2.15章
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「僕に任せてくれないかな。」
そう言い放つシズトは既に上半身裸でスタンばっていた。
きゃっとクックは目を手で覆い塞いだように見せているがしっかりと覗いている。
やっぱりムッツリじゃないか。
対照的にテッカイさんはシズトの筋肉がしっかりついた上半身を舐め回すように見つめる。
「シズト、随分といい体してんじゃないか。」
「うん、ありがとう。」
しかし、そんなテッカイさんのセクハラを全く気にも止めずお礼まで言う始末だ。
「シズト、何か作戦があるのか。」
場違いな2人の女子を無視して、俺はシズトの考えを聞こうとする。
「いや、特に無いよ。」
またいつかの時と同じように、あっけらかんと言い放つシズト。
その様子にやはり気負いはない。
「師匠っ、アレと正面から戦う気っすか。」
「毒殺とか考えてたみたいだけど、正面から倒さないと反逆軍の人たちは納得しないんじゃないかな。」
「確かにそうかもしれないが…。」
シズトの言うことは最もだ。
ボスを毒殺したところで卑怯だと報復されかねない。
それなら、正面から倒して力の差を見せつけれれば、ある程度敵の心を折るには効果的と言える。
「でも、僕もアレに掛り切りになりそうだから、他の人たちをそっちに任せて良いかな。」
「分かった。」
俺は短く返事をして、シズトの判断に従うことにする。
この場で一番正面戦闘が得意であるのは間違いなくシズトだ。
そのシズトがあのデカブツを任せろと言うのだ。ならばその言葉を信じよう。
「俺っちたちは民間人の避難誘導をするっす。」
「私も戦えないのでそちらを手伝いますですわ。」
「アタイは…。」
テッカイは自分がどうするべきなのか迷う。
「仲間と戦いたくないんだろ。大丈夫だ戦闘は俺たち2人に任せろ。」
「…助かる。アタイも民間人の避難に加わる。」
「じゃあ決まりだね。僕はアイツを出来るだけ遠ざけるから、そっちは任せたよ。」
「ああ、任された。」
シズトは俺の返事を聞くと空高く舞い上がった。風魔法を使えると言っていたからそれだろう。
瞬間撃鉄を弾き降ろした弾丸のようにシズトがデカブツに向かって突進し、突風とも言えるスピードで接近するとそのまま遠くへとその巨体を連れ去っていった。
「本当にチートだなシズトは。じゃあ。俺たちも行くぞ。俺が村の入り口で騒ぎを起こす、その間にアンタらは民間人を助け出してくれ。」
「分かった。」
「分かりましたですわ。」
「了解っす。」
クック達に作戦とも呼べない作戦内容を伝えるとシズトほどのスピードは無理だが、触手魔法を発動させ、2本の木に巻きつけるとスリングショットに放たれた玉の様に村の門前へと飛んでいった。
シズトの時と比べて酷い落差である。
空中を飛ぶ?俺は前回同様、4本の衣蛸の触手を腰から顕現させて着地する。
俺が着地した頃には、既に村の門周辺に反逆軍と思われる巨人族の面々が集まり始めていた。
「よぉ、チビ。こいつは一体どう言うことだぁ、ああん?場合によっちゃあ、ただじゃおかねえぞ?」
デカイ金槌を持った巨人族が、空からやって来た俺に驚きもせず俺に話しかける。
「そう急かすなよデカブツ共、デカイのは図体だけで肝っ玉はちっさいんだな。」
「あんだとゴラァ!下等な虫ケラ風情がよく吠えるじゃねぇーか。」
今度は鋸を持った巨人族が前に出てくる。
既に誰もが臨戦態勢の状況で会話が続く。
「まぁ、待てガレキ、コイツに構ってる暇は無い。ここは他の奴らに任せて、俺たちはカシラの所に向かうぞ。」
金槌を持った巨人族は鋸を持った巨人族を諌めてこの場を去ろうとする。
「チッ…。」
それに倣い、鋸を持った巨人族は俺を睨み付けるとデカブツが吹っ飛んでいった方向へと歩き出そうとする。
「させるかよっ!」
だいぶ人数が集まってきた所で、俺は触手を何本も大樹のように地面から顕現させ、触手で10メートルを超える壁を作る。
まぁ、大して魔力も込めていないハリボテなんだがな。勿論ここからだと操るのも不可能だ。
だが、狙いはそこじゃない。
「なんのつもりだテメェ。」
金槌を持った巨人族が俺を鬼すら怯む形相で睨み付ける。
「あの吹っ飛んでったデカブツの所に向かうんだろ?させねぇよ。」
暗に俺を倒さなければあの壁は消えないと言う。勿論ハッタリだ。
「カシラのことをデカブツだとぉ?おいクズレ、先にコイツを殺っちまおう。」
今度は鋸を持った巨人族が金槌を持った方に話しかける。
どうやら、鋸を持った巨人族がガレキ、金槌を持った方がクズレと言うらしい。
「そうだな、この気色悪い壁もコイツが出したみたいだしな。コイツを消せばあれも消えるだろうな、どうやら殺す理由が出来たみてぇだ。」
先程から冷静なクズレは俺に再度視線を向ける。
良し、掛かった。
俺のハッタリに掛かった2人に内心ほくそ笑む。
「じゃっ、そーゆうことだから死ねゴラァ!」
その巨体を活かし、ガレキが一足飛びに近づき、空いていた距離をゼロにすると上から鋸を叩きつけるように振り下ろした。
「そう簡単にっ、やられるかよっ!」
こちら逆に引くのではなく背中に顕現させていた触手で跳ね、ガレキの手元に飛び込み鋸の刃を避ける。
隙の出来た鋸を触手で縫い付ける。
そして、ガレキの右足元にいる俺は太い触手を顕現させると、その足を握り潰すつもりで触手を操り、木の幹のように太いその足を締め上げる。
「ぐぅっ、知ってるかチビ、鋸は引き裂くもんなんだよっ!」
そう言うと、ガレキは触手に固定された鋸を力任せに引きその鮫の歯のように並ぶ刃で触手を切り裂き足元まで運ぶと逆手に持ちそのまま自分の足ごと、絡みつく触手に鋸の刃を当て引き裂こうとする、その鋸と足の間に丁度いた俺はそれに巻き込まれそうになる。
「つぅっ⁉︎」
今の衝撃で右側の腰の触手が消えたものの間一髪避けることに成功した。
しかし、拘束に成功していた触手は引き裂かれて消えてしまった。
「ボケっとしてる場合じゃねぇぜっ!」
俺の頭上から今度は金槌が迫ってくる。
即座に地面から触手を顕現させると、その金槌を防ぐ、その叩きつけられた勢いで軽く地面が沈みクレーターを作る。
「ぐぅっ…。」
そのダメージにキングゴブリンの攻撃にすら耐えてみせた触手は一撃で魔法の粒子となり消されてしまった。
「チッ、耐えてるじゃねぇか。クズレもっとしっかり攻撃しろや。」
「がはははは、そう言うガレキは手酷くやられたなぁ。」
軽口を叩きあう、ガレキとクズレの2人。
ガレキの方を見るとその右足は青く鬱血して血を流していた。
鋸を使い自分で裂いたのもあり、だいぶダメージを受けていたようだ。
もう先程のように飛び込み攻撃するというのは厳しいだろう。
俺は2人の会話の間に切られた触手を再生させ、再び4本の触手を腰に顕現させた状態へと戻す。
「どうやらアレは壊しても治るみたいだな。」
「めんどくせぇなオイッ!素直に死ねや。」
冷静なクズレに対し、比較的短気なガレキは圧を放つ。
「なんだ2人して手詰まりか、なんなら降参してくれてもいいんだけどな。」
言った俺自身もこの言葉には期待していない。
「ぬかせチビ、さっきのガレキの攻撃を避けたのは切断系の攻撃が苦手だからだろう。だからガレキの足を潰した。」
早速俺の触手の弱点がバレた。
切断系の攻撃は俺が大の苦手とする部類だ。クズレが言うように、だからなんとしてもガレキの方を無力化しておきたかったのだが、まさか自分の足ごと裂くとは考えていなかった。
「そして、苦手な切断系を潰してからなら、俺の攻撃は耐えられると考えた。当てが外れたなぁチビ。」
全く持ってその通りだ。
ただ金槌を振り下ろすだけの攻撃だというのにキングゴブリンの攻撃よりも強いとは…。
そこまで考えて気づき、2人の持つ武器を改めて見る。
「ようやく気づいたか、俺たちもお前と同じように魔法を使ってたんだよ。そして、俺たち2人が使う魔法は同じ大工魔法だ。」
「はっ、無理して戦ってんじゃねぇーよ。仕事場に戻れ不良大工共。」
気のせいで無ければ赤い髪の、お前らと似たような同類を俺は知っている気がする。
「いいや、俺たちの仕事場はここだぁ、そして、同じ魔法だからよぉ、こんなことも出来るんだぜ。」
そう言うと、ガレキとクズレの2人は持っていた武器をお互いに取り替える。
その取り替えられた金槌と鋸にはしっかりと魔法の光が宿っていた。
「俺は金槌の方が得意なんだが、まぁ、仕方ねぇ。本当に当てが外れたなぁチビ!」
「2回目の突貫工事と行こうや。チビ、テメェは扉の飾り代わりに扉に磔にしてやろう。光栄に思いなっ!」
「はっ!随分と仕事熱心なことだなっ!」
勇者と2人の巨人が再度激突する。
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