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2.最終章 幕間

お待たせしました。

2.最終章 幕間投稿させて頂きました。

今回はカーメイの幕間となります。

お読みいただければ幸いです。

「俺っちも仲間に入れて欲しいっす。」


 上着を脱ぎ、上半身裸になった俺っちはみんなのいる輪に入りたくて、そこへ飛び込んだ。


 バシャーンッと川に飛び込むと水が跳ね、辺りいっぱいに水飛沫をあげる。

 俺っちは川遊びをする男の子たちに混ざってただ一緒に遊びたかっただけだった。


「来んなよ、女顔っ!」


「そうだ、そうだ。」


「家でままごとか、裁縫の練習でもしてたらどうなんだよ。」


「てゆーか、女のくせに裸になってんじゃねーよ。」


 辛辣な言葉が投げかけられる。


「俺っちはこんな顔で髪も少し長いっすけど、ちゃんと男っすよ。」


 俺っちはキチンと弁解する。

 けれど、周りは受け入れてくれなかった。


「チッ、つまんねぇ、行くぞお前ら。」


「「「おー。」」」


 リーダー格の少年が言うと、全員が前屈みになりながら川から出て行った。

 結局俺っちは誰もいなくなった川に、ポツンと一人取り残されてしまった。


「なんでっすか、俺っちみんなと一緒遊びたいだけなのに…っす。」


 いつもそうだ、一緒に遊ぼうと声をかけると汚いものみたいに扱って、触られのを嫌がるんだ。


 だから一人きりの時を狙って遊びに誘って見たこともあったが、「お前と二人きりだと変な気分になるんだよっ。」と一蹴されたこともある。


 挙げ句の果てには、自分より年下の子に「おねぇちゃん、アタシがいっしょにあそんであげう。」と舌足らずな言葉で慰められた…、いやおねぇちゃんと呼んでいる時点で慰められているのか微妙な気持ちになったが。


 更に月日を重ね、6歳になって村の小さな協会で魔法を鑑定して貰い、俺っちの持つ魔法が魅了魔法と知ってから、更にみんなが俺っちを見る目がおかしくなったんだと思う。

 今まで魅了魔法なんて一度も使ってないのに皆んな怖がりすぎだ。


 8歳になったころには突然、同年代の男の子から告白されるというイタズラを受けたこともある。

 恐らく周りの友達から唆されたのだろう。

 そう分かっていたので勿論断ったのだが、断られた男の子は膝から崩れ落ち大泣きしてしまった。

 泣くくらいならそんなイタズラしなければ良いのにと思ったが言い出すことが出来ず、その場から逃げたした。


 それから6年、俺っちは未だに友達が出来ていない。

 そんな、中唯一の楽しみは村に時折やって来る商人に街の話を聞かせてもらうことくらいであった。


「帰るっす。」


 一人ずぶ濡れになり呟く。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 トボトボと家路につき、俺っちには少し重い家の扉を開ける。


「お帰り、カーメイ。」


 帰った俺っちを出迎えてくれたのは、俺っちとよく似た顔をした女性、俺っちのお母さんだ。


 俺っちはお母さんの声に返事をすることなく、ぶすっとした表情でスタスタと家の奥へと向かい、バタンッと音を立てて扉を閉めると自分の部屋に引っ込む。


 自分の部屋に入ると濡れた服を脱ぎ、ベットへ倒れこみ毛布に包まる。


 しばらくするとコンコンコンと俺っちの部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「メイちゃん、またお友達と遊んでもらえなかったの?」


 お母さんが扉越しに聞いてくる。


「だからメイって呼ぶのやめて欲しいっす。」


「ごめんね、でも私、この呼び方、可愛いと思うのよ。」


 お母さんは俺っちのことを可愛い、可愛いと女の子扱いをしてくる。

 なんなら4歳までは女の子の服を着ていたくらいだ。


「それが嫌だからやめて欲しいんっす。」


 お母さんは俺っちの気持ちを全く理解してくれない。


 お父さんは畑仕事で忙しくて、夕方ごろいつも疲れて帰ってきて、俺っちに構うことなくご飯を食べるとすぐに寝てしまう。


 贅沢な考え方だと、14にもなれば流石に自分でも分かる。

 俺っちの家庭より貧しい家では子供も一緒に朝から晩まで畑仕事を手伝っている。

 そんな彼らの表情を見ると、遊んでいる時間がある自分が、いかに恵まれてるか痛いほど伝わってくる。


 だけど、こんな村嫌いだ。

 家族は俺っちの気持ちを理解してくれない、しようともしてくれない。

 友達は何故か一人も出来ない。


「もうこんな村無くなっちゃえばいいっす…。」


 か細い声は反響することすら忘れて消えた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そして時間だけが虚しく過ぎ、いつのまにか夕暮れ時になり、部屋の扉の向こうからは美味しい匂いが漂っていた。


「メイちゃ〜ん、ご飯よ〜!」


 先ほどのやり取りを忘れたように間延びしたお母さんの声が部屋の中に届く。


「わかったっす。今行くっす。」


 空腹のせいで反論する気力もない俺っちはガチャリと部屋の扉を開けると、リビングの食卓には既にお父さんが席に着いていた。


「お父さん、お帰りっす。」


「ああ、ただいま。」


 お父さんは疲れ切った声で返事をする。

 俺っちとお父さんの今日1日の会話はこれで終わり。

 いつものことだ。もう慣れてしまった。


「そうそうメイちゃんあのね。」


 この食卓の会話の主導権はいつもお母さんだ。

 既に食事を始めて、口に物を入れていた俺っちは視線だけで話の先を促す。


「実はね、メイちゃんに似合うかなって新しい服を縫ったの。」


 お母さんはそう言って机の下でゴソゴソとし始める。


「じゃーんっ!これよ、可愛いでしょ!」


 出されたのはピンク色の可愛いレースのついたワンピース。


「ブッフォッ!」


 口から食べ物が飛んで行った。


「どうかな、久しぶりに着てみない?」


「お母さんっ!何度言ったら分かるっすか、いい加減女の子扱いはやめて欲しいっす。」


 バンッと食卓を叩きお母さんに怒鳴りつける。


「カーメイ、静かに食事しなさい。」


「そこっすかお父さん⁉︎」


 食事中にうつらうつらとしていたお父さんが俺が立てた大きな音に意識を少し取り戻し、注意してくる。


「何が不満なんだカーメイ、十分可愛いじゃないかzzz。」


「可愛いからっすよ⁉︎」


 お父さんはもうダメだ。

 疲労で見るからに意識がほとんど無い。


「あなた、寝るなら寝室へ行きましょう。」


「このワンピースの話題はほったらかしっすか。」


 どうやらお母さんは俺っちよりも一家の大黒柱を優先したようだ。


「あ、メイちゃん。」


「もうなんすっかっ。」


 お母さんが去り際にまた思い出したかのように口を開く。


「その格好じゃ寒いでしょ、風邪を引いちゃうわ。だから、はいこれ。」


 そう言って、帰ってきてからずっと下着姿の俺っちにワンピースをお母さんは押し付けてきた。

 さっきまで毛布に包まっていたので、寒くは無かったのだが、言われて改めて寒さを感じ始める。


「着ないって何度言ったら分かるっすか、別の服を着ればいいっす。」


 そう、寒いからといってわざわざ目の前のワンピースを着る必要なんて無い。


「でも、今日纏めて洗濯をしちゃったからこの服しか残ってないの。」


「計画的犯行っすよねそれ。」


 おっとりした性格に見えるお母さんだが、それは欺くための演技なのではと我が母ながら疑ってしまう。


「じゃあお母さんは、お父さんの着替えを用意をしなくちゃだから、メイちゃんもちゃんと着替えておくのよ。」


 それだけ言い残すと、お母さんはお父さんを連れて寝室へと消えていった。


「こんな家…、こんな村っ、出てってやるっす!」


 渡されたピンクのワンピースを自棄になって勢いよく着ると、家の玄関の扉を開け放ち、既に影を濃くし始めた家の外へと走っていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 どれくらい走っただろう。

 揺れるスカートがズボンと違い心許ない。


「あっ…。」


 俺っちは暗くて見えづらい木の根に足を取られ、ズザザザザッと音を立てて転んでしまう。


「うぅっ…、もう嫌っす。」


 呟く自分でさえも、最早何が嫌なのかが分からない。

 ただ、ひたすらに何もかもが嫌いに思えてしまう。

 悔しさに任せ夜に冷やされた草を地面ごと掴み、爪の間に土が入り込み手が汚れる。


 転んだせいで足が痛い。もしかしたら捻ったのかもしれない。膝小僧は擦りむけて血が滲んでいる。

 もう暗くなる帰らきゃ、だけど、もう立ち上がる気力が湧かなかった。


 上手くいかない、何をやっても何をしようとしても。

 嫌いだ、こんな村。嫌いだ、お父さんもお母さんも。嫌いだ、仲間に入れてくれないあいつらも。

 そして何より、こんな惨めでちっちゃい自分が大嫌いだっ。


 嗚咽を漏らし、涙が溢れるも、声を上げて大泣きすることが無かったのは最後の意地だろうか。

 でも、今よりみっともなくはなりたくなかった。


「おい、何か聞こえないか。」


 ふと、転んだままでいた俺っちの耳に知らない声が聞こえる。

 こんな時間にここに誰かいるのは珍しい。

 だけど、今は見つかりたくなかった俺っちはぐ息を潜めることにした。


「気のせいだろ、そんなことよりあの村を襲う手筈は整ってるか。」


 今なんと言った。村を襲う?

 確かにそう聞こえた。


 俺っちの中に急激な焦りが生まれる。

 こんな時間に人がいるのが珍しいではない、この時間帯に明かりの一つも持たずに村の外を出歩く馬鹿などいるはずが無いのだ。


「ああ、バッチリだ。」


「目的を忘れるなよ、あくまで俺たちの狙いは金品と食料だ。女子供は二の次だぞ。」


「へいへい、わーってますよ。」


「でも余裕があったら攫ってもいいんだよな。」


 そんな会話が付近から俺っちの耳へと届く。

 不味い、知らせなきゃ村に、盗賊が出たって。


 だけど、足が縛り付けられたように動かない。


 震える呼吸が煩く、両手で口を押さえて体が音を立てないように必死に抑える。


「さて、そろそろ村のはずだ。さっさと襲ってさっさと撤収するぞ。」


 そう言って声は止み、複数の足音は遠ざかっていった。


「不味いっす、早くしないとお母さんがお父さんが。」


 そう呟くもどうしていいかわからない。

 既に人が近くからいなくなったお陰で足の震えは止まった。

 なら、直ぐにでも駆け出して、村に知らせるべきだ。

 そこまで考えて思う。

 だが誰にと。


「うちの村に戦える人はいないっす…。」


 じゃあ見捨てて逃げるのか。


 別に良いじゃないか、嫌いだったんだろう、こんな村。

 それに、逃げるわけじゃ無い。

 助けを呼びに行くだけだ。

 今自分が村に行ったところで何が出来るというのだ。

 さぁ、冒険者組合に向かって歩こう。

 大丈夫、きっと冒険者の人たちがなんとかしてくれる。


 思考に潜む悪魔が囁き、ちっぽけな勇気を吹き消そうとする。


「違うっす、こんな村嫌いなのは変わらないっす。」


 だけど、違う。


「けど、みんなを辛い目に合わせるのはもっと嫌っす。」


 いつの間にか自分が立ち上がっている事に気付いた。

 なら、あとは簡単だ。

 俺っちは村に向かって身を屈めながら走っていく。


「まずは、盗賊たちの反対側から村に入るっす。」


 同じ方向から行っても鉢合わせるだけだ。

 ならば裏から回り込み、捕まってない人たちに戦う準備を与えるべきだ。


 そう考えると、村の外側を周り、盗賊たちの進行方向の最終地点になる場所へとやってきた。


「誰かいるっすか、いるなら直ぐ出てきて欲しいっす。」


 俺っちは息を切らしながら、中にいる人に必死に呼びかける。


「その声、カーメイ君かい?」


 ドアを開けたのはお父さんの知り合いの人だった。


「大変なんすっ!盗賊たちがやって来るっすっ。」


「きゃあぁぁぁっ!」


 そこまで言い切ったところで悲鳴が村の端側から聞こえた。

 なんだなんだと言った顔をしていたお父さんの知り合いの人の顔もその声に引き締まる。


「カーメイ君、君は私の家に隠れていなさい。大丈夫、心配する事はないさ。」


 そう言って、その人は農具を持って騒ぎの方向へと向かって行った。


「盗賊だぁぁぁっ、盗賊が出たぞぉぉっ!」


 そんな声が村の何処からか上がり、一気に村が騒がしくなり始める。

 流石に村の男衆全員で立ち向かえば怪我人は出るだろうが勝てると思う。


 あとは俺っちは隠れて待つだけで良い。

 大丈夫、盗賊の数は少なかった。


 俺っちは暗い部屋のベッドの下に隠れて、村の人たちが勝利するのを待っていた。


 しばらくすると悲鳴が止み、村に夜の静けさが戻ってきた。


 だが、未だに帰ってこないこの家の家主のことを思い、恐る恐るベッドの下から這い出すと、自分の家へとこそこそ向かって行くのであった。


 しばらく歩くとき村の広場からすすり泣く声が聞こえた。


「静かにしろやぁっ!」


「おい、お前も静かにしろよ。」


「ああん?俺に指図すんのかテメぇはよぉ。いつからそんなに偉くなったよ。なぁ?」


 そんなやりとりを聞いて、俺っちは広場の方をこっそり覗く事にした。


 そこには、倒れ臥す村人たちと捕らえられた村人がひとまとまりに纏められ、5人の盗賊がそれを囲うように監視していた。


 みんな負けたのだ。

 あまりの光景に理解が及ぶまで時間がかかった。


「おっ、コイツ中々の上玉じゃん。」


「お願いします、やめて下さいっ。きゃあっ!」


 盗賊は女性の中から髪を掴み、自分の元へと引き寄せた。


 お母さんっ!


 思わずそう叫びそうになり、慌てて自分の手で口を押さえる。

 盗賊に今捕まってるのは俺っちのお母さんだ。


「みんななんで戦わないんすか、たった5人じゃないっすか。」


 口から言葉が零れるも、一番戦うことを避けていた奴がとどの口案件である。


 だからといって、今飛び出しても叶うはずないだろ。

 自分を理解しないお母さんなんて要らないそうだろ?

 また、悪魔が囁く。


「だけど、それでもお母さんはお母さんっす。」


 家族を見捨てるなんて一番出来ないことだ。


「アイツらをなんとかする方法を考えるっす。何かあるはずっす。何か、何か、何かっす。」


 打開策を模索する思考の中で思い出す、自分が持つ魔法のことを。

 行けるっすか?

 疑問に思う。


 だけど、成功すれば一気に状況が好転する。

 みんなを今助けられるのは俺っちだけ。

 ここで逃げて後悔するだけならここで死んだ方がマシ。

 そう自分を勇気付けて、立ち上がり広場へ目立つ様に登場する。


「おじちゃんたちっ♪メイのお願い聞いてほしいなっ♪」


 渾身のぶりっ子演技とともに、俺っちの魔法が放たれる確かな感覚を始めて得る。


「「「な〜にぃ。おじちゃんたちなんでも聞いちゃう!」」」


 掛かった。

 初めて魅了魔法を使ったが上手くいった。

 俺っちの言葉に全員が魅了状態となる。


「おじちゃんたち、みんな地面伏せてメイのお願いっ!」


 次の瞬間、まだ動けた男衆が何人も盗賊たちに飛びかかり、上から押さえつける。


「よくやったぞカーメイっ!」


 聞き慣れた声が聞こえ、視線を向けるとボロボロになったお父さんがいた。

 どうやら、この広場にお父さんも捕らえられていた様だ。


「良かった、上手く行ったっす。」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 一時はどうなることかと思ったが、みんな無事みたいで良かった。


「メイちゃん危ないっ!」


 お母さんの珍しくヒステリックな声が聞こえ、次の瞬間、遠慮の無い蹴りが俺っちの背中を捉える。

 軽い俺っちの体はそのまま4、5メートル先まで飛んで行った。


「…ぁっ…ぅ。」


 声が出ない、蹴られた方向に霞む視界を向ける。


「なんだぁ、せっかく静かになったと思ったのに、お前らが逆に捕まっちまったのか。馬鹿だなぁ。」


 そう言った盗賊の男は俺っちの元まで歩いて近づき、襟首を掴み持ち上げる。


「コイツがどうなっても良いなら、そのままで良いぜ。だがよ、助けたいならそいつらを離しな。」


 盗賊の男はそう宣言すると、腰から一本のナイフを取り出し、俺っちの首元へ当てがう。


「お願い、やめてっ!私が代わりになります。だからっ。」


 お母さんが叫ぶ。


「おっと近づくなよ。娘を失いたくないだろう?」


 そう言いながら、男はナイフを軽く減り込ませ、俺っちの首から少量の血が滲む感覚が伝わる。


「もう…いいっす…。俺っちのことは…諦めて…っす…。」


 ぼやける視界には必死に懇願するお母さんの姿が移り続けている。

 そんな姿を見ていられず諦めて欲しいと伝えた。


「出来るわけないだろっ!」


 お父さんが俺っちの声を拾い叫ぶ。


「ちっ、煩いなぁ。あーめんどくせっ。」


 そんなやりとりの中、痺れを切らした男が口を開く。


「はぁ、楽できればと思ったんだがな。まぁ良いさ、俺一人でも全員殺せるしな。全員殺してから金目の物を頂くとするかぁ。」


 盗賊の男はそう宣言し、ナイフに無慈悲な魔法の光を纏わせる。


「じゃあなガキ、あの世で家族と再開させてやるよっ。」


 光るナイフが俺っちの首へと向かって吸い込まれる様に振り下ろされる。


「やめろぉぉぉっ!」

「やめてぇぇぇっ!」


 お父さんとお母さんの悲痛な叫び声が上がる。


 そして。


 いや、だがしかし俺っちの首をナイフが裂く事は無かった。


 何故なら、


「うん、見過ごせないよ。」


 盗賊男のナイフを持つ手を掴む、パンイチの変態男が突然現れたからだ。


「いや…、誰っすか…。」


 思わず瀕死の状態だと言うのを忘れ、突っ込みを掠れた細い声で言ってしまう。


「僕?僕はシズトだよ。」


 目の前に敵が居て、かなり切迫した状況だと言うのに、長い金髪を後ろで一纏めに縛っている男はなんでもない風に答える。


「お前、舐めてんのか。」


 腕を掴まれた盗賊男は少しの間呆気に取られていたものの、なんとか持ち直し、自分を放って続けられた会話に青筋を立て割り込んで来るが、直ぐにあることに気づく。


「なっ、手が動かねぇっ⁈」


 自分の手がシズト名乗った男に掴まれたまま、振りほどく事どころか、ビクともしないことに。


「とりあえず、その子を離してもらおうかな。」


 そう言ってシズトは俺っちを掴んでいる方の手も掴み、盗賊の両腕を己の手の握力で締め上げていく。


「ああ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!腕がっ…腕がっ潰れるっ!」


 痛みに耐えかねた男は俺っちとナイフを取り落とし、俺っちはそのまま地面へとどさっと横たわる。


「「カーメイっ!」」


 そんな俺っちにお父さんとお母さんが駆け寄って抱き上げてきた。


「このまま腕は使えなくさせてもらうね。」


 そう言うとシズトは盗賊の両腕を容赦なく握り潰し、今度は盗賊の男が地面へと転がる番出会った。


 この謎の変態男の登場により、村を襲ったこの夜の事件は呆気なく片付いた。


「君の活躍聞こえていたよ、凄くかっこよかったよ。」


 両親の村に抱かれる俺っちにそんな言葉をかけ、何かの魔法をかけると俺っちが先程まで感じていた激痛が全く無くなっていた。

 これは恐らく回復魔法だ。


 シズトは同じように広場に横たわる人たちに魔法をかけていき、村人たちの治療をしていった。

 結局俺っちは、そんなシズトの後ろ姿を見ながら安心感からか気を失ってしまった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌朝、俺っちは村長宅へ訪れていた。

 昨日突然現れたシズトと名乗った男は村長宅へ招待されたらしい。

 俺っちはシズトさんに会いたくて、村長宅の前まで来ていた。


「村長っ!シズトさんに合わせて欲しいっす。」


「むっ、別にわしは構わんが。」


 村長はそう答え、取り敢えず中に入れてもらうことに成功し、シズトさんと出会うことが出来た。

 シズトさんは俺っちを見ると「やぁ、君は昨日の勇敢な子だね。」と挨拶をしてくれた。

 しかし、俺っちは挨拶もせずに開口一番にこう言った。


「師匠っ、俺っちを弟子にして欲しいっす。」


 誰に似せたのか、一纏めにした黒髪が頭の後ろで尻尾のように揺れる。


 これが俺っちの冒険へのきっかけだったっす。

お読み頂きありがとうございました。


次回からは三章の開幕となります。


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