2.20章
お待たせしました。
2.20章の投稿となります。
お読みいただければ幸いです。
「いや、下を隠せ下を。」
痛む体を引きずりながらもシズトに渾身のツッコミを入れる。
「でも、これで大丈夫だよ?」
「何がだよっ、下が丸出しじゃねぇーか。」
そう言って俺はシズトの体を隠す為、更に俺の外套を投げつける。
シズトはその外套を遠慮なく腰に巻き下を隠す。
うぇ、あの外套二度と使わないことにしよう。うん、ボロボロだったし丁度いいな。
「ありがとオクト、助かるよ。」
「どー致しまして。」
「本当は一枚で十分なんだけどね」
「は?何でだ。丸出しだったじゃねぇか。」
シズトの言ってる意味がよく分からず首を傾げる。
「僕の魔法はね止められないんだ。だから勝手に魔力を消費しちゃうんだよ。」
「じゃあ普段はどうやって魔力を回復してるんだ。」
勝手に魔力を使われるなら魔力を回復する暇など無いだろう。
「あはは、80パーセントの力までなら魔力の精製率も効率よくしてくれるからね。逆に100パーセントだと魔力の精製率を消費率が上回っちゃうんだよ。」
「だから服が必要なのか。」
一枚でも着れば80パーセントに戻せる。
100パーセントの状態は一番強くとも一番隙が大きくなってしまうというわけか。
以外に弱点を持つ魔法なんだな。
てっきり弱点は全裸になるところだけかと思っていた。
シズトの魔法の意外な弱点がわかったところで、気の抜けた俺はふと呟く。
「倒したんだよな。」
「うん、間違いなく倒したよ。」
ぽっかりと胸空いた空洞と、完全に消失した足を見れば既に命の灯火は鎮火していと分かる。
本当に倒したんだな、こんな巨体を。
そんな会話をして感慨深くなっている時に気づく。
「あれ、縮んでねぇか。」
「失礼っす。縮んでねぇっす。」
「カーメイじゃねぇよ。ロックの死体がだ。」
俺の言葉に全員がロックの死体に目を向ける。
やはり先ほどよりもだいぶ小さくなっている。
一番大きかった時より半分もないんじゃないか。
「確か、村長がコイツは倍加魔法持ちって言ってたすから、死んでその魔法が解けてるんだと思うっす。」
「成る程、倍加魔法か。」
道理で最初に見た時に他の巨人よりも倍はデカかった訳だ。
「だけど、最期の大きさは倍程度じゃ済まなかったよ。」
シズトの言うことは最もだ、最終的な大きさは確実に200メートルを超えていた。
倍加では200メートルに届かない。
「それはダークネス様がコイツの魔法を倍加魔法から巨大化魔法へと『深化』させて下さったからだ。だというのにコイツは…。」
だいぶ縮みもう元のサイズであろう姿までに小さくなったロックの死体から、いや正確には死体の上から、唐突に知らない声が聞こえる。
その声は明らかに四天王を名乗るロックを下に見たような口調であった。
「これはスライムか?」
俺は見たままのことを呟く。
全員の視線の先、そこに居たのは黒いスライムだった。
「ただのスライムでは無い、私はダークネス様の直近の部下であり、最強スライムだ。」
どう喋ってるか分からない、やたら口のデカイスライムはダークネス直近の部下と名乗った。
「今はお前達には今は用が無い。コイツの回収を優先させてもらうぞ。」
そう言うとスライムはロックの死体をゼリー状の体内へと飲み込んだ。
飲み込まれたロックの死体は完全に消失してしまう。
いや、回収と言っていた。ならあれは空間収納魔法の一種か?
「待てっ!」
俺はなけなしの魔力を使い魔法により触手を顕現させ、スライムへと伸ばすがスライムは霧のように霧散して、伸ばした触手はその体を通り抜けてしまう。
「今はお前達には用が無いと言った筈だが。ふんっ、まぁ良い。」
本当にどう喋ってるか分からないスライムがあるはずもない鼻を鳴らすと、そのまま霧と化した体を上空へ漂わせて離れていく。
そして、霧と化したスライムは空に消え完全に見えなくなってしまった。
「何だったんだ一体…。」
「僕も分からない。けど、見逃してもらったのかもね。あのスライムからは凄い魔力を感じたよ。」
「あんな喋るスライム見たこと無いっす。」
一同は色々と口にするが、結局のところ何も解決しない。
「とりあえず、シズトの魔力が回復次第戻るか。」
他の巨人族たちがどうなったか心配だし、何よりクックのこともある。
「うん、そうしてもらえると助かるよ。あと10分もあれば回復魔法が使えるようになるしね。」
寝転がったままのシズトが答える。
そんなシズトのボロボロの姿を見て俺は思う。
お互い強いという自負があった。
それに加え勇者二人掛かりで挑んだというのに、たった1人にお互い満身創痍で動くことすらままならない状態にまでボロボロにされてしまった。
2人掛かりではあったが、カーメイが助力してくれたことも大きい。
そういえばカーメイも何故か、木の枝で引っ掻いたような切り傷をいくつも作ってボロボロだ。
まるで茂みに勢いよく突っ込んだような傷だな。
しかし、今回は取り敢えずは勝てたから良いものの、一歩間違えれば確実に死んでいたとも言える。
他の四天王がこれ程の強さを持っているなら、また同じように勝つのは厳しい上に、手でも組まれたら勝ち目などあるのだろうか。
「強くならないとな。」
ポツリ呟く。
「そうだね。」
さっきの謎のスライムも含めて強敵となり得る敵に対抗できるよう、もっと強くならねばならない。
それが俺の今の本心であった。
しばしの無言が続き、時間だけが流れポツリと誰ともなく呟く。
「そろそろ帰るか。」
「うん、そうだね。」
「そうするっす。」
三人は立ち上がり村に向かってすすんでゆくのであった。
「あれ、何か忘れてないか。」
ふと、記憶に何か引っかかりを覚えて2人に聞いてみる。
「気のせいじゃないかな。」
「俺っちも心当たりが無いっす。」
シズトの記憶力で気のせいというならそうなのであろう。
そして、夜になり俺たちが去った村付近の森の中から「いてぇーよぉ〜。」といくつもの声が上がり、その後、村にヨナキ村と名付けられたのはまた別の話。
お読み頂きありがとうございました。




