1.3章
3話目投稿しました。
「なぁ、役者にでもなったら?」
「早速、私の目標全否定ですのっ⁈私の話を聞いていたのですわっ?」
信じられないと言うような表情を貼り付け彼女は俺に叫びながら問う。
「ああ、聞いてたし見てたからそう言ってるんだがなっ!まさか、目の前で寸劇が始まるとは思わなかったよ魔物が出るど平原でな。しかも中々上手いじゃねぇーか。」
俺は目の前で起こった事をありのままに叫ぶ。
俺の方が信じられないと叫びたい。
「あっ、ありがとうございますですわ。」
スカートの端を掴み丁寧にお辞儀する皮肉の通じない彼女に、俺は更に眉間のシワを深くする。
「あーアンタがスライムやら演劇やら
ぐだくだやってるから日が傾いちまった。」
「うっ…。」
自覚があるのか彼女は何も言い返さず黙る。
実際には、すぐにケンカをして怒鳴りあっていた俺にも多少の責任があるのだが、俺はそれをおくびにも出さない。
しかし、演劇のお陰で彼女がドラゴンを倒したい理由は分かった。ドラゴンを倒して、料理魔法の『レパートリー』に入れたいわけだったのか成る程。
一人納得した俺は胡座をやめ、腰を解しながら立ち上がり、夕日に目を細める。
当初の予定としては日暮れまでにドラゴンの生息域のルート上にある村を見つけ、夜には一部屋貸してもらう予定だったのが、現在地は戻るにも進むにも中途半端な位置である。
「今晩はここら辺で野宿だな。」
その俺の言葉にサッと身を引く彼女。
「そんなことしてる暇ねぇよ。焚き火の準備しないと。アンタは野営の経験あるのか。」
イラっとするが大人なので我慢する。
「ありませんですわ。」
「このポンコツが。」
即答する彼女に即答で暴言を返す。
短い大人の時間であった。
「ポン…酷いですわ。ちょっと自分に経験があるからと人に暴言を吐くなんて。」
「じゃあ聞くが今まで夜はどうしてたんだ。」
「お母様が、『夜は危ないから決して外に出ては行けません。』と言いつけられていましたので街の宿に泊まっていたのですわ。」
「セレブ自慢か畜生、この箱入り娘めっ。」
当たり前のように答える彼女にまた血がのぼり顔が赤くなっていく。
旅立ちは最悪で俺は王都を追われて出て来たから、金が貯まるまではボロボロの隙間風の吹く廃屋などに泊まれれば上々であっし、酷い時はスラム街でごろ寝する有様だ。
運が良かったのは見るからに金を持ってないから、恐喝などに巻き込まれなかったことくらいだ。
金さえあれば俺だって宿に泊まって健全な朝を迎えられたはずなのに。
込み上げる悔しさに暴言が止まらない。
「また私を馬鹿にしましたですわね。私にだって旅の心得くらいありますですわ。」
そう言い、背中に背負っていた革の鞄から、火打ち石を取り出し見せつける。
「はぁ、じゃあ、あそこで野宿するから、焚き火の準備をしといてくれ。俺は枯れ木と食料探して来るから。」
俺は同業者が使ったであろう野営跡を指差し、彼女の返事を聞かずに自分のやるべき事をやるため森の深くに進んでいく。
気配を出来るだけ殺しながら進み始めて、10分程経った頃、俺は触手魔法の一つを発動する。
俺の鼻の穴付近からピコッと触手が生えると嗅覚が鋭敏になり、遠くまでの匂いが嗅ぎとれる。
この魔法はある生物の触手を模倣しているが、ここまで遠くの匂いを嗅ぎわけることができるのは恐らく触手魔法を使い込んだからだろう。
そしてだいぶ近くに獣の臭いを感じ、その場所に向かって前進すると、小さい生物を複数発見した。
この辺では何の珍しくもない魔兎のホーンラビットだ。
名前の通り15センチ程のツノが生えたウサギの魔物でツノを使って攻撃して来るが根は臆病なので追い込まれない限り逃げに徹してしまうため、遠距離からの攻撃が必須だ。
俺は地面から触手を二本生やすとスルスルと蛇の様に地面を這わせ、ホーンラビットに向かって伸ばして行く。
忍び寄る邪悪にホーラビットは気づく様子もなく呑気に草を頬張っている。次の瞬間、にゅるんと触手は二匹のホーンラビットを万力のような力で絡め取り、その力で首を絞めてホーンラビットを即座に殺す。
「よっしゃ、いっちょあがり。」
ほとんどルーチンワークと化している。狩の手順を終えとれた獲物にほくそ笑む。
「さて、戻るとするか。ん?」
そう呟いた直後、ガサガサと近場から音がしたと思うと、木々の隙間から緑の人影が一つ横切るのが見えた。
「あれは…、んーついでにとっておいてやるか。アイツのためにもなァ。」
先ほどの笑顔とは打って変わってクックックと、邪な笑いを顔に貼り付ける様は、誰がどう見ても勇者の影も見当たらない悪童の顔であった。
それから、来た道を戻ること30分程、辺りはだいぶ暗くなっており、野営の準備を済ませて待ちぼうけている背中を見つけた。
よっとと呟き、自然に出来た垣根を飛び越え、その背後に勢いよく飛び出る。
「きぁっ⁈」
肩を跳ねさせ驚いた彼女に野営の心構えというものを教えたくなるが、魔兎を捌いてもらえなくなる可能性があるので、そこにはノータッチだ。
「ビックリしましたわっ。」
「ホーンラビットを獲って来たんだ。アンタ捌けるだろ。」
「えっ?ええ勿論ですわ。下級の魔物は殆ど料理したことがありますですわ。」
「良かった。じゃあこれでなんか作ってくれないか。」
ほい、じゃあこれと言って、先程獲ってきた二羽を彼女に渡す。
俺は生き物を捌くことができないので、いつもは学生鞄に携帯食料の干し肉をいれ、それを水で解して食べているが、今回はどうにか新鮮な食事にありつけそうだ。
しかも、費用はゼロなんと素晴らしいことか。
「任せるといいのですわ。私の料理魔法があれば下準備から仕上げまで完璧にこなしてみせますですわ。内臓と皮を捨てるので、貴方は穴を掘っておいてくださいですわ。」
そう言った彼女はウサギを近くの木に吊るし、料理魔法を発動させたのか、包丁に魔法の光を纏わせると、皮を手品のような手つきでスルスルと剥いでいき、使えない内臓を包丁で切り取ると、すぐさまもう一羽も同じ手順で解体し作業を終わらせてしまった。
「おー、すごいな。」
穴を掘りながら見ていた俺は思わず感嘆の声を漏らす。
「当然ですわ。それと貴方手が止まっていますですわ。早く仕事を済ませなさいですわ。」
ドヤ顔を貼り付ける彼女にさっきの褒め言葉を訂正したくなるが、ここはおだてて調子に乗せる。
「ああ、凄いなアンタ。これならドラゴンだって捌けちまうな。あ、そーだもう一匹獲ってきた獲物が居るんだ。持って来るから少し待っててくれ。」
ふふーん♪そうですわ、そうですわと鼻を鳴らし上機嫌な彼女を尻目に、俺は再び森に置いといたそいつを持ち出し彼女の目の前に持っていく。
「じゃあ勿論コイツも捌けるよな?」
「そっ、それは…。」
目の前に出されたそれに、彼女はたじろぐのであった。
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