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2.6章

2.6章の投稿をさせていただきました。

お読みいただければ幸いです。

「良いのですわ、良いのですわ、どうせ私にはこれぐらいしか取り柄がありませんものですわ。」


 現在、俺たちは街道脇で休憩中である。


 そして、盗賊退治の依頼をなんの相談もなく決められた挙句に、俺に料理魔法のことを忘れられ、完全に拗ねたクックは愚痴りながらも律儀に俺たちの昼食を用意してくれる。


 いや拗ねているから料理を作っているのかもしれないな。


 かき回される鍋からは既に良い匂いが漂っている。

 ちなみに鍋はシズトが空間収納魔法から取り出したものだ。


「いや〜、クックちゃん本当にごめんね。まさか料理魔法しか使えないなんて思わなくてさ。」


「ふぐぅ…。」


 クックの目端に涙が浮かぶ。

 ナチュラルにクックの心を抉るのはナルシスト。


「師匠、それは慰めになってないっす。追い討ちはやめてあげて下さいっす。」


 カーメイがシズトの言葉を注意しフォローを入れる。


「あー、まぁ、クックは魔物には強いから魔物相手なら頼りになるぞ。あと、忘れてて悪かった。」


 俺も流石にクックが哀れすぎてフォローを入れ、忘れていたことをついでに謝罪する。


「うぅっ…。」


 しかし、逆効果だったようだ。


「うん、でも凄いよね。料理魔法が料理したことある魔物に対して強くなれるなんて、でも料理したことのない魔物には使えないんでしょ、今までどうやって戦ってきたの?」


「ふぐぅぅぅぅぅっ。」


「おいやめろナルシスト、今日のスープが塩味強めになるだろ。」


「…うっうぅ。」


 クックの堪えた涙は今にも決壊しそうだ。

 一体なんでだ?


「2人とも少し黙っていて下さいっす。」


 俺はシズトを注意しただけだと言うのに、何故か俺までカーメイ怒られた。


「カーメイさん、有難うですわ。実は最初に女の子と間違えてしまってごめんなさいですわ。」


「ぐはっ!…今それは聞きたくなかったっす。まさか庇ったのに後ろから斬りかかられるとは思わなかったっす。」


 恐らくコンプレックスであろう童顔女性顔をピンポイントで刺激されて、ダメージを負うカーメイ。


 しかし、クックはカーメイに慰められたおかげでなんとか持ちこたえたようだ。

 目に浮かんだ涙を払うと、せっせと料理を再開した。


「それにしても、カーメイはクックをやけに庇うんだな。」


 俺はカーメイの態度を不思議に思い口にする。


「不思議がらないで仲間なんだから庇ってあげて欲しいっす。はぁ、俺っちもロクな魔法が使えないんで気持ちが分かるってだけっす。」


 そう言ってカーメイは深い溜息をまた吐く。


「えーそんなことないよ、カーメイにピッタリの魔法じゃないか。」


「そう思われるのが嫌だから滅多に使わないんっす。」


 シズトはカーメイの魔法に肯定的だが、カーメイは本当に自分の魔法が嫌いらしい。


 カーメイが一体どんな魔法を使うというのか気になるところだが詮索はよそう。


「皆さん、とりあえずスープが出来ましたですわ。」


 シズトとカーメイのやり取りを聞いてるうちにどうやら昼食が完成したらしい。


「あー、なんだか良い匂いがすると思ったら冒険者かぁ。」


 しかし、始まろうとした昼食を中断するように茂みから人が出て来た。


「まぁ、腹減ってたんだ丁度良い。そいつを寄越して、有り金と女2人置いて、ここから去りな。そしたら、ここから見逃してやる。」


「ふぐぅぅぅぅぅっす。」


 カーメイに精神攻撃がクリティカルヒットする。


 やけに注文の多い奴が現れたものだ。

 コイツが依頼にあった盗賊だろうか、まぁ、金品を巻き上げようとしている時点でろくな奴ではないことは確定だな。


 街道の外れから現れたそいつの顔を見ると、犬耳を生やした所謂『獣人』と呼ばれる種族であった。


 獣人は獣の特徴を人間の体に併せ持つ種族達の総称だ。


「ここら辺で網張ってる盗賊ってのはアンタらか。」


 取り敢えず強気で威嚇も込めて質問してみる。


「ほう、俺らのことを知ってるのか、じゃあお前らはただの冒険者じゃなく、俺らを捕まえに来た冒険者ってわけか。」


 一応ただの冒険者だから捕まえに来たんだけどな。

 面倒だから訂正しないけど。


「そうだよ。手荒な真似は面倒くさいから、大人しく捕まってくれないかな。」


 シズトが堂々と面倒と言い放ち、相手が青筋を立てる。


「少し俺らを甘く見過ぎじゃねぇかテメェら、たった4人しかも2人は女ときた。テメェら死んだも同然よ。」


「俺っちは…男………っす。」


 最後の気力を振り絞り男を魅せるカーメイ。


「ああ゛、そんなに可愛い顔してんなら問題ねぇ、一緒に可愛がってやるよ。ゲヘヘヘ。」


 最後の希望を完全に打ち砕かれ完全に心の折れたカーメイは「もう嫌っす。」と両手両膝を地面につく。


「びびって心が折れちまったか、ならもっと絶望させてやろう。出て来いお前らっ!」


 そう犬獣人の男が叫ぶと更に10人の犬獣人の男達が茂みからぞろぞろと現れる。


「あの赤い髪の女、良い体してんじゃねぇか。」「胸でっか。」「ああ、デケェのは好みだ。」「俺はあっちのちっこいの頂くぜ。」「聞いてなかったのか男だってよ。」「だから良いんじゃねぇか。」


 もうやめてカーメイの残りライフはゼロよ。


 下らないことを考えているうちに、下品に囃し立てる盗賊達に完全に囲まれていた。


「じゃあ、オクト2人をお願いね。」


 そう言って、リーダー格の前に出て今回は皮鎧だけを外す。


「お、俺たちに素直に従う気になったか腰抜け。特別にお前の命だけは見逃してやろう。無様に生き続けると良いさ。ゲヘヘヘっ!」


「ううん、違うよ。君たちにはこれで十分かなって。」


 そう言った直後、リーダー格の獣人にシズトの拳が襲いかかり、街道端の木の幹に向かって吹っ飛ばし獣人のからだが叩きつけられる。

 凄まじい衝撃を受けたのか、一度木の幹にビタッと張り付き、ズルズルと滑る様に落ちた獣人は、そのまま起き上がってくることはなかった。


「ひぃぁっ、ば、化け物。」「ビビるこたねぇ、この数だやっちまえ。」「うぉぉぉぉぉぉぉ!」「ガァァァァァァッ!」


 雄叫びを上げてシズトに襲いかかる10人の獣人達。

 しかし、オクトは拳一つでそれを一瞬にして片付け、9人を無力化し、あえて1人だけ残す。


「へっ、うわっあっあぁぁぁぁぁっ!」


 目の前の光景に完全に戦意を無くした獣人が逃亡を図る。


「オクト。」


 シズトが俺に声をかける。

 名前を呼ばれた俺はすぐに理解し、それに呼応するように魔法を発動させる。


「ああ、任せろ。」


 触手魔法を発動し顕現させた俺は、触手を伸ばし、逃亡者の高速を一瞬で済ませる。


「うわぁ、なんだ、なんだこれっ⁉︎もがもがっ⁉︎もまぁぁぁぁ⁉︎」


 叫ぶ獣人が煩かったので口に触手を突っ込み黙らせる。


「うげぇ、敵なのに気の毒っす。」


「ええ…、そうですわね。うぇっぷ。」


 前に同じことをやられたクックは思い出したのか吐き気を催している。


「なんとでも言ってろポンコツコンビ。で、コイツどうするんだ。言っとくが拷問するとか言うならここでコイツは殺すぞ。」


 俺の発言にサァーと顔を青くする獣人の男。

 捕らえろとシズトに命令されたは良いものの、どうするかまでは理解できなかった。


 仮に拷問すると言うのなら、いくら悪人と言えど何をしたかまでは知らないので、そういった行為に賛同することは出来ないと釘を刺す。


「まさか、勇者がそんなことするわけ無いよ。まぁ、任せといて。メイ出番だよ。」


 任せとけと言いながら、受け取ったボールを即座にカーメイに投げつけ任せた。


「だからその呼び方、と言うかさっき魔法は使いたく無いっていったばっかりっす。心まで折られたばかりっす。もう少し師匠に優しくして欲しいっす。」


「あははははは、頼りにしてるよメイ。」


「…だから笑い事じゃ無いっす。でも師匠のためっす。俺っちやるっす。」


 頼りにしていると言われやる気を出したちょろいカーメイはそういうと男の側に立ち、俺に口の触手を外して欲しいと言う。


「お、俺は口なんて絶対に割らないぞっ。どうせ街に戻っても奴隷か縛り首だっ!」


 触手を口から外された男はビビリながらも固い意志を持って言葉をまくし立てる。

 どうやら難航しそうだ。

お読み頂きありがとうございました。

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