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3.1章

お待たせしました。

新章、3.1章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「この悪魔っ…くっ…殺しなさいですわっ。」


『俺の触手』に掴まれたクックはそう叫ぶと諦めた表情を作る。


 いや、待って欲しい、決して闇落ちでも出落ちなどでは無いからもう少し付き合って欲しい。


 俺たちは今『ウエロの街』という王都の北側に位置する街におり、詳細はのちに語るが簡単に言うと『劇』の真っ最中なのだ。


 俺は大衆の中、路上に設けられた特設ステージで、口元を覆うマスクを装着し顔を隠しながら演技を強要させられている。


「ハァッ、ハッハッハー。」


 シルクハットを被り仮面をつけた男が突如現れ舞台へ登場し、高笑いがステージから空へと響き渡る。

 そして、仮面の男は宣言する。


「この悪魔め、このワタシ、『怪盗勇者』が貴様を成敗してくれよう。」


 仮面の男は豪奢に飾り付けられた剣を突きつけポーズを作る。


「貴様ァ、この娘がどうなっても良いのかぁ。」


 マスク越しに俺は台本通りのセリフを喋り、なるべく雰囲気が出るようにと、触手をうねうねと気持ち悪く動かす。

 後ろから「きゃっどこを触って…もがもが。」と声が聞こえたが決して故意では無いし、劇を台無しにされては堪らないのでクックの口を塞ぐ。


「フッフッフ…。それではお見せしよう、ワタシのイリュージョンをっ!」


 勿体ぶった口調で宣言した後、仮面の男は何処からか、真っ赤な布を取り出し、俺の触手に囚われたクックを覆うよう投げ、クックの全体が布の下へと隠れると、クックを掴んでいた感覚が消失した。

 俺が布を取り払うとやはりそこにクックの姿は無かった。

 いや、まぁ、台本通りなのだけれども。


「なっ何をしたのだ貴様ァッ!」


「フハハハハッ、もちろん直ぐにお教えするとも。」


 今度は大きな青い布をまた何処からともなく取り出し、大きくはためかせるとその裏からクックが突如現れた。


「この子は返してもらうことにしたよ。」


「何っ⁉︎」


 いつのまにか触手で掴んでいたはずのクックの姿が消えたと思ったら、次の瞬間には仮面の男の胸に抱かれていた。


「成敗っ!」


 仮面の男は俺に切りかかる演技をする。


「ぐあっ!」


 俺も勿論切られた演技をし、そのままステージ裏へと落っこちていく。

 痛っ、クッションが練習の時よりも硬いんだが。

 設備不良に文句が出そうになるも堪える。


「怪盗勇者様助けて頂きありがとうございますですわ。」


 おい、ですわはセリフに入ってねぇぞ。

 そう思いつつも劇は続く。


「ワタシは当然のことをしたまでだ。さらばだ貴族の少女よ。またどこかでっ!」


 そう言い残すと、仮面の男がステージから一瞬にして消え去って劇の幕が降り、観客たちからは拍手が巻き起こり、用意されていたケースへ硬貨が投げ込まれる。


 幕も降りたことだし、丁度良い。

 いつもの如く、どうしてこうなったかを遡るとしよう。


 時間は約一週間前のこととなる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「やぁ、奇遇だね、オクト君だろ?」


 俺は街を歩いていると見知らぬ優男に声をかけられたのだ。

 年齢は俺より少し上くらいだろうか、いや成人してるようにも見える。


「誰だ、アンタ?」


 疑問に思うも危険視する所は見た目から漂う胡散臭さでは無い。

 重要なのは、まだフードを被っていると言うのに一発で正体を見抜いてきたこの優男の正体だ。


 怪しげな男に対してスッと自分の中でスイッチが入り、その場の雰囲気が一転しかけた。


「ああ、そうか、ボクの素顔は見せた事が無かったね。じゃあこれなら分かるかな?」


 だが、こちらを全く警戒せずに優男はそう言うと、人差し指を立てて静かにとジェスチャーしながら、見覚えのある仮面を取り出し、優男は自分の顔に近づける。


 そして、俺の記憶が刺激され、目の前の優男と、とある男の姿が重なり一致する。


「アンタ、エースか。」


 俺が小声で呟くと優男はコクコクと頷く。


 そう、彼は勇者召喚に巻き込まれた人物の内の一人であり、『泥棒勇者』として指名手配されている『勇者一味』の一人である。


「なんで俺だと分かった。」


「その学生鞄だよ。その鞄を使ってるのはオクト君くらいだよ。」


 彼の言葉に成る程と納得がいった。


「オクト、その方は誰ですのですわ。」


 横にいたクックが質問をしてくる。


「えっとだな…。」


「積もる話もあるだろうし丁度良い。君たちを招待することにするよ。付いて来て。」


 そう言って彼は歩き出す。

 なんだか既視感を覚えつつも素直に俺たちは彼の後へと続いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「どうだい?ここがボクの秘密基地だ。」


 案内されたのは宿屋の地下に作られた部屋だった。

 宿屋に地下がある時点でもう突っ込みどころ満載だが、今はスルーだ。


「で、何してんだ。えっと、いや、まず何て呼べば良いんだ?」


 出会ったと時はその場の全員にエースと名乗っていたせいで本名を俺は知らないのだ。


「そういえば自己紹介がまだだったね。ボクは大縄(おおなわ) (ばく) って言うんだ。気軽にバクって呼んでよ。」


 バクと呼んでくれと気さくに答えた。


「バクさん、初めまして、私はクックと申しますですわ。」


 その言葉にまずクックが挨拶する。


「よろしく、クックちゃん。」


 そう言って、バクさんは手を差し出しクックと握手を交わす。

 一息ついたところで俺も質問をしようと思い声をかける。


「じゃあ、バクさん、こんな所で何してんだ。」


「待って下さいですわ。まずバクさんは何者ですわ。私だけお話の置いてきぼりは嫌ですわ。」


 しかし、クックが俺の質問を遮り自分の質問を優先して欲しいと話に割り込む。


「わかった、じゃあまずはクックちゃんからの質問だ。ボクは普段は庶民向けに劇団をやってるんだ。」


 それは俺も初耳だ。


「そしてある時は…、」


 一度言葉を溜めると、突如として何も無いところから仮面とシルクハットを出現させそれを被る。


「人々はこう呼ぶ、ワタシのことを『怪盗勇者エース』とっ!」


 バクさんは突然ハイテンションとなり、自分を怪盗と名乗る。


「いや、『泥棒勇者エース』だろ。」


 俺は呆れながら突っ込みを入れる。


 このテンションの高さ、凄く覚えがある。

 先ほどの優しく胡散臭い喋り方には違和感しか感じなかったが、こちら喋り方は凄くしっくりくる。

 出会った当初はこんな風にテンションの高い人だった。


「あの王城から金銀財宝の殆どを奪い去ったという、泥棒勇者エースですのですわっ⁉︎オクトッ直ぐに冒険者を呼ぶべきですわっ!」


「待てクック、俺たちも冒険者だ。あと、そんなことすれば俺も捕まる。」


 丁寧な説明ありがとうクックさん。

 クックが渾身のボケをかます中、バクさんの話が進む。


「待たれよ少女よ、話を最後まで聞くといい。」


「なんですわ、バクさんさっきと雰囲気が全く違いますですわ。」


「ノンッ!今はエースと呼べ少女。」


「へっ?はっはい、エースさんですわ。」


 バクさんもとい、エースのその圧に気圧されクックが思わず頷く。


「良いかい、少女よ、ワタシは確かに王城から財宝を頂いた。」


「冒険者のみなさんこっちですわー!」


 クックがフロントへと続く階段へ駆けていく。


「待つんだ少女よっ!」


 そう言うとエースは手からロープを一瞬で伸ばし、ロープはあり得ない挙動を描きクックを簡単に捉える。


「なっ、なんですのこれはですわっ⁉︎」


「聞かれたなら答えてあげよう。これがワタシに与えられた魔法。それはあらゆる紐状のものを出現させ、どんな風にでも操れる『紐魔法』なのだっ!」


 クックを縛るロープを手放し、自信満々に言い放ち謎のポーズを取るエース。


「なんだかしょぼいですわ。あと、微妙にオクトの魔法と被っていますですわ。」


 クックが俺の思ったことを代弁するように呟き、その場に寒々しい風が吹いた気がする。

 勿論地下だからありえないが。


「それはさておき、話の続きと行こうではないか。」


「鋼のメンタルかアンタっ!」


 俺の周りにはメンタルが強い奴しか居ないのでは無いのかと不安になる。

 あっ、カーメイがいるじゃん。良かった。


 俺が突っ込んでいると、エースが一瞬にして視界から消えたと思ったら、クックの後ろに居た。


「ささ、少女よ君も席に戻りたまえ。」


 クックの肩を掴み、手で押して部屋の中央へと押し戻す。


「きゃっ、なんでに後ろに居るのですわ、さっきまでは私の前にいたはずなのにですわ。一体どうやって…ですわ。」


「ん?ただの空間跳躍魔法だよ。」


「そっちをもっと自慢しろよっ!」


 残念すぎる紐魔法をあんなに堂々とカッコ良く決めて披露したというのに、それより凄そうな空間跳躍魔法を適当に教えるというのは一体どういうことなのか。


「さて、本題に戻ろうか。ワタシは召喚された時に不満があったのだよ。」


 コイツ本当になんでも無い風に、空中跳躍魔法を流しやがった。


 ポツポツとまるで自白するかのように怪盗勇者は喋り始めたのであった。


お読み頂きありがとうございました。


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