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2.17章

お待たせしました。

2.17章の投稿となります。

お読みいただければ幸いです。

「もう諦めて死んだらどうだ。」


「馬鹿を言うなクズレ、コイツは俺たちの手で殺す。」


「殺されるかよ。」


 俺は防戦一方の苦戦を強いられている。

 クズレとガレキの武器が入れ替わったあと、2人の連携に手も足も出ないでいた。

 そして一番厄介なのは足を奪ったはずのガレキの攻撃だ。


「いい加減、磔になれやぁっ!」


 カァーンッと甲高い音が鳴ったと思うと極太の釘が俺の横を掠める。


「チッ、ちょこまかとっ。」


 ガレキは金槌で釘を飛ばして攻撃しているのだ。


「ハハハハハハハハハッ、どおした逃げるだけじゃあ勝てねぇぞ。」


 クズレが俺を煽る。

 ただの挑発だ。取り合う必要なんてない。

 あの釘には限りがあるはずだ全弾撃ち尽くすまでは逃げるだけでいい。


「そっちこそ一発も入れられてねぇじゃねぇか。大工なんて廃業したらどうだっ!」


 民家を影にして走り、2人を煽って釘の無駄遣いを誘発させようとする。

 カーンッと再び甲高い音がして、俺の走っていたすぐ後ろにグサっと釘刺さる音が聞こえる。

 返事の代わりに釘が飛んできたが狙い通りなので結果オーライ。


「来たなチビィッ!」


 いつのまにか回り込んでいたクズレが縦に鋸を振り下ろす。


「あっぶなっ。」


 ここは2人のテリトリーでもあり、民家を盾にするのは失敗であった。

 俺は民家の屋根に向かって触手を伸ばし、上へと間一髪逃げる。


「ガレキッ、屋根だ。」


「見つけたぞ虫ッ!」


 だが、見晴らしいのいい屋根に登ったせいで、直ぐにガレキに気づかれ、金槌をトリガー代わりに釘が撃ち込まれる。


散弾刺(さんだんざし)!」


 先程までの一本で狙いをつけた攻撃から、範囲を狙った攻撃に変わり、釘が数本纏めて金槌によって放たれ飛来する。

 ドパンッと音がして着弾した釘が屋根の一部を削ぐように吹き飛ばした。


「くそっ。」


 焦った俺は、ガレキの攻撃に撃ち抜かれまいと民家の屋根を触手で次々にジャンプして渡っていく。

 しかし、そう易々と上手くは行かせてくれない。

 ガレキの釘の一本が俺の触手をジャンプ中に見事に撃ち抜き触手が形を保てなくなり、消失することによりバランスを崩す。


「づあ゛っ⁉︎」


 バランスを崩した俺はそのまま落下し、運良く民家の窓へと転がり込むことが出来た。


「くそっ、分が悪過ぎる。」


 あまりにも圧倒的不利な状況に愚痴が漏れる。


「チッ、掠っただけか。クズレっ!見失った。」


「大丈夫だ。民家に転がり混むのが見えていた。ここに居るんだろぉ!」


 民家に鋸が俺の腹ぐらいの高さに差し込まれ、そのまま電動鋸を思わせる速さで横にスライドされる。


「ふっ!」


 息を吐き直ぐに垂直に跳ねると、俺はそれを天井に触手で張り付くことでやり過ごした。


「ふむ、手応えなしか。」


 俺はクズレが手を休めている隙に窓から更に奥へと逃げる。


「クズレっ、虫があの気色の悪い壁側に行ったぞ。」


 離れた位置から固定砲台と化したガレキが逐一に俺の居場所を伝える。


「ガレキ、テメェはここから真っ直ぐ距離を詰めろ。俺は逃げ場になる方から回り込む。残りの奴らもボケっと突っ立ってないで役に立ちやがれ。」


 クズレは先程から3人の激闘に割り込めないでいた仲間の巨人族に指示を出し、ガレキとクズレの2人は二手に分かれる。


「はぁはぁはぁ、流石にキツイな。」


 戦う場所は敵のテリトリーの中。

 そして防戦一方で、こんな風な状況を強いられるのは久し振りであり、普段なら逃げ一択だったのだが、慣れないことをしたせいで壁に手をつき息を切らしていた。


 重く地面を踏みしめる足音が聞こえ、振り返ると2人が後ろから道を塞ぐように現れる。


「随分とお疲れじゃねぇか。」


「虫が手こずらせやがって。」


 クズレとガレキの2人が俺を触手の壁と挟むように距離を詰め俺の退路を断つ。

 更に少し後方には恐らく触手で作った壁内の全ての巨人族が集まっているだろう。

 壁と壁に挟まれている気分だ。


「ガッハッハッ、自分で作った壁のせいで追い込まれるとは世話ねぇぜ。どおした、びびってもう声も出ねぇのか。」


「シラケるなぁ。オイ虫、鳴いてみせろや。」


 お前はどっかの戦国武将か。

 それと俺はホトトギスじゃねぇ蛸だ。って誰が蛸だ。


 脳内突っ込みをしている間に、一歩近づいたクズレが俺の首元に鋸を添える。

 俺は腰に生やしていた触手を霧散させて魔法を解く。


「はぁ、本当に諦めやがったのか、…もういい死ね。」


 鋸が俺の首を断とうとするその瞬間、壁の触手に隙間が出来、そこから二本の蛸の触手が現れその吸盤で鋸を挟み込み固定する。


 その触手の力強さは巨人族のパワーを持ってしても動かすことは出来ない。


「なっ⁉︎」


「クソ、その気色悪いもんで仕事道具を掴むんじゃねぇっ!」


 ガレキが釘を構えるがもう遅い。

 今度は壁を作っている触手そのものが、ガレキの両腕に絡みつきその動作を阻害する。

 ボドンッと重鈍な音を響かせ、ガレキは金槌をとり落す。


「クソがッ!」


「テメェ、初めからこれを狙っていやがったなっ!」


 鋸を奪われたクズレは即座に鋸の回収を諦め距離を取って叫ぶ。


「その通りだ。まんまと演技に引っかかってくれてありがとよ。」


 最早勇者とは思えない澱んだ笑みを俺は顔に貼り付ける。

 俺の魔法は触手を顕現させ操る魔法。

 たとえ咄嗟に遠くに壁として出した急増品の触手だとしても、これだけ近付けば再び操ることも可能となる。

 2人が武器を取り替えた時に俺はすぐに直接正面から戦う作戦を捨てていた。


「クソがッ、嵌められた。」


 戦いが始まってからずっと余裕を保っていたクズレの顔がついに歪む。

 ガレキに視線を向けるとすぐに駆け出す。

 クズレの狙いは分かっている。

 俺はガレキの足元に落ちた金槌を触手の壁の向こうへと引きずり込む。


「金槌があればまだ魔法が使えた…か、…当てが外れたな。」


「テッ、テメェェェェェッ!」


 俺の意趣返しに武器を完全に失ったクズレが吠えながら後退りをする。

 先程まで敵のテリトリーであった巨人族の村は既に俺の魔法を最高に活かせる舞台となった。


「今度はこっちの番だ。一人も逃げれると思うなよっ!」


 壁に使っていた触手を次々に巨人族たちに伸ばし、手や足に絡ませて、最後に全身の自由を触手で奪っていく。


 逃げる巨人を一人、二人、三人と捉えられていき、最終的にゼロとなった。


「クソがっ、虫が離せっ!」


「テメェ、ただじゃおかねぇぞ。」


 捕まって身動きが取れないというのに、ここまで凄めるのはある意味才能だな。

 まぁ、いつまでも魔法で拘束していたら魔力が尽きてしまう。

 ただでさえ、この壁を作るのに全魔力の3割を消費してしまってる。

 うん、そうだな。さっさと無力化するに限るだろう。


「一応先に言っとくけど、今から全員の手足の骨を適当に折るけど我慢してくれ。」


「「「は?」」」


 巨人族たちの声が一斉に重なる。

 きっと大工仕事に支障が出るのが不安なのだろう。


「大丈夫だ、ちゃんと後で治してもらえるから。次の日には仕事に戻れるはずだ。」


 しかし、対策は万全、シズトに治して貰えばいい話だからだ。

 直ぐにでもお勤めに入ることが出来るだろう。


「「「そういう問題じゃねぇっ!」」」


 最近の客は注文が多くて困る。

 自分を神様か何かと勘違いしていないか。

 まぁ、こっちも暇じゃ無いし魔力の節約もしたい。


「じゃあ、いきまーす。」


「「「待てやぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 ゴキゴキゴキッ!

 辺りから骨が砕かれたり、折れたりする音が響く。


「「「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 野太い絶叫が村全体に響き渡るのであった。


「よしっ、これで取り敢えずはいいか。」


 俺はそう呟くと、触手魔法を解き全ての顕現させた触手を消し去る。


「「「うっう゛う゛う゛ぅぅ……。」」」


 巨人族たちは死屍累々で蹲る事すら出来ずに地面へと横たわっている。


「うん、完璧な仕上げだ。」


 ふと気づく、触手魔法を解き触手の壁は消した筈なのにまだ影かかっている。


「あれ?」


 これだけ愛用?してきた触手魔法の扱いを間違えたのかと不思議に思い振り向く。


「は?」


 言葉の続きが出てこない。

 確かに、俺の触手魔法で作った壁はしっかりと消えていた。

 しかし、そこには壁を出す前には無かった筈の『山』が出現していた。

お読み頂きありがとうございました。

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