきり金に換金したら、義賊風に貧しい家に配って回るもんだと思っていたけど。


「野営ステージで稼いだ程度の金じゃあ、またステージ作るだけの金で精一杯なんだよ。」


 それは俺も知っている。

 とてもじゃないが儲かってるとは言えない稼ぎだったので、資金繰りの裏には怪盗業があったと言うことか。


「そもそも、悪徳貴族の成敗目的なのに、庶民の人達からお金巻き上げるわけには行かないからね〜。」


 ごもっともな意見です。


「分かった、今回は目を瞑る。」


 彼女たちがやったのは泥棒だ。

 だが、彼女たちがだからといって完全な悪人とは思えない。

 それに、フェイネさんを捕らえていた悪徳貴族に同情するかと言ったら『ノー』だ。


「そいつは有難い。」


「さぁ、ダイヤも直ぐに秘密基地へ戻ろ〜。」


 ハートの先導のもと俺たちは再び、秘密基地へと足を進めて行く。


 宿の地下、秘密基地へ戻るとクックとバドが出迎えてくれた。


「お帰りなさいですわ。」

「お帰り…なさい…です…。」


「おう、ただいま。」

「たっだいま〜。」


 ハートとダイヤはマスクを外し、ラビとドグに戻る。

 それに倣い、俺も息苦しいマスクをやっと外すことが出来た。


「どうやらみんな戻ってきたようだね。戦果も上々みたいだ。」


 俺の後からバクさんが音もなく入って来た。

 そして、ラビが近づきバクさんに耳打ちを始める。


 内容を全て伝えたのか口を離すラビにボソッと何か呟くと、ラビは保護した2人を上の宿屋へと連れていったのであった。



お読み頂きありがとうございました。

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