2.最終章
お待たせしました。
2章最終章の投稿となります。
お読みいただければ幸いです。
「ここでお別れだね。」
「ああ、直ぐにまた会う気がするけどな。」
別に未来予知でもなんでもない、ただ予感がするだけだ。
だから、シズトの言葉にそんな言葉が口を衝いて出てしまった。
「その時はお互い強くなっていようね。」
「まぁ、善処する。」
「オクトさんそこは自信を持って答えて欲しいっす。」
「でも、オクトらしいですわ。」
俺たち四人は、それぞれの目的のために別の場所に向かうことになった。
今はちょうどその分かれ道だ。
シズトは四天王の一人を倒したと報告するのと、ついでにその討伐報酬代わりに、俺たちの指名手配の取り消しを頼みに一度王都へ赴くらしい。
本人曰く、冒険者に絡まれるのが面倒くさいという理由らしい。
俺は指名手配されてんだから捕まるだろ、と言ったら「大丈夫、大丈夫別に悪いことするわけじゃないし、いざとなったら無理やり逃げれば良いしね。」と言っていた。
逃げるが選択肢に入ってる時点でどうかと思うのだが。
あと、ガレキ、クズレたち反逆軍は冒険者組合に報告してあり、村の復興を手伝わせたあと、犯罪奴隷として炭鉱行きだそうだ。
幸い人殺しはしてなかったみたいなので、運が良ければ十数年で奴隷から解放されるだろう。
ガレキのクズレは他の巨人族よりもっと時間が掛かるかもしれないが頑張って欲しいものだ。
そういえば、反逆軍の報告に冒険者組合に行った時、金色冒険者であるシズトは受付嬢さんから色々聞かれていたな。
まぁ、あれだけデカイのが動いていたのだ。流石に影響は有るだろうとは思っていた。
冒険者組合内も冒険者たちが沢山集まっていた。
何度も地鳴りが響き、冒険者たちを緊急招集していたとの事。
だがシズトがたった一言「僕が解決したよ」と言っただけで冒険者組合の重い雰囲気が払拭された時は、これがカリスマ性かと納得せざる得なかった。
「しかし、散々だったな特にカーメイが。」
会話に困った俺は取り敢えずカーメイに話題を振ることにする。
「そうっすね。なんか皆さんと冒険してたら俺っちの村にいた時よりも酷い目にあった気がするっす。主に精神的な面でっすが。」
げんなり気味にカーメイはおどけてみせる。
「でも楽しかったでしょうですわ。」
なんだか知った風な口を聞くクック。
「クックは冒険歴一年未満だろうが。」
「冒険に重要なのは時間でなく、その過ごした日々の濃さですわ。」
「良いこと言うねクックちゃん。」
「ですわ。」
シズトがクックの味方につきやがった。
ならばこちらはカーメイを味方につけなければ。
「しかし、美少女カーメイ弄りも今日で終わりか。」
「なんで今俺っちに斬りかかる必要があるんっすか⁉︎」
しまった、どうやら言葉選びをまだ間違ったようだ。
「でも最後はメイも大活躍だったよ。あの時は本当に助かったよ、ありがとねメイ。」
「だから師匠、メイって呼ぶのやめてほしいって何回言ったら…。」
照れを隠すように吠えるカーメイに、シズトはカーメイの頭をわしゃわしゃと撫でて言葉の続きを遮る。
「もうぅ…良いっすよ。」
チョロメイ。
カーメイ扱いに長けたシズトはあっさりとカーメイを攻略してしまう。
そして、周りに味方はいなくなってしまった。
「オクトさん今何か失礼なこと考えてるっすね。」
「いや、別にちっちゃいなんて思ってないぞ。」
「もう、オクトさんはっす!」
頬を膨らませ両手を高く振り上げ怒るカーメイ、そういうとこだぞカーメイ。
しかし、そんなに俺は顔に出やすいのだろうか。
気をつけなければ。
「あははは、オクトには無理だと思うよ。」
「読心魔法かっ⁉︎」
「いやオクト…、貴方は結構顔に考えが出ますですわ。」
なんだと⁉︎クックすらわかるほどに分かりやすいのか。
「じゃあ、今更隠しても無駄か。」
うん、開き直ることにした。
「はぁ、オクトさんの考え方は師匠と一緒の匂いを感じるっすよ。」
呆れたようにカーメイがぼやく。
「いや、そこの変態と一緒にされるのは俺も心外なんだが。」
「オクトがそれを言うのですわ。」
「えっ?」
「「「えっ?」」」
おっと、どうやら俺に味方はいないようだ。
それから俺たちはしばしの歓談の時を過ごし、やがて話す言葉も途切れ途切れになって行く。
「寂しくなってしまいますねですわ。」
そして会話が途切れポツリとクックが呟く。
「なんだ、まだシズトの裸が見たりなかったのか、むっつりポンコツ貴族。」
つい癖で別れを茶化すようにクックをからかう。
「そんなこと言ってませんですわっ。」
「えっ、そうなの言ってくれれば良いのに。」
「シズトさんも服に手をかけないで下さいですわっ!」
「今日でお別れなのに本当に締まらないっすね…。」
カーメイと同感だ、俺もつくづく思う。
でも、別れ際にしんみりとするよりはこっちの方がマシだ。
「シィィィィィィズゥトォォォッ、見つけたぞぉぉぉっ!」
「あちゃー、また見つかっちゃったみたいだね。」
俺たちの別れの最中に現れたのはシズトにのされた冒険者ダマーであった。
「シズトと一緒に居ると本当に退屈しないな。」
「あはははは、ありがとう。」
シズトに皮肉はどうあっても通じないようだ。
「そんな事言ってる場合じゃないっすよ師匠。早く逃げましょうっす。」
「いや、ここは魔法少女メイちゃん爆弾の使いどころだな。」
俺は触手魔法を発動し、逃亡を図るカーメイを掴むと投擲態勢に入る。
「なんっすかその技名、やっちょっ、離してくださいっす。あと被害に会うのは俺っちだけっすよね。」
くっ、カーメイが往生際悪くジタバタ暴れられるせいで投げづらい。
「あははは、オクトの悪い冗談だよ。ほら、オクト、パース。」
「誰がタコだっ!」
今は懐かしき球技大会に響く、「オクトパース」のトラウマが蘇り、顔を真っ赤にしてカーメイを投げつける。
アイツらボール持ったら、俺に向かってこのネタがやりたいがためにボールを回してくるんだ。
一試合中に必ず全員一回はやるから、敵のマークが俺だけ二、三人ついてめっちゃ目立って恥ずかしかったんだぞ。
「オクトさん酷いっす。ちょっとは尊敬してたんっすのに。」
シズトにナイスキャッチをされ担がれたカーメイは俺に文句を言うが、とても楽しそうな声に聞こえる。
何だかんだ文句を言いつつもノリが良いよなコイツ。
「もうオクトは本当に素直にならないのですわ。」
俺の態度を見兼ねたクックがちゃんと言葉にしろと言外に諭してくる。
「分かったよ、二人ともまたな。」
だからクックの言葉に、たまにはと素直に従い、俺はぶっきら棒に別れの挨拶を言うと駆け出す。
「うん、またね。」
「また会うっす。」
「お二人ともまた会いましょうですわ。」
2組の冒険者は駆け出す。
それぞれの目指す方向へ。
それぞれの目的を持って。
2組の道はここで違えることになる。
しかし、誰一人それを憂うものはいない。
別れに寂しさなど要らない。
何故なら信じているから。
互いに、また必ず会えると。
無邪気に、不思議と確信のない確信が此処にある。
だから、冒険者たちは笑って走る。走る。走る。
新しい冒険へと向かって。
お読み頂きありがとうございました。
2章までのお付き合いありがとうございました。
シズトとカーメイコンビとの冒険はここで終わりです。
ですが、彼らの冒険はまだまだ続くのでこれからもお読みいただければ幸いです。
次回は幕間の物語となります。




