3.7章
お待たせしました。
3.7章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「お願いエイト君、それしまってってば〜。」
「いや、今更そんなこと言われても、それに俺は忠告したよな。」
だいぶ大きく膨張させたそれを見たハートは仕舞えとブルブル震えながら言ってくる。
「だって〜。」
「もうここまで大きくしたんだ。責任持って最後まで我慢しろ。」
それを今になってしまえと言われても困る。俺だって我慢してるのだ。
「いゃ〜、気持ち悪い〜、ビクンビクンって動いてるよ〜。うへぇ〜。」
なおも出したそれは見せつけるように膨張を続けている。
「うん、まぁ、気色悪い見た目をしている事には同意だがな。」
「そう思うなら早くそれをしまってよ〜。」
「待てって、あともう少し…、もう少しでいけそうなんだ。」
「ホントに〜、うぅ、じゃあ我慢するよ〜。」
ハートは南無三と目を瞑りそれが過ぎるのを待つ。
「ひゃあ、なんかゴソゴソする音拾っちゃうんだけど〜。ねぇナニしてるの〜。」
「勘違いされるようなこと言うなっ!触手を伸ばしてるだけだっての。」
いや、場合によってはその発言は勘違いでは無いかもしれないがこれは違う。
俺はある『ナマコの触手』を床一面に絨毯のように伸ばしているだけだ。
本来のナマコの触手の用途はプランクトンの捕食に使うのが正しい用途だ。
しかし、この触手は俺の指から伝い五本の触手を中心に、放射状に枝分かれさせながら伸ばすことが出来、なおかつ、捕食用に使われる部位だからか他の触手よりも感覚が細かく返ってくるのだ。
その触手から返ってくる感覚を頼りに地下への道を探しているのだが問題が一つ。
見た目だけはグロテスクの一言に尽きるということだ。
まるで血管の様に枝分かれし、床を伸びていく触手は吐き気を催すのに十分で、使っている俺自身もかなり気分が悪くなる。
「ねぇ〜、終わった〜、もういい〜?」
ハートがマンネリ気味のカップルの様に聞いてくる。
だが、丁度よく他の場所と違い、石造りで冷んやりした場所を見つけることが出来たので俺は触手を霧散させる。
「ったく、もう終わったよ。」
「ホントにぃ〜、やった〜、エイト君おつかれ〜。」
ハートは地獄から解放されたかのように喜び俺を労う。
「取り敢えずついて来てくれ。」
俺は先導し、地下への通路と思われる場所へ歩いていく。
触手の感覚と歩いている場所を辿り合わせ、着いた場所は何も無い通路の行き止まりだった。
「あれおかしいな、間違えたか。」
おかしい、確かにこの場所だったんだがな。
「あっ、成る程ね〜。ふっふっふ〜、怪盗初心者のエイト君に先輩であるハートが教えてあげようぞぉ〜。」
ハートはそう言うと壁を押すとギギィーと音を立てて壁が開いた。
「隠し扉か!」
よく見ると僅かに壁だった場所の下に隙間が見える。
「後は助けるだけ〜って言いたいんだけど。ごめんね、見つかっちゃった。」
ハートはコツンと拳を自分の頭に当て、テヘっと舌を出す。
イラッ。
ハートの腹立つ態度の所為でこめかみに青筋を作っていると、遅れて俺も石造りの階段をコツコツと登ってくる誰かの足音を捉える。
「どうするんだ。」
「ハートは戦闘は専門外なの〜、ハートは魔法で隠れるから、後はエイト君よろしく〜。」
ハートはそれだけ言うと部屋を出て行った。
まさかここまで来て丸投げされるとは。
隠密魔法の能力が消音と気配消失じゃあ戦いようが無いと言えばそうなのだが、俺も戦い向きじゃ無いとなぜ誰も理解してくれないのだろうか。
心の中でぼやき考えていると、足音がだいぶ迫り隠し扉の奥から人影が見える。
「誰だい、アタシの仕事の邪魔をする子は。」
若作りしているが実年齢30後半くらいの、赤いスリットのあるドレスを着た女性が現れた。
その女性の腰には鞭と思われるものがリング状に巻かれて引っ掛けてある。
仕事と言っていたな。囚われていた人が逃げ出した訳では無さそうだ。
「仕事って地下で何してたんだよ。」
「あら、何とも不躾な坊やね。下の子たちと一緒にお仕置きされたいの。」
ちょっと色々キツイんで勘弁して欲しいです。
妖艶さを漂わせようと口調に色っぽさを混ぜているが守備範囲外です。
「そのお仕置きってのがアンタの仕事か。」
俺は彼女の質問に答えず更に質問をかける。
「はぁ、無視かい。アタシはね、坊やみたいな生意気な子を痛めつけて調教するのが仕事なんだよ。」
そう言って、赤いドレスの女性は鞭を腰から取り出し、パシンッと威嚇する様に床を叩く。
「アタシは調教師のフレール。アンタ盗人だろ。裏稼業の人間がアタシの名前、知らないとは言わせないよ。」
「いや、怪盗業は今日が初心者なんだが…。」
「「…。」」
お互いに気不味い沈黙が流れる。
「よくもアタシに恥をかかせたね。お返しにたっぷり可愛がってあげる。」
「いや、その返しは理不尽だろっ⁉︎」
なんなのこの人、意外にノリが良いタイプなのか。
「煩いっ、まずはその口からだねっ。」
「おわっ!」
顔面目掛け飛んでくる鞭の先を、咄嗟に伏せてやり過ごす。
だが直ぐに、フレールの手元に戻った鞭先が頭を叩くように真っ直ぐ振られ、それを右に避けようとするも通路が狭く、避けきれず左の肩口に当たってしまう。
「いったぁぁぁっ。つぅ…。」
肩の衣服が破け、さらにその下の皮膚まで破れ血を流している。
「どうだい、私の鞭魔法のお味は。」
あの鞭には魔法がかかっていたのか。
いや、武器がそれしか無いのだから当然と言えば当然か。
最初のグダグダなやり取りでどうやら油断していたみたいだ。
「わざわざ自分の手の内晒すなんて、バァーッカじゃねぇの。」
「…ふふ、いつまでそんな強がりが言ってられるかしら、この狭い廊下じゃ腰の剣は振れないでしょう。私の有利は揺るがないわよ。」
「いや、これは剣じゃなくてアイスピックだ。」
鞘からアイスピックを抜き、刀身を見せる。
「…。」
フレールはプルプルと顔を赤くして震えている。
「あんまり頭に血を登らせるとお体に触りますよ。」
「坊やがそうさせてるんでしょっ!」
フレールはヒステリックに叫び、鞭をひと薙して来た。
「おうわっ。」
慌てて、俺は手に持ったアイスピックで防いでしまい、アイスピックから手に伝わる鞭の衝撃に思わず手を離してしまう。
「あっ、しまった…。」
手を離したアイスピックは鞭に絡め取られ、フレールの手元へ渡ってしまった。
「見た目はふざけてるけど、意外に良いものねコレ。」
「だろう、武器屋の親父の自慢の一品なんだ、だから返してくれ。」
本当に高かったんだから。
「うふふふ、い・や・よ。武器はあと一本ね。さぁ、早く抜きなさい。」
ここで出したらまた奪うつもりだよなぁ。
俺は残った一本の鞘に手を乗せながら考える。
「じゃあ、ほらお望み通りにしてやるよっ。」
俺は残った一本のアイスピックを素直に投げ渡す。
「えっえっえっ、何でっ⁉︎」
慌てるフレールの視線は空中を飛ぶ、アイスピックに固定され、あわあわとアイスピックをキャッチしようと両手を上に掲げている。
俺はそれだけ確認すると自分の足元から触手を伸ばし、フレールの足を掴むと思い切り引っ張る。
「きゃっ、ゔぉっ。」
足を急に掴まれ甲高い声を上げたあと、後頭部を強打し低い声を上げ、頭を両手で抑えて蹲る。
「ゔぅつぅ…。」
俺はそんな様子のフレールに近づいていく。
「はっ。」
接近に気づいた、フレールが落としてしまった鞭を取ろうと手を伸ばすが、それより先に触手を伸ばし鞭と俺のアイスピックを纏めて取り上げる。
「返しなさいっ!」
おっと、なんかデジャブだな、だから満面の笑みで言ってやる。
「い・や・だ。」
俺は触手を伸ばし、触手でフレールを拘束して自由を奪う。
「さて、ハート終わったぞ。いるんだろ。」
「いや〜見てたけどエイト君の魔法、鬼強いね〜。」
「コイツが弱かっただけだろ。」
「この人、これでも金色冒険者並みには強かったんだよ〜。」
どうやらフレールが裏稼業界隈では有名と言うのは事実だったみたいだな。
さっきのやり取りではそんな風に一切感じなかったんだけどな。
「それよりもエイト君、傷だいじょ〜ぶ?」
「ああ、もう塞がってる。それよりも早く下へ行こう。」
「あいさ〜。」
フレールを縛り終えると、俺たちは地下へと下って行くのであった。
お読み頂きありがとうございました。




