表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/173

1.5章

5話目の更新です。


「朝まで爆睡とはいい御身分だなぁ、オイ。」


 俺は眠気から来る不機嫌さを惜しげもなく彼女にぶつける。


「本当に申し訳ありませんですわ。」


 そう言い頭を下げ、真摯に謝る彼女。


 あの悲劇の晩餐の後、二人は夜間の魔物の警戒と火の見張り番をしなければならないため、どちらか一方が先に睡眠を取って、夜が半分過ぎた頃にもう片方を起こし、交代して眠るという約束をしたのだ。


 そして、少しの悶着の結果彼女が先に寝ることになったのだ。

 彼女は寝る間際に「もし貴方が私を襲おうとしたなら、明日の朝食の食材は貴方になりますですわ。」と脅し眠りについた。


 彼女が眠りについてから何事も無く、夜が半分過ぎた頃になったのだが、しかし、彼女は起きなかった。


 余程疲れていたのか、声をかけても体を揺すっても全く起きなかった。

 イラッときた俺は触手魔法でタコの触手を顕現させデコピンを決めてやったのだが、ミ゛ャッと声を上げて流石に起きるかと思ったが、結局朝までスヤスヤと寝続けたのである。


 なので、今の彼女の額にはタコの吸盤が吸いついた後がしっかりと残っているのだが、俺は保身のために黙秘権を行使している。


「はぁ、このポンコツが、魔物がたまたま出なかっただけ良いものの、もし出てたらお前が魔物の朝食になってたところだ。」


 顔を合わせず俺はルート上にある村に向かって足を進めながら説教を垂れる。


「はい…、大変理解していますですわ…。」


 強気に出れない彼女に俺はどんどん調子に乗る。


「しかも寝る前にあんなこと言っておいて、スヤスヤ眠りこけるとかどんな神経してんだ。」


「うぅ、申し訳ありませんですわ。」


 言われるがままの彼女に気が大きくなり愉快愉快と大口を叩きオールテンションのままに、彼女の前をぐんぐん進んで我先にと村を目指して進んで行く、すると視線の先に緩やかに流れる小川を発見し、眠気覚ましに顔を洗いたいと思う。


「あー誰かさんのせいですっごく眠いからそこの川で顔でも洗って目を覚まさせてくるわぁ〜。」


「分かりましたですわ、あのっ私も顔を洗いたいのですが、ご一緒してもよろしいですかですわ。」


「も〜しょうがねぇなあ。」


 そして、二人で小川に向かい顔を洗って眠気を払ってから、思考が先ほどよりだいぶクリアになり、頭に登っていた血も下がり、普段の冷静さが戻ると水面に映る自分の顔に気付きある事を思い出し、ギギギと油の切れたロボットのように彼女の方に顔を向ける。


 彼女は水面に映る自分の顔のある一部分を見つめていた。


『あ、やばい。』そう思った瞬間、此方とは打って変わってギュルんと新品の油を注したかのような動きで此方に顔を向け視線だけで俺の顔をロックした彼女は問いかける。


「なんですのこれは、ですわ。」


 見えない威圧で動けないと言うのを始めて体験した。

 そう言い放つ彼女の背景にはどす黒い靄の幻覚が浮かんで見えるようだ。


「さぁなんだろうなぁ、虫にでも刺されたのかもしれないな。お大事に。」


 ここでなけなしの良心を見せ、彼女のポンコツ具合に期待する。


「そんなことあるわけないですわ、ハッキリと吸盤の形をしているのですわ。乙女の顔になんてことするんですわ。」


 ダメだった。

 この世界では鬼気迫る覇気を纏わせる少女を乙女と言うんだって。


「いや、まぁ悪ったって昼頃には村だから機嫌直せよ。」


 そう言い、俺は立ち上がり逃げるように歩みを進める。


「貴方はこんな顔で人前に出ろと言うのですわ。絶対に嫌ですわ。」


 後ろから彼女がそう吠える。


「駄々こねるなよ、乙女がみっともないぞ。」


「貴方が悪いのではありませんか、乙女の顔に傷をつけておいてよくもヘラヘラとできますわねっ。」


「はぁ、じゃあこれでも被っとけよ。」


 そう言い俺は身を隠すために使っていた外套を外し彼女に投げ渡す。

 王都からだいぶ遠く離れた場所だし顔を隠さなくても大丈夫だろう。外套の下は袖が無くタンクトップの様な格好の服装なので少し肌寒い。


 きゃっと可愛い悲鳴をあげた彼女は投げられた外套を見事にキャッチし、それを十数秒見つめると、渋々といった様子で外套をまとい額を隠すようにフードを目深に被った。


「後、一時間もすれば村だ、さっさと行くぞ。」


「グギャッ!」


「ぐぎゃ?」


 可笑しな返事をする彼女の方を振り返ると、俺と彼女の間に、俺に向かって鍬を振りかぶるゴブリンがいた。


「危ないですわっ!」


 分かってるよと叫ぶ前に、体が反射的に動き軽快なバックステップでゴブリンの攻撃を避け、自分の腰にある、1メートルはある長大なアイスピックを一本即座に抜く。

 これは偏屈親父の武器屋でたまたま見かけ、安くて頑丈という理由で買ったものだ。因みに持ち手の部分だけ持ちやすいように細くカスタマイズしている。


 そして鍬を振り切ったゴブリンの方を見ると、間抜けなゴブリンは力いっぱいに振った鍬が地面に深く刺さり、抜こうと四苦八苦している。


 そんなゴブリンにさっさととどめを刺すつもりだったが、少し背の高い茂みからガサガサと音がしたと思ったら続いて別のゴブリンが飛び出し、草刈用であろう鎌を俺に向かって投げつけてきた。

 俺は触手魔法を地面から素早く生やし、それを難なく弾き、彼女の方に視線を向けると既に包丁を抜いて、同じく鍬を持ったゴブリンと対峙していた。


「おい、大丈夫かっ。」


「ええ、こちらは大丈夫ですわ。」


 ゴブリンを昨日料理したおかげなのか、包丁はスライムの時と違い、しっかりと魔法の光を帯びている。

 そして、昨日のグロテスクな光景を思い出し、吐き気を催す。


「オェ…。」


「目の前のことに集中せず、随分と戦い中に余裕ですわね。」


 そう軽口を叩きつつも、彼女は油断なくゴブリンを包丁で牽制しながら、俺の方に寄り背中を預けてきた。


「余裕なわけ…うぇ。」


「昨日あんなに簡単に狩ってきたのは偶然でしたのですわ。」


 吐き気のレパートリーを増やす俺と対照的に魔法を発動させることのできた彼女は見るからにハイテンションだ。


「後ろの二匹も牽制だけで良いですわ。私の料理魔法をお見せしますですわっ!」


 彼女はゴブリンに向かって走っていく、そのスピードは明らかにスライムの時と違い、そして勢いのままゴブリンの首に一閃。


「秘技血抜き切りですわ。」


 彼女はそう呟き、ゴブリンはと言うと首から血を吹き出し、もがきながら死んでいく。


 俺はと言うとその姿に忘れたい記憶がプレイバック。

 こちらのSAN値を鑑みない彼女に対して、実は二対三ではなく一対一体対三なのではないかと疑ってしまう。


 これ以上見たくないと言うこともあり、視線をすぐに前のゴブリン二匹に戻すと、鎌をぶん投げたゴブリンは武器を失い攻めあぐねており、もう一匹はやっと鍬を地面から抜いたところだった。


 そんなゴブリンを見て、俺は先ほどまでの吐き気を忘れ、半ば呆れながら手のひらから細い触手を顕現させ素早く二匹の足に絡ませ引っ張り転ばせると、直ぐさま新たに太い触手を顕現させ、二匹の首の骨を折り戦闘が終了した。


「こっちも終わったぞ。」


「なんというか、改めて見ると本当に酷い魔法ですわね。」


「それはお互い様だ。」


 どっかの料理人がキッチンは戦場だと言ったらしい。それを体現するバカがいるとは誰も思わないだろう。


「さて、先を急いだ方がいいかもな。」


 そう言いながら、死んだゴブリン達の死体を処理する手段も時間もないので、一箇所にまとめ獣型の魔物が嫌う匂いを発する香水を振りかけ、草陰へと遺棄する。

 この世界では死体はスライムに食われるので放置しても疫病の心配は要らない。まぁ、逆に人の死体も跡形なく食べられてしまうのは難点だが。


「良し、行くぞ。」


「ちょっと、そんなに急いでどうしたのですわ。」


 俺の態度の変化を不審に思い、彼女が訳を聞いてくる。


「ゴブリンの武器が農具だったろ、村がやばいかもしれない。」


 さっきまでとは違い真剣な表情を作り言う俺のその言葉を聞いて、急ぐ理由を理解し「分かりましたですわ。」と言い、先を急ぎ始める。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ