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2.13章

お待たせしました。

2.13章の投稿となります。今回はいつもより少し長めです。

お読みいただければ幸いです。

「な、なんだこれは…。」


 夕暮れ頃、俺たちが村についてまず目に入ったのは、家であったであろう物が崩れた、ガレキの山の数々であった。

 見渡す限り、無事な家など一軒も見当たらない。


「どういうことだい、これは…。」


 テッカイさんも予想外の出来事であったのか目の前の光景に唖然と呟く。


「ぼーっとしてる場合じゃないよ、生存者を探そう。二手が良いね。僕とカーメイ、テッカイさんは右側、反対側はクックちゃん達が探して。」


 その場をシズトは瞬時に仕切ると右側の倒壊した家に走っていった。


「私たちも早く行きましょうですわ。」


「あっ、ああ。」


 クックの声にふと意識を呼び戻され俺もクックの後ろを走り、倒壊した家へと向かった。


「おいっ、誰かいないのかっ!」


「いたら返事をして下さいですわ。声が出ないなら音を立てて下さいですわ。」


 家周辺へと着くと直ぐに俺たちは声を上げて生存者を探す。

 家が巨人族の家だけあって俺たちが普通に探し回るには大き過ぎて、普通よりも時間を要してしまう。

 焦る俺たちに構わず時間は刻一刻と過ぎて行き、辺りは闇に包まれ始める。


「くそっ、誰かっ、誰かっ!本当に誰も居ないのかっ!」


 声を張り上げるも響くのは俺の声だけで、それ以外は静寂を保っている。


「うっ……、たす…け…。」


 ガラガラと崩れる物音がし、左前方の家から声がした。


「シズトッ!明かりをこっちにくれ!」


 俺が叫ぶとシズトはすぐに駆け寄って来て、光魔法で辺りを照らしてくれた。


「待ってろ、直ぐに助ける!」


 俺は触手魔法を多めに顕現させると、太い触手で倒壊している家を支え、細い触手を隙間に潜り込ませ、気を失っている巨人族の男を引きずり出す。


「直ぐに楽になるからね。」


 シズトはそう言うと、魔法の光を両手に纏わせた後、その光で巨人族の男を包み始める。

 すると、痛みが消えたのか荒かった呼吸が正常になって行く。


「ちょっと、何があったんだい。」


 治療を終えるとテッカイさんが直ぐにその男を揺さぶり巨人族の男を起こそうとする。


「ちょっと落ち着くっす。」


「そうですわ。今は安静にすべきですわ。」


 テッカイの行動を流石に止めに入る2人。


「だけどよぉ…。」


 まだ、気絶した巨人族の男を起こすのが諦められないのか、視線が男へと固定されている。

 しかし、カーメイがテッカイと巨人族の男の間に立つと、両手を広げて壁を作る。


「起きてから聞けばいいっす。」


「ちっ…、分かったよ。アタイは他に誰か居ないか探してくる。」


 カーメイの絶対に譲らない態度に頭の冷えたテッカイは居心地が悪そうにこの場を去る。


「僕も行くよ。明かりが無いと不便でしょ。」


 テッカイの後を追いかけるようにシズトも席を外した。


「俺っち達は野営の準備をするっす。朝まではここに居ることになりそうっすから。」


「そうだな。」


「私は夕食の準備をしますですわ。あ、テッカイさんの分はどうしましょうですわ。食料も心許ないですしですわ。」


 確かに巨人族である彼女の食器が無い。

 それに手持ちの食料もそれほどあるわけじゃない。


「ここの人達には悪いっすけど、食器は倒壊した家から拝借してくるといいっす。食料は多分、持っていかれてしまってる可能性が高いっすから、師匠の空間収納魔法から出してもらうっす。」


「そうですわね。」


 カーメイの意見に賛同したクックは倒壊した家付近に食器が落ちてないか探し始める。


「俺もそっちを手伝う。」


 俺もクックに習い、倒壊した家を覗いていき、使えそうな食器類が落ちていないか確認し始める。


「一体何があったんでしょうですわ。」


「憶測してもしょうがないだうろが、シズトが言っていた、四天王の部下って線が高いだろうな。」


「では、ここにいた巨人族の方たちは一体どこへですわ。」


「分からない、それはあの人に起きてから聞くしか無いだろ。」


「そうですわね。」


 それから無言になり、俺たちは月明かりを頼りに家の中を探していくのであった。


 そんな中、俺の視界の端を影が横切った気がした。

 いや、気のせいでは無い。

 一つ二つと影が倒壊した建物と建物の間を過ぎていくのが薄っすら見えた。


「グルルルルゥ。」


 横切る影に気を取られていると、ふと後ろから唸り声が聞こえた。


「魔狼か!」


 接近されたお陰で、シルエットがはっきりして何が俺たちの周りをウロウロしていたのか分かった。


 俺は即座にアイスピックを抜いて、辺りを警戒する。


 影の正体は魔狼と分かった。しかし、魔狼の種類までは暗くて毛並みが見えないのでよく分からない。

 だが、グラスウルフ種にしても、フォレストウルフ種にしても魔狼が人が住む村にやって来るとは思えない。

 況してや、見るからに下級の魔狼。

 意外と利口なコイツらが狩場を離れて、わざわざ人のいる場所を襲うとも考え難い。


「オクト、魔物が出ましたですわ。」


「分かってる。」


 一つ隣の家に居たクックが直ぐに走って合流する。


「カーメイさんは大丈夫でしょうかですわ。」


「魔物避けの香水が置いてあったから、向こうには行かないはずだ。仮に魔狼が出たとしても、もうシズトなら気づいているはずだ。」


「分かりましたですわ。なら、この新しい武器、龍済(りゅうさい)を試すことが出来ますですわ。」


 どちらかと言えば龍殺(りゅうさい)だが、この際クックのネーミングセンスは置いておく。

 クックは武器屋の親父の店で買ったドラゴンの牙製包丁を抜き放つ。


「さぁ龍済、行きますですわっ。」


 クックは包丁に魔法の光を纏わせると、新品の玩具を買ってもらった子どものように駆け出す。

 そんなクックの姿を見て察しがついた。


「ああ、前は活躍出来なかったもんな。」


 初冒険者としての依頼が盗賊退治で、活躍する場面が料理を作るくらいだったからな。

 クックは動くの好きな方だし、色々鬱憤が溜まってるんだろ。


「煩いですわ、オクトの夕飯は具無しスープされたいのですわ。」


「何でもありませんお嬢様、どうぞ存分にお力を振るって下さい。」


 具無しスープでも作ってくれるだけ律儀だが、やはり肉が食べたい。

 ならば下手に出るのみだ。


 クックの持つ片手剣サイズの包丁は魔狼の首を一太刀で落とすには十分な大きさであり、龍済が振られる度に魔狼の首が一つ、二つと地面へ転がっていく。


 この分なら助けは必要無さそうだ。

 首が落ちて動かなくなった死体を見るとフォレストウルフ種だった。


 8体程の魔狼の首が落ち、未だにやる気満々なクックを見て、魔狼は敵わないと悟ったのか逃亡を始めた。


「待ちなさいですわっ!」


「お前が待てって。」


「ひゃんっ!」


 ここで深追いする必要は無いだろと、バーサーカー化していたクックの腰に触手魔法で触手を伸ばしクックの暴走を止める。


「ちょっと、あんっ、分かりましたですわっ!だから離して下さいですわっ!んぅっ…。」


 なるべく優しく掴んだつもりなのだが、ジタバタ暴れるので魔法に力を込めすぎてしまった。


「ちょっ、変な声出すなよっ!」


 変な声をあげるクックを、慌てて触手魔法から解放し触手魔法を霧散させる。

 心臓に悪いな全く。


「オクトが急に気色の悪いそれで掴んだせいですわっ。」


「クックが無駄に暴れるからだろうが。」


「実力行使に出る前に先に声をかけて下さいですわっ。はぁ、あんなのに急に掴まれたら誰だって逃げ出しますですわ…。」


 ため息を盛大に吐いた後、処置無しとばかり額に手を当て首を振る。


 確かに俺も触手で掴まれるような事があれば間違いなく逃げ出すので反論が出来ない。


「次からは気をつける。」


「そうして下さいですわ。それよりも早く食器を探しましょうですわ。」


 俺たちは食器探しを再開するのであった。

 そして10分もしないうちにクックから声が上がった。


「ありましたですわ。オクト、あれを取って欲しいですわ。」


「あぁ、あれか分かった。」


 クックは瓦礫の下から月明かりを鈍く返すデカイ寸胴鍋を見つけ、それを取って欲しいと俺に伝える。


「やっぱりデカイな。」


「作り甲斐がありますですわ。」


 引っ張り出したそれはかなりの大きさであった。

 それを見て、クックは暗い気分を吹き飛ばすように空元気で応え笑ってみせる。


「じゃあ、戻るか。」


「ですわ。」


 そう言うと、俺たちは既に火がつけられた野営地点へと魔狼の死体を持ち帰りながら戻った。

 野営地点に戻ると既にシズトとテッカイさんも戻っており、何やら話し合っていた。


「シズト、こっちに魔物は来たか。」


「こっちには来なかったみたいだよ。来た原因は多分、森の餌場まで狩り尽くされちゃったからじゃないかな。」


 それで仕方なく、人里へ降りて来た訳か。

 反逆軍は徹底して食料を潰すつもりなんだな。

 まぁ、怪我はお互い無かったからそれは置いておこう。それよりも聞きたいことがある。


「そうか、それで他の人は居たのか?」


 俺がシズトに聞き始めるとクックは「私は料理に取り掛かり始めるですわ。」と言い、カーメイが話をつけていたのか、シズトがいくつか食材を渡すと料理を作り始めた。


「今、丁度その話をしていた所だよ。結果から言うと、誰も居なかった。」


 食材をクックに渡したシズトは俺の質問に答える。


「そうか。」


 あと数人くらいは残っているだろう考えて居たのだが、やはり考えが甘いと痛感させられる。


「だけど、死体も一つも無かった。」


「連れ去られたってことか。」


 沈みかけていた心が、僅かな希望に照らされる。


「そこは彼に聞いてみないと分からないかな。」


 目を未だに覚まさない巨人族の男へと視線が注がれる。


「師匠ダメっす。その人もきっと疲れてるっす。」


「大丈夫、大丈夫。僕も起こすつもりは無いよ。」


 そう言い、カーメイに微笑み安心させる。


「この状況、テッカイさんにも心当たりは無いの?」


 シズトが質問の矛先をテッカイへと向ける。


「アタイもさっぱりだね。今日はたまたま朝から買い物に街に出てたんだ。帰ったらこの有様でもう何がなんだか。」


 つまり朝までは村は無事だったって事か、しかしこの有様は酷い。


「そういえば気づいたっすか。」


「何がだ。」


 カーメイの気づいたかという質問の意味が分からず、質問を返す。


「この建物の壊され方はどれも、鈍器で叩き壊したような壊れ方と鋸で削り切ったような壊れ方の二種類の壊れ方をしてたっす。」


「二種類?これをやったのはたった2人って事か。」


 まるで集団暴動でもあったかの様な荒らされた跡をたった2人でやったというのか。

 重かった空気が更に重さを増していく気がした。


「皆さん、夕食が出来ましたですわ!」


 そんな空気を払拭するようにクックは明るく振る舞う。

 クックの声をきっかけに、いつのまにか漂っていたいい匂いに気づく。


「わぁ、美味しそうな匂いだね。初めて食べた時もだけどクックちゃんて僕並みに料理が上手だね。」


「それほどでもですわ。」


 ないですと言え。謙遜しろ謙遜。

 シズトの褒めているのかいまいち分からない言葉に照れるクック。


「師匠の作る料理も凄く美味しいっす。今度食べさせてもらうといいっす。」


「そうですわね。今度ご馳走してもらってもよろしいですかですわ。」


「うん、良いよ。」


 楽しげな会話でさっきまで重かった空気が霧散していき、会話をしながらも料理が配膳されて行く。


「じゃあ、」


「「「「頂きます」っす」ですわ。」」


 4人の声が重なる。

 どうやらこの文化をシズトはカーメイに伝えていたらしい。

 1人、なんだいそれと思っていたテッカイも気にするのをやめ、目の前の美味しそうな匂いを漂わせるスープを口に含む。


「美味しいな、これ。」


「ありがとうございますですわ。」


 テッカイの言葉にクックがお礼を言う。

 重い空気を払拭しきり、夕食はどんどんと進んでいった。


「うっ、ううん。」


 後ろから匂いにあてられたのか、それとも騒がしさに目を覚ましたのか、後ろから声が聞こえ、全員の視線がそちらに向く。


「おい、何があったんだいっ!」


 直ぐにテッカイが駆け寄り、巨人族の男に詰問する。


「あっ、ああ、此処は?その顔はテッカイ…か。そいつらは?」


「アタイの知り合いの冒険者たちだよ、それよりも此処で何があったんだい。」


「ああ、確か。」


 自分がどうして此処にいるのか思い出すかの様に男は喋り始めた。


「確か、昼頃村に反逆軍を名乗る連中が沢山やって来たんだ。」


 反逆軍とは初めて聞く名前だ。


「確か聞いたことがあるっす、今の王政に不満を持つ人族以外の種族の人達の集まりっす。」


 カーメイが首を傾げる俺に補足するように説明を入れてくれた。

 何気に物知りなカーメイに助かる。


「そいつらは村に着くと村長たちを含めた俺たちに反逆軍の軍門へ降れと言ってきたんだ。」


 どうやら軍の増員が目的でこの村に来たようだ。

 男は続けて喋る。


「もちろん村長を含めてほとんどの奴らが拒否したのさ。そしたら2人の男が出てきて、俺たちの村を壊し始めたんだ。」


 主犯格はカーメイが考えた通り2人であったようだ。


「俺たちは抵抗したんだが、だけどあいつらはいとも簡単に、まるで赤子を扱うかの様に反抗した奴らを倒していって…。俺、怖くて家に篭ってたんだ。そしたら家ごと壊されて、家が崩れたと思ったらそっから記憶が無いんだ。」


「男の癖に情けないっ。」


 肩を怒らせたテッカイさんが男の胸ぐらを掴む。


「仕方ないだろ、あんな奴らに叶うはずがないんだ。それに見たんだ、あいつらが村を壊すのを眺める『山』が居たのを。それで俺は怖くなって家に篭ったんだ。篭るしか無かったんだっ!」


「山?」


「なんだい、山って。」


「分からねぇよっ!分からなかったから怖かったんだよっ。俺たち巨人族よりも遥かに大きいそいつは確かに俺たちを見下ろしてたんだっ!」


 興奮した男は山が見ていたと俺たちに伝えると、興奮しすぎたのかそのまま気を失った。


「『山』……ね…。」


 シズトはそう呟くのであった。

お読み頂きありがとうございました。

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