3.4章
お待たせしました。
3.4章投稿させて頂きまして。
お読みいただければ幸いです。
「いや〜、お疲れ様。2人とも初めての公演大盛況だったね。」
時はバクさんたちと出会ってから一週間進み、舞台が終わり秘密基地に戻った所でバクさんが労いの言葉をかけて来る。
「バクさんもお疲れ様でしたですわ。」
「盛り上がってはいたけど、あまり儲からないんだな。」
演劇は野外特設ステージで行なっていたので、お金はお客さん側が自分で気持ち程度をステージの小銭入れへ投げ入れて貰うものであり、あまり儲かっているとは言えない。
「あはははは、手痛い指摘だね。でも楽しんでくれればそれで良いよ。」
「そういえば、他の団員はどうしたんだ。」
舞台が始まってからずっと姿を見てない気がする。
特にラビは初めてあってから姿を見たのは指で数えられる程度だ。同じ団員だと言うのに、一体何をやっているんだ。
「ああ、彼女たちは今回の劇だとどうしても裏方に徹することになっちゃうからね。」
なるほど、でも別に他の役でもやらせればよかったのではなかろうかと思っているとバクさんが疑問に答える形で口を開いた。
「ああ、敵役で出しても良かったんだけど、彼女たちに斬りかかる演技はあまりしたくないからね。」
「俺は良いのかよっ!」
「いや〜流石にね、女の子を斬るのは個人的にも見栄え的にも良くないからね。その点は本当に助かってるよ。」
「良い悪役っ振りでしたですわオクト。」
ぐぬぬ、納得がいかない。
しかし、やっと演劇から解放されたのだ。給料を頂いて、さっさと街を去ろう。
元々この街に来たのは路銀を稼ぐためであり、割りのいい依頼がないかと立ち寄っただけだ。
そして今、路銀を稼ぐという目的は果たした。
あまり長い間、手配犯が同じ場所に居るのはよろしくない。
いや、気持ち的には手配犯のつもりはないわけなんだが。
手配書といえばシズトの方は上手くやってくれただろうか。
早くこんな逃げる様な生活からはおさらばしたいものだ。
さて、次はどの街へ行こうか。
俺は顎に手を当てながら悩む。
「たっだいま〜!」
「お帰り、お疲れ様ラビ。」
俺が次にどの街へ向かうかを塾考していると、タッタッタと音を立てラビが元気よく帰って来た。
「首尾の方はどうだい。」
「バッチリだよ〜。バドの方も大丈夫みたい。しっかり見つけたって〜。」
「そうか、じゃあ今夜がお仕事の時間かな。」
「あいあいさ〜。ドグお姉ちゃんにも伝えとくね〜。」
意味の分からない会話を終えたあと、ラビはまたタッタッタと階段をふみ鳴らし去っていった。
なんだか、ラビがいるだけで騒がしさが倍増する気がする。
「それで、なんの話をしてたんだ。」
訳が分からず俺はバクさんに質問する。
「本業の話さ。」
何を言ってるんだ。
劇ならさっき終わったし、明かりもない夜に、人がわざわざ外に出て集まる訳が無い。
そう考えてると、理解の及ばない俺を察したのかバクさんが口を開く。
「いっただろう?これは世を忍ぶ仮の姿だって。」
不敵な笑みを浮かべて笑うバクさんの姿は仄暗さを感じさせた。
そしてその笑みを隠すように仮面をつけるとバクさんはエースとなった。
「さぁ、諸君!新たな仕事だっ!」
「エースさん、不法侵入は立派な犯罪ですよ。」
本業の意味を理解した俺は、一応釘を刺しておく。
犯罪でも起こせば、一発で冒険者資格を剥奪される。わざわざ問題を起こす必要が無い。
「何を言っているのだ少年。昔の勇者は他人の家に無断で入り、棚を漁り壺を割り回ったではないか。」
「世代がわかる屁理屈やめような。」
エースが俺よりも少しの上の年齢だと分かってしまう。
あとそれが許されるのは勇者だけだ。
ん?
いや、勇者でもダメだ。
「とにかく、盗みには一切協力しないからな。」
「別に今回の一番の目的は金品を頂くわけじゃないさ。」
「どうせ、不正の証拠とか言うんだろう。」
貴族が裏で不正に金を貪っているとかそんな証拠を盗んで、金品じゃないからセーフとか言う腹積もりだろう。
しかし、その手には乗らん。
「ノンッ!今回盗むのは人さ。」
「誘拐じゃねーかっ!」
もっとアウトなのが来たよ。
もしもし冒険者さん案件だわ。
あ、俺が冒険者だった。
「最後まで聞け少年。」
俺の抗議を手のひらで制し、エースは言葉を続ける。
「10日前この街に寄った時にある噂を聞いたのだよ。なんでも、最近婚約したばかりの夫婦の美人妻フェイネという女性が行方不明らしい。」
「なんだ、人探しくらいなら手伝うぞ。」
行方不明とは穏やかじゃない。
婚約したばかりと言うなら、旦那さんだって気が気では無いだろう。
「いいや、もう見つけたさ。」
「なら早く助けに行けよ。」
一刻も争う事態かもしれないというのに何をのんびりしてるんだ。
「ああ勿論だとも、だから今晩盗みに行くのさ。」
そこまで言われて俺はようやく気付く。
俺が話しの核心に触れたのを察し、エースは言葉を続ける。
「さぁ、少年少女達よ、ショーの準備を急ぐのだ。開演時間は迫っているぞっ!」
そう言って、エースは演目の小道具を全て空間収納魔法で仕舞うと、俺とクックに新たに収納空間魔法から口を覆うタイプのマスクを取り出し渡してきた。
「なに、それさえあれば心配することは無い。」
やけに自信満々にエースが言い放つ。
「このマスクには認識阻害の効果があるんだな。」
そこで俺はこれは魔法がかかった特別な伝説の布か何かではないかと予想した。
「いや、ただの布だ。」
「心許ないわっ!」
俺は渡されたマスクを地面へと叩きつける。
「安心したまえ、少年はワタシの陽動中にこっそりと屋敷へ忍び込み、囚われの姫を攫うだけで良い。」
「まさかの最重要課題を任されただとぉ!」
一体どう考えたら俺に一番重要な目的を任せられるのだろう。
「大丈夫さ、そちらにはラビをつける。彼女はとても優秀だ。」
「えっ?あれがか?」
「オクト、失礼ですわ。」
いやだってラビだぞ?一週間一緒に過ごしてきたがあのギャルんとしたアイドル兎がとても優秀には見えない。
「も〜失礼しちゃうな〜、オクト君。」
「なっ、いつの間に。」
先程、ドグに会いに行ったはずのラビが音もなく俺の後ろにいた。
「んふふ〜、ビックリした〜?これがラビの魔法。隠密魔法だよ〜。」
ラビは自慢げに自分の魔法を語った。
「ラビの魔法はね、気配消失と消音が可能なのだ〜。」
態度はふざけているものの、魔法の能力はラビが声を出すまで気づかなかったのだからかなりの性能だと分かる。
「ラビはそれ以外にも、この可愛いお耳で遠くの音を聞き取ることまで出来るのんだよ〜。」
自分で可愛いって言ったな。
それよりも、ラビの能力は潜入に確かに向いていると分かる。
「どうかなぁオクト君。安心してくれた〜。」
ラビは腕を後ろで組み、覗き込むように聞いてきた。
うぐ、可愛い。
「あ、ああ、納得した。」
さっきから不意を突かれっぱなしで、受け答えがしどろもどろになってしまう。
「も〜、赤くなっちゃってタコみた〜い。」
「誰がタコだゴラッ!そこは可愛いとかそう言う場面だろっ!」
「え゛、オクト君は別に可愛く無いよ。」
「いや、急に真面目になるのやめろよ…。」
急に真面目に答えられると、テンションの落差についていけないだろ。
「オクトは可愛く無いですわ。」
「いや、分かってるわ!今、追い討ちをかける必要無かっただろっ⁉︎」
先程から本当に調子を狂わされっぱなしだ。
「はぁ、わかった、一旦この話はやめような。」
付き合っていたら永遠にツッコミをやらされる。それはごめんだ。
「話はそろそろ良いかな。それでだ、少年。やってくれるか。」
エースが流れをぶった斬り問いかけてきた。
「分かった。その人の救出をすれば良いんだろ。」
結局流されやる事を承諾してしまう。
「では、早速だが怪盗名をつけよう。」
「怪盗名?」
「怪盗をする時に本名で名乗る訳には行かないでしょ〜。だから怪盗する時専用の名前をつけるの〜。」
成る程コードネームみたいなものか、クソ少しワクワクするぞ。
厨二心とは幾つになっても抜けないものだ。
「因みにラビの怪盗名はハートだよ。」
ラビはそう言って可愛く片足で立ちぶりっ子ポーズをして手を胸の前に持っていきハート型を作る。
「それでは、少年。君の怪盗名はエイトだっ。」
「だからタコじゃねぇよっ、俺のワクワクを返せっ!」
完全に触手魔法を引きずったネーミングじゃねぇか。
「そして、少女よ、君はナインだ。」
「安直っ。」
英語の意味が分からないクックの代わりにツッコミをやる羽目になってしまったじゃないか。
「さて、怪盗名が決まったところでエイト。」
まだ認めたわけでは無いのに強引に話が進んで行く。
「エイトはハートについて行って、今宵の演目を教えてもらいたまえ。」
はぁ、やると言ってしまったからには今更手のひらを返す訳には行かないか。
仕方なく、俺はエースの指示に従う事にした。
「さて、では準備に取りかかれ少年少女達よ。」
パンパンと手を叩いて、エースは行動を急かす。
「あのっ、それで私は何をすれば良いのですわ。」
未だ役割を与えられていないクックが取り残されかけ、慌ててエースに質問する。
「ふむ、ナインは保護した人の為に料理を振る舞ってくれたまえ。」
「マスクも怪盗名も必要無いのですわっ!」
クックはエースから渡されたマスクを地面へと叩きつけたのであった。
お読み頂きありがとうございました。




