2.9章
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「うあぁぁぁぁぁぁっ、ふざけんなぁぁぁぁぁっ!」
「なっなんだっ!」
絶叫をあげる俺は現在盗賊アジトに向かって高速落下中である。
番をしていた盗賊も流石に飛んで襲撃をしてくるとは思っていなかったのかもの凄く焦っている。
俺は歯を食いしばり、腰から4本の触手を伸ばすと着地の体制を整える。
使う触手は衣ダコの触手。
顕現させた触手と触手の間に膜が出来、パラシュートのように落下の速度を緩めてくれる。
「なんなんだほんとにっ⁉︎」
奇遇だな俺もシズトに同じことを叫びたい心境だ。
体を丸めて先に触手が地面に着くように構え落下の衝撃に備える。
そして、4本の触手が地面に先に着き、落下の衝撃を触手の筋肉で吸収しきると、丸めていた体を伸ばし解放する。
「ひぃ、ば、化け物っ!化け物が出たぞぉぉぉ!」
失礼な、俺は勇者だ。
こうなっては仕方ない。
腰にある触手を盗賊に向かってさらに伸ばし、洞窟の外壁へと叩きつけて無力化すると一旦触手を消し俺は叫ぶ。
「おいっ、盗賊ども大人しくお縄に着けば痛い目には合わせない。素直に投降しろっ。」
一応、一縷の望みにかけて平和的な解決を試みる。
「あ゛、なんだなんだ。外が騒がしいぞ。」「番を任した奴は何をやってたんだ。」「敵は何人だ。」「どうやら頭の可哀想な奴がきたみたいだな。」「まぁ、お遊びくらい付き合ってやろうぜ。」
ぞろぞろと目をギラつかせ戦意MAXな盗賊達が獲物を手に持ち洞窟から出てくる。
出てきた人数は16人となる。やはり全員獣人みたいだ。
しかし、出だしを挫かれただけでは親切な俺は諦めない。
「もう一度だけ言う、大人し…。」
ヒュンッと俺の耳元をナイフがすり抜ける。
「ちっ…外したか、仕方ねえ、馬鹿な餓鬼に親切に教えてやろう。今のが答えだ。たった1人のしたくらいで調子に乗るんじゃねぇぞ。」
避けたんだよ。
はぁ、分かってはいたが無理だよな。
どうやら投降する気はさらさらないらしい。
「本当にシズトといると調子を狂わされるな。俺はまともに戦うのは苦手なんだよ。」
そう愚痴を零し、先程のようにタコの触手を腰から4本と更に両腕に2本、計6本の触手を顕現させる。
「なっ、なんだこの化け物はっ。」
だから勇者だ。
言うよりも早く腰の触手をバネ代わりにして、一番前の盗賊に襲いかかる。
右手に顕現させた触手の吸盤で頭をがっしりと掴むと地面に叩きつけ無力化する。あまりの一瞬の出来事に盗賊達はたたらを踏む。
「まずは1人だ。」
足並みが崩れている盗賊を前から両手の触手と腰の触手を使い4人を捕まえ、そのまま洞窟の外壁上部に向かって、残り2本の触手の筋力で跳ねて、最初同様に洞窟の外壁に叩きつけて無力化する。
「これで一気に5人だ。」
俺は跳ねるのに使った2本の触手の吸盤で外壁に張り付くと、気絶した盗賊を下の盗賊達に向かって軽く投げ返す。
2人ほど避けられてしまったが、律儀に仲間をキャッチした奴かいたので、そいつらに向かって今度は跳ねて、今度は気絶させないように捕まえる。
「うぐぅっ…。」
「そいつらを放せ!」
1人が魔法の発動をしたのか、両手を前に出し炎を溜めている。
俺は盾にするなどはせずに言った通りに放してやる事にする。
ただし勢い良くだが。
「そらっ、放してやるよっ!」
飛んでくる仲間の顔二つをしっかりと顔でキャッチした炎の魔法使いは気絶し、3人追加で片付く。
「これで残り半分。」
「一体、何を騒いでやがるテメェら!人が楽しんでる最中によぉ!」
半分を倒し終わったところで追加オーダーが来たようだ。
「頭、それが妙な格好をした奴に襲撃を受けてて、アイツです。」「もう半分もやられちまった。」「あの化け物相当手強いっす。」
デカイ斧を担いだ片耳の犬獣人の男が、ガチャガチャと腰のベルトの位置を直しながら洞窟から出てきた。
「ああん?テメェら、たった1人の餓鬼に手こずってんのか情けねぇ。」
どうやらこの盗賊団のリーダーらしい。
頭って呼ばれていたけど、一応聞くだけ聞いてみるか。
「あんたがこの盗賊団のリーダーか。」
「そうだと言ったらどうすんだぁああん?」
「大人しく投降する気は無いか。」
「ここで死ねやクソ餓鬼がっ!」
投降を促すもまたも失敗してしまった。
盗賊のリーダーは斧を背中に隠すように構え、タックルをかますように一直線に突進してくる。
「ほい。」
だから、足元に触手を突然出現させ足を引っ掛けて転ばせてやった。
バタンと勢い良く倒れてくれたので、そのまま両足を拘束する。
「テメェ餓鬼ゴラァ放しやがれクソがっ。」
どうやって斧から手を離させようと考えていると自ら斧を手放し、両手で触手を外そうと力任せに引っ張っている。
「あ、ちょうど良かった。」
そう呟くと俺はスルリと盗賊のリーダーを持ち上げ逆さ吊りにする。
「降参する気になった。」
「するかボケェッ!」
「そうか残念だ。」
いや、本当に残念だ。
べ・つ・に中で何を楽しんでいたのか知らないが、出来れば平和に解決したかった。
ああ、本当に残念だ。
「じゃあ、頑張れ。」
何でもないようにそう言い放つと、俺は触手で円を描くように回転させ始める。
「ふざけるな、おい!止めろ!」
しかし、無情にも触手はスピードを上げ、回転数を上げて行く。
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
盗賊リーダーの絶叫が響き渡るなか、俺は盗賊達に最後の勧告をする。
「大人しく降参しなければ、気絶しても無理やり起こして全員に同じことをする。」
盗賊達は全員武器を落として膝をつき両手を上げ、白旗を上げた。
盗賊の降参が得られたので、俺はクック達の方へ、シズトのように髪をかきあげようとしたが、天然産パーマな癖っ毛が指に絡まり引っかかったので、大人しく頭から手を離し、グッジョブとハンドサインを送る。
シズトのストレートならサラサラヘアーが羨ましく思える一幕であった。
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