2.16章
お待たせしました。
2.16章投稿させて頂きました。
今回はシズト視点となります。
お読みいただければ幸いです。
「人が一仕事終えてせっかく休んでるってぇのに、突然何なんだ、テメェはよぉ。」
尻餅をついたそいつは、頭を掻きながら空中を魔法で飛ぶ僕を睨みつけて言い放つ。
「僕?僕はシズトだよ。」
特に困る事でもないので聞かれた質問に素直に答えてあげることにする。
「テメェから仕掛けてきたんだ、覚悟は出来てるんだろうなぁ。」
巨人族よりも更に大きな巨人が立ち上がり吠える。
「四天王の1人、この巨岩の無頼漢様にぶっ潰される覚悟がよぉっ!」
天を轟かさんとするその声はあたりいっぱいに響き渡り、その声量だけで木々を揺らす。
どうやら、四天王の噂は本当であったみたいだ。
「良かったよ君が四天王で。」
「ああ゛ん?何言ってんだテメェ。」
どうやら僕の言っている事が分からないらしい。なら教えてあげよう。
「だって君を遠慮なくぶっ飛ばせるからね。」
「潰れろ羽虫がっ!」
僕がそう言った直後、まるで飛んでいる虫でもはたき落とすかのように平手を上から下へと向けて振るう。
そんな簡単にやられるわけにはいかないんだよね。
「無刀抜刀、飛炎」
僕は風魔法の無刀に火炎魔法を混ぜたお気に入りのオリジナルの魔法、『飛炎』を放ち迫る掌を一閃する。
その一撃はしっかりと掌を捉えたがまるで意にも介さないようにそのまま掌が迫って振り下ろされる。
「おっと。」
僕は風魔法を駆使してそのままその掌を躱すが掌が通り過ぎただけだというのに掌が巻き起こした暴風に揉みくちゃにされかける。
「流石に堅いね。」
上半身は既に裸であり全力の4割程度、これだけじゃ足りなかったみたいだ。
「あちちちちっ、ふーふー、なんだ炎魔法まで使えるのか。羽虫のくせに多芸じゃねぇか。」
ロックは自分の掌に息を吹きかけ炎の熱を冷ましている。
その様子を見るに完全に効かなかった訳では無いらしい。
「お褒めに預かり光栄です。他にも僕の魔法は沢山あるから楽しんでいってね。」
「そうか、じゃあこっちも見せてやらなきゃなぁ。」
ロックの体に一瞬魔法の光が宿る。
「じゃあ次はこいつだ、同じ手が通用すると思うなよ羽虫ッ!」
一見何の変わりもしないロックの手が同じように僕に迫って来た。
今度は僕を捕まえようと掌が迫って来ている。
今度は掌ではなく指の関節を狙って魔法を放つ。
「無刀抜刀、飛炎」
しかし、今度は掌が焼けることすらなかった。
焦げ付く事なく掌が迫る。
「高速落下」
文字通り下に向かって急速に落下する風魔法だ。
迫り来るロックの魔の手から逃げる。
「本当に羽虫みたいに逃げよるなぁ。ブンブンブンブン、煩くて敵わんなぁおい。」
「今のは硬化魔法かな。」
「虫のくせに一端の知恵までつけとるとは、とことん面倒くさい。」
今の反応を見る限り図星かな。
「僕ももう少し本気を出そうかな。」
僕はズボンを脱ぎ去り空間収納魔法に仕舞い、パンツ姿になる。
「本気を出すと言って服を脱ぐんか、変わった奴だな。だが、俺様もそうだよなぁ。最後に信じれんのは結局は自分だけなんだよぉボケェ。」
何がロックの琴線に触れたのか、先程まで手を振り回すだけであったロックが拳を構える。
僕の魔法を好意的に捉えてくれたのはこの人が初めてかもしれないな。
「じゃあ今度はこっちから攻めさせてもらうよ。高速!」
僕は全力でロックの顔に向かって飛翔する。
僕を正面から潰しに来るロックの右の拳が迫る。しかし、それをロールしてロック自身の腕を影にして更に顔へと近づいていく。
それに気づいたロックは右腕を大きく外側へ振り払い僕を遠ざけようとするが、そのまま大振りになった右腕の下をくぐり抜け眼前へと到着する。
「無刀抜刀、爆穿」
ロックの顔を斜めに手刀で切り上げると、僕の振られた腕に沿ってロック顔面でボバババババンッと連鎖する爆撃のような音を立てて、決して小さくない爆発が起こる。
「ぐおおおおおおおおっ!」
たまらずロックは顔面を左手で覆い、右手を闇雲に振り回し僕の接近を阻む。
「コイツァ効いたぞ、最初よりも大分つえーじゃねぇか。」
視界が回復したロックが僕を睨みつけながら褒めてくれる。
「またまた、お褒めに預かり光栄です。」
賞賛にはきちんとお礼をするのが僕の主義だ。
「はっ、クソ生意気な羽虫だ。だが、コイツをくらって同じように余裕でいられっかぁ。」
そう言うとロックは地面に右手を着き、そのまま地面を魔法かなにかで隆起させると、腕に絡みつかせて、手の甲の部分が膨らんだ変わった形の籠手を大地から作り上げた。
「土魔法で籠手を作ったんだ、変わった形だね。でも当たらなければ結局意味ないよね。」
「コイツはただの籠手じゃあねぇよ。」
そう言うとロックは籠手を着けた方の腕を前に伸ばし掌を横に傾けると僕に向ける。
その籠手の手のひらの中心には空洞が空いていた。
「土銃ッ!」
ロックが叫ぶと岩が掌の空洞から出現し砲弾を思わせる勢いで放たれた。
「泡爆弾っ!」
僕は水魔法の一つ泡爆弾を使い盾を形成する。
岩の砲弾が泡爆弾に触れた瞬間に泡が水で爆発を起こし、その水圧で砲弾を跡形もなく消しとばす。
「これも防ぐのか。」
「まぁ、当然かな。」
「でもよぉ、あと何回防げるんだぁオイ。」
「何回でも防いでみせるよ。」
そう言ってみせるものの馬鹿正直に受け止めるつもりはない要は避ければいいだけの話だ。
「じゃあ頑張れよぉ、羽虫。」
そう言ったロックは掌を今度は僕ではなく、巨人族の村の方に向ける。
「あっちに妙なもんが生えてやがるが、あれもお前のお仲間がやったんだよなぁ。目的はあの裏切りモンどもの救出ってところかぁ?」
「!」
「全部防ぐんだろぉ?やってみせろや羽虫っ!土銃ッ!」
「泡爆弾ッ!」
「土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!土銃ッ!」
ロックは上下左右と色々な方向から、村に向かって乱射された岩の砲弾が飛んでいく。
射線に盾を置いてるだけじゃ防ぎきれないかな。
僕は一瞬で判断する。
「全力高速!」
僕は最高速を出し、全ての岩の砲弾に向かい飛翔して行く。
まず一つ、右の拳で打ち砕く。
二つ、そのまま直下にある岩を今度は右足で蹴り砕く。
三つ、四つ、両足で踏み落とし村への進攻方向をずらし、その反動で飛び上がり体当たりを決めて砕く。
五つ、体当たりして砕いた砲弾の直線上にあった五つ目の砲弾に回転しながら裏拳を決める。
六つ、裏拳をしながら急転回をし、六つ目の射線に割り込み背中で受け止め威力を殺す。
七つ、威力を殺しきり自由落下を始める砲弾を足場に躍ね、空中宙返りをしてサマーソルト放つ。
次が最後、だがその砲弾は追いかけても届きそうに無い。
「無刀抜刀、瞬突!」
左手で手刀を作ると腰に溜め、最後の砲弾に貫手を放つ。
瞬間僕の手刀に沿って貫通力を持った風魔法が砲弾に命中し最後の砲弾を砕ききり、全ての砲弾を止めることが出来た。
「戦いの最中に余所見とはいい度胸じゃねぇーカァッ!」
言葉と同時にロック拳が僕のがら空きとなった背中を捉え、そのまま地面へと叩き落される。
「ゴハッ!」
口から血が飛び出す。骨が何本か持っていかれた。
まともに背中にロックの拳を受けた僕は地面へと高速で叩きつけられた。
あいたた、隙を見せた訳じゃなくて、無理矢理つくらされたんだけどな。
内心そう思うも口には出さない。
「やっとまともに一撃が入ったわ、だが、たった一撃だってのにもうボロボロじゃねぇかよぉ!」
ガッハッハっとロックは嫌味ったらしく笑う。
「俺様の勝ちだ。まさか本当に他人を守るとは、テメェは本物のバカだったよぉだなぁ。」
僕が馬鹿?そんな事有るわけがない、いいや、有ってはいけないんだ。
だって僕は間違っていないから。
「いいや、僕は天才だよ。」
ロックは知らないようだから教えてあげなくちゃね。
傷を回復魔法で戦える程度に回復させながら立ち上がると、口から溢れた血を拭い去り僕は呟く。
「だから、僕が絶対に勝つ。」
僕が選んだ道が正しいと証明するために。
正面の圧倒的サイズ差を持った敵を目の前に再び風魔法で飛翔して宣言する。
僕の勝利を。
「どうやらよぉ、まぁだ力の差が分からないらしいなぁ。」
ロックの体に再度、魔法の光が一瞬宿る。
「一撃で殺し切らないと回復魔法で回復されちまうときた。」
話す声が遠くなっていく、しかしその声は大きくもなっていく。
「いい加減、諦めろやぁ、テメェに万に一つも勝ち目はねぇんだよぉ。」
そこには『山』が居た。
「これが俺様の本当の姿だ。諦めろミジンコ。」
広大な大地に見下す絶望が影を降ろす。
お読み頂きありがとうございました。




